先行する小説「新・次の一戦ー21世紀の日中戦争 http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/37955662.html
http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/37955670.html
http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/37955687.html
http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/37956085.html 」にて、私(Zero)は、中国共産党政権の日本侵攻作戦を描写し、「都合の良い結末」=我が国の防衛成功=日本勝利を描きつつも、そうは成らない「不都合な結末」=中国共産党政権による日本占領も描いた。今回の小説「次の次の一戦」は、後者・「不都合な結末」・中国共産党政権による日本占領後を描こうと考えている。
敗戦占領下の日本
大東亜戦争の敗北と、主としてアメリカ軍による占領=進駐は、大日本帝国陸海軍の見事なまでの武装解除と相まって、世界史上にも希に見るほど流血が少ない、ある種「理想的な」占領体制であった。その「理想」の中に、大日本帝国の牙も骨も抜こうという「日本国憲法」の強制や、種々のプロパガンダを含んでいるのだが(*1)、流血の少なさは、やはり特筆大書できるし、評価すべきだろう。
だが、それは逆に、先の大東亜戦争以外の敗北・占領という事態は、大東亜戦争敗北以上の流血・悲惨さをもたらすものと、覚悟しなければならないことを意味する。
況や中国共産党の占領政策が如何なるものかは、チベット族やウイグル族の置かれている惨状を想起すれば事足りよう。かてて加えて中国共産党政権が、その政権維持の為に連綿と続けてきた反日愛国教育は、平時に於いて日本や日本人を誹謗中傷し、時に暴行に至っても、テンとして恥じる処がない「人民」を大量生産してる。これが戦時や、日本占領時ともなれば、通州事件の往事を想起するまでもなく、日本人に対する虐殺・虐待が拡大再生産される事に、殆ど疑いの余地はない。
かくして、「21世紀の日中戦争敗戦後の日本」は、書くに忍びず、「筆舌に尽くし難い」惨状を呈する公算大としなければならない。私としては、左様な惨状に我が想像力と筆力を駆使するよりも、いかにその惨状から抜け出すかを考察する方に注力したい。その結果、「小説としておもしろくないもの」になる可能性はあるが、売り物の小説ではないのだから、それぐらいの「作者のわがまま」は、許容されよう。
私は、菊池秀行の短く叩きつけるような文体は好きだが、血と淫液まみれのドロドロした描写は、大嫌いなんでね。<注記>(*1) いや、その点でも占領する側からすれば「理想的」か。
本土から最後の玉音放送
こちらはNHK。日本放送協会です。この放送は、特設臨時スタジオからお送りしています。
今から放送しますのは、天皇陛下のお言葉、いわゆる玉音です。日本国民の皆様、どうか落ち着いて、心してお聞き下さい。
と、同時に、ご安心下さい。不肖・私はこの玉音を放送することを託されましたが、陛下は脱出の途につかれ、すでに人民解放軍の魔手は届かない、安全な場所に居られます。残念ながら陛下の国外脱出と言う我が国始まって以来の事態とはなりましたが、陛下の大御心は、我ら日本臣民と共にあります。
それでは、陛下のお言葉を、お聞き下さい。
第1幕 玉音
「日本国民の皆様。
私は、今、我が国を、この日本の国土を去ろうとしています。先の大戦は疎か、元寇の昔に遡っても、無かったことです。このような事態に至ったことは、まことに心苦しく、私としても皇祖・皇宗に対し誠に申し訳ない思いでいっぱいです。
それと同時に、私は、我がが祖国・日本の地を離れなければならない理由を、理解しております。日本国民の大半を、日本の国土に残したまま、この地を去らねばならない理由は、ダライ・ラマ師がチベットを離れ、亡命しなければならなくなった理由と、おそらく同じです。この地に私がとどまる事により、皇祖・皇宗に対し申し訳のない、取り返しのつかない事態に陥ることを、避けるためです。
古来、皇祖・皇宗はじめとする我が国民は、大陸の文化に多くを学ぶと同時に、大陸に対して節を曲げない、自主自立の精神を堅持してきました。かつて聖徳太子が大唐帝国皇帝に宛てた国書の冒頭にて、「日出ずる処の天子、日没する処の天子に書を致す」と呼びかけたことが、その一例です。
私は、今、我が国を、この日本の国土を去ろうとしています。先の大戦は疎か、元寇の昔に遡っても、無かったことです。このような事態に至ったことは、まことに心苦しく、私としても皇祖・皇宗に対し誠に申し訳ない思いでいっぱいです。
それと同時に、私は、我がが祖国・日本の地を離れなければならない理由を、理解しております。日本国民の大半を、日本の国土に残したまま、この地を去らねばならない理由は、ダライ・ラマ師がチベットを離れ、亡命しなければならなくなった理由と、おそらく同じです。この地に私がとどまる事により、皇祖・皇宗に対し申し訳のない、取り返しのつかない事態に陥ることを、避けるためです。
古来、皇祖・皇宗はじめとする我が国民は、大陸の文化に多くを学ぶと同時に、大陸に対して節を曲げない、自主自立の精神を堅持してきました。かつて聖徳太子が大唐帝国皇帝に宛てた国書の冒頭にて、「日出ずる処の天子、日没する処の天子に書を致す」と呼びかけたことが、その一例です。
私が、今般、大陸からの侵略に対し、我が国土、我が国民を残し、国外亡命を余儀なくするのは、我が国伝統の、皇祖皇宗以来の、自主自立の精神を守るため、です。私が、日本にとどまることで、我が国の自主自立の精神が、汚される事を避けるため、です。
「耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び」と、かつて昭和天皇陛下は終戦の詔勅に於いて言われました。
私が今、私の祖国・日本を去らねばならないのも、私の心情として、勝るとも劣らない気持ちです。
ですが、私は、必ずこの地に、日本に、日本国民の大半が住まうこの国に、帰って参ります。必ず。
私が今、私の祖国・日本を去らねばならないのも、私の心情として、勝るとも劣らない気持ちです。
ですが、私は、必ずこの地に、日本に、日本国民の大半が住まうこの国に、帰って参ります。必ず。
それまで、日本国民の皆様。日本の地に於いて、日本の歴史、日本の伝統を、絶やすことなく受け継ぎ、待っていて下さい。
もとより、かの国がチベットやモンゴルで行った蛮行を思えば、それが大変な苦難の道であることは、想像に難くありません。「耐えがたきを耐え」ねばならないのは、日本国民の皆様も同様であろうと、察せられます。
もとより、かの国がチベットやモンゴルで行った蛮行を思えば、それが大変な苦難の道であることは、想像に難くありません。「耐えがたきを耐え」ねばならないのは、日本国民の皆様も同様であろうと、察せられます。
しかしながら、我々の先人は、先の大戦敗戦と言う苦難から、「耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍び」、世界第2位のGNPを誇る経済大国を築き上げたことも、忘れるべきではありません。
今、その「経済大国」が、大陸は中国の軍事力によって蹂躙されつつあることも、決して忘れるべきではないでしょう。
繰り返しますが、私は、必ず、帰って参ります。
この、祖国、日本へ。
必ず。」
今、その「経済大国」が、大陸は中国の軍事力によって蹂躙されつつあることも、決して忘れるべきではないでしょう。
