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フィンランド民謡Sakkijarven Polkka サッキヤルベン・ポルカ
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フィンランドと言えば・・・
フィンランド、と聞いて、読者諸兄は如何なるイメージを持たれるだろうか?「北欧の中小国」「ムーミンの故郷」と言ったところが一般的ではなかろうか。或いは「フィンランド化」などと言う、なかなか「物騒な動詞」として覚えて居られる方もあるかも知れない。第2次大戦でドイツ=枢軸側に「荷担」したフィンランドは、戦後厳しい軍事制限を課せられ、為に「親ソ的な中立化(と言えば聞こえは良いが、事実上、無力化)」することを「フィンランド化する」などと、フィンランドにとっては甚だ不名誉な「動詞化」されてしまい、この動詞で「フィンランド」を知っている、と言う方も、中にはあるのでは無いか。
何を隠そう。私も初っ端は、そうだった。「フィンランド化する」とは「親ソ的に無力化される」と言うことであり、その意味でフィンランドのイメージは(当初は)相当に、悪かった。
そう、ソフィン戦争という、史実に触れるまで、は。
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ソフィン戦争
ソフィン戦争とは、ソ連とフィンランドの間で戦われた戦争で、第1次(1939.11.30~1940.3.12)を冬戦争、第2次(1941.6.25~1944.9.4)を継続戦争と呼ぶ。いずれも第2次大戦下に戦われた訳だが、ソフィン国境のカレリア地方へソ連が侵攻して始まったのが冬戦争。その遺恨行きがかりもあって独ソ開戦に伴って始まったのが継続戦争であり、どちらもマイナーな戦場のマイナーな戦闘なモノだから、「戦争気違い」などと言う有り難い仇名を頂戴した小学生であった私が知ったのは、高校の頃だったろう。
ソ連と言えば今でも軍事大国だが、未だ核兵器のない第2次大戦前でもその軍事力は強大で、カレリア地方に侵攻したソ連軍は百万の歩兵を擁したという。対するフィンランドは、頑張っても中程度の国。冬戦争には25万人の歩兵を投入したと言うが、戦車は50両で航空機は130機だったという「貴重品」ぶり。対するソ連軍は歩兵の数こそ「僅か4倍」だったものの、航空機3800機で約30倍。戦車に至っては6500両以上で120倍以上と言う凄まじさ(数字は何れもウィキペディアによる)。「攻者2倍の法則(攻撃する側には、守る側の2倍の兵力が必要って”通り相場”)」ナンざぁ軽く吹き飛ばす大兵力で、正に「ロシア式蒸気ローラー」戦術だ。
ところが、この「ロシア式蒸気ローラー」戦術が、フィンランド軍相手にはなかなか通用しない。冬戦争当時は「第2次大戦下」と言っても独ソすら開戦して居らず、ドイツも連合国もロクにフィンランドに肩入れしないというのに、「くず鉄」として輸入した「普通に考えれば二流戦闘機」でしかないブルスター・バッファロー戦闘機で大戦果を上げたり、フィンランドの気候と地形を利用したスキー部隊による機動包囲殲滅「モッティ」戦術を駆使したり、ソ連軍は大損害を被る割には全然前進できない。
分けても特筆大書したいのは、「白い死神」と呼ばれた伝説的狙撃兵シモ・ヘイヘの活躍だろう。元猟師で「射撃と狩猟の才がある」と言うだけでは、公式確認狙撃数500人以上、短機関銃を使っては「それ以上」って説もある、正真正銘掛け値無しの「一騎当千」ぶりは、説明できまい。「終末のワルキューレ」って漫画で「神と戦う人間代表」のトリ・締め・千秋楽を勤める(に違いない、と推定される)のも「うべなるべし」と言うべきか(*1)。
シモ・ヘイヘらフィンランド軍将兵の活躍もあって、ソ連軍は大損害を被り、フィンランドは休戦交渉で領土の一部、カレリア地方などの割譲を余儀なくされたモノの、独立を保持することが出来た。
