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トラと呼ばれた兵器
令和4年・皇紀2682年・西暦2022年、明けましておめでとうございます。
毎年のように書いているが、新年一発目の記事ぐらいは「縁起の良い」記事としたい。そこで「おめでたい」干支に因んだ兵器の話を記事にするのも、ほぼ毎年恒例になっている。未だ干支は一回りしていないモノだから、未だ「干支に因んだ兵器」って記事が書ける訳だ。
「干支が一回りしてしまったら、どうしよう。」と、思わないでも無いが、まあ、書ける内は書くとしよう。
で、今年は寅年で、干支は「トラ」となる。ネコ科の大型肉食獣であり、アジアに現存する最大の肉食獣。我が国には分布していないが、大陸や半島には分布しているモノだから、朝鮮征伐の際に「加藤清正公の虎退治」なんて故事(まあ、歴史的事実かは、疑義の余地がありそうだが、伝説・伝承としては、確かに存在する。)があるし、虎に因んだ言い回しとか比喩も日本語には多い。
「騎虎の勢い(無謀なほどの勇敢さ)」
「虎の尾を踏む(途轍もない危険を冒す)」
「虎穴には入らずんば虎児を得ず(High Risk High Return )」
「虎の子(非常に重要なモノ)」
「虎の巻(極秘重要書類)」等々。
これらの「虎にまつわる言い回しや故事」が日本語に数多ある、と言うことは、「日本人にとっての虎」が「馴染みあるモノ」であることを示唆している。「馴染みがあるから、言い回し・故事が多い」のか、「言い回し・故事が多いから、馴染みがある」のかは、判然としない所はあるし、これら「言い回しや故事の中の虎」が「必ずしも実在の虎を意味しない(伝説上、伝承上、或いは極端には空想上のトラである)」のも事実であろうが。
だがその一方で、「虎に因んだ兵器」ってのは、日本語、日本軍、日本史には、トンと覚えが無い。
「虎徹」は名刀(日本刀)の銘だが、固有名詞(刀鍛冶の人名)だし、「マレーの虎」は山下奉文中将の異名。大東亜戦争劈頭で電撃的なマレー侵攻を実現し、「20世紀に此処を落とす軍隊は無い」とチャーチル英首相が豪語したシンガポール要塞を(20世紀も前半の内に)陥落させた山下中将の功績は、「虎」の名に恥じぬモノがあるが、(「怪傑ハリマオ」と同様に、)「人の仇名」だ。
「白虎隊」は会津の少年士族で結成された部隊で、少年ながら対官軍戦の前線に投入された挙げ句、「会津城陥落」と誤認しての全員自決という悲劇も忘じがたいが、「部隊の名」である。そもそも「白虎」は四方の一つを守護する神獣であり・・・少なくとも「単なる白い虎(アルピノの虎)」ではない(*1)。
他方、英語でTiger(タイガー)、ドイツ語でも同じ綴りでティーゲルは、英語はじめとする西欧語では「兵器の名」として随分とポピュラーだ。
- <注記>
- (*1) 「白虎とは、果たして、虎か?」と言う、根源的な疑義も、なしとはしない。
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☆1 虎よ虎よ ドイツ軍Ⅵ号重戦車ティーゲル(ファミリー)Ⅵ号E型 TigerⅠ/Ⅵ号B型 TigerⅡ/Jagd Tiger/Strum Tiger
その代表例・典型例はドイツのⅥ号重戦車・ティーゲルだろう。
第2次大戦の後半に登場し、特に対英米戦である西部戦線(*1)では「恐怖の的」とも言い得たティーゲル重戦車は、長砲身(*2)の88mm主砲と重装甲で知られる。その分、機動力が犠牲になったきらいはあるが、「重装甲・大火力化に伴う、重量増大(と機動力低下)」は、第2次大戦下で「恐竜的進化」を遂げた各国戦車にほぼ共通するものであり、Tigerシリーズに限った話では無い。
原型となったTigerⅠは、戦後の西ドイツ軍主力戦車レオパルドⅡAV(*3)を彷彿とさせる垂直に切り立った円筒砲塔と車体が特徴。「避弾経始」を無視した重装甲と、対空砲を原型とする長砲身/高初速の56口径88mm主砲で、生産数/配備数こそ多くは無いものの、「独立重戦車大隊(ティーゲル大隊)」等として集中的に投入された際の威力は、伝説的でさえある。
