• 蛇と呼ばれた兵器

 年始一発目の記事で『干支に因んだ兵器を記事にする』ってのも、もう一巡以上している。12年前の「巳年に因んだ兵器」の記事は『蛇の道は蛇」として、米国はベル社の「コブラづくし」を記事にした。まあ、攻撃ヘリの嚆矢にしてロングセラーのAH-1コブラが、AH-1Wスーパーコブラになって、AH-1Zバイパー(マムシ)に発展しているから、「蛇ではあるが、コブラばかりでは無かった」のだが。

 

 


 だが、蛇ってのは我々ヒューマノイドたる人間=2足歩行&2本の手からすると、相当な異形・異型であり、それ故に崇拝や嫌悪の対象となりやすい、様である。キリスト教の聖書では「原初の人間」たるアダムとイブを唆して「知恵の実」を食べさせ、「楽園を追われる」原因を作った(*1)のが蛇だし、ゴルゴンの髪の毛とか鵺の尻尾とか、「妖怪・妖物としてのシンボル(乃至アクセサリー)」として蛇が使われることも、ままある。


 我が国の神話でも「八岐大蛇」って大妖怪が居たりするのだが、一方で神である/神として祀られる蛇も枚挙に暇が無い。
 「八岐大蛇」だって、倒された後に「草薙剣」って後に「三種の神器」の一つとなる「レアアイテム」を「ドロップ」している(*2)のだから、「妖怪と言うよりは、ある種の神である」と考えた方が無難だろう。
 
 だが、神にせよ妖怪にせよ、ある種の「パワー」があることは「認められている」訳だから、それにあやかっての「兵器の名前」となることも、良くあること。先述し一回り前に記事にもした、米国はベル社の航空機(戦闘機&攻撃ヘリ)たる「コブラ」シリーズも、その一つ、だろう。
 
 で、他には、無いかと、つらつらおもんみるに・・・

  • <注記>
  • (*1) キリスト教の教義で、私が一番嫌いなのは「原罪」だが、2番目ぐらいに嫌いなのが、この「失楽園」神話だ。
  •  なぁんだって人が知恵を付けたら「楽園を追われる」なんて罰を受けなければならないのか?知恵こそ、人を人たらしめているモノでは無いか? 
  •  ホモ・サピエンスって現世人類の学名の原義は、「考える人」だぞ。
  •  「技だよ、シャバスさん。力じゃ無い。
  •   神は獣が地上の王となることを、望み給わなかった。」ってのは、ジャック・ヒギンズの数多ある作品のどれかの名科白。此処で言う「技」は、「身体を使う知恵」って意味だろう。 
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  • (*2) こう言う表記が、「極めてゲーム的」なのは承知しつつ。まあ、判りやすい向きには、判りやすかろう。
  •  私には、やっぱり、違和感の方が先に立つが。そんなに所謂RPG(ドラクエの類い)は、やってないしな。 


 

  • (1)「俺の名は、コブラ」ノースロップYF-17 コブラ 超音速ジェット試作戦闘機(米)


 「コブラ」って蛇は、蛇の中でも有名な方だろう。我が国で言うとアオダイショウとかシマヘビとかヤマカガシの方がずっとメジャーでよく見かけるし(*1)、毒蛇として恐れられるのはマムシとハブぐらい。だが、どれも「コブラ」のネームバリューには、到底適いそうにない。
 一つには、コブラが「毒蛇としてはかなり大きい(*2)」事。もう一つには「その蛇毒が強いこと」。更には「インドの蛇使い」に象徴されるとおり、「鎌首を持ち上げ首回りのヒダを広げる、独特の威嚇ポーズ」の故、であろう。
 だから、「左腕にサイコガンを持った一匹狼の宇宙海賊(*3)」の名前にもなれば、「最後には銃にモノを言わせる、現代のワイアットアープ的刑事(*4)」の名にもなる。ベル社が一連の「コブラ」シリーズを開発・製造・発売したのも、そんなコブラのイメージを利用して、だろう。

