雪が強まりそうな雲を見て予定を変更し、避難小屋へたどり着いた。
窓は板で塞がれ、真っ暗だ。
ヘッドランプを取り出し、頭にゴムバンドで止め、アイゼンを
外しながら室内を見回すと、ヘッドランプの明りの中、忘れ物や、
おそらくどこかのパーティーがデポしたと思われる、
名前入りの箱が見えた。


ワイヤーブラシと油、ヤスリが作り付けの棚に置かれている。
そういえばアイゼン、しばらく磨いてないな。
アイゼンを右手にぶら下げ、揺らした。
八本爪で打ち物という、珍しい自慢のアイゼンだ。
ヘッドランプの黄色がかった光の中、実用一点張りの、
飾り気の無い山道具が鈍く光っている。


ワイヤーブラシと油を手に取り、アイゼンの爪を薄暗い
光の中でこすり始めた。
ブラシに植えられた真鍮のワイヤーが光をはね返し、
見えないほど小さな飛沫になった油が、手の甲にはねた。


血が、流れた。
ように見えた。
手を止め、見つめた。
懐中電灯を加勢させ、手元を明るくし、じっと見つめた。
何も流れていない。
また磨き始めた。
血だ。
間違いない。
流しているのは、がっしり立ち上がったアイゼンの爪。
アイゼンが血を流している。


アイゼンを見つめた。
ワイヤーブラシを見つめた。
首をひねり、アイゼン磨きをやめた。
嫌なものを見た。
昼寝でもしよう。