冷静な見方、ではあるが、結論には同意しかねる-【JBプレス】抗議殺到の定年延長法案がそれでも成立に向かう理由 +1
①【JBプレス】抗議殺到の定年延長法案がそれでも成立に向かう理由
抗議殺到の定年延長法案がそれでも成立に向かう理由2020年5月12日 14時0分 JBpress5月11日、参議院予算委員会での安倍晋三首相(写真:つのだよしお/アフロ)
(政策コンサルタント:原 英史)5月9日深夜から10日朝にかけて、ハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」がtwitter上で広がった。著名な芸能人らも参戦し、一時は500万ツイートにも達したという。その後、なぜか大量のツイートが削除されたらしいが、不可思議な出来事だった。
経過はともかく、広まった内容はフェイクニュースの類だ。「安倍内閣が、政権に近い黒川弘務氏を検事総長につけるため、改正案を成立させようとしている」といった話は、完全に間違い。「黒川氏の定年延長」と「検察庁法改正案(定年延長の法改正案)」とは別の話だ。
黒川氏の定年延長はすでに決定されてしまっている論点の整理は、別稿『「#検察庁法改正案に抗議します」にも法案にも、反対する』に書いたが、ポイントだけかいつまんで記しておく。1、「黒川氏の定年延長」は、現行制度のもとで、今年1月に閣議決定済み。国家公務員法の特例延長の規定を検察官に適用したのが妥当だったかは疑いあるが(私は違法だと思うが)、ともかく決定されてしまった話だ。2、一方、「定年延長法案」は、以下の内容だ。
- ・・公務員一般は60→65歳(国家公務員法改正)
- ・検察官は63→65歳、定年の特例延長の規定追加(検察庁法改正)
- これは10年以上前からの懸案課題であり、人生100年時代に向けた働き方改革の流れで法案提出されていた。
3、「#検察庁法改正案に抗議します」の抗議の多くは、両者をごちゃまぜにした的外れなものだ。また、「検察官を官邸に従属させることになる」との批判もある。これは大事な点だが、定年延長の問題ではない。そもそも検察庁法上、検察官の任命権は内閣または法務大臣にある(ランクにより異なる)。もしこの点を議論をするなら、定年延長への反対ではなく、検察官の人事権のあり方を論ずべきだ。4、他方で、この法案を成立させるべきかといえば、私は全く賛成しない。今国会で成立させるべき緊急性があると思えない。また、本来は、公務員の定年延長より、能力実績主義の徹底が先だ。年功序列のまま定年延長すれば、能力実績の伴わない公務員も60歳以降に給与保障することになりかねない。コロナで多くの人が仕事を失う中、国会で優先すべき法案ではない。そのうえで、今後の見通しを展望したい。これだけの批判が高まり、法案成立はもはや風前の灯火なのだろうか? 結論からいうと、そんなことはない。定年延長法案は成立に向かう。野党のほうが熱心な公務員の定年延長なぜかというと、立憲民主党など野党も、本音ではこの法案を通したいからだ。事情を知らない人にはわかりづらいかもしれないが、誰が公務員の定年延長を長年求めてきたのかを考えたらいい。公務員の労組、いうなれば野党が最も頼りにする支持基盤だ。つまり、この法案は実は、少なくとも国家公務員法改正(公務員一般の定年延長)に関しては、与党以上に、野党にとって何としても成立させたい法案なのだ。国会質疑などをみても、これはすでに垣間見える。
- ・5月11日の衆議院予算委員会で枝野幸男議員は、「火事場泥棒」と厳しく首相に詰め寄りつつも、「国家公務員法改正には大筋賛成」と表明。
- ・同日の参議院予算委員会で福山哲郎議員は、検察庁法改正案の部分を削除する修正に言及。
- ・その後、野党側は「検察官の特例延長の規定を削除」する修正案を提出したと報じられる。
いずれもポイントは、国家公務員法改正はそのまま成立させることだ。野党は、政権にダメージは与えつつ、果実は得られる。上記をみて、「立憲民主党は反対しながらも、部分修正で収めてあげようとしている。心が広い」などと思っている人がいたら、勘違いだ。
Twitterの抗議、与野党に上手く利用されている可能性この構図を理解したうえで、「#検察庁法改正案に抗議します」を振り返ると興味深い。
- ・「黒川氏の定年延長」とごちゃまぜにすることで、野党は政権を有効に攻撃。
- ・検察官の問題だけを争点にして、本来ならば想定される「こんなときに公務員優遇」との批判は回避。
- ・一方、政権支持層は、「抗議」の反作用で、法案成立を強く支持に誘導される。