 だが、ベル社以外にも「コブラ」名前の航空機を作ってしまう会社もある。その一つが、ノースロップ社であり、YF-17って試作ジェット戦闘機に「コブラ」の名を付けた。
 


 「言い得て妙」と言って良かろう。何しろ、ベル社の一連のコブラシリーズが、名前負けとは言わないまでも(イヤ、言えそうなのもあるか。「名前だけコブラ」って感じなのに対し、YF-17はその独特の機首廻り形状、即ち「主翼付け根から機首方向に鋭く突き出た主翼延長部」があることから、コレが「首回りのヒダを広げて威嚇するコブラの鎌首」と、見えないことも無い。
 LEX Leading Edge eXtention(*5)と呼ばれるこの「主翼形状」というか「前方追加フィン」は、「主翼面積の増大」的な揚力向上効果を狙うと共に、この鋭く突き出た部分で発生する「翼端渦」によって主翼上面の気流を制御し、特に大迎角時の失速特性などを改善する(*6)、空力的工夫であり、原理的には主翼前縁の切り欠きたる「ドッグツース」にも相通じるモノがある。
 YF-17は、米空軍の主力戦闘機たるF-15が余りに大きく高価であることから、「作戦機数を揃えるための軽量安価な戦闘機」として立案された軽量戦闘機計画LFP Lightweight Fighter Programにノースロップ社が応じる試作機として開発され、「コブラ」と名付けられた。 
 だが、まあ、軽量戦闘機計画について言えば、「相手が悪かった」と、結果から言えば言えそうだ。何しろ同計画の試作機を同じく受注したライバルは、ジェネラルダイナミクス社のYF-16。後にF-16ファイティングファルコンとして、未だ製造販売が続くロングセラーとなったのだから。試作に敗れたYF-17は「Y」が取れない「YF」のまま終わり、「コブラ」は制式採用も量産もされずに終わった。

 が・・・「高翼面荷重だが、離着陸性能は良い」ってYF-17の(LEXの成果でもある)特徴は、「F-14では大型で高価過ぎる」と、米空軍と良く似た悩みを抱えていた米海軍(*7)に注目され、マクダネルダグラス社(F-14のメーカーでもある)がそのコンセプトを引き継ぎ、F/A-18ホーネット(さらには、F/A-18E/F スーパーホーネット)として開発し、米海軍に制式採用され、輸出も(F-16程の盛大さはないが、)されている。

 つまりは、YF-17コブラの「コブラらしい形状」は、F/A-18にしっかりと受け継がれ、今も空に、その鎌首を広げているのである。

 何しろ、F-14トムキャット亡き後、F-35BやF-35CライトニングⅡが配備されるまで「米海軍唯一の艦載戦闘機」となったのがF/A-18ホーネット&F/A-18E/Fスーパーホーネットだ。「F/A」の機首記号が示すとおり「戦闘機兼攻撃機」であり、一時期米空母の飛行甲板は「F/A-18(シリーズ)の独占状態」に近かった。それほどの「大繁殖」を見せたのがF/A-18シリーズなのであるから、YF-17の「コブラらしい鎌首形状」は艦載戦闘機(兼攻撃機)の「一つの理想形状」であった、と言えそうだ。

 たぁだ、「揚力も稼ぐが、抵抗もデカくなる」とか、「ステルス性に欠ける(RCSを増大させる)」なんて特性も、「コブラ似の鎌首形状」=LEXにはあり、そのために最新型艦載機のF-35ライトニングⅡにはLEXは受け継がれなかった。残念ながら。

  • <注記>
  • (*1) 第一、我が国にはコブラなんて生息していない。基本的には。 
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  • (*2) 大型の蛇は、ニシキヘビなどもそうだが、毒なぞ使わず、長い胴体で絞め殺す事で獲物を獲っている。だから、大型の長い蛇には、毒蛇は殆ど無い。 
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  • (*3) 寺沢武一のデビュー作にして最高傑作「コブラ」の主人公 
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  • (*4) シルベスタ・スタローン主演「コブラ」。役名は、確か、マリオン・コブレッティ刑事 
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  • (*5) LERX Leading Edge Root Extentionとも呼ぶらしい。 
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  • (*6) 結果として、離着陸性能や空戦性能を向上する。 
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  • (*7) 言うまでも無いだろうが、米海軍は世界で一番艦載機を保有している海軍である。それも、断トツに数が多い。 


 

  • (2)「コルト・パイソン・357マグナム。頼もしい、俺の相棒だ。」 コルト パイソン357マグナム 回転式拳銃(米)