さらに、その発展型として大型化/重量化したTigerⅡは、同じく88mmながら71口径とさらに長砲身化/高初速化された上、こちらは5号中戦車パンテル系列の設計を受けて一定の避弾経始も取り入れ、「分厚い傾斜装甲」で、「鉄壁の防御」を誇った。
しかしながら、そこは「恐竜的進化」とも言い得る第2次大戦下の戦車の進化(*4)と「大火力重装甲大好きなヒトラー」の圧力もあり、ティーゲル戦車ファミリーはさらに大火力・重装甲化(って事は、ほぼ例外なく重量増大&機動力低下を惹起する)する。「砲塔搭載をやめて単一の戦闘室とし、更なる大口径主砲を車体固定式に搭載する」対戦車自走砲化は、「突撃砲」とか「駆逐戦車」とか呼ばれて各国とも実施していたが(装甲は犠牲にした例外もあり。米軍の駆逐戦車なんかは、火力・機動力重視が基本だ。)、鬼のような重装甲・大火力を誇るTigerⅡを対戦車自走砲化した(上、さらに重装甲化した)のが、Jagd Tiger(狩りをする虎)である。主砲は実に128mm砲。対戦車砲としては当時のドイツでは最大口径。全世界的に見てもコレを上回るのソ連の152mm砲(KV-2やSU-152、ISU-152に搭載)ぐらいだろう。(ソ連のスターリン重戦車シリーズ等の122mm主砲が、コレに次ぐが。)
更なる大火力化、と言うよりは「火力支援車両化」したのが、Strum Tiger(突撃する虎、かなぁ。)だろう。TigerⅡをベースとした車体に固定式に搭載したその主砲、実に38センチロケット臼砲。臼砲だけに対戦車戦闘は主眼では無く(初速が低いため、移動目標に対する命中率は期待し難い。)、「建物毎中にいる歩兵を(文字通り)ぶっ飛ばす」戦車。Ⅳ号戦車の車体をベースに15cm榴弾砲を搭載したブルムベアの拡大発展型、と言えそうだが・・・「拡大発展し過ぎだろ!」って突っ込みが入りそうだ。超超弩級戦艦(*5)級の大口径で、しかも太短いロケット臼砲だから、見た目のインパクトは大だ。
- <注記>
- (*1) ギリギリでアフリカ戦線の最後に「間に合った」筈だが。
- (*2) TigerⅠで56口径。TigerⅡでは71口径
- (*3) 通称「レオⅡ」も、戦後第3世代から第4世代に渡って改修改良が重ねられたが、此処では初期生産型を指す。
- (*4) 「最大装甲厚100mmは当たり前。200mm越えも結構居る」状態。コレに比肩しうるのは・・・「レシプロエンジンの高出力化」ぐらいか。零戦のエンジン1000馬力級は、当時としては標準的な戦闘機用レシプロエンジンだったが、大戦後半になると2千馬力は当たり前で、3千馬力なんて化け物も量産され、装備された。計画だけなら、5千馬力越えまであったかと。富嶽の4重星形エンジンが、それぐらい(の計画)だ。
- (*5) 弩級戦艦の主砲は12インチ=30センチ。超弩級戦艦は14インチ砲=36センチ砲であるから、38センチ=約15インチ砲は「超超弩級戦艦」級、と言い得る。
- 史実の戦艦で38センチ砲ってのは、チョイと異端で、ビスマルク級の主砲ではあるが、14インチ砲の次は「普通は」16インチ砲であり、我が国で言うと長門級、となる。
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☆2 アジアの虎 中華民国軍主力戦車 CM11勇虎(ユンフー)
「ドイツ軍のタイガー戦車」が余りにも有名・メジャーで、その影に隠れて・・・どころか「そんな戦車あるの?」状態なぐらいにマイナーなのが、中華民国陸軍主力戦車CM11勇虎(ユンフー)である。「勇ましい虎」って名前だから、なかなか立派な名前だが、「中華民国陸軍の戦車」ってだけでもかなりマイナーな上に、「M60A3の車体にM48A5の105mm砲搭載型砲塔を乗せ、射撃指揮装置を更新した」戦車なので、「M60A3とそっくり」なのである。