国家公務員法改正の成立に向けて、もはや何の障害もない。結果からみる限り、巧妙な情報工作がなされたように感じるのは、私の考えすぎだろうか。いずれにしても、「#検察庁法改正案に抗議します」に反発した保守・政権支持層の人たちが一斉に「抗議は筋違い、公務員の定年延長は正しい」と唱えたのは、野党にとっては本当に有難かったはずだ。コロナで多くの人が仕事を失う中、空騒ぎの陰では与野党が手を携え、公務員の65歳まで給与保障に注力する。飛んだ茶番劇だ。筆者:原 英史
下掲は、同じ原英史氏による先行記事
②【アゴラ】「#検察庁法改正に抗議します」にも法案にも、反対する
http://agora-web.jp/archives/2045969.html「#検察庁法改正案に抗議します」にも法案にも、反対する
2020年05月11日 06:02
原 英史ハッシュタグ「#検察庁法改正案に抗議します」がtwitter上で広がっている。経緯はよくわからないが、「法律を捻じ曲げるな」「三権分立はどこへいった」といった話になっているようだ。これは、「黒川弘務氏の定年延長」と「定年延長の法改正案」(法案審議中)をごちゃまぜにした、フェイクニュースの類だと思う。
「どこまで国民をばかにする」検察官定年延長法案に抗議ツイート250万超(毎日新聞)
「三権分立どこいった?」と批判続出。#検察庁法改正案に抗議がTwitterでトレンド入り。黒川弘務氏の定年延長に(ハフポスト)二つの問題は別である。前提として、そもそも現行制度は以下のとおり。
国家公務員法: 国家公務員一般の定年は60歳。ただし、定年の特例延長の規定(一年延長できる)がある。検察庁法: 検察官の定年は63歳(検事総長は65歳)。
黒川氏の定年延長は、現行制度のもとで今年1月に決定された。「検察庁法に特例延長の規定はないが、一般法たる国家公務員法を適用できる」というのが政府のロジック。これに対し、「脱法行為でないか」「黒川氏を残したい政権の政治的なごり押しではないか」など、国会でもメディアでも論争になった。私は、これは法解釈の余地を超えており、違法な決定だったと考えている。一方、法案審議されている定年延長法案は、これとは別問題だ。検察官だけでなく、国家公務員全般も含むもので、以下の内容だ。国家公務員法改正: 国家公務員一般の定年を65歳に。検察庁法改正: 検察官の定年を65歳に。特例延長の規定も追加。これは、黒川氏の人事とは関係ない。十年以上前に私が政府内で公務員制度改革に関わっていた頃から課題になっていた話だ。その後、人生百年時代に向けて民間にも高齢者雇用を求める中、法案が検討され国会提出されていた。当たり前だが、法改正案だから、「法律を捻じ曲げる」と批判すべき話ではない。
特例延長の規定追加に対して、野党から「検察官を官邸に従属させることになる」との批判もある。たしかに、検察は政権の疑惑をも追及すべき立場だから、独立性が極めて重要。政権の顔色をうかがうようなことになってはいけない。問題意識はわからないではないが、これは定年延長の問題ではない。そもそも、検察庁法上、検事総長や検事長(高等検察庁のトップ)の任命権は内閣、一般の検事の任命権は法務大臣にある。実際には検察内部で作った人事案を政府は追認するのが通例で、建前と実態を使い分けつつ、微妙な均衡のもと独立性を保ってきた。
もし野党が、この危うさを改めるべきと考えるならば、むしろ任命権の規定改正(例えば、内閣は個別人事に口を出せないと明確に定めるなど)を提案すべきだ。
以上から、「#検察庁法改正案に抗議します」の多くは、筋違いな抗議だと思う。他方で、この法案を成立させるべきかといえば、全く賛成しない。第一に、今国会で成立させるべき緊急性があるとは思えない。第二に、公務員の定年を延長するならば、能力実績主義の徹底が先だ。公務員に関しては長年、年功序列からの脱却が課題だったが、今なお根強く残ったままだ。この状態で定年を延長すれば、能力実績の伴わない人もそのまま65歳まで給与をもらい続けるだけになりかねない。今、多くの人たちが仕事を失い、さらに失いつつある危機の中で、こんな法案を成立させようとしている政府・与党の人たちの精神構造は私には理解できない。
論点整理までは、悪くないんだがね。結論には全く同意出来ないな。
上掲②の最後のパラグラフを要約するならば、「武漢肺炎禍で多くの国民が失業の危機にあるというのに、公務員の定年延長とはケシカラン!」で、あろう。平たく言えば「公務員という、安定した地位に対する嫉妬」である。
