ネズミ | 創作怪談 zero

創作怪談 zero

三度の飯と怪談が好き。
ここでは怪談の創作にチャレンジします。
拙い文章ですが気に入って頂けたら嬉しいです。
そして語り継いで頂けたら幸いです。

 
これは俺が社会人2年目にして始めて実家を出て会社近くのアパートで

一人暮らしを始めた頃の出来事です。

俺は毎朝の通勤ラッシュに悩まされ、朝が弱い事もあり、とにかく会社の近くで

家賃の安いぼろアパートの一室を借りて入居した。

そのアパートは一階と二階にそれぞれ3部屋ずつしかない小さなアパートで

俺の部屋は2階の階段から一番離れた奥の部屋だ。

入居して一ヶ月は何も無く、会社から近くて朝はゆっくり眠れ、帰宅も疲れた身体で

電車に揺られて帰る必要も無く快適に過ごしていた。

それが起きたのは一ヶ月も過ぎ、始めての一人暮らしに慣れて来た頃だった。

 

俺は仕事から帰り早々とコンビニ弁当を食べ、風呂に入りビールを飲みながら

スマホで動画を見て過ごした。

そろそろ寝るか、と布団を敷き横になり目を瞑った時だった。

カリ、カリ、カリ、カリ…

と屋根裏から小さな音が聞こえてくる。

(え?この音なに?)と

俺は耳をすませた。すると

カリ、カリ、カリ、カリ…

その音は屋根裏の隅から、ちょうど今俺が寝ている頭の上辺りまで移動してきた。

(ネズミか?)と俺は部屋の隅に置いていたほうきの柄でコツンと音の鳴る場所を叩いてみた。すると

カリ、カリ、カリ、カリ…と

音はまた部屋の隅へと戻って行った。

まあ、こんなぼろアパートだ。

ネズミが出たっておかしくないか、と俺はその日、音に驚いたのか再びネズミが

音を立てる事が無かった為、(これで良し。)とたいして気にせず眠りについた。

しかし、その考えは甘かった。

次の日の夜も「ネズミ」は現れたのだ。

床に就き目を瞑ると、また屋根裏の端から俺の頭上へとカリ、カリ、カリ…と

音を立てやってきたのだ。

(また来たか。)そう思い俺は昨夜と同じく ほうきの柄でコツンと、そこを叩くと

カリ、カリ、カリ…

その音は部屋の隅へと戻って行く。

(これで眠れる。)

そう思ったのだが、その日はそうはいかなかった。

カリ、カリ、カリ、カリ…

しばらくするとまた音を立て、ネズミは頭上にやってきたのだ。

「うるせぇな!」俺は眠さもありイライラして、そう言うと先程よりも強く

音の鳴る場所を叩いてみた。

するとピタッとその音は止み、シーンと静かになった。

(あれ?逃げてく音はしなかったよな)

と不思議に思ったが、一先ず音は止んだので

(明日、大家に電話をしてネズミの駆除を頼もう。)そう思い眠りについた。

そして次の日の夜もやはり、ネズミは現れた。連日と同じく寝ようと目を瞑ると

頭上にやって来てカリ、カリと音を立てる。

(一体なんなんだ?!なんで寝ようとすると出てくるんだ?!)俺はいい加減うんざりして、

また寝床の横に立てかけて置いたほうきの柄でゴツンッと屋根を叩いてみた。

するとピタッと音が止まり一瞬静かになったと安心したのも束の間、

次の瞬間

カリ、カリ、カリ、カリ

カリ、カリ、カリ、カリ…

と今度は縦横無尽に這い出した。

「くそーっ!いい加減にしてくれ!」

これじゃ週末に手配して貰ったネズミ駆除業者なんて待ってられない!

俺は頭にきて一刻も早くこの状況を何とかしようと効くはずも無い殺虫剤と懐中電灯を

手に取ると押入れを開け、先程まで布団をしまっていた押入れの中板の上に登り、

開きそうな屋根の板を見つけると持ち上げて屋根裏を覗いた。

さすがに警戒したのか音は止んだ。

俺は(睡眠妨害してくれたお返しだ!)

そう思いながら中板の上に置いた懐中電灯と 殺虫剤をそれぞれの手に持つと

音のしていた方へ首を向け懐中電灯で照らして見た。

と、その時

ヌッと照らした光の中に黒みがかった緑色の表皮がドロドロに溶けた様な顔があり、

その顔が

ニッと不気味な笑顔を作り

「ちゅう、ちゅう」と言った。

「うわぁあぁーーーっ!!」

と、驚いて俺は叫ぶと後ろの壁に思い切り頭をぶつけ、勢い余ってバランスを崩して

右肩から床へ落下した。

ドスンという音と共に右肩に強い痛みを感じた。

床に転んだまま俺は咄嗟に開けたままの天井部分に目をやったが、

そこにはもうあのナニかの姿は無くなっていて

カリ、カリ、カリ…と 遠ざかって行く音がした。

俺は(なんだ?あれ?!人間?いや、人間じゃない…一体あれはなんなんだ?!)

そう思い、居ても立っても居られず、痛む肩を庇いながら慌てて財布と鍵を持って

部屋を飛び出ると近くのインターネットカフェに逃げ込んだ。

(あれは一体何なんだ?!俺がずっとネズミだと思っていた音の正体は、あの化け物の仕業だったのか?!)そう思うと怖くて震えが止まらぬまま朝を迎え

動かない手を理由に会社を休むと部屋着であるジャージのまま病院へ行った。

どうやら脱臼をしていた様で、俺は自宅で一ヶ月の療養を余儀なくされた。

無論、その後も俺はあのアパートに帰る事は無く、結局また自宅へ戻った。

たった一ヶ月程度での退去は契約違反で家賃2ヶ月分の支払い義務が発生したが、

そんな事を気にしてなんか居られなかった。

あの時見た、「ちゅう、ちゅう」と言ったナニかは

化け物以外の何者でも無かったのだから。

カリ、カリ、カリ…

あなたのその部屋、大丈夫ですか?

ネズミだと思ってる(ソレ)本当にネズミでしょうか?

カリ

カリ

カリ…