繰り返しますが、私は、必ず、帰って参ります。
この、祖国、日本へ。
必ず。」
「・・・」
(銃声)
「日本国民のみなさま、どうやらこの特設スタジオからお送りできるのも、後、わずかなようです。お聞きになれるでしょうか、今まさにこのスタジオに突入しようとする人民解放軍と、NHK義勇警備隊が交戦する銃撃戦の音が。
NHK義勇警備隊、私の戦友たちに守られながら、本玉音放送をお送りできたことは、私の身に余る栄誉です。」
(爆発音)
「皆様、まだ私の声は届いておりますでしょうか。どうやら隔壁が爆破されたようです。この放送が中止させられるのも時間の問題でしょう。
なお、本日お送りしました陛下の玉音放送は、程なくネット上に公開される手はずになっています。いつも通りの「NHKホームページ」での公開ではなさそうですが、近い内に、必ずや。」
(連続した銃声)
「・・・まだ、聞こえておられるでしょうか。NHKから、私、石戸谷がお送りいたしました。これで、放送を終わります。
日本国民の皆様、さようなら。」
(大きな銃声)
「・・・天・・・皇・・・陛下、万・・・歳」
(雑音、沈黙)
(銃声)
「日本国民のみなさま、どうやらこの特設スタジオからお送りできるのも、後、わずかなようです。お聞きになれるでしょうか、今まさにこのスタジオに突入しようとする人民解放軍と、NHK義勇警備隊が交戦する銃撃戦の音が。
NHK義勇警備隊、私の戦友たちに守られながら、本玉音放送をお送りできたことは、私の身に余る栄誉です。」
(爆発音)
「皆様、まだ私の声は届いておりますでしょうか。どうやら隔壁が爆破されたようです。この放送が中止させられるのも時間の問題でしょう。
なお、本日お送りしました陛下の玉音放送は、程なくネット上に公開される手はずになっています。いつも通りの「NHKホームページ」での公開ではなさそうですが、近い内に、必ずや。」
(連続した銃声)
「・・・まだ、聞こえておられるでしょうか。NHKから、私、石戸谷がお送りいたしました。これで、放送を終わります。
日本国民の皆様、さようなら。」
(大きな銃声)
「・・・天・・・皇・・・陛下、万・・・歳」
(雑音、沈黙)
御動座という「理想的解決」
のっけから我ながら、なんて不遜不忠な「小説」だろうね。なにしろ、南北朝時代以来とんと覚えの無い(*1)「御動座」で、それも国外脱出と言うのだから、孝明天皇陛下あたりの天聴に達したら、卒倒されかねない大事(おおごと)だ。
だが、これは、前作「新・次の一戦」に於いて大陸は支邦に一敗地にまみれ、敗戦の憂き目に(再び)あっている我が国が、再起再戦を期するに当たっての必須条件であろう( と、私は考える )。佐藤大輔のSF小説に「日本人が宮様担いで惑星植民」というのがあったが、実現性は兎も角、気持ち・気概・心意気は大いに理解し、賛同する。我が国が大陸・支邦の支配から脱する上でも、陛下の存在は看過しえないし、逆に中国共産党に「玉を穫られる」=陛下の玉体を拘束される/拉致される事態は避けねばならない。陛下の国外脱出=「御動座」は、ある意味「理想的解決」である。
逆に大陸は支邦・中国共産党としては、日本支配のために、陛下の身柄拘束と恫喝、さらには弑し奉り、傀儡としての親王を擁立する、少なくとも「可能性はある」と考えねえばならない。事実、中国共産党は、チベットに於いて「ダライ・ラマ14世の代役」として「パンチェン・ラマ」を擁立している。中国共産党が我が国に於いても不敬不遜にも同様な手段に訴える事は、十分に考えられる。
まあ、そうなれば、中国共産党は新たな朝敵となり、この小説には「天皇陛下救出作戦」の一幕が付け加わる事になろうが、ここでは「理想的に」陛下が無事国外脱出を果たし、亡命日本政府を樹立した、ものとして話を進めよう。<注記>(*1) 企てや計画はある。
第2幕 特使
「大統領閣下、日本の特使が参りました。」
ちきしょう、あの島国の黄色人種共か。あろう事か隣の黄色人種とトラブルを起こしやがった。
ああ、知っているよ。奴らが「同盟国」って事は。だが、こっちだって無い袖は振れない。軍隊を動かすには、金もかかれば、時間もかかる。今回はそれやこれやで間に合わなかった訳だが、「同盟国を見殺しにした」なんて非難を受ける筋合いは、毛頭無いぞ。
ちきしょう、あの島国の黄色人種共か。あろう事か隣の黄色人種とトラブルを起こしやがった。
ああ、知っているよ。奴らが「同盟国」って事は。だが、こっちだって無い袖は振れない。軍隊を動かすには、金もかかれば、時間もかかる。今回はそれやこれやで間に合わなかった訳だが、「同盟国を見殺しにした」なんて非難を受ける筋合いは、毛頭無いぞ。
ああ、毛頭、だ。よし、会ってやろうじゃないか、その「特使」とやらに。
「ああ、この部屋に通してくれ。」
程なく現れたのは、初老の日本人だ。日本人としても小柄な方で、真っ白な頭髪を綺麗になでつけている。畜生、黄色人種のくせに、妙に品格があるじゃないか。
秘書が特使のフルネームと肩書きを告げる。いつもながら日本人の名前は覚えにくい。
「大統領閣下。先ずは我が国の天皇陛下ご一行を受け入れて戴き、ありがとうございます。先ほどハワイへの全員無事到着との知らせを受けました。陛下からも深い謝意を伝えるように言付かっております。」
ああ、日本のエンペラーか。国防長官がやいのやいの言って受け入れ体制だけは整えていた。
一度だけ会ったな。慣習とやらに従って頭を下げる挨拶をしたら、後で合衆国内の一部から非難されたっけ。
「本日参内いたしましたのは、陛下安着の御礼を申し上げると共に、我が国の今後について、ご相談いたしたく。」
秘書が特使のフルネームと肩書きを告げる。いつもながら日本人の名前は覚えにくい。
「大統領閣下。先ずは我が国の天皇陛下ご一行を受け入れて戴き、ありがとうございます。先ほどハワイへの全員無事到着との知らせを受けました。陛下からも深い謝意を伝えるように言付かっております。」
ああ、日本のエンペラーか。国防長官がやいのやいの言って受け入れ体制だけは整えていた。
一度だけ会ったな。慣習とやらに従って頭を下げる挨拶をしたら、後で合衆国内の一部から非難されたっけ。
「本日参内いたしましたのは、陛下安着の御礼を申し上げると共に、我が国の今後について、ご相談いたしたく。」
そら、来た。だが、日本が「同盟国」だからって、その相手が中国じゃぁ、単純にはいかない。あの国の「GDP世界第2位」は大した問題じゃないが、米国債の相当部分を握っているし、経済関係も無視し難い。かてて加えて日本が保有していた資産、分けても米国債を中国に差し押さえられると、ゆゆしき事態となる。
その点に関しては、特別委員会で検討中だが、その結論が出るまでは、迂闊な事は言えない。
「ご承知の通り、我が国土は人民解放軍に武力占領されるところとなり・・・」
ああ、文句なら国防長官に言ってくれ。あのタイミングで第7艦隊が極東を留守にしたのは、国防長官の責任なのだから。
「・・・ですが、幸いにして占領される前に、国外へ移転移送できたものも、決して少なくはありません。」
おや、繰り言が続くかと思ったら、案外短かかったな。
その点に関しては、特別委員会で検討中だが、その結論が出るまでは、迂闊な事は言えない。
「ご承知の通り、我が国土は人民解放軍に武力占領されるところとなり・・・」
ああ、文句なら国防長官に言ってくれ。あのタイミングで第7艦隊が極東を留守にしたのは、国防長官の責任なのだから。
「・・・ですが、幸いにして占領される前に、国外へ移転移送できたものも、決して少なくはありません。」
おや、繰り言が続くかと思ったら、案外短かかったな。
「左様、一例を挙げますれば、我が国が保有する米国債の相当部分。」
なんだって!