M60A3 車体は同一
と言っても、「知っている人」以外には何のことか判らないだろうが、M48もM60も米国開発の主力戦車で、遡れば第2次大戦中に開発されたM26パーシング中戦車を共通の先祖としている。M46、M47、M48は共に90mm砲搭載の戦後第1世代戦車として開発・配備され、これらに続いて105mm砲搭載の戦後第2世代戦車として開発されたのがM60であり・・・M46からM60まで一括りに「パットン」と呼ばれている上、M48とM60は外形も寸法もそっくりなのである。
オマケに、先述の通りM48A5は105mm砲搭載の主砲強化型。この主砲はM60と同じモノだ。故に、M48A5の砲塔もM60そっくり。「軽い」そうなので、装甲厚は薄いようだが、装甲の厚さは外見からは判らない。
であるならば、「M60A3の車体にM48A5の砲塔を乗せたCM11勇虎」が「M60A3とそっくり」なのは理の当然で、間違い探しレベルと言っても過言では無い。砲塔上部のキューポラ(車長用ハッチ兼展望塔)を変えているそうなので、この辺りが識別点ではあろうが、相当にマニアックな話だ。
何故そんな変な戦車を中華民国が配備しているかというと、昨今特にかますびしい「米中関係」が影響している。
中華民国陸軍には元々(90mm砲装備の)M48戦車を配備していたが、老朽化・陳腐化してきたので、次世代のM60(M60A3を含む)の購入を希望していた。が、当時の米中関係は「融和基調」であり、「中華民国へ(当時)高性能なM60戦車を輸出することは、米中関係を悪化させる可能性がある」と考えられ、M60戦車を(完成形で)中華民国へ輸出することを米国が認めなかった。
このため、中華民国は、米国からM60A3の車体を輸入し(*1)、米国の技術提携を受けて(*2)M48A5の砲塔を搭載し、射撃管制装置を改修した。この結果生まれたのがCM11勇虎で、米国名はM48Hと言い、「M48の最新型であって、M60ではありません」って名前になっている。まあ、実態は、「射撃管制装置は次の世代のM1エイブラムス並み」に更新・強化されている、らしいのだが。
因みに、後の米中関係が「対立基調」となったこともあり、M60A3の対中華民国輸出が許可され、中華民国陸軍にはCM11勇虎とM60A3の両方を装備している。
その後、CM11勇虎には爆発反応装甲を追加するなどのアップデートもなされており、部分的にはM60A3オリジナルを凌駕しているモノと推定される。また、CM11勇虎も開発・生産を通じて中華民国の技術向上につながった意味・意義も、決して小さくは無かろう。
国内技術力が高ければ、国内で修理や改修できる範囲も広くなる。イスラエルのマガフの様に「魔改造された中華民国製パットン(*3)」が登場する日も、そう遠くないのかも知れない。
もしそうなれば、その基礎を築いたのは、CM11勇虎(M48H)主力戦車である、と言うことになろう。
- <注記>
- (*1) 「車体なら、輸出しても良いのか?」ってツッコミを入れたくなるな。
- (*2) 「技術提携するのは、良いのかよ?」ってツッコミも入るな。
- (*3) 爆発反応装甲付きCM11勇虎に、既にその片鱗はある。
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☆3 女王陛下の虎 英巡洋戦艦&巡洋艦 HMS Tiger(タイガー)
斯様に「虎と呼ばれた兵器」として圧倒的にメジャーなのは「第2次大戦ドイツ軍のタイガー/ティーゲル戦車(シリーズ)」だが、虎は猛獣であり(西欧言語圏では)「力のシンボル」でもあるらしく、先述の通り兵器名前としてかなりメジャーで、イギリスの巡洋戦艦にHMS Tigerってのがある。
知っている人以外は誰も知るまいが、「戦艦」ってのは絶滅艦種である。「絶滅危惧艦種」では無く、「絶滅艦種」だ。最後の戦艦・米国アイオワ級が湾岸戦争を花道として20世紀末に退役して以来、七つの海に「現役の戦艦」は存在しない。
