かって何処の農家にも牛小屋や馬小屋があった。

   それら牛馬は、主に農耕や運搬に用いられ、

   日々の生活と共にあり、生活の一部であった。


   私も子供の頃、何度か田起こしや代掻きに付き合ったことがある。

   犂や馬鍬の上に両足を掛け、伯父の牽く手綱に手を掛けながら

   牛を追うのである。


   義父などは、牛馬が耕運機に取って代わられても牛を手放さず、

   自身が亡くなるまで牛の世話を止めなかった。

   朝早く牧草を刈りに行き、朝露を含んだ牧草を庭いっぱいに広げ、

   牛小屋の掃除をし、敷き藁を取替え、牛に餌をやり、牛を引き連れては

   近くの水場で水を飲ませ、丹念に身体を洗ってやっていた。

   
   それは、どこか懐かしい日本の原風景とも言えるし、

   田中翁の手になる 「尋牛」 を彷彿とさせるものだった。 *


   * 井原市立 田中美術館
   http://www.city.ibara.okayama.jp/denchu_museum/index.html