知り合いの話。
家族でキャンプしていた時のこと。
夕食後、些細なことで息子さんが駄々をこね、泣き喚き始めたのだという。
いい加減、お守りに疲れていた彼女は一喝した。
「そんな我がまま言うのは、もう家の子じゃありません!」
といきなり、背後の木々の奥からしわがれた声が尋ねてきた。

「じゃあ、ワシにくれるのか?」

動転して振り向いたが、真っ暗な林の中には何も見えない。
気がつくと彼女は、青い顔をした夫に抱きしめられていた。
「あげませんっあげませんっ」と大声で叫び続けながら。
息子は、引き付けを起こしたように硬直していた。
森の声はそれ以上、答えてこなかったという。


それからというもの、息子に言うことを聞かせる時は、こう告げている。
「森の小父ちゃんにあげちゃいますよ!」
実に素直に従うのだという。
でも二度と、あのキャンプ場には近寄らないと決めているそうだ。