ロシアのキーロフ級がその大きさから「巡洋戦艦」と称される事もあるが(*1)、キーロフ級自体が既に1隻しか残っていない上、随分長いこと修理中状態である。
であるならば、英巡洋戦艦HMS Tigerってのは、当然ながら「古いフネ」で、就役が第1次大戦初期の1914年。34センチ連装砲塔4基を主砲とし、最大速力28ノットで、後に「当時史上最大の海戦」となるユトランド沖海戦にも参加した。大戦間期の「海軍休日Naval Holiday」において、ロンドン軍縮条約の結果廃艦と決まり、解体の上売却されたと言う。
だが、まあ、何しろ伝統があって昔は結構な数の艦艇を擁していた英海軍であるから、後の第2次大戦中に計画された軽巡洋艦にもHMS Tiger級と命名された。尤も、1番艦が就役したのは1945年11月と言うから第2次大戦には間に合わず、二番艦から四番艦までは大戦中に起工されながら戦後暫く放置された後、防空巡洋艦に設計変更されて1959年から1961年に就役。この設計変更された二番艦の艦名からTiger級と呼ばれる。一番艦が一寸可愛そうな気もするな。
元々の軽巡としては6インチ(152mm)三連装砲塔三基だったのだが、防空巡洋艦としては主砲を6インチ(152mm)連装砲塔二基に減らし、その代わり対空・対水上の新型両用砲とした上、対空砲を新型の76mm連装砲塔三基に変更している。
原設計が第二次大戦艦であるから仕方ない所ではあるが、対空砲主体の防空巡洋艦を戦後(それも、1960年にもなってから)就役させるってのは、かなり奇異な印象を受けるが・・・そこはイギリス人だから、かも知れない。複葉羽布張り雷撃機ソードフィッシュで、第2次大戦を「済ませてしまった」イギリス人だ。
尤も、ネームシップのTigerを含む二隻は、就役から10年もしない1960年代後半にヘリコプター巡洋艦に改装され、主砲塔も高角砲塔も一基にした代わりにシーキャット対空ミサイルランチャ二基とヘリコプター4機を搭載している。我が国で言うDDH(ヘリコプター搭載護衛艦)の巡洋艦版のようなフネになっている。流石のイギリス人でも「対空砲主体の防空巡洋艦」は、無理だったようだ。
ヘリ巡タイガー級
ネームシップのHMS Tigerは、同級の中で一番遅い1986年に除籍。就役から30年で除籍は、一寸早い方かも知れないが、「第2次大戦のお下がり」を1986年まで使い倒したのは、一寸したことでは無かろうか。
- <注記>
- (*1) 更には、排水量2万トン越えというリーデル級計画も「巡洋戦艦」とされる可能性はあるが。
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☆4 ティーゲルでティーグルでティグレ。で、タイガーでもある。 仏独攻撃ヘリ EC665(HAP/HAC3G/PAH-2) Tiger(Tigre)
諸兄ご承知のことと思うが、西欧諸国の言語は基本的にアルファベットで表記される(*1)上、「綴りも意味も同じ」って単語が幾つもある。Tiger(虎)ってのもそうで、英語でタイガー、独語でティーゲルである。これが仏語になると、末尾の二文字がひっくり返ってTigreでティーグル、西語(スペイン語)でティグレとなる他、同じ綴りでイタリア語やポルトガル語、果ては古英語の「虎」なんだ、そうだ。
であるならば、フランス陸軍と西ドイツ陸軍(当時)が共同開発した攻撃ヘリ ユーロコプターEC665 (社内名称)Tigerは、フランス陸軍では「ティーグル」、ドイツ陸軍では「ティーゲル」と呼ばれている・・・のかも知れないが、フランスは偵察型と対戦車攻撃型を分けてHAPとHAC3Gと名付け、一方ドイツはPAH-2と命名。「それぞれ命名法にはその国なりの基準がある」のだろうけれども「ややこしい」事になっている。オマケにスペイン陸軍も採用しているから、「ティグレ」とも呼ばれていそうだ。さらには、オーストラリア陸軍も採用しているから「タイガー」でもあるのだろう(*2)。
