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 アーサー・C・クラーク作「楽園の泉」は、軌道エレベーターの建設を舞台背景とした傑作SF小説である。

 どれぐらい傑作かと言うと、学生時代に読んだきりで社会人になってからは再読した覚えがないのに、そのオープニング「カーリ・ダーサの戦い」とラストシーン「カーリ・ダーサの勝利」は鮮明な(空想上の)画像として想起できてしまえるぐらいだ。言っておくが、私(ZERO)が読んだのは文庫本で、挿絵も無し。画像と言えば表紙ぐらいで、上記のオープニングとラストシーンは私(ZERO)の「脳内画像」だ。

 つまりは私(ZERO)にとって「それほどに傑作であった」と言う事であるが、再三繰り返す通り「芸術の価値は受け手が決定し、受け手しか決定できない」のであるから、「私(ZERO)にとって傑作」であれば、私(ZERO)にとっては充分だ。

 そんな傑作SF小説「楽園の泉」を想起したのは…そう、「軌道エレベータ―」実現の可能性が、示されたから、である。

  では、あるが・・・

宇宙から地上に向けて「吊り下げるビル」。もはや高層とか、そんなレベルじゃない。
宇宙から地上に向けて「吊り下げるビル」。もはや高層とか、そんなレベルじゃない。



TABI LABO のロゴ TABI LABO TABI LABO 池田明季哉

【1】 エッフェル塔、エンパイア・ステート・ビルディング、ブルジュ・ハリファ...人類はその文明を誇るため、より高い建築物を作り上げてきました。

【2】「Clouds Architecture Office」が進める仮想プロジェクトも、そんな高層建築物のひとつ。

【3】 ただひとつ違うのは「地上から空中」ではなく、「宇宙から地上」に向けて吊り下げる、ということ。宇宙から吊り下げるビル!?c TABI LABO 提供

【4】 この斬新な建築物の名前は「Analemma Tower」。空中から地上に伸びるその外見は、もはや高いとか長いの議論ではない、圧倒的なインパクト。

【5】 全長はなんと32,000m。世界一高い建築物であるブルジュ・ハリファが828mなので、桁が違うどころではありません。

【6】 一体どこに建てるの?というのはもっともな疑問ですが、地球上の軌道にある小惑星にビルを建て、地球までつり下げるという設計なのだそうです。

【7】 地上に場所を取らないためタワーはどこにでも建ることができ、さらに軌道に乗って北半球と南半球の間を毎日移動することができるのだとか…。

【8】  移動するタワーは、超強度ケーブルを介して地上のビルと接続可能。

【9】 ビルは移動していきますが、たとえば「ニューヨークでは速度が最も遅くなるように設定する」など、軌道をコントロールすることもシミュレーションしているとか。

【10】 小惑星を操作して

【11】 軌道上に再配置する(*1)c TABI LABO 提供 c TABI LABO 提供

【12】 そんな都合のいい小惑星あるの?と思ってしまいますが、実際NASAにも小惑星再配置の計画があり、そこからインスパイアされたもの。

【13】 また、欧州宇宙機関(ESA)のロゼッタミッション(彗星に上陸し、宇宙の物質と相互作用が可能であることを証明)を参考に、「小惑星探査任務」を2021年に予定しているとのこと。

【14】 タワーを通して宇宙と地上を行き来するc TABI LABO 提供

【15】 このビルの構想に携わるRudakevychさんによると、タワーの最先端の電磁気エレベーターとともに、人々がタワーと地表の間を行き来できる「大型旅客ドローン」も計画しているそうです。

【16】 SFでたびたび目にしてきた宇宙エレベーターですが、少しイメージが違うけど、実際はこの「Analemma Tower」のような形で、私たちの目の前に誕生するのかもしれません。

Licensed material used with permission by Clouds Architecture Office

<注記>

(*1) この時点で、それは「小惑星」ではなく、ある種の「人工衛星」である。 

ならば、何故君たちは此の軌道エレベーターを、「カーリ・ダーサの塔」と呼ぶのかね?


 小惑星だろうが何だろうが、地球の衛星軌道に捉えたならばその時点で「ある種の人工衛星」だろうって突っ込みは本文にも入れたが…その「ある種の人工衛星」が、赤道上空静止衛星軌道(*1)に乗っているのでない限り「地球表面に対して動いている」のは理の当然だが(*2)、
 
1〉 たとえば「ニューヨークでは速度が最も遅くなるように設定する」など、
2〉軌道をコントロールすることもシミュレーションしているとか。

ってのは、どうも怪しい。「ニューヨークでは速度が最も遅くなる」と言う事は、当該ビルを「吊り下げている小惑星」を含む全質量の重心が「地球中心から遠ざかる」必要がある。でないと「遅い速度での衛星軌道が安定しない」(*3)。地面に支えられている訳でもない空中でこれを実現するには「ロケット推力で持ち上げる」必要があり(*4)、そうなると「速度を遅くする」にも「速くする(*5)」にも「ロケット燃料が必要」と言う事になる。

