土合地下ホームから地上出札口へはコンクリートの五百段近いの階段を登ることになる。
普通に登っても20分かかり、荷物が重い時は大変なアルバイトである。お調子者のTが「知ってる? この階段を数えると谷川で遭難するって噂が有るの。だからほら、数えなくても良い様にNo.が打ってある。」促されて見てみると確かにペンキで階段の端に数字が書いてある。Hが珍しく「書いてあると余計数えちまうじゃないか。」
と冗談を言って笑った。
階段をのぼるにしたがって、地上の生暖かい空気が混じってくる。やっとのことで階段を登り詰め出札口付近に来ると、手前の通路のあちこちに同じような登山者が寝袋に入ったりして仮眠をとっている。日の出前の暗い時分で、まだ始発列車も来ていない。我々は駅員のいない出札口を難なく通過し、駅舎の外の階段で用意してきた朝食をとることにした。 コンロを取り出して湯を沸かしながら「夕べ寝れた?」と誰となく聞いた。お互いに寝られなかったともらし、おかしな夢を見たという。私が寝苦しくて男の低い話声で目がさめたと言うと、Tが神妙な顔で変な足音を聞いたといいはじめた。 「起こした時、良く寝てたじゃないか」と言うと、寝たふりをしていたのだと真顔で答える。夜中に急にひんやりと寒くなって目がさめたら、待合室の周囲を誰かが歩いている足音がした。最初は駅員に見つかったと思って目をつぶって寝たふりをしていたが、足音は待合室の前を何回も立ち止まっては往復する。薄目をあけてみると窓の外にはだれもいない。よく聞くと駅員の革靴などではなく、ゴトン、ゴトンという重い登山靴をひきずるような足音だったので怖くなり、早く遠くに行ってくれと目を閉じて念じていたらしい。そんなとき丁度私が起きあがって、ごそごそし始めたので安心したのだという。私とTが顔を見合わせているのを見て、金縛りにあっていたというHがぽつぽつと話し始
めた。なんでも待合室の入口の外に男が立っていて、こちらをジッと見ながらなにか訴えかけていたというのだ。入口のガラス越しに男の上半身が覗いており、その服装ははっきりわからなかったが、こちらを向いている相手の顔と目が合ってしまったという。その顔の表情が必死な形相でゾッとしてしまい、見られている間中金縛りで声も出なかったと言う。
普通に登っても20分かかり、荷物が重い時は大変なアルバイトである。お調子者のTが「知ってる? この階段を数えると谷川で遭難するって噂が有るの。だからほら、数えなくても良い様にNo.が打ってある。」促されて見てみると確かにペンキで階段の端に数字が書いてある。Hが珍しく「書いてあると余計数えちまうじゃないか。」
と冗談を言って笑った。
階段をのぼるにしたがって、地上の生暖かい空気が混じってくる。やっとのことで階段を登り詰め出札口付近に来ると、手前の通路のあちこちに同じような登山者が寝袋に入ったりして仮眠をとっている。日の出前の暗い時分で、まだ始発列車も来ていない。我々は駅員のいない出札口を難なく通過し、駅舎の外の階段で用意してきた朝食をとることにした。 コンロを取り出して湯を沸かしながら「夕べ寝れた?」と誰となく聞いた。お互いに寝られなかったともらし、おかしな夢を見たという。私が寝苦しくて男の低い話声で目がさめたと言うと、Tが神妙な顔で変な足音を聞いたといいはじめた。 「起こした時、良く寝てたじゃないか」と言うと、寝たふりをしていたのだと真顔で答える。夜中に急にひんやりと寒くなって目がさめたら、待合室の周囲を誰かが歩いている足音がした。最初は駅員に見つかったと思って目をつぶって寝たふりをしていたが、足音は待合室の前を何回も立ち止まっては往復する。薄目をあけてみると窓の外にはだれもいない。よく聞くと駅員の革靴などではなく、ゴトン、ゴトンという重い登山靴をひきずるような足音だったので怖くなり、早く遠くに行ってくれと目を閉じて念じていたらしい。そんなとき丁度私が起きあがって、ごそごそし始めたので安心したのだという。私とTが顔を見合わせているのを見て、金縛りにあっていたというHがぽつぽつと話し始
めた。なんでも待合室の入口の外に男が立っていて、こちらをジッと見ながらなにか訴えかけていたというのだ。入口のガラス越しに男の上半身が覗いており、その服装ははっきりわからなかったが、こちらを向いている相手の顔と目が合ってしまったという。その顔の表情が必死な形相でゾッとしてしまい、見られている間中金縛りで声も出なかったと言う。