タンデム復座で、メインロータ一つ+テイルロータの双発攻撃ヘリってのは、攻撃ヘリってジャンルを確立した米国ベル社のAH-1にも相通じる「攻撃ヘリとしてはオーソドックスな形態」だが、「各国のご要望にお応えしますぜ」ってのが売りで、機首下面の機関砲はフランス軍では採用したが、ドイツ軍では「反動が大きすぎる」として装備されていない。主要攻撃兵装とも言える対戦車ミサイルも、国に応じて変更できる、そうだ。
そんな努力の甲斐あって、冷戦終結で発注数が減らされた仏独軍の代わりにスペインやオーストラリアに輸出された。
- <注記>
- (*1) ドイツ語のウムラウトとか、スペイン語の逆さ?とか、例外もあるが
- (*2) ヒョッとしてオーストラリア訛りでは、「タイガル」とかになるのかな。
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☆4 グラマン猫族 米艦載戦闘機「グラマンキャッツ」 F7F TigercatとF11F Tiger/Fー11B Super Tiger
グラマンって航空機会社は、今は統合されてしまって無くなってしまったが、戦前から戦中まで長いこと米海軍の艦載戦闘機を殆ど独占的に供給しており、特に戦時中の初期のF4FワイルドキャットとF6Fヘルキャットは我が国・我が軍にも「馴染みが深く」、「グラマン」と言えば「敵戦闘機の代名詞」とさえ言い得たぐらい。実際、艦載戦闘機は殆どグラマン戦闘機であるから、米空母機動部隊から発艦し、我が領土領空に飛来し機銃掃射していく機体は大抵グラマン(のF6F)。例外は、航続距離が長くてサイパンからなら日本本土に届く陸上戦闘機P-51マスタングと、一部艦載もされたチャンスボートF4Uコルセアぐらいだ。
そのグラマン社は、「米海軍戦闘機御用達」で在るばかりで無く、その艦載戦闘機を片っ端から「猫呼ばわり」してしまう伝統があり、先述の戦時中ばかりで無く、戦後もF8Fベアキャット、F9Fパンサー/クーガー、F10Fジャガー(試作のみ)、F-14トムキャットなど「猫名前」が続いた。
レシプロ双発艦載戦闘機F7F
F7F Tigercatもグラマン猫族の一つで、米海軍の艦載戦闘機。艦載戦闘機としてはかなり珍しい、レシプロ双発艦載戦闘機(*1)である。1943年末に量産開始して、約400機製造されたそうだが、大戦中に製造された数は少なく、実戦経験は無いそうだから、我が先人達がF7Fに撃たれたり爆撃されたり雷撃されたりはしていない、そうだ【コレ重要】。
とは言え、艦載機として当時としては非常に大型であり(*2)、艦上では運用しがたく、艦載機として運用されたのは(多分、他を以て代え難かった)夜間戦闘機型のみであり、昼間戦闘機型(*3)は海兵隊が陸上基地から運用した、と言う。
F11F Tiger辛うじて超音速艦載戦闘機
更にはグラマン猫族の中で、ズバリTigerと命名されたのがF11Fで、後に命名法が変更されて「F-11」さらに「F-11A」となった。ジェット戦闘機の第2世代で、後退翼。超音速戦闘機を目指した、そうだが、海面上速度で約1200km/hと言うから、この速度だと(海面上では)音速を切っており、「高亜音速」。エンジンがJ65って非力なエンジンだったので、高高度を降下するとかの「条件付き超音速機」であったらしい。対抗馬とされたF-8Uカットラスが「ちゃんとした超音速戦闘機(と言うより、米海軍初の超音速艦載戦闘機)」となったため、少数生産/配備に留まったが、米海軍曲技飛行チームBlue Angelsの乗機となったためか、結構人気がある。
で、そのF11F Tigerのエンジンを強力なJ79エンジンに換装し、機体形状も超音速向きに(*4)して「(今度こそ)ちゃんとした超音速戦闘機」にしたのがF11F-1(後にF-11B)Super Tiger。試作だけに終わってしまった機体だが、一時期「F-86の後継戦闘機として我が国が選定した」ことで有名だ。
