かなり山奥にある村だが、まだその先に村があり、単純に、
上の村、と呼ばれていた。
道は一本。
深く切れ込んだ谷には簡単な橋が渡されていて、一応、
それだけが、上の村と、この村を繋ぐ唯一の手段だった。


その橋は、夜毎、引き揚げる習慣になっている。
化け物よけなんだ。
知り合いの猟師が笑いながら言う。
色々な事がある中で身につけた、上の村なりの知恵なのだろう。
「違う違う。橋を引き揚げるのは、この村の連中だよ」
橋を引き揚げ忘れると、上の村から化け物が降りてきて、色々と
悪さをするらしい。


よくそんな化け物がいる村で、上の村の人たちは暮らしているものだ。
古くからの、土地に根ざした信仰というものがあるし、化け物といっても、
それはそれで上の村の守り神なのかもしれない。


あのな。
酒を満たした丼を畳に置き、猟師が居ずまいを正した。
上の村の連中は、化け物と同居してるわけじゃないぜ。
みんな化け物なんだ。
全員?
赤ん坊から年寄りまで全員さ。

猟に出かけ、帰りが遅くなり、橋が渡れなくなっても、決して
上の村で一夜を明かしたりしないと、彼は言った。
あそこには友達もいるし、陽があるうちは大丈夫なんだけどね。


化け物を見た事があるのかと、質問してみた。
冗談じゃないよ。
彼の声が少し上ずった。
見ただけで、どうかされるかも知れないんだぞ。
何しろ、相手は化け物だからな。


それ以上の詮索はやめた。
この猟師、はだけたシャツの懐に、直接食い物を放り込み始めた。
シャツの中、腹のあたり、うねるように動いている。
酔わなければ、実にいい男なんだが。