Hは留年していたため私やTより年上で、仲間の信頼が厚いリーダー格であった。普段から正直で無口、決して不真面目なつくり話をする人間ではないだけに、彼が金縛りにあって見たという男の顔の話は単なる夢や思い込みと決めつける気にはなれなかった。3人ともしばらく黙って湯気の立つインスタントラーメンをすすっていたが、早く陽が昇って周囲がはっきり明るくなるのが待ち遠しかった。
ラーメンの残り汁を飲み干しながらHが「遭難者の多い谷川だからなあ・・まだ見つからない人もいるかもしれない」と呟いた。
とにかく次からは地上の改札口の手前で寝よう。お互い寝不足だから慎重に行動しよう。と気をとりなおし、朝日の中を出発することにした。もちろん途中の遭難慰霊碑に手を合わせることを我々は忘れなかった。 私が今も理解できないのはこの体験が自分一人のものでないことである。仮にこの体験が自分ひとりであったならばただの幻聴であったかもしれない。我々の感じた所では、男か女かといえば男であり、登山者か駅員かどちらかといえば登山者。黙っていたかどうかといえば何か話していた。かといって、謎の男の登山者が話しかけてきたといえば嘘になってしまう。 しかし、ほぼ同時刻に3人が、ホームには我々以外だれもいないのに一人の男の存在感を感じたのは間違いないのである。
この話はこれで終わりではない。下山して帰京した翌日のことである。同じ職場でバイトしていた私とHは、虫に刺されたわけでもないのに、二人とも左の二の腕がパンパンに腫れ上がり、微熱を出してしまったのである。 筋肉痛のような痛みで、腫れは幸い2日ほどで何ごともなく引いてしまった。Tに同じことが起こったかどうかは残念ながら確認していない。
あれ以来、谷川には何度か足を運んだが、誰も二度と地下ホームで野宿はしていない。
ラーメンの残り汁を飲み干しながらHが「遭難者の多い谷川だからなあ・・まだ見つからない人もいるかもしれない」と呟いた。
とにかく次からは地上の改札口の手前で寝よう。お互い寝不足だから慎重に行動しよう。と気をとりなおし、朝日の中を出発することにした。もちろん途中の遭難慰霊碑に手を合わせることを我々は忘れなかった。 私が今も理解できないのはこの体験が自分一人のものでないことである。仮にこの体験が自分ひとりであったならばただの幻聴であったかもしれない。我々の感じた所では、男か女かといえば男であり、登山者か駅員かどちらかといえば登山者。黙っていたかどうかといえば何か話していた。かといって、謎の男の登山者が話しかけてきたといえば嘘になってしまう。 しかし、ほぼ同時刻に3人が、ホームには我々以外だれもいないのに一人の男の存在感を感じたのは間違いないのである。
この話はこれで終わりではない。下山して帰京した翌日のことである。同じ職場でバイトしていた私とHは、虫に刺されたわけでもないのに、二人とも左の二の腕がパンパンに腫れ上がり、微熱を出してしまったのである。 筋肉痛のような痛みで、腫れは幸い2日ほどで何ごともなく引いてしまった。Tに同じことが起こったかどうかは残念ながら確認していない。
あれ以来、谷川には何度か足を運んだが、誰も二度と地下ホームで野宿はしていない。