因みに、「F-86の後継戦闘機」として、最終的に我が国が選定したのは、F-104Jスターファイター。F11F-1と同じ(である上に、後のF-4EJファントムⅡとも同じ)J-79エンジンを搭載し、短く鋭い主翼とT字尾翼に細く尖った胴体のラジカルな形態で、「最後の有人戦闘機」とも呼ばれた傑作機(*5)。「F-86の後継戦闘機」としてF-104Jを選択したのは「結果的に大正解」だったのだが、「翼面荷重(機体質量を翼面積で割った値)の低さ(*6)」などではF-11B Super Tigerの方がF-104より優れていた。「一時期我が国の”次期主力戦闘機”に選定された」のは、そのため、もある。
- <注記>
- (*1) 多分、「レシプロ双発艦載戦闘機」ってのは、F7Fしかない。「レシプロ双発艦載機」に条件を緩和すれば、AJ-2サヴェッジとか、第2次大戦に無理矢理発艦させたB-25とか、他にもあるが。
- 序でだが「ジェット双発艦載戦闘機」ならば、F-14トムキャット、F/A-18ホーネット、F-4ファントムなど、数多ある。
- (*2) まあ、当初からミッドウエイ級という当時最大の空母を想定していた、そうだが。
- (*3) 第2次大戦の戦闘機は、通常「昼間戦闘機」でしか無かったことは、明記すべきだろう。
- (*4) 「エリアルール」を適用して胴体に「くびれ」が出来たのが、顕著な所だろう。
- (*5) でも、一時期事故が(特に西ドイツ軍で)多発して、「Widow Maker未亡人製造機」とも呼ばれた。
- (*6) 旋回性能、運動性の高さを意味した・・・第2次大戦頃には、だが。
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☆5 帰って来た虎 米超音速ジェット戦闘機 ノースロップ F-5E TigerⅡ/RF-5E TigereyeとF-20 Tigershark
米空軍の超音速ジェット戦闘機に、ノースロップF-5E TigerⅡと言うのがある。「Ⅱ」が付くのは、先代に当たる「Tiger」が、先述の通り「F11F(後にF-11A)」として先行しているから、だ。
ノースロップF-5戦闘機は、かなりユニークな開発経緯を持つ。元々米海軍が大戦中に大量生産した小型の護衛空母向けに「小型軽量超音速戦闘機 兼 高等練習機」としてノースロップ社が自社開発していた機体。小型空母から発着艦できるように、小型軽量にして「戦闘機としてはショボ目」の機体だった。
高等練習機としては首尾良く米空軍に採用されT-38タロンとなったが、米海軍が(発射プラットフォームに想定していた)小型の護衛空母を退役させてしまったため、行き場を失った形のF-5戦闘機は、輸出に期待せざるを得なくなった。
時は冷戦華やかなりし頃。米ソ両大国の核兵器抱えての睨み合いは、同時にそれぞれの友好国に対する兵器供与合戦(と、代理戦争)であり、米国としては「ソ連が供給しているMig-17やMig-19より優れつつ、安価な(且つ、第一級の性能では無い)戦闘機」を供与兵器として欲しており、この要求にF-5戦闘機はピッタリだった。単座型F-5Aと練習機も兼ねた復座型のF-5Bは共に「Freedum Fighter自由の戦士」と名付けられ、(今は無き)南ベトナムや、タイ、韓国、中華民国、ギリシャ、ノルウエーなどに供与された。「自由主義/資本主義の尖兵」って訳だな。
但し、レーダーどころか見越し計算式照準器さえ搭載しないF-5A/B Freedum Fighterでは、戦闘機として如何にもショボ過ぎ、ソ連の方が曲がりなりにもレーダーを搭載した超音速戦闘機Mig-21を供与し始めると、対抗できなくなった。
そこで、「一線級の性能ではないが、F-5A/Bほどショボくは無く、安価な戦闘機」を米国は募集し、採用されたのがF-5A/Bの改良型F-5E/F。主な改良点は、①レーダーを搭載 ②エンジンを強化 ③空戦フラップの追加などで、先述の通り「TigerⅡ」と命名された。F-5A/B以上に多くの国に供与された上、スイス、韓国、中華民国ではライセンス生産もされた。