危うく声を上げるところだった。表情は変わっていたろうが、それを隠すほどの余裕はなかった。つまりこの男が言っている事は・・・
「言い換えますと、我が日本亡命政府は、アメリカ合衆国の大口株主と、申せましょうな。未だに。」
正に、その通りだ。早急に確認を取らねばならないが。
黄色人種の小男が笑う。今までの、品のある微笑みではない。猛禽類を連想させるような、凄みのある笑い。
だが、悪いことばかりではない。少なくともこれであの大陸の黄色人種帝国に、我が国債の圧倒的シェアを取られる心配だけは、当面なくなった。
だが、悪いことばかりではない。少なくともこれであの大陸の黄色人種帝国に、我が国債の圧倒的シェアを取られる心配だけは、当面なくなった。
「さて、その現状を踏まえた上で、我が国・日本の未来について御相談いたしましょう。我が国の未来は、極東アジアの未来にもつながり、ひいては私たち有色人種の未来にも関わるでしょうからな。」
男の笑みが一段と深くなる。
「私は老い先短い身ですから、その未来を見ることができれば幸い。ですが、大統領閣下はまだお若い。その未来を堪能されるのも、我慢されるのも、長い期間になりますぞ。」
こいつ、日本亡命政権特使の分際で、合衆国大統領を脅す心算か。
無意識に顎をなでていた自分の手に気づいた。その、今更ながら黒い・・・決して白ではない事にも。
ともかく、この男の言うことが本当ならば、日本占領対策特別委員会の仕事は相当軽減される。否、次のフェーズに移れる。それはつまり・・・
無意識に顎をなでていた自分の手に気づいた。その、今更ながら黒い・・・決して白ではない事にも。
ともかく、この男の言うことが本当ならば、日本占領対策特別委員会の仕事は相当軽減される。否、次のフェーズに移れる。それはつまり・・・
「と言うと、日本奪還計画について、と言うことですかな。」
会見開始以来はじめて放った自分の言葉は、上手い具合に落ち着いて聞こえた。
男が再び笑う。だが今度は猛禽類じゃぁない。赤子のような純真さというか、花が開いたようなと言うか、そこだけスポットライトを照らしたような笑顔。「笑い顔」ってのは色々あるんだな。それとも、これが日本人の特技か?
男が再び笑う。だが今度は猛禽類じゃぁない。赤子のような純真さというか、花が開いたようなと言うか、そこだけスポットライトを照らしたような笑顔。「笑い顔」ってのは色々あるんだな。それとも、これが日本人の特技か?
「大統領閣下。今のお言葉だけでも、本日参内いたしました甲斐がございます。
陛下も、さぞお喜びになられるでしょう。」
陛下も、さぞお喜びになられるでしょう。」
Heika、ヘーカ、陛下、か。コイツ等これを千年以上も続けているんだ。多分、これから千年以上も続ける気だろう。
普通に考えればクレージーだ。
だが、クレージーなことを実現し、「ten thousands generations one family」バンセイイッケイとか言う法螺を現実にしかねない奴らは・・・グレート、と言う他無いだろう。
わかった、日本人。話を聞こうじゃないか。
米中離間策
「亡命日本政府」といっても、さて、どこにそれを樹立するかが大問題だ。① 中国が恫喝したぐらいでぐらつくような国はだめだ。対抗・対峙できるぐらいの強国が望ましい。② 出来れば日本にほど近いのが理想だ。陸続きならば申し分ないが、我が国は島国だから、これは望めない。③ なおかつ我が国と共通する価値観を有することが、一定程度は必須だろう。
これらの条件を勘案すれば、亡命日本政府が置かれる場所は、やはりアメリカ合衆国ないしその代理国、と考えるのが至当だろう。条件①、②からするとロシアでも良さそうだが、条件③は望めない。中華民国・台湾は、条件②、③は申し分ないが、我が国が中国共産党政権に攻撃・占領されているような状況では、残念ながら中華民国・台湾も無事では済むまい。少なくとも一時的に無力化・中立化させられている。下手すれば我が国より先に中国共産党支配化に併呑されている公算大とすべきだろう。そんな状況では、元寇の時も大陸の手先となった半島なんか当てになる訳がない。東南アジア諸国は、仮に結束したとしても条件①はかなり心許ない。結局、太平洋を挟んだ隣国という条件②をぎりぎりクリアの米国ないしその代理国(カナダあるいはメキシコあたりか)が亡命日本政府の設立場所となろう。さらに重要なのは、亡命日本政府を「米国ないしその代理国」とすることで、我が国にとって最も恐るべき事態「米中結託・米中密約」に対する牽制ないし抑止とできることである。言い換えれば、我が日本亡命政府が捲土重来を果たし本土奪還する上では一定程度の米国の支援、少なくとも米国の中立が必要であり、それは時に「米中離間策」を要するだろう。
前記の第2幕では、その「米中離間策」として「米国債保有率」を用いている。むろん、米国とは「自由と民主主義」という「共通の価値観」があるが、残念ながら「共通の価値観」だけでは、米中を離間させ米国に我が国を支援させるのに「充分」と思うべきではないだろう。ジョン・ウエイン演じるヒーローは、ある意味「米国の理想」であろうが、それが「常に実演される」訳ではないし、期待すべきでもない。国を動かすのは、理想よりも国益だ。
第3幕 トモダチ
真っ暗だ。何も見えない。
「心眼で見ろ」とか、「目に頼るな。音と匂いで感じろ」とか、「お前たちの先祖は夜間に星と月明かりで20キロ先のマストを見つけて、当時のレーダーを凌駕したんだぞ」とか、色々言われたが、見えないものは見えない。月も星もない曇天の夜で、町の灯どころか人工の光源一つないこんな山の中で、「見ろ」という方がどうかしている。フクロウじゃあるまいし、人間には、ホモサピエンスには、こんな状況で「見える」モノなんか無い。