独立を保持できたからこそ、後の独ソ開戦に乗じてカレリア地方奪還目指して第2次ソフィン戦争「継続戦争」を起こせた、のである。こちらの方は、ドイツの敗色濃くなったところで終戦交渉し、対独開戦することでやはり独立は保持した。カレリア地方は、やはり帰って来なかったが。
戦後のフィンランドは、第2次大戦に枢軸側に荷担して参戦したため、軍備を厳しく制限され、冷戦華やかなりし頃はソ連の影響下におかれながら、独立と議会制を何とか維持した。「フィンランド化」という言葉が、「親ソ的中立化=無力化」と私(ZERO)は理解していたのだが、「親ソ的ながらも共産化せずに、議会制民主主義を保持する」という意味もある、と今回初めて知った。かつての冬戦争で「カレリア地方を失いながらも、独立は保持した」様に、フィンランドは「フィンランド化」という代償を払いつつ「共産化せずに議会制民主主義を維持した」のであり、コレは・・・少なくとも一概に否定したりさげずんだりすべきモノではあるまい。
と同時に、我が国へ日本国憲法を押しつけた際の米国が、「親米的な中立化=無力化」、いわば「逆フィンランド化」を狙っていたであろう点も、想起すべきであろうな。
- <注記>
- (*1) ああ、「終末のワルキューレ」に「魔王」ハンス・ウルリッヒ・ルーデルや「黒い悪魔」エーリッヒ・ハルトマンが登場しないのは、「得物」が航空機で「ワルキューレが化けるにはデカすぎるから」だろう(確信)。
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Girls & Panzer 継続高校
時は流れて戦後も大部過ぎて、「ガールズ&パンツァー」という「ぶっ飛んだ設定のアニメ」が「一世を風靡した」のは、記憶に新しいところだろう。「戦車戦が“女子の嗜み”戦車道として普及している」という「ぶっ飛んだ設定」の世界で、主人公はじめとする女子高生らが第2次大戦戦車を駆使して「模擬戦車戦」を行っている。この模擬戦車戦で使用する戦車の国籍は、大凡「高校」毎に異なっていて、黒森峰女学園はドイツ軍戦車、サンダース大学付属高校は米軍戦車、プラウダ高校はソ連軍戦車等となっている。
その中で、「継続高校」ってちょっと(イヤ、多分、かなり)マイナーな高校はフィンランド軍戦車を使っている。とは言え「フィンランド軍の第2次大戦戦車」となると、鹵獲品や輸入品ばかりなのだが、中には「鹵獲品の戦車を改造した」戦車ってのもある。分けても異色なのが、ソ連軍から鹵獲したBT-7快速戦車の車体に英国製QF4.5インチ114mm榴弾砲を搭載したBT-42である。大口径榴弾砲搭載に当たって、砲塔を大幅改修(と言うより、殆ど砲塔全取っ替えだな)して大型化。ために「小型のKV-2」のような外観となっている。総重量15tで、BT-7譲りの結構な高速を誇るから、KV-2とは大部「毛色の違う」戦車ではあるが。
このBT-42は、継続高校戦車隊長(戦車道部部長、かなぁ?)ミカの乗車であり、「劇場版ガールズ&パンツァー」ではカール自走臼砲を護衛する3両のM26パーシング中戦車に対する陽動を引き受ける。
ガールズパンツァー https://www.youtube.com/watch?v=F1PAy4JZfrE
で、このBT-42対M26パーシング×3両の大立ち回りに於いて、戦車隊長のミカは最初から最後までフィンランドの民族楽器カンテレ(大正琴ぐらいに小型化された琴、って感じだ。)を引き続けており、その曲が(タイトルで紹介した)フィンランド民謡Sakkijarven Polkka サッキヤルベン・ポルカなのである。
フィンランド民謡ってのは、私(ZERO)はこのSakkijarven Polkka サッキヤルベン・ポルカしか知らないのだが、節回しにロシア民謡にも日本民謡にも通じる哀愁切々たるモノがあり(*1)、その渺々たる調べがBT-42対M26パーシング×3の戦闘シーンにBGMとして流れる、と言う、かなりシュールというか、インパクト大な映像&音楽となっている。