また、ベトナム戦争終結=南ベトナム消滅に伴い行き場を失った(南ベトナムへ引き渡し損ねた)F-5E/Fは米軍に配備され、「機体サイズと抜群の運動性がMig-21に類似する」と言うことで仮想敵機(アグレッサー機)として長いこと使用された。日本での馴染みは余りないが、地味ながらも傑作機の一つ、と言えよう。
偵察機型RF-5E 機首にカメラ窓
RF-5E Tigereyeは、機種記号の「RF」が示す通り、「戦闘機を改修した偵察機」であり、その名の通りF-5E TigerⅡの機首を延長し、機首に2門搭載した20mm機関砲(毎度おなじみのバルカン砲では無い)の片方を撤去してカメラを搭載した偵察機型。サウジアラビアや中華民国へ輸出された。但し、新造機は少なく、過半数は戦闘機型のF-5Eを改修した機体で、両方合わせても大した数では無い。まあ、偵察機が戦闘機より少数なのは、当たり前ではあるが。
F-5G転じてF-20となったTigershark. 目出度い紅白はノースロップカラーらしい。
F-5戦闘機シリーズの成功体験からか、ノースロップ社が「3匹目のドジョウ」としてさらに発展させた改良型として自社開発したのがF-20で、当初は「F-5G」と呼称された。「一線級性能ではないが、安価」という意味を「F-5G」という名に込めたのだろう。
とは言え、レーダーはさらに強化されてスパロー中射程空対空ミサイルの運用能力も(遂に)獲得し、新鋭エンジンにより双発から単発へ(搭載エンジンを二基から一基へ)変更しながら推力特性を向上し、特徴的な「水平方向に扁平なノーズ形状(*1)」にするなどして空力特性も向上した。操縦席にはHUD(ヘッドアップディスプレイ)が装備され、ディスプレイ表示を中心とした「グラスコクピット化」も実施した。つまり、「従来従前のF-5E/Fよりは、一線機に近づいた」訳だ。
正面上にHUD.その下左右にディスプレイ
だが、原設計が戦後第2世代相当(F-5A/B)であるF-20で「3匹目のドジョウ」はやはり厳しかった。世代的に1世代新しいF-16が量産効果を発揮した上廉価版を出したため、F-20の売り物は「チャック・イエーガーが絶賛した運動性・操縦性」ぐらいしか無くなってしまった。結果、F-20の売り込みは多くの場合F-16(及び廉価版)に敗れ、採用する国は一国としてなかった。
この辺りは「ノースロップ社の自社開発が、裏目に出た」というのも否めない。国費を投じられた開発ならば、国が試作機ぐらいは買うし、一定数配備する事もある。少数でも配備されれば「米軍御用達」って実績が出来る。ライバル(となってしまった)F-16が米空軍はじめとする数多の実績があるのだから、この「実績の無さ」は、かなりの痛手だろう。
結局、生産されたF-20は3機のみ。その内2機はデモ飛行中に墜落しているから、現存するのは1機だけ、だ。
正月早々、少々寂しい話になってしまったが、ノースロップ社はF-20の売り込み失敗にも倒産すること無く、それどころか1994年にはグラマン社を吸収合併してノースロップ・グラマン社となり、世界第4位の巨大兵器メーカーで、軍艦メーカーとしてはトップって大企業になっている、そうだ。
であるならば、ノースロップ・グラマン社が誕生した今となっては、F-5E/F TigerⅡも、RF-5E Tigereyeも、F-20 Tigersharkも、「グラマン猫族に加わった」と言うことも出来そうだ。
「グラマン社が無くなっても、増え続けるグラマン猫族」恐るべしと言うべきか、「縁起が良い」と言うべきか。
今年が我が国と読者諸兄にとって、良き歳であります様に。
- <注記>
- (*1) Tigershark(イタチ鮫)って名前の由来は、このノーズ形状による。多分。
注) 今回引用した画像は、ウイキペディアからの転載