だが、日本の社会が長命化と共に高齢化しているのは事実であり、これは今般の武漢肺炎禍でも(今の所は)大した影響を受けていない。公務員に限らず、現職業人の定年延長は、喫緊の課題であろう。政府が直轄する公務員の定年延長を進めるのは、当たり前であり、「不要不急では無い!」などと切って捨てる方が、どうかしている。そりゃ「武漢肺炎禍対策」以上の「必要緊急」とは言えまいが、それを言うならば「武漢肺炎禍対策」以外の法律や行政は「全面的に止めろ」という暴論に近い(*1)。
なるほど、民間人の職業は、公務員程には安定していない。武漢肺炎禍で失業の危機に瀕する者もあるだろう。ではあるが、左様な事態に「公務員の定年延長を阻止する」事で、どれほどのメリット・利点があろうか。別にそれで民間人の失業率が下がる訳では無い(*2)。嫉視から来る溜飲が下がる、程度の効果であろう。
民間には民間で、別途定年延長などの高齢化対策は必要ではあろうまたそれらの対策が、武漢肺炎禍によって更に難しくなった、と言うぶぶんもありそうではある。だが、それらは、「先行して公務員の定年を延長する事」を阻止ないし阻害する理由とはなるまい。
公務員の「足を引っ張って」も、別に民間人が「浮き上がる」訳では無い。ますます「高齢化が進み、問題となる」だけだろう。
高齢化社会に、官民の隔ては無い。その対策は、官民共に必要だ。而して、今般の公務員定年延長の少なくとも一面は、高齢化社会対策である。違うのかね?
上掲記事では「公務員定年延長反対の根拠」として、「公務員が実力主義では無く、定年延長で無能な公務員が長く居る事になる。」ってのをあげているんだが、これも幾つも疑義を呈せざるを得ない。
なるほど公務員には、「売り上げ」とか「獲得契約数」とかの、民間の職業には良くある競争指標が余りなさそうだから、「公務員は実力主義では無い」という非難批判は相応に成立しそうではある。「だから公務員を実力主義にしろ!」ってのは、相応に説得力のありそうな主張だ。
公務員の「足を引っ張って」も、別に民間人が「浮き上がる」訳では無い。ますます「高齢化が進み、問題となる」だけだろう。
高齢化社会に、官民の隔ては無い。その対策は、官民共に必要だ。而して、今般の公務員定年延長の少なくとも一面は、高齢化社会対策である。違うのかね?
上掲記事では「公務員定年延長反対の根拠」として、「公務員が実力主義では無く、定年延長で無能な公務員が長く居る事になる。」ってのをあげているんだが、これも幾つも疑義を呈せざるを得ない。
なるほど公務員には、「売り上げ」とか「獲得契約数」とかの、民間の職業には良くある競争指標が余りなさそうだから、「公務員は実力主義では無い」という非難批判は相応に成立しそうではある。「だから公務員を実力主義にしろ!」ってのは、相応に説得力のありそうな主張だ。
だが、頭ぁ冷やして考えてみるが良い。公務員ってのは、平たく言って国や地方自治体の「役人」であり、「役人としての勤めを果たす」べき存在だ。その「役人としての勤め」に、現在(と、恐らくは殆ど見通せる過去に渡って)「十分な競争指標が組み込まれていない」が故に「実力主義では無い」のである。
「十分な競争指標を組み込んだ、実力主義の公務員」による、ある種「理想的な官僚体制」なんてモノが(仮にあって、実現出来るとして(*3))、一体何年かけるつもりなんだぁ?そんなモノが実現する前に、高齢化社会の方が、先行して問題になりそうだ。
「実力主義の公務員」に速やかな実現の目処が難しいならば、先行して「公務員の定年延長」というのは、「十分ありうる選択肢」と、私(ZERO)は考える・・・と言うよりは、ブッチャケ「実力主義の公務員」ってのが、「核兵器の無い世界」や「平和を愛する諸国民」よりはなんぼかマシかも知れないが、「絵空事」と思えて、仕方が無いんだよな。
それ故に、上掲二本の記事を書いた原英史氏の現状分析には相当に共感賛同しつつも、その結論(の一部)には、私(ZERO)は全く同意出来ないのである。
原英史氏の「実力主義の公務員」論を、探して読む、べきなのかも知れないがね。
- <注記>
- (*1) まあ、左様な暴論を公言出来てしまう輩も、数多居るようではあるが。
- (*2)< 公務員の定年が延長されない事により、新たな雇用が生み出される、可能性はあるが・・・微々たるモノとしか思えないぞ。
- (*3) これについて上掲記事を書いた原英史氏が既に大いに考察し、記事や本や論文を既に書いている、可能性はあり、それを私(ZERO)が知らないだけ、と言う可能性も大いにあるが。