当時高校生だった俺には仲の良い友人が二人いた。
二人はそれぞれ性格も趣味も、考え方も違っていて、なんでうまが合うのかわからなかったがその割には仲が良く、親友と言える間柄であっただろう。
その輪に俺も加わっていたわけで、その三人と過ごす日々は居心地がよかった。
また俺も彼ら二人とは趣味も考え方も異なっていたように思う。いや彼らの性格を足して割ったような、それに若干の冷めた心を加えたようなそんなブレンド、言うなればそれだ。
何事もなく、毎日のように学校へいき、部活をする者はするし、アルバイトをする者はするし、勉学に勤しむ者はそうする。有触れたどこにでもある高校生の日常。
日常は壊れない、確かに壊れてはいなかった。俺らの内一人はヤンキーではないが、喧嘩を売られると買うし、喧嘩を自ら売るし、若さ故の危険な面を併せ持っていた。
しかし学校へお礼参りに金属バットや木刀片手に単車で押し寄せるリベンジャー達の襲来もなく、やはり平穏、過ぎていくモラトリアムな日々である。
しかし、その平穏は少しの間壊れた。正確には前述の彼の日常に罅が入った。その日々が俺らや学校で過ごす毎日で修繕されたかは今となってはわからない。
時として、何の因果かは知らないが、平和は壊れる。それも簡単に、望んでいようが、いまいが、誰かに、そして不平等に。
周囲まで飛散する場合もあるが、このときはしなかった。しなかったと言えば、丸く収まるが、より厳密に言えばこの筆者もいささかの後悔が残るわけである。
本題に入ろう。ここでは当事者である彼をAと呼ぶことにする。そして彼から話を聞かされたのはかなり後のことであり、詳しくは聞いていない。
聞いていないから曖昧、そして真実かどうかもあやふや。そして真実であるならば、何にも出来なかった、しなかった自分が少し嫌になった。そんな気持ちになる話。
彼には好きな人がいたそうだ。学校外で部活のようなものをやっていた彼は、そこに所属している他の高校の女性に惚れたらしい。
学校でも何だか機嫌がよく、俺らに彼女の可愛さやら凄さやら、まるで自分のことのように話してきて少し鬱陶しかったのを覚えている。そう、授業中には一切見せないいい笑顔をしていた。
てか、授業はほとんど寝てたし。
俺もだけど。
学校終わり、部活へ向かう彼の足取りは軽く、異様にテンションが高い。要は浮かれている。
そのやる気をもう少し勉強に向ければ普通に大学に受かったんだと思うが、今となっては言っても意味はない、過ぎたことは戻らない、それが節理。
変わらない事実。事実を受け入れ耐えるのみ。
そして耐えるのは本人でもあり、他人でもある。
約一月が経過した頃、彼の様子に変化が見られた。目が腫れている。まるで涙を流したかのように、真っ赤に晴れた眼は何かを物語っていたが、何も聞かなかった。聞いたところで上手いことを言ってやるスキルはないし、何も出来ないだろうという予感がした。
聞くのが怖かったのかもしれない。いや聞いた所で何も出来ない自分の無力さを感じるのが怖かったのかもしれない。
つまりは自分の都合だ。
それから確か半年以上の月日が流れて、俺らは学年が上がり、高校二年生となった。まだまだモラトリアムを満喫中である。
ある日彼と一緒に下校する機会があった。クラス替えで別々のクラスになり、話す時間も減ったが帰りは一緒になることも多かった。
きっかけは何だったのか、それはもう覚えていないが当時の話題になった。
おそるおそる聞いた。
「その人どうなったの?」
『亡くなったよ』
俺の目をまっすぐ見据え、寂しそうな表情で彼はそう言った。その日はそれで会話が終了した。予感していた通り、何も言ってやれなかった。
言葉が出ない、ってこういうことを言うんだと初めて知った。
そう言えばこんなことも言っていた。
『歩いてたら電柱にぶつかって傷になったわ~』
半年前くらいのことであり、当時はケータイでもいじりながら歩いてたんだろうくらいにしか思っていなかったが、事実を知ると合点がいく。
何でも事故だったらしい。
あの涙は彼女への想いであったのだ。
人前では弱みを絶対に見せない彼だったから、俺らには普通に接していたが心の内はいかようなものだったのか。俺には想像することすら出来ない。
でも、なんであの時に言ってくれなかったんだろうとも思う。友達なら「どうしたの?」、の一言を言うのが筋だったのだろうか。とか色々と思う。
結局のところ、その後も俺らは普段通りに接し、日常を送っていき、卒業を迎えた。
今思えば、学年が上がるにつれてA君が少し投げやり気味になっていた気がする。それがその出来事に起因するものなのか、そうではないのか、それすらわからない。
今は音信不通、時々目撃情報があるので元気にやってはいるんだろうけど。
俺には何も出来ないかもしれないけれど、あの時ちゃんと声をかけておけばよかったのかな、とたまに思う。聞いたとしても何も出来やしないけど。
助けを求めていないかもしれない、必要ないと、何もしなくていいと言われるかもしれない。
それでも、よかれと思って語り掛ける必要があったのかもしれない。
何にもしてやれなかった自分が少し嫌になった。誰もせいでもない、自分の無力さに腹が立った。
今更言ったところで後の祭り、何も事実は変わらない、現実を受けいれるだけ。
まあ、、、A君や、連絡くらいよこしてくれてもいいじゃんか♪
もう二度と会うことはない予感がしてるけど。