 第一いくら高層ビルが立ち並ぶとは言え所詮標高が低い「ニューヨーク」を当該「軌道エレベーター」が横切るぐらいなら未だしも、島や大陸、さらには山脈を横切るとなると、陸地や樹木、建物との衝突を回避するために、当該ビルを㎞オーダーで伸縮させるか、またぞろ「ロケット推力で持ち上げる」必要が出て来る。

 即ち、「軌道エレベーターのくせに、地面との衝突を避けるためにロケット燃料が常に必要」で、「ロケット燃料が尽きたら、地面との衝突は不可避」って事になりかねない。

 それは、このビルの構想に携わるRudakevychさんとやらよりも、数十年前(*6)のアーサー・C・クラークの方が「良く軌道エレベーターを研究していた」って事にもなりかねないぞ。

 或いは、ハナッから詐欺か。
 「火星の土地」よりは、まだ現実味も、利用価値も、ありそうだからね。

<注記>

(*1) アーサー・C・クラークに因んだ「クラーク数」で1.0って奴だな。 

(*2) なればこそ、クラークは「楽園の泉」でセイロン島を縦に引き伸ばした上に赤道直下まで「南下」させ、「軌道エレベーターの入り口」にしている。
 つまり、「楽園の泉」の軌道エレベーターは、赤道上空静止衛星軌道を、利用していた。 

(*3) 更には、角運動量の調整も必要になる可能性もあるが・・・ 

(*4) 「空力操舵で持ち上げる」方法も一応あるが、この長大な構造物を「下端付近から押し上げる」必要があり、強度的に困難だ。
 「上端付近のロケットで吊り上げる」方法しか、無さそうに思う。 

(*5) 今度は重心位置を下げる、ために。 

(*6) 1979年の作品、らしい。戦前からのSF作家だからねぇ。 

<PS>詐欺または法螺、確定

 楕円軌道にして24時間ないし24時間の倍数周期で「長径付近でニューヨーク上空に来る様に軌道設定」すれば、「ニューヨークでは速度が最も遅くなる」様にできる。この場合は「速度を遅くする」為にロケット燃料を使う必要もない。 

 但し、「ニューヨークに対し地球の反対側でも(*1)速度が遅くなる」のは未だしも、「楕円軌道の長径でニューヨーク上空に達する」ほどの当該ビルが、「楕円軌道短径でも地面と接触しない」ぐらいに「短くなる」必要がある。
 どうやるんだろう。望遠鏡みたいにスライドするのかな。

 因みに静止衛星軌道は「赤道上空約32000㎞」であり、この「高さ」だと「24時間周期」になる。地球の赤道半径は約6400㎞だから、「静止衛星軌道は地球中心から約38000㎞」となる。

 これに対し当該ビルは、上掲記事によると「全長はなんと32,000m(*2)。」だそうだから、32㎞。地面とのクリアランスを10㎞とったとしても、その軌道半径は大凡赤道半径に過ぎない。従って静止軌道に対しては、(6400+32+10)/38000 = 1/5.899 約1/6だな。

 衛星軌道では「遠心力(*3)」と重力が釣り合う事から角速度は衛星軌道半径のマイナス1.5乗に比例する。ってことは、軌道が1/5.899だと、角速度は約14倍。1.68時間=1時間半一寸で軌道一周していないとならない。
 って事は、当該ビルの海面上高度での速度は、2×π×6400㎞÷1.68時間 = 時速23635㎞と言う、凄まじい速度で「走っている」ことになる。音速を0.3㎞/s(*4)とするとマッハ数にして約22の極超音速。

 で、

3>  移動するタワーは、超強度ケーブルを介して地上のビルと接続可能。

…うん、詐欺または法螺である事は間違いなさそうだな。
 法螺にしたって。「クラーク以前」とも言うべき、駄法螺だがな。


<注記>

(*1) 厳密には、地球の自転があるので”調度反対側”ではないが 

(*2) 伸びている時だろうか? 縮んでいる時だろうか??或いは・・・伸縮しないのだろうか??? 

(*3) これは、仮想の力ではあるが 

(*4) 音速は、絶対温度の平方根に比例するので、標準大気でも高度によって異なる。 

PS2 誤報または誤記の可能性

> 全長はなんと32,000m。」

 ってのが誤記または誤報で、3桁間違えていて、「正しくは、全長32000km」とすると、いくらか辻褄が合ってくる.上記の通り、地上32000kmの高さに静止衛星軌道はあるから、「赤道上空32000kmの静止衛星軌道に当該小惑星を据えれば、正しく「楽園の泉」の軌道エレベーターだ。

 だが、この場合も障害物や軌道の高低=速度の高低の合わせた「当該ビルの伸縮」は、まず不可避だぞ。