なにしろミカ戦車長指揮下のBT-42は、突撃奇襲の1発目で先ず1両を仕留め、砲撃で崩壊して落下する橋の破片を利用して2両目を仕留め、キャタピラ切断を装輪走行(「天下のクリスティー式、舐めんなよ!!」)に切り替えて乗り切り、片舷の車輪を被弾でやられるともう片方の車輪だけで片輪走行しながら、最後の1発で3両目と相打ちに持ち込む、のである。「アニメでなければ到底不可能な機動(特に、片輪走行は、なぁ・・・)」とも言えるし、コレに比肩しうるのは、恐らく「レーダーマストは着氷の重みで折れ、舷側は魚雷の誘爆に切り裂かれ、3番主砲塔は撃墜した敵機の残骸の下。2番主砲塔は砲員全滅。1番主砲塔唯一残された星弾(照明弾)を連べ打ちに射撃しながら、40kt以上の最大速度でヒッパー級重巡へ向けて突撃をかける(*2)」H.M.Sユリシーズ号、ぐらいだろう。
で、左様な激闘シーンの背景に流れるのが、哀愁切々たる弦楽器カンテレが奏でるSakkijarven Polkka サッキヤルベン・ポルカ。その調べだけでも相当に「来る」モノがあるのだが、その歌詞には、それ以上のモノがあった。
- <注記>
- (*1) 多分、「調」が同じか、近いのだろう。
- (*2) ああ、「戦闘旗を開く」のも、忘れてはいけないな。
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Sakkijarven Polkka サッキヤルベン・ポルカ
AIきりたん https://www.youtube.com/watch?v=f3lWn4G3a8g
アニメ「ガールズ&パンツァー」ではインストゥルメンタルの曲だったために判らなかったのだが、このSakkijarven Polkka サッキヤルベン・ポルカには歌詞があった。それも、その節以上に哀愁切々たる歌詞が。
> ああ、美しきカレリヤよ。今でもまた沸き上がる。
と始まるSakkijarven Polkka サッキヤルベン・ポルカの歌詞は、ソ連・ロシアに奪われたカレリヤ地方を懐かしむ、「愛国歌」なのである。
「愛国歌」って分類は、私(ZERO)が勝手に読んでいるので、一般的では無いかも知れない。我が国で言うと「戦時歌謡」にそれに近いモノがあるが、戦時に限ったモノでは無い。
他の国で言うと、映画Sound of Musicで印象的に歌われた「エーデルワイス」がコレに当たろう。日本語の歌詞だと「エーデルワイスの花が綺麗ね」で終わってしまうのだが、英語の歌詞では「Bless my homeland forever. 我が祖国に永遠の祝福あれ!」と歌い上げる。だからこそ、ナチスドイツに祖国オーストリアが併合されてしまったトラップ大佐はステージ上で言葉を詰まらせて歌えなくなり、ヒロイン・マリア(ジュディー・ガーランド)と満席の聴衆がそれを引き取って「Bless my homeland forever. 我が祖国に永遠の祝福あれ!」と大合唱するのである。
話をSakkijarven Polkka サッキヤルベン・ポルカに戻すと、この歌詞はカレリア地方の風光明媚を歌うと共に、それを歌うポルカも賛美する。まあ、ある意味、「自画自賛」ではあるが、
> 老いも若きも踊り出す。ポルカに比ぶるものは無し。
と言う歌詞に続くのは、
> 流離い人になろうとも、Sakkijarven Polkka
である。此処で言う「流離い人」が「カレリア地方を失ったフィンランド人の比喩」であることは、私(ZERO)に言わせるなら「殆ど自明」であろう。
> 其れ唯のポルカに非ずして、その思い出はかの標(しるべ)
> それ麗しきカレリアぞ。Sakkijarven Polkka
