高校生でもわかる、「全員ウイルス検査は、愚挙である。」ー武漢肺炎(新型コロナウイルス)感染騒動における、定量的検討の重要性
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はじめに告白しておくべきだろう。私(ZERO)は、理系ではあるが、機械工学系の人間であり、生物は大学受験科目にもしていない。従って「正しく陽性判定する確率を、感度(sensitivity)と言う。」とか、「正しく陰性判定する確率を、特異度(specificity)と言う。」とかも、今般の武漢肺炎(新型コロナウイルス)感染騒ぎで「初めて知った」程度であり、医学、薬学、病理学、艦船学、もとい、感染学等については「素人」と評するほか無いだろう。
だが、昨今の武漢肺炎(新型コロナウイルス)感染状況を受けて、パニックに陥ったんだか頭に血が上ったんだか知らないが、到底正気とは思えない様な、「全員をPRC検査(ウイルス検査)しろ!」とか「希望者全員をPRC検査(ウイルス検査)受けられる態勢を作れ!!」等の主張が(まあ、WHO事務総長からして、あの体たらくな訳だが・・・)、「日本のPRC検査件数は少ない!増やせ!!!」って主張共々、それらしい肩書きをお持ちの御仁(*1)を含めて、随分と散見される。(無論、冷静な意見も無くはないのだが、どうも劣勢の様だ。)
で、だ。私(ZERO)の様な「理系ではあるが、医学、薬学、病理学、感染学の素人」でも「全員ウイルス検査は、愚挙である。」事は理解できるから、そいつを「解説」しようってのが、本記事だ。無論、タイトルにある通りカギは「定量的検討」だ。
最初に断っておくが、「定量的検討」ったって、仮定仮想の数字を使えば「現実離れ」させることは簡単だし、現実の数字が正確に入手できるとも限らない。それでも「ありそうな数字」を仮置きしたり、パラメータに振るなどすれば、「定量的検討により、冷静に取り扱える」って事を、示そう、ってのが本記事だ。「高校生でもわかる」などと、我ながら思わせぶりな修飾語をタイトルに点けたのだから、さほど難しい話はしないし、せずとも済む、筈だ。
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<注記>
- (*1) タレントだとか、作家だとか、スポーツ選手だとか、タダの「評論家」だとか、正体不明の「コメンテーター」とかの「肩書きからして素人」は「論外」としても。
追記 当たり前だが、本職の医師ならば、やはり下記のようなことは、「常識」らしい。
https://www.youtube.com/watch?v=cmI_6UGHXRI
だとすると、テレビやら週刊誌やら新聞やらで「PCR検査をやれ!」って主張する、理系の人間とか、医師とかは、一体何を考えているんだろうね。我が国医療体制の崩壊かな。
(1)検査には、誤判定が付きものである。
章題にした「検査には、誤判定が付きものである。」は、いわば常識だ。今回の場合ウイルス検査が主題であるから、検査の結果は「武漢肺炎(新型コロナ)ウイルスに感染している:陽性」か「感染していない:陰性」の二択だが、検査するのも判定を下すのも、基本的には人だ。神ならぬ身の人がなす事に、完全完璧なぞ先ず無いし、検査法だって「指定された手順に従えば誤判定は起こらない」なんてモノでは無い。武漢肺炎(新型コロナウイルス)検査法として脚光を浴びるPRC法の精度は「7割」なんて説もあるから「エラー率3割」ともなると「完全完璧からは程遠い」と言うべきだろう。
また、左様であればこそ、「正しく(感染者を)陽性判定する確率」を「感度」と言い、「正しく(未感染者を)陰性判定する確率」を「特異度」と言う、「特別な言葉がある」のである。尚且つ、普通は検査法とは「高い感度」を求められはするが「特異度については、感度程高いことは求められない」のであり、「感度は9割以上だが、特異度は7割程度」なんて事例も在るそうだ。この場合、「1割以下の感染者を誤って陰性判定してしまい、3割程度の未感染者を誤って陽性判定してしまう」検査、と言うことになる。
(2)定量的検討その1 定式化
以上を踏まえて、定式化してみよう。
- 感染者を、正しく陽性判定する確率(感度) : P1
- 未感染者を、正しく陰性判定する確率(特異度) : P2
であるならば、逆の事象の確率も当然表せて、
- 感染者を、誤って陰性判定する(偽陰性)確率 : 1-P1
- 未感染者を、誤って陽性判定する(擬陽性)確率 : 1-P2
「陰性とも陽性とも判定できない」と言うことは「無い」とした、簡易なモデルではあるが、こんな検査を、以下の対象に実施したとしよう
- 検査対象数 : N
- 感染率 : P0
斯様な検査対象の内訳は、以下の様になる。
- 感染者数 : N・P0
- 未感染者数 : N・(1-P0)
で、検査結果はどうなるか、と言うと「陽性判定者数」は「感染者を、正しく陽性判定した人数」プラス「未感染者を、誤って陽性判定した(擬陽性)人数」となるから、
- 陽性判定者数 : N・P0・P1 + N・(1-P0)・(1-P2)
- この内、擬陽性者数 : N・(1-P0)・(1-P2)
同様に、「陰性判定者数」は「未感染者を、正しく陰性判定した人数」プラス「感染者を、誤って陰性判定した(偽陰性)人数」だから、
- 陰性判定者数 : N・(1-P0)・P2 + N・P0・(1-P1)