それでも、命令は命令だ。「警戒監視しろ」と命じられれば、見えないモノも、見ないといけない。
ああ厳密には、「軍隊」ですらないな。指揮系統はあるし、命令に従っているけれど、一目で判る識別表は、腕章一つつけていない。それも、「意図的につけていない」んだから、敵に捕まれば捕虜扱いされない。犯罪者・テロリストとして、上手く行って即刻銃殺。下手すると中国人の伝統的で芸術的とも言い得る拷問を受けての無惨な死が待っている。もっと非道いと、共産主義の十八番の洗脳術にかかって、洗いざらい知っていることを白状した上、裏切り者、「赤犬」、中国共産党の手先として、生きていく羽目になる。
ああ厳密には、「軍隊」ですらないな。指揮系統はあるし、命令に従っているけれど、一目で判る識別表は、腕章一つつけていない。それも、「意図的につけていない」んだから、敵に捕まれば捕虜扱いされない。犯罪者・テロリストとして、上手く行って即刻銃殺。下手すると中国人の伝統的で芸術的とも言い得る拷問を受けての無惨な死が待っている。もっと非道いと、共産主義の十八番の洗脳術にかかって、洗いざらい知っていることを白状した上、裏切り者、「赤犬」、中国共産党の手先として、生きていく羽目になる。
そんなことはここに入る前から判っていたんだが・・・
「かくすれば、かくなるものとは知りながら、止むに止まれぬ大和魂、か。」
少々不遜とは思いつつ、吉田松陰辞世の句を一人呟く。いや、本当に声に出すとは、意識していなかった・・・心算だ。
「かくすれば、かくなるものとは知りながら、止むに止まれぬ大和魂、か。」
少々不遜とは思いつつ、吉田松陰辞世の句を一人呟く。いや、本当に声に出すとは、意識していなかった・・・心算だ。
「立哨中ニ私語トハ、味方殺ス気デスカ!!」
いきなり背中を思い切りどやしつけられ、倒れそうになるのを辛うじて堪える。いつの間にか・・・いや、いつもの事だが、背後に近寄っていた米人教官、自称「ジョン軍曹(本名は不明)」に厳しい「指導」を喰らったのだ。日本語はだいぶ上達したが、今でもイントネーションには違和感ありまくり。ま、意味は通じるから、いいが。
「申し訳ありません。軍曹殿!」
反射的に答え、敬礼する。このあたりは本当に軍隊だ。いや、「軍隊らしい」。俺たちは正規の軍人でも自衛官でもないし、軍服も着ていないが。羽織っているジャケットは、迷彩柄だが、市販品だ。
「殿ハ要ラナイ!罰トシテ、腕立テ百回!始メ!!」
その言葉に、これまた反射的に体を前に投げ出し、腕立て伏せを始める。こういう反射的な動きも、腕立て伏せも、慣れっこになってきてるんだから、訓練って奴は恐ろしい。いや、凄まじい。
元米海兵隊教練軍曹だったという噂の「ジョン軍曹」は、表向き「米人義勇兵」であり、元の職業を隠すなり退職するなりして、俺たち「日本解放武装戦線」の訓練に当たってくれている。米国籍はそのままらしいから、人民解放軍に捕まったらかなり厄介な事になる立場だが、そのリスクを承知で中国占領下の我が国に来てくれたのだから、俺たちとしては感謝している。訓練は厳しいが、理不尽・不合理でない事は、誰もが認めている所だ。
数少ない夜間暗視装置を独占使用している点は、ちょっとズルいと思わないではないが。
腕立て伏せを続ける俺の傍らを、軍曹が通過していく時に、小声でささやくのが聞こえた。
「倒レマセンデシタ。スグニ私ト判リマシタ。ソノ点ハ合格デス。」
言われてから気づいた。どやしつけられる前後も、腕立てを続ける今も、何も見えていない。真っ暗闇なのは変わらない。それでもどやしたのが軍曹と声で知り、その声で位置を知って敬礼し、命令に従って腕立て伏せを始める・・・
「申し訳ありません。軍曹殿!」
反射的に答え、敬礼する。このあたりは本当に軍隊だ。いや、「軍隊らしい」。俺たちは正規の軍人でも自衛官でもないし、軍服も着ていないが。羽織っているジャケットは、迷彩柄だが、市販品だ。
「殿ハ要ラナイ!罰トシテ、腕立テ百回!始メ!!」
その言葉に、これまた反射的に体を前に投げ出し、腕立て伏せを始める。こういう反射的な動きも、腕立て伏せも、慣れっこになってきてるんだから、訓練って奴は恐ろしい。いや、凄まじい。
元米海兵隊教練軍曹だったという噂の「ジョン軍曹」は、表向き「米人義勇兵」であり、元の職業を隠すなり退職するなりして、俺たち「日本解放武装戦線」の訓練に当たってくれている。米国籍はそのままらしいから、人民解放軍に捕まったらかなり厄介な事になる立場だが、そのリスクを承知で中国占領下の我が国に来てくれたのだから、俺たちとしては感謝している。訓練は厳しいが、理不尽・不合理でない事は、誰もが認めている所だ。
数少ない夜間暗視装置を独占使用している点は、ちょっとズルいと思わないではないが。
腕立て伏せを続ける俺の傍らを、軍曹が通過していく時に、小声でささやくのが聞こえた。
「倒レマセンデシタ。スグニ私ト判リマシタ。ソノ点ハ合格デス。」
言われてから気づいた。どやしつけられる前後も、腕立てを続ける今も、何も見えていない。真っ暗闇なのは変わらない。それでもどやしたのが軍曹と声で知り、その声で位置を知って敬礼し、命令に従って腕立て伏せを始める・・・
腕立て伏せできるスペースがあると、事前に知っていたから。
あれ、真っ暗闇でなんにも見えなくても、あれこれ出来るじゃぁないか。
これも訓練の成果って奴かぁ?
これも訓練の成果って奴かぁ?