との歌詞もあり、何と言うか「ポルカの歌詞に託して、カレリア地方の呪術的奪還を試みている」などと言う、オカルト的発想まで働いてしまうのは、私(ZERO)が「言霊の幸はふ国」日本生まれの日本人だから、だろうか。
「呪術的奪還」なんてオカルト的発想は、そうかも知れない。が、この歌詞に、このポルカに、フィンランド人が込めた願い、思いは、相当に普遍的なモノであり、「人類共通」とさえ、言えそうな程、だ。
問題のカレリア地方は、未だロシア領土であるのだが。イヤ、それ故になお、か。
> Sakkijarviは奪われたるも、残されたるぞ、ポルカ。
推定するに易かろうが、タイトルのSakkijarven Polkkaとは、「Sakkijarviのポルカ」という意味であり、Sakkijarviとはカレリア地方の都市である。そう、「奪われたる、麗しきカレリア地方」の一部、だ。
下掲するは、Sakkijarven Polkkaの和訳歌詞である。私(ZERO)はフィンランド語は全く読めないので、和訳はChaChaMARUさんによる。
私(ZERO)は、私自身に自問せざるを得ない。我が国は大東亜戦争で北方四島をロシアに奪われ、その後のどさくさで竹島を韓国に奪われている。が、このサッキヤルネン・ポルカSakkijarven Polkkaに匹敵比肩する程の郷愁と痛みと痛憤を、果たして抱いているか、と。
匹敵比肩する程の豪州と痛みと痛憤を抱いていないのならば、それで、良いのか、と。
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サッキヤルネン・ポルカSakkijarven Polkka フィンランド民謡
- 翻訳 ChaChaMARU
ああ、美しきカレリヤよ。今でもまた沸き上がる
さあ心から爪弾けよ Sakkijarven Polkka
ポルカで昔を思い出す。不思議な思い出胸を刺す。
さあアコーディオンを奏でたれ。Sakkijarven Polkka
老いも若きも踊り出す。ポルカに比ぶるものは無し。
流離い人になろうとも、Sakkijarven Polkka
漣(さざなみ)ぞ湖に、松の梢とどよめきて
聞こえんカレリアの息吹 Sakkijarven Polkka
さあさあ乙女よ、私と踊ろう。鮮麗なるポルカの音。
馬は悲しく歯噛みたがる。頭ばっかりデカいから。
さあさあ乙女よ、私と踊ろう。歓喜で短夜満たそうぞ。
Sakkijarviは奪われたるも、残されたるぞ、ポルカ。
さあさあ乙女よ、私と踊ろう。鮮麗なるポルカの音。
馬は悲しく歯噛みたがる。頭ばっかりデカいから。
さあさあ乙女よ、私と踊ろう。歓喜で短夜満たそうぞ。
Sakkijarviは奪われたるも、残されたるぞ、ポルカ。
2番
懐かしきあの岸辺。流離い人も慰むる。
侘しき旋律聞こえたもうSakkijarven Polkka
其れ唯のポルカに非ずして、その思い出はかの標(しるべ)
それ麗しきカレリアぞ。Sakkijarven Polkka
老いも若きも踊り出す。ポルカに比ぶるモノは無し。
流離い人になろうとも、Sakkijarven Polkka
漣(さざなみ)ぞ湖に、松の梢とどよめきて
聞こえんカレリアの息吹 Sakkijarven Polkka
さあさあ乙女よ、私と踊ろう。鮮麗なるポルカの音。
馬は悲しく歯噛みたがる。頭ばっかりデカいから。
さあさあ乙女よ、私と踊ろう。歓喜で短夜満たそうぞ。
Sakkijarviは奪われたるも、残されたるぞ、ポルカ。
さあさあ乙女よ、私と踊ろう。鮮麗なるポルカの音。
馬は悲しく歯噛みたがる。頭ばっかりデカいから。
さあさあ乙女よ、私と踊ろう。歓喜で短夜満たそうぞ。
Sakkijarviは奪われたるも、残されたるぞ、ポルカ。
3番
懐かしきあの岸辺。流離い人も慰むる。
侘しき旋律聞こえたもうSakkijarven Polkka
其れ唯のポルカに非ずして、その思い出はかの標(しるべ)
それ麗しきカレリアぞ。Sakkijarven Polkka