 357マグナムと言えば、真っ先に思い浮かぶのは、ルパン三世の相棒、早撃ち0.3秒のクールなガンマン、次元大介のスミス&ウエッソンM19コンバットマグナムである。【敢えて断言】
 当時「最強の拳銃弾」であり、後にその座を「44マグナム」に譲り渡して、こちらはクリント・イーストウッド演じる「ハリー・キャラハン刑事」@映画「ダーティーハリー」シリーズ(*1)の愛銃スミス&ウエッソンM29(や、後には44オートマグ)や、加納錠治刑事@漫画「ドーベルマン刑事(でか)」の愛銃スタームルガー・スーパーブラックホークなどで、ある種「一世を風靡した」感がある(*2)。

 だが、357マグナムへの注目度が減ったからと言って、別に357マグナム弾が弱装化された訳ではない。対人戦闘では相応の威力を誇っており(と言うよりは、元々、拳銃弾の「対人戦闘力」なんてのは、「多寡が知れている」ので、44マグナムぐらいになったところで「大したことない」のである。)、コレを使用する拳銃(主として回転式拳銃(*3))はその後も開発・採用・販売されている。

 「コルト・パイソン357マグナム」も、その一つ。漫画・アニメ「シティ・ハンター」の主人公・冴羽リョウの愛銃として有名だ。外観的には、銃身(*4)の上側全長にわたって「冷却用の空気穴」が並んだヘヴィ・バレルが一大特徴だろう。
 後は、近代的なリボルバーの御多分に漏れずスイングアウト式でスピードローダーを使いやすい(*5)レンコン型弾倉と、ダブルアクション(*6)シングルアクション(*7)も可能なトリガー(及び撃鉄他)が特徴。
 

 


 更には、コルト社は、このパイソンを大型化して44マグナム弾に対応した「コルト アナコンダ 44マグナム」を開発、生産、販売した。既にコルト社はその生産を停止しているモノの(ってぇか、コルト社自身が2015年に倒産している。(*8))、「コルト社を買収したチェコのメーカーCZ社が復刻版を生産する」なんて事もあるようだから、未だ人気は高い、様だ。



 尤も、銃社会アメリカでさえ「警官が44マグナム弾を使う大型拳銃を携帯・使用する」訳には行かなくなっており(*9)、44マグナム弾は今や狩猟や鑑賞などの「趣味の弾丸」になってしまっている、らしい。

 とは言え、それでも再販されるコルト・パイソンやコルト・アナコンダは、嘗ての大ベストセラー(で、今でもことある毎に再版品やパチモンが出て来る)コルトSAA(シングルアクションアーミー)回転式拳銃やコルトM1911A1ガバメント自動拳銃にも比肩しうるほどの「根強い人気」を誇る「拳銃界のロングセラー」と、言えそう(*10)だ。

  • <注記>
  • (*1) シリーズが進むと、徐々に重火器が強化拡大されるのは、ある種のインフレ現象か。チャールズ・ブロンソン主演のDeath Wishシリーズにも、そう言う傾向あるよな。 
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  • (*2) 「ある」と言ったら、「ある」【断言】。 
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  • (*3) 「マグナム弾を撃てる自動拳銃」ってのは、44オートマグを皮切りに、幾つも開発されているが・・・「回転式拳銃に取って代わる」ほどのモノは未だ無いようだ。 
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  • (*4) 長さは幾つかバリエーションがある。代表的なのは4インチだろうが、私(ZERO)としては6インチ以上欲しいな。 
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  • (*5) そりゃ、まあ、中折れ式でも、スピードローダーは使えるが。 
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  • (*6) 引き金を引くだけで、撃鉄が起き、弾倉が回転し、撃鉄が落ちて、発射できる。 
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  • (*7) 先ず手動で撃鉄を起こす。すると弾倉も回転する。引き金を引くと、撃鉄が落ちて、発射できる。
  •  コチラの方が古い方式だが、引き金が軽くなり、命中率が向上する(と期待できる)ので、今でも大抵の回転式拳銃は「シングルアクションでも撃てる」。
  •  中には、「ダブルアクションで無いと撃てない」って、チョットへそ曲がりな回転式拳銃も、無いでは無い。
  •  「シングルアクションで無いと撃てない」銃ならば、今でもあるなぁ。西部劇で有名なコルトSAAは「古い銃だから、シングルアクションオンリー」なんだが、未だにレプリカや復刻版が売られていたりする、らしい。私(ZERO)も好きな銃、だけどね。最初のモデルガンだし。 
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  • (*8) 回転式拳銃を発明した米国でも老舗中の老舗の銃器メーカー。M1911ガバメント自動拳銃や、M16(後にM4)軍用自動小銃で、米軍御用達の感さえあった、大メーカーだったのだが・・・アメリカって、銃社会の割には、ホイホイ銃器メーカーが潰れる。また、新しい会社が出て来るのだけれど。
  •  私としては「創業百年以上」って会社が山ほどある、日本の会社形態の方が「正しい」と思うぞ。
  •  「継続は力なり。」 
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  • (*9) と言うよりは、MP5の様な短機関銃や、ショットガン、軍用自動小銃(アサルトライフル)が普及した、って方が、正しいかな。 
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  • (*10) そりゃ、米軍制式採用以来百年以上を数えるガバメントや、それより更に半世紀は遡れるSAAには、とても適わないが。 