抵抗運動
我が国は、日露戦争でロシアに勝ったが、大東亜戦争でアメリカに敗れた。何故だろう?単純に答えられる問題ではないだろう。彼我の直接の戦力比や経済力比、特に大東亜戦争後半のそれはアメリカが圧倒的だから、これだけでも「我が国がロシアに勝ち、アメリカに敗れた」理由の一つとはなろう。だが、それが全てではないだろう。対露勝利/対米敗北を分けた理由の一つは「相手国の結束力」ではないか。むろん、人種差別未だ華やかなりし頃のアメリカとて、日系人強制収容なんて事もやってい るから、決して一枚岩ではない。しかしながら、明石大佐の秘密工作に支援された東欧諸国の「独立運動」は、当時のロシアにとってはアキレス腱であり、ついには「ロシア帝国崩壊=ロシア革命」の端緒となった。それだけロシアの方が「結束力は弱かった」と言い得よう。そこを焚き付け、突いたからこその「対露戦勝利」と、考えうる。
であるならば、この小説上で我が国の対戦相手となった中国共産党政権の結束力・求心力は、少なくとも興味・研究の対象であろう。なおかつ、それは日露戦争当時の帝政ロシア政府が擁していた以上の「弱点」でもある。私が、「国としての結束力」を「中国共産党政権の弱点」、それも「日露戦争当時の帝政ロシア政府以上の弱点」と断じる理由はいくつもあるが、再三にわたる弾圧にも関わらず連綿と続くチベット人僧侶等の「抗議の焼身自殺(*1)」と、成長率鈍化が目立ってきた経済状況(*2)、それに「中国の夢」などと言う壮大な駄法螺のほかは「悪逆非道な日帝支配からの解放者」以外の「統治の正当性」を主張できない中国共産党の窮状である。後二者は「国としての結束力」に直接関係してはいない。だが、間接的に大いに関係している事は、ほかならぬ中国共産党自身が、良くご存知であろう。我が国としては、この「中国の弱点」を突くべきである。具体的には日露戦争と同様に、民族自立・独立運動に対する、軍事的を含めた援助であり、支援である。むろん、この小説上では我が国も中国共産党政権に占領されているから、「援助、支援するべき民族自立・独立運動」の一つは、ほかならぬ我が国・日本人である。即ち、我が国自身側が国土を奪還するに当たり、正規軍による正規戦争での奪還のみならず、非正規軍ないし正規軍ならざる軍事組織による非正規戦争を実施すべきである。
非正規戦争自身は、中国共産党及び人民解放軍にとって故郷のようなものであり、それだけに「十八番」でもある・・・少なくとも、「あった」。左様、70年以上前の大東亜戦争や、60年ほど前の朝鮮戦争に於いて、非正規戦争は中国共産党の十八番であり、より正確には「正規戦争なんて出来ない状態にあった」。何しろ戦前戦中は「共匪」と呼ばれた中国共産党だ。「匪」とは、言うまでも無かろうが「匪賊」の「匪」で、山賊海賊盗賊の類。いかに米ソなど連合国から兵器弾薬物資資金などの援助を受けようとも、非正規軍は非正規軍でしかない。
その非正規軍を出自とする人民解放軍を擁する中国共産党に対し、非正規戦争を仕掛けるのは相応にリスクを考えなければなるまい。だが、「中国の夢」などと言う大法螺・誇大妄想や、「中号共産党による悪逆なる日本軍国主気支配からの解放」という、ある意味それ以上の大法螺・誇大妄想でしか「五十六族共和」を図れないでいる(*3)中国共産党にが、「非正規戦で防戦を強いられる」=「中国共産党支配下からの分離独立運動が激化する」事は、中国共産党にとっての悪夢ないし鬼門となりうる。従って、我が国としては、「次の次の一戦」即ち「中国共産党支配下からの日本国土及び日本人の解放」に於いて、非正規戦を実施する、少なくとも実施する可能性・選択肢を残すべきである。無論、後者は、「必要に応じて非正規戦実施に踏み切る」のが、前提である。
非正規戦の実施は、少なくともある意味ジュネーブ条約等に抵触するおそれがある。従って、亡命日本政府はまだしも、諸外国が非正規戦に協力するのは躊躇する可能性は多分にある。我が国最大の同盟酷たる米国とてその例外ではない。少なくとも表立って堂々たる非正規戦支援は、米国といえども期待薄と考えるべきだろう。
上掲第三幕「トモダチ」に於いて、非正規軍事組織「日本解放武装戦線」の軍事教練に当たる米国人「ジョン軍曹(自称)」の地位がきわめて曖昧なのは、「米国から表立って非正規戦支援は期待し難いから」。ジョン軍曹(自称)の来日及び潜伏並びに非正規戦支援は、大東亜戦争中の米人義勇飛行隊「フライングタイガース」の如く、「自発的な個人による義勇軍としての参加」となる公算大と考える。
その意味で、ジョン軍曹(自称)は、同盟軍や友軍というより「トモダチ」なのである。無論「トモダチ」故の限界もまた、擁すると考えるべきだろう。
同時に、上掲第三幕では描かれなかった「日本以外での中国共産党支配に対する非正規戦」も、当然実施されるべきである。これこそまさに日露戦争に於いて帝国陸軍・明石大佐が実施し、成功した「実績ある作戦」である。
<注記>(*1) 厳密に言えば、チベット人僧侶等の焼身自殺は、民族独立と言うよりは自治や信教の自由を求めてのものであり、「中国共産党からの独立」を求めるものではないが。(*2) 「保八」と称して、「成長率8%を維持しないと、政情不安に陥る」とされていたのは、ついこの前だ。最近はその(統計的には疑問符がつく)成長率も、7%前後になっている(*3) と、私(ZERO)には思われる
第4幕 敵襲
別離(わかれ)は、突然だった。まあ、別離ってのは大概突然らしいが。
兆候はあった。チベットやモンゴルで「勇名を馳せた」人民解放軍山岳歩兵部隊がこの方面に配備されたと、チョット前から情報があり、それが「捕虜情報で裏付けられた」とアナウンスもあった。専門家、主として米国人義勇兵によって編成された捕虜情報収集部隊「尋問隊」の情報は、時に恐ろしいまでに正確だったから、この「裏付け」は重要だ。
それでも俺たち元「日本解放武装戦線」は、亡命日本軍と人民解放軍の開戦「再戦」以来、亡命/正当日本政府軍の一員として、着々と戦功を揚げていた。一方で被害は「看過しうる」程度だったから、ある種の慢心が生じていたことは否めない。軍曹殿=未だ我々の指導に当たっておられるジョン軍曹が口を酸っぱくして「今まで俺たちの相手をしている人民解放軍は、二軍、三軍であって、精鋭ではない」事を説いても、あまり真剣には聞いていなかった。
