Aと俺は、あらためて木立の方を探りましたが、木と雪が見えるばかりで女の姿はありません。「登山してるヤツとちゃうんですか?」
「いや、そんな風には見えんかった・・」
そこで俺は気付きました。
あの女は、この雪山で一人で荷物も持たず、おまけに半袖の服を着ていたんです。
「それ、ほんまにヤバイじゃないっスか。気狂い女とか・・・」 Aはかなり怯えてました。 俺もビビってしまい、居ても立ってもいられない心持ちでした。 そんなことをしているうちに、周囲はだんだん暗くなって、とうとう雪が降ってきました。「はよ終わらして山下ろ。こらヤバイわ。」俺たちは慌てて測量作業を再開しました。天候はドンドン悪化して、吹雪のようになってきました。 ポールを持って立っているAの姿も見にくいしアッという間に降り積もる雪で、小径もわかりづらくなってきました。携帯も圏外になっていました。俺は焦ってきて、一刻も早く山を下りたい一心でコンパスを据え付けました。レベルもろくに取らずに、Aの方に望遠鏡を向けようとしてそっちを見ました。
すると、さっきの女がAのすぐ後ろに立っていました。 今度は前を向いているようですが、吹雪のせいで良く見えません。Aは気付いていないのかじっと立っていました。
「おーい!」
俺が声をかけてもAは動こうとしません。
すると、女のほうが動くのが見えました。
慌てて望遠鏡をそっちに向けてビビリながら覗くと
女は目を閉じてAの後ろ髪を掴み、後ろから耳元に口を寄せていました。 何事か囁いているような感じです。
Aは逃げようともしないで、じっと俯いていました。
女は、そんなAに囁き続けています。 俺は恐ろしくなって、ガクガク震えながらその場に立ち尽くしていました。やがて、女はAの側を離れ、雪の斜面を下り始めました。
すると、Aもその後を追うように立木の中へ入って行きます。 「おーい!A!何してるんや!戻れー!はよ戻ってこい!」しかし、Aはそんな俺の声を無視して、吹雪の中、女の後を追いかけて行きました。俺は、測量の道具を放り出して後を追いました。Aはヨロヨロと木立の中を進んでいます。「ヤバイって!マジで遭難するぞ!」このままでは、自分もヤバイ。本気でそう思いました。
逃げ出したいっていう気持ちが爆発しそうでした。
周囲は吹雪で真っ白です。