知り合いの話。
彼女が娘を連れて、地区の行事に参加したときのこと。
行事は山中の川に堰を作って、鮎のつかみ取りをするというものだった。
川魚好きな彼女は、夢中で鮎を確保していたが、気がつくと娘の姿が見えない。
他の参加者は全員揃っているようだ。
探しに出ると、間もなく近くの繁みから、娘が泣きながら走り出てきた。


「噛まれたの。痛いよぅ」


野犬でも出たかと、大慌てで娘の腕を確かめ、言葉を失う。
腕についていたのは、人間の歯型と黒い指の跡だった。
騒ぎになりかけたが、責任者がさっと行事を終了させてその場を納めた。
それ以上のことは起こらず、皆が無事に帰宅した。



肝心の娘さんは、そのことについて何も憶えていないという。