結果、俺たちは、奇襲を食らうことになった。前哨も警戒線も知らない間に無力化されて、「不落の要塞」と半ば以上信じていた本拠地で。一時パニックに陥った俺たちを叱咤激励して立ち直らせたのも軍曹殿ならば、こうした事態に備えた「緊急脱出計画」があったことを思い出させてくれたのも軍曹殿だ。その「緊急脱出計画」自身、軍曹殿の強い意向でようやく立案されたものだったが。
俺たちは「緊急脱出計画」に基づいて・・・いや、現下の状況下で可能な限り基づいて、「緊急脱出」を開始した。縦深に縦深を重ねて設けた抵抗拠点で、随時時間を稼ぎながら味方の撤退を成功させる計画。「早い話が、捨て駒だ。」などと仲間内で陰口たたいていた「緊急脱出計画」が、いかに有り難く、かつ有用有益であるかを、俺たちは身を持って痛感する羽目に陥っていた。
むろん、計画では誰がどの拠点を受け持つかも指定していた。だが、人民解放軍の奇襲による損害と混乱は、拠点配置兵員を「計画外」とすることを余儀なくされた。今、俺が向かっている「抵抗拠点D」もその「計画外」の一つ。此処に予定していた兵員・部隊は、さっきの奇襲で「戦闘中行方不明」となっており、その穴を今埋めているのも軍曹殿、だ。軍曹殿、軍曹殿、軍曹殿・・・何でもかんでも軍曹殿頼り。俺たち・元「日本解放武装戦線」は、一体なにを学んできたんだろうね。
それでも俺たち元「日本解放武装戦線」は、亡命日本軍と人民解放軍の開戦「再戦」以来、亡命/正当日本政府軍の一員として、着々と戦功を揚げていた。一方で被害は「看過しうる」程度だったから、ある種の慢心が生じていたことは否めない。軍曹殿=未だ我々の指導に当たっておられるジョン軍曹が口を酸っぱくして「今まで俺たちの相手をしている人民解放軍は、二軍、三軍であって、精鋭ではない」事を説いても、あまり真剣には聞いていなかった。
結果、俺たちは、奇襲を食らうことになった。前哨も警戒線も知らない間に無力化されて、「不落の要塞」と半ば以上信じていた本拠地で。一時パニックに陥った俺たちを叱咤激励して立ち直らせたのも軍曹殿ならば、こうした事態に備えた「緊急脱出計画」があったことを思い出させてくれたのも軍曹殿だ。その「緊急脱出計画」自身、軍曹殿の強い意向でようやく立案されたものだったが。
俺たちは「緊急脱出計画」に基づいて・・・いや、現下の状況下で可能な限り基づいて、「緊急脱出」を開始した。縦深に縦深を重ねて設けた抵抗拠点で、随時時間を稼ぎながら味方の撤退を成功させる計画。「早い話が、捨て駒だ。」などと仲間内で陰口たたいていた「緊急脱出計画」が、いかに有り難く、かつ有用有益であるかを、俺たちは身を持って痛感する羽目に陥っていた。
むろん、計画では誰がどの拠点を受け持つかも指定していた。だが、人民解放軍の奇襲による損害と混乱は、拠点配置兵員を「計画外」とすることを余儀なくされた。今、俺が向かっている「抵抗拠点D」もその「計画外」の一つ。此処に予定していた兵員・部隊は、さっきの奇襲で「戦闘中行方不明」となっており、その穴を今埋めているのも軍曹殿、だ。軍曹殿、軍曹殿、軍曹殿・・・何でもかんでも軍曹殿頼り。俺たち・元「日本解放武装戦線」は、一体なにを学んできたんだろうね。
「軍曹殿!、予備の銃と弾薬であります!」
先刻の攻撃を凌いだばかりなのだろう。まだ銃身から陽炎がたってそうな分隊支援火器を構えて、軍曹殿は配置に付いていた。見ればその迷彩服には所々返り血が・・・・いや、違う。銃撃戦で返り血なんてそうそう浴びるものじゃない。いかん、軍曹殿は負傷している。
「軍曹殿、此処は自分に任せて、後退して下さい。自分が今しばらく支えてから、計画通りに後退・・・」
軍曹殿、ジョン軍曹が上げた顔は、妙に血の気がなかった。そのほの白い顔のままニヤリとして見せた笑顔の凄惨さに、俺は言葉を続けられなくなった。
「脚、撃タレタ。モウ、走レナイ。逃ゲラレナイネ。」
「軍曹殿、此処は自分に任せて、後退して下さい。自分が今しばらく支えてから、計画通りに後退・・・」
軍曹殿、ジョン軍曹が上げた顔は、妙に血の気がなかった。そのほの白い顔のままニヤリとして見せた笑顔の凄惨さに、俺は言葉を続けられなくなった。
「脚、撃タレタ。モウ、走レナイ。逃ゲラレナイネ。」
良く見ると確かに、軍曹殿の大腿部にひときわ大きな血のシミが出来ている。オイ、冗談じゃないぞ。こんな所で・・・
「自分が肩を貸します!軍曹殿、後退して下さい!!」
俺たち日本人が、人民解放軍の手に掛かり、死ぬなり拷問を受けるなりするのは、「仕方ない」とは言わないが、Aspectable Riskだ。此処は俺たちの国で、俺たちの国を俺たちの手に取り戻すために戦っているのだから、犠牲も損害も覚悟の内だ。
だが、ジョン軍曹殿はアメリカ人だ。同盟国人ではあるが、直接人民解放軍に手出しされる謂われは無い。第一、元「日本解放武装戦線」教練軍曹なんて前歴が知れたら、人民解放軍にどんな目に遭わされるか判らない。
もとい、「想像を絶する目に遭わせる」事は確信できる。
だが、ジョン軍曹殿はアメリカ人だ。同盟国人ではあるが、直接人民解放軍に手出しされる謂われは無い。第一、元「日本解放武装戦線」教練軍曹なんて前歴が知れたら、人民解放軍にどんな目に遭わされるか判らない。
もとい、「想像を絶する目に遭わせる」事は確信できる。
此処はなんとしても軍曹殿に下がっていただいて・・・
「ノー!コノ拠点、誰ガ支エマスカ。
日本語デ言ウノデショウ。Darekaga Korewo Yaraneba Naranu・・・」
日本語デ言ウノデショウ。Darekaga Korewo Yaraneba Naranu・・・」
また懐かしい歌の歌詞を。いや、この場では、「キャシャーンがやらねば、誰がやる。」の方が相応し・・・そんな埒もない連想かせている俺を前に、軍曹殿微笑みは更に凄みを増した。
「此処ガ、私ノ、あらもネ。」
人民解放軍の新たな銃声が、議論も会話も強制的に打ち切った。有無を言わせず俺の持ってきた荷物、予備弾薬と予備の銃をひったくった軍曹殿は、そのまま射撃姿勢に入って反撃を開始した。脚どころか何カ所にも滲んだ血が、何発もの被弾を示しているにも関わらず、訓練教練時の、否、それ以上の迅速さと、正確さだった。
こうなれば、俺も覚悟を決めて、軍曹殿を支援しようと射撃姿勢に入ろうとすると、いきなり蹴りをかまされて、俺は尻餅をついた。
一瞬呆気にとられた俺に、鳴り響く銃声爆発音を貫いて、軍曹殿の命令が下った。
一瞬呆気にとられた俺に、鳴り響く銃声爆発音を貫いて、軍曹殿の命令が下った。
「イキナサイ!
