≪従来不失≫
従来失せず、何ぞ追尋を用いん。
背覚に由って以て疎と成り、
向塵に在って遂に失す。
家山漸(ますま)す遠く、岐路俄(にわ)かに差う。
得失熾然(しねん)として、是非蜂起す。
(『十牛図』 尋牛序一 より)
平櫛田中の作品 「尋牛」 を何度か見たことがある。
一等最初は、おなじテーマで彫られた木彫彩色の小品だった。
夕暮れ時、年老いた農夫が牛を牽いて家に帰る姿なのか、
それとも、早朝牛を追って田圃に向かう姿なのか、
少なくとも、私には 「牛を探し求める人」 には見えなかった。
この老僕は、最早 「牛を探し求める人」 ではない。
むしろ、「牛を牽く人」 であり、「牛を追う人」 であり、
「牛を使役する人」 である。
如何せん、牛のすがたは此処には無い。