書庫: 龍のすみか 所収
   


   ≪身体的記憶≫

   ――― 記憶の彼方へ、

   失われた時を求めて・・・。


   
   わたしは、三才になるかならない頃、

   生死を分けた緊急の手術を受けたらしい。

   
   それと言うのも、

   わたしにはその頃の記憶が全くない。

   せいぜい親から聞かされるだけで、

   完全に記憶が欠落しているのである。


   このような例は、別段わたしだけに限ったことではない。

   ほとんどの人が、その幼少期を境に記憶の断絶、

   あるいは、認識の欠落に出会っている。


   経験とか認識と呼ばれる時系列的な歴史的経緯を表わす

   個人的な意識の領域が、公共的・客観的な歴史的経緯とは異なって、

   断絶しているのである。


   それらを補って余りあるのが、

   あらゆる意識に先行する身体的記憶、

   その存在的無意識 (場の記憶) と思われる。