Go!Young Men!!」
ジョン軍曹の発する命令に応じて、殆ど条件反射的に俺は走っていた。頼もしくも断続的な射撃音が、一大爆発音を最後に聞こえなくなっても、走り続けた。
銃弾は一発も近くに飛んでこなかった。
いや、飛んできていても気付かなかっただけ、かも知れない。兎に角俺は、走って、走って、走り続けた。
Go!Young Men!!」
ジョン軍曹の発する命令に応じて、殆ど条件反射的に俺は走っていた。頼もしくも断続的な射撃音が、一大爆発音を最後に聞こえなくなっても、走り続けた。
銃弾は一発も近くに飛んでこなかった。
いや、飛んできていても気付かなかっただけ、かも知れない。兎に角俺は、走って、走って、走り続けた。
気が付くと、銃声も爆発音も止んでいた。聞こえるのは俺の荒い息だけ。俺は足を止め、しばらく辺りの様子をうかがった。何も聞こえない。誰もいない。俺だけだ。敵も、味方も居ない。
勿論、軍曹殿も。最早この世に居るとも思えない。「幽冥境を分かつ」とは、この事か。あの命令が軍曹殿最後の命令、ってことになる。
今頃になって、俺は気づいた。そう言えば、軍曹殿の命令に、俺は復唱していなかった・・・復唱し損ねた。
今更ながら、ではあるが、命令は命令だし、復唱は復唱だ。
勿論、軍曹殿も。最早この世に居るとも思えない。「幽冥境を分かつ」とは、この事か。あの命令が軍曹殿最後の命令、ってことになる。
今頃になって、俺は気づいた。そう言えば、軍曹殿の命令に、俺は復唱していなかった・・・復唱し損ねた。
今更ながら、ではあるが、命令は命令だし、復唱は復唱だ。
「軍曹殿。俺は、イキますよ。」
遅蒔きながら復唱した俺は、警戒し、駆け足はやめたモノの、前進を再開した。
明日に向かっての、前進を。
明日に向かっての、前進を。
激闘
日本亡命政府が米国はじめとする世界中・・・少なくとも西側自由主義世界の支援を受けて、中国共産党政権にたいする反撃を開始したとしても、いったん占領された我が国土を奪還するのは容易なことでは無かろう。何しろ、渡洋侵攻というのは前作で先述の通り難事中の難事であり、その渡洋侵攻なくしては我が国土の奪還はあり得ないのだから。
で、その渡洋侵攻という奴は、先述の通りくどいようだが難事中の難事だ。これを成功させるには、我が国地下抵抗組織の力が、必要である。全力かどうかは議論の余地があるが(*1)。第2次大戦中最大の渡洋侵攻(にして、今日までも史上最大の侵攻作戦)のルマンディー上陸作戦に於いてもフランス地下抵抗組織(レジスタンス)向けに暗号指令を出していたことは、ヴォードレールの詩の一節「秋の日の、ヴィオロンのため息の。ひたぶるに、身にしみて、うら悲し。」と共に有名である。
であるならば、前章第4幕で描いた「地下抵抗組織の損害」にも関わらず、本土奪還へ向けて我が国地下抵抗組織の活動は活発化すべきだろう。その結果は、恐らくは人民解放軍側ばかりでなく我が方の損害増大である。ココで言う「我が方の損害」は、地下抵抗組織自身のみならず、恐らくは無関係であろう無辜の市民の損害を含む。
許容しているわけでも、是認している訳でもない。ただ、人民解放軍が我が国民を、少なくとも一定数を相当な公算で「虐殺する」であろう事は、十分あり得る。しこうして、左様な「虐殺」に、「無辜の市民の犠牲」に、耐えて、乗り越えて、我が国土、我が主権を取り返す覚悟が必要であろうと主張しているのだ。
逆に言えば、我が国土、我が主権を、人民解放軍・中国共産党政権から奪還することには、「日本人/民間人虐殺」を覚悟する価値がある、と。「恥辱をおそれ、戦を忌避する者は、いずれ恥辱と戦の両方にまみれることになろう。」ーカーゼル侯@「GATE 自衛隊彼の地にて斯く戦えり」ー
その覚悟と、恐らくは犠牲の上にしか、我が国土・我が主権の奪還は、ならない、だろう。<注記>(*1) 全力をココで発揮して、渡洋侵攻が失敗したら、目も当てられない。
第5幕 奪還
「史上最大の作戦」。古い映画だ。
何しろ出演しているがジョン・ウエインだの、ヘンリー・フォンダだの、映画がまだ元気だった頃のスターたち。おまけにモノクロだ。トーキー・音声入りでもあり、そのためミッチミラー合唱団が歌う挿入歌も有名になったが、古い映画であることに変わりはない。
題材も新しいとは言えない。第2次大戦。ヨーロッパ大陸への大陸反抗本格化の端緒となる、フランスはノルマンディーへの渡洋侵攻=上陸作戦を、ドキュメンタリー的に描いた映画だ。原題はthe Longest Dayで、原題は「連合軍の上陸作戦初日が、ドイツ軍にとっても連合軍にとっても、最も重要な日、最も長い日になるだろう。」と言うドイツ軍ロンメル元帥の台詞から来ている。これを「史上最大の作戦」と翻訳したのは誰か知らないが、映画自身はともかく、ノルマンディー上陸作戦をモノの美事にタイトルにしている。
何しろ出演しているがジョン・ウエインだの、ヘンリー・フォンダだの、映画がまだ元気だった頃のスターたち。おまけにモノクロだ。トーキー・音声入りでもあり、そのためミッチミラー合唱団が歌う挿入歌も有名になったが、古い映画であることに変わりはない。
題材も新しいとは言えない。第2次大戦。ヨーロッパ大陸への大陸反抗本格化の端緒となる、フランスはノルマンディーへの渡洋侵攻=上陸作戦を、ドキュメンタリー的に描いた映画だ。原題はthe Longest Dayで、原題は「連合軍の上陸作戦初日が、ドイツ軍にとっても連合軍にとっても、最も重要な日、最も長い日になるだろう。」と言うドイツ軍ロンメル元帥の台詞から来ている。これを「史上最大の作戦」と翻訳したのは誰か知らないが、映画自身はともかく、ノルマンディー上陸作戦をモノの美事にタイトルにしている。
だが、まあ、そんな古い映画の邦題は、今日以降は「過去のモノ」になるかも知れない。何しろ今現在進行中の、日本本土奪還のための上陸作戦は、いくつかの点でノルマンディー上陸作戦を上回るのだから、「史上最大の作戦」のタイトルには、今後は「当時」という前置詞が必要になるはずだから、だ。我々、日本正統政府国防軍・第一海兵師団は、「新・史上最大の作戦」の一翼を担う、訳だ。
本来ならば「主役」と言いたいところだ。我らが師団長殿こそ、ジョン・ウエイン級であってしかるべきだが、そうはなっていない。我々の装備も、航空支援や火力支援、電子支援も、情報通信ネットワークも事前の敵前情報も、かなりの部分米軍頼みや米軍仕様ないし米軍お下がりであり、見た目では日本軍か米軍か判別しがたいぐらいだから。
だが、この身と、この身に受けた訓練と、我が魂とは、日本人であり、日本のモノだ。
そのことを、この左胸と右腕に付けた夜目にも鮮やかな日章旗と旭日旗が、無言のうちに語っている。「良い目標にされるんじゃないか」という陰口もあるが、「日章旗・旭日旗を”良い目標位にされる”ならば、それはそれでAspectable Risk(受容できる危険)だろう」と、俺自身は納得し、部下にも訓示している。正直なところ死にたくはないし、部下はもっと死なせたくないが、この日章旗・旭日旗を外した状態で、日本本土、もとい、皇土の土を、再び踏みたくはない。
「これが男の、花道ってモンよ。」
第6幕 恩賜
俺は煙草を吸わない。吸ったこともない。