- この内、偽陰性者数 : N・P0・(1-P1)
この定式化までならば、中学生レベルで、いけるだろう。まあ、チョイと出来の良い中学生でないと無理かも知れないが、相応に定量的検討の出来る思考法を身につけていれば、造作も無いこと。必要なのは基本的な確率論と、代数論ぐらいだ。
(3)定量的検討その2 モデルによる検討の一例
以上の通り定式化できたが、これだけでは具体的なイメージはつかみにくい。そこで、具体的なモデルで考えてみよう。
これも一例ずつ考え、計算するだけなら中学生レベル。本記事タイトルを「高校生でもわかる」としたのは、その計算をエクセルの様な表計算ソフトにやらせ、グラフ化しているから。斯様な表計算の使い方は「高校生レベル」と判定したから、である。が、人によっては中学生、ひょっとすると小学生でも、出来る話かも知れない。
検査対象数Nを、切りの良さそうなところで10万人としてみた。日本の人口1億として、その千分の1。一寸した都市丸ごととか、大都市で希望者を募れば行きそうな人数だろう。
感染率は、これも切りの良さそうなところで1%とおいた。現在の日本の状況より遙かに高そうな(全人口1億人とすると、感染者数百万人だ。)数字だが、切りの良さで設定した。
「感染者を、正しく陽性判定する確率(感度)」P1と「未感染者を、正しく陰性判定する確率(特異度)」P2は、パラメータだ。理想的にはどちらも1=100%で、これは表の左端に示した。こんな「理想的検査」ならば、ドンドンやれば良いので、擬陽性も偽陰性も発生せず、確実に感染者だけ炙り出せる。陰性判定者を全員隔離しても、この例ならば全員が感染者なのだから、人数も10万人の1%である千人。少ない数とは言えないが、必要な隔離対象だ。
だが、実際の検査にはエラーが付きものだ。感度P1も特異度P2も共に98%と理想に近い「準理想的検査」でも、何しろ感染率P0が1%で、検査を受ける圧倒的多数は未感染者だから、陽性判定者数2960人のうち、擬陽性なのが1980人だ。10万人を検査した結果判明した2960人の陽性者に対し、相応の措置が執れる態勢であったとしても、そのうち擬陽性1960人に対しては、「無駄に対応している」事になる。
「全員ウイルス検査」だとか「希望者全員ウイルスイ検査」なぁんて愚行を強行したら、起こるのは準理想的検査であっても、こんな状況だ。
グラフにしたのは、感度は98%と準理想的なまま、特異度が現実的な数字だったら、どうなるか、と言うモノだ。横軸が特異度で、実線が陽性判定者、破線がそのうちの擬陽性者数だが、先述の理由により「陽性判定者の殆どが擬陽性者」のまま、特異度が下がる程、擬陽性者数が増えて、陽性判定者が増える。当たり前だな。
特異度が70%ともなると、3割の未感染者が、誤って陽性判定されてしまうのだから、10万人検査して、3万680人が陽性判定され、そのうち2万9700人が擬陽性と言うのが、グラフと表で示されている。
3500人の客船・ダイヤモンドプリンセスの乗員乗客を、陸上へ隔離できなかった我が国で、3万人以上の陽性判定者を、どう措置できると言うのか。これこそ「医療崩壊必至を示す数字」と言え、尚且つ、その医療崩壊を引き起こしているのは、圧倒的に擬陽性者、と言うことになる。
3500人の客船・ダイヤモンドプリンセスの乗員乗客を、陸上へ隔離できなかった我が国で、3万人以上の陽性判定者を、どう措置できると言うのか。これこそ「医療崩壊必至を示す数字」と言え、尚且つ、その医療崩壊を引き起こしているのは、圧倒的に擬陽性者、と言うことになる。
言い換えれば、「特異度の低い検査を多数実施すれば、感染者では無く、未感染者を誤って陽性判定してしまうが故に、医療崩壊を惹起する。」それを数値化したのが表であり、視覚化したのがグラフである。
擬陽性の者も含めて対処できる態勢や検査対象数であれば、「全員検査」も「希望者全員検査」も良かろう。或いは、擬陽性を減らすために「検査対象の感染率を上げる」平たく言えば「感染の可能性の高い者に検査対象を絞る(*1)」事である。これは「検査対象数を減らす」効果もあるから、一石二鳥と言えよう。
擬陽性の者も含めて対処できる態勢や検査対象数であれば、「全員検査」も「希望者全員検査」も良かろう。或いは、擬陽性を減らすために「検査対象の感染率を上げる」平たく言えば「感染の可能性の高い者に検査対象を絞る(*1)」事である。これは「検査対象数を減らす」効果もあるから、一石二鳥と言えよう。
表の右端は、感度P1を90%とし、特異度P2を70%とした場合だが、感染率P0が1%と低いため、状況は感度P1:98%・特異度P2;70%と殆ど変わらない。感度P1が下がったことにより、感染者の内100人が陰性判定となり、「無罪放免」されてしまうのが、最大の差違だろう。
以上の検討は全て「検査対象数N 10万人 その感染率P0 1%」としての話。「日本人全員検査」となれば、人口一億人として、大凡上記の千倍の話、となる。先ほどの一例は「擬陽性者三千万人」ってことになる。準理想的検査でも「擬陽性者三百万人」だ。
「全員ウイルス検査!」「希望者全員ウイルス検査!!」、愚行で無ければ、暴挙であろう。
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<注記>
- (*1) 「検査対象内で感染させて、感染率を上げる」のも、「擬陽性を減らす」意味では効果があるが、無論そんなことは、防疫上本末転倒だ。