<親父の遺言>

   ――― 暗黙の了解


   かって、親父の遺言を二度聞いたことがある。

   一度は、危篤状態の中むくんだ足を揉んでいたとき、

   突然ベッドから身を起こして 「心配いらん」 と言った。

   前後の脈絡もなく、いきなりだったので多少驚いたが、

   死後の遺産分割とか、葬儀の心配などをしていたために、

   まるで、俺の心を見透かしていたかのように適確で適切だった。


   今一度は、いよいよと言う時、

   それこそ臨終の間際に、「心配いらん」 と言って旅立った。

 
   「心配無用」 が、二度に渡る私へのはなむけであり、

   ベッドを取り囲む家族への遺言であった。