両親によると、喰ったことはあるらしい。まだ物心つく前に、当時ヘビースモーカーだった父のタバコを悪戯して、喰ってしまった、らしいのだ。ちなみにタバコ一本には、致死量の約20倍、つまり大の大人20人を殺せるだけのニコチンが入っているそうだ。
そんな「恐ろしい」タバコを喰ってもなお俺が生き延び、こうして未だ五体満足でいられるのは、俺に毒耐性があったから、ではなく、タバコのニコチンがそのままでは水に溶けないから、らしい。
五体満足・・・・今では、そうとも言い切れないな。あの祖国奪還作戦の第一歩、「今度こそ史上最大の作戦」成功の些細な代償の一つが、俺の右腕だったから。
作戦成功の代償が余りに些細だったからか、俺の右腕一本の価値は相対的に高くなったのだろう。「隻腕の指揮官」「レッドビーチの英雄」なんて二つ名を頂き、ニュースになる、再現映像になるのはまだしも、小説にマンガに、アニメに、ドラマ。果てはハリウッドから映画化独占権の打診まで来たと聞いた。
確かに俺はレッドビーチで受けた銃弾が元で右腕を失ったし、銃弾を受けても部下の指揮を執っていた。
でもそれは、正直、心底、「怖かった」からだ。たかが右腕に食らった弾一発(当初は、右腕まるごと失うなんて、考えてなかった。いや、そんな想像、する事を拒否していた。)で部下を見捨てて後方に下がり、あげくに部下たちが全滅したら、と想像すると、怖くて怖くてたまらなかった。
その恐怖に比べたら、医療資格を持つ部下の意見具申も、弾を受けた右腕の痛みも、上官の罵声さえも、ほんの些事だった。ああ、最後者は、程なく「聞こえなくなった」のも、幸いだったな。おかげで指揮を続けられたし、部下の損害も、何とかこの身に背負える程度に収まった。部下のご遺族を前にして、「レッドビーチの英雄」って徒名が少なからず役に立ったことも、認めない訳には行かないな。だが、そんな徒名が欲しくて指揮をとり続けた、訳じゃぁない。
両親によると、喰ったことはあるらしい。まだ物心つく前に、当時ヘビースモーカーだった父のタバコを悪戯して、喰ってしまった、らしいのだ。ちなみにタバコ一本には、致死量の約20倍、つまり大の大人20人を殺せるだけのニコチンが入っているそうだ。
そんな「恐ろしい」タバコを喰ってもなお俺が生き延び、こうして未だ五体満足でいられるのは、俺に毒耐性があったから、ではなく、タバコのニコチンがそのままでは水に溶けないから、らしい。
五体満足・・・・今では、そうとも言い切れないな。あの祖国奪還作戦の第一歩、「今度こそ史上最大の作戦」成功の些細な代償の一つが、俺の右腕だったから。
作戦成功の代償が余りに些細だったからか、俺の右腕一本の価値は相対的に高くなったのだろう。「隻腕の指揮官」「レッドビーチの英雄」なんて二つ名を頂き、ニュースになる、再現映像になるのはまだしも、小説にマンガに、アニメに、ドラマ。果てはハリウッドから映画化独占権の打診まで来たと聞いた。
確かに俺はレッドビーチで受けた銃弾が元で右腕を失ったし、銃弾を受けても部下の指揮を執っていた。
でもそれは、正直、心底、「怖かった」からだ。たかが右腕に食らった弾一発(当初は、右腕まるごと失うなんて、考えてなかった。いや、そんな想像、する事を拒否していた。)で部下を見捨てて後方に下がり、あげくに部下たちが全滅したら、と想像すると、怖くて怖くてたまらなかった。
その恐怖に比べたら、医療資格を持つ部下の意見具申も、弾を受けた右腕の痛みも、上官の罵声さえも、ほんの些事だった。ああ、最後者は、程なく「聞こえなくなった」のも、幸いだったな。おかげで指揮を続けられたし、部下の損害も、何とかこの身に背負える程度に収まった。部下のご遺族を前にして、「レッドビーチの英雄」って徒名が少なからず役に立ったことも、認めない訳には行かないな。だが、そんな徒名が欲しくて指揮をとり続けた、訳じゃぁない。
正直、心底、本当に、怖かったんだ。俺は。
そんなことは、あの親父ならばとっくにご存知だろう。あの世とやらからレッドビーチへ観戦に来ていたか、否かはわからないが。その後の報道やら動画化やらの「英雄騒動」と、俺という「彼の息子」の実像とか、どこまで乖離して、どこが接点・共通点になっているか、相当な確度で推定できたに違いない。
「そうだろう、親父。」
俺は一升瓶の栓を抜き、景気よく「親父」=我が家累代の墓標にぶっかけながらつぶやいた。
左腕一本の生活にも大分慣れた。「動く義腕」というのも最近は随分良くなったそうだが、今一つ信用できないから、俺の右腕=義腕は見た目は良くできているが、俺の意志ではピクリとも動かない「まがい物」だ。
一升瓶が空になり、先に立てていた線香の煙がいくらか薄くなると、今度は鞄からタバコの箱を取り出す。箱の封は既に切ってあるから、軽く振れば、2、3本が箱の口から頭を出す。そのうちの一本を取り出し、かつて親父が愛用していたライターで点火してから、そっと墓前に立てる。
風がほとんどないので、タバコの煙はほぼ垂直に白く立ち上る。タバコの中程についた、菊の御紋の金色との対比が、実に鮮やかだ。
「恩賜の煙草ってヤツだよ。
禁煙の誓いを破るには、十分な理由じゃないかな。」
左腕一本の生活にも大分慣れた。「動く義腕」というのも最近は随分良くなったそうだが、今一つ信用できないから、俺の右腕=義腕は見た目は良くできているが、俺の意志ではピクリとも動かない「まがい物」だ。
一升瓶が空になり、先に立てていた線香の煙がいくらか薄くなると、今度は鞄からタバコの箱を取り出す。箱の封は既に切ってあるから、軽く振れば、2、3本が箱の口から頭を出す。そのうちの一本を取り出し、かつて親父が愛用していたライターで点火してから、そっと墓前に立てる。
風がほとんどないので、タバコの煙はほぼ垂直に白く立ち上る。タバコの中程についた、菊の御紋の金色との対比が、実に鮮やかだ。
「恩賜の煙草ってヤツだよ。
禁煙の誓いを破るには、十分な理由じゃないかな。」
そう、俺が悪戯して煙草を喰っちまい、大騒ぎした後、母は親父の喫煙習慣を非難した。
親父はその非難を最後まで、くわえ煙草で黙って聞いていたが、聞き終わると半分ほども残っていたその煙草を、灰皿にすりつぶすように消した、んだそうだ。その煙草が、親父の生涯最後の煙草だった。
いや、その後親父は結構長生きしたんだが、その後の生涯、まだ手元に在庫のあった煙草にも一切手を着けずにいつの間にか処分してしまった。
誰に宣するでもなく、なにを言うでもなく、ただ、「生涯禁煙」を実行した。「不言実行」を絵に描いたような禁煙だった。
親父はその非難を最後まで、くわえ煙草で黙って聞いていたが、聞き終わると半分ほども残っていたその煙草を、灰皿にすりつぶすように消した、んだそうだ。その煙草が、親父の生涯最後の煙草だった。
いや、その後親父は結構長生きしたんだが、その後の生涯、まだ手元に在庫のあった煙草にも一切手を着けずにいつの間にか処分してしまった。
誰に宣するでもなく、なにを言うでもなく、ただ、「生涯禁煙」を実行した。「不言実行」を絵に描いたような禁煙だった。
ついさっき、俺が恩賜の煙草を墓前に備えるまでは、だが。
「陛下から、手ずから賜った恩賜の煙草だよ。
俺、”自分は吸いませんから。”って断ろうとしたんだけどさ。
”父上が、お好きでしたでしょう。”って・・・」
俺、”自分は吸いませんから。”って断ろうとしたんだけどさ。