 

  • (3)「吸血鬼より出でし蛇毒」 デ・ハビランド ヴェノム亜音速ジェット戦闘機(英)

 ヴェノムVenomとは、蛇やサソリなどの毒をさす。転じて「悪意」と言う意味もあるが、原義は「蛇毒」って意味だから、「蛇ではない」と言い得るが、まあ、「蛇繋がり」ではある。
 
 デ・ハビランド ヴェノムは、戦後第一世代ジェット戦闘機に当たる、英国開発の亜音速ジェット戦闘機。まぁだイギリスが「一国で戦闘機の開発を行えた」頃の話で、第二次大戦戦後間もなくの頃に開発された。

 元々は、やはり戦後第一世代に数えられるデ・ハビランド ヴァンパイヤ(*1)亜音速ジェット戦闘機の改良型として企画され、主翼付け根に空気取り入れ口(エアインテーク)を配置して、短い中央胴体内に遠心圧縮式のジェットエンジンを一基備え、細い双胴の後端付近に双垂直尾翼と、双胴間を繋ぐような水平尾翼を持つ。その形態・レイアウトは、正にヴァンパイヤで「試行」された、黎明期のジェット戦闘機形状。原理的に直径が大きく太くなる遠心圧縮式ジェットエンジン(航空機用としては、やがて軸流式が主流になる)に適した形態であり、ぶっちゃけ「ヴァンパイヤ戦闘機のエンジンを強力な物に換装(ゴブリン⇒ゴースト(*2)し、主翼を純粋直線翼から「前縁だけ後退角(*3)」を付けて「若干後退翼(*4)」にしたのが、ヴェノムである。
 まあ、それだけ、「ジェット戦闘機としても黎明期であり、試行錯誤の時代であった。」とも言えそうだし、「英国単独での戦闘機開発」もさることながら、「矢継ぎ早の戦闘機開発」=「同一世代戦闘機の”乱立”状態」とも言えるだろう。


 これが、「戦後第二世代戦闘機」となると、「超音速」が一大特徴となり、米国のセンチュリーシリーズ(F-100から始まるF-百番台戦闘機。)に代表されるように「米国では未だ乱立状態継続(*5)」される訳だが。対して英国となると・・・BAC ライトニング超音速ジェット戦闘機が「辛うじてある」程度、になる。
 計画機とか入れると、もう一寸増えるけどねぇ。

 であるならば、デ・ハビランド ヴェノム亜音速ジェット戦闘機は、「未だ英国が航空機開発、就中戦闘機開発に於いて、単独で主要な役割を担えた時代の象徴」と、言えなくもなかろう。

 ある種の「縁起物」って訳だ。正月らしかろう。

  • <注記>
  • (*1) 「戦後」って所に、些かならず疑問符はつくが。グロスター・ミーティアに続く、英国開発のジェット戦闘機で、初飛行は第2次大戦中である。 
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  • (*2) 化け物繋がり、だな。 
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  • (*3) ヴァンパイヤは「直線先細翼」だったので、「後縁だけ前進角を無くした主翼形状」とも、言えそうではある。 
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  • (*4) 後に、「ちゃんとした後退翼」になった、ホーカー・ハンターが登場する。 
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  • (*5) 制式採用された戦闘機だけでも、F-100、F-101、F-102、F-104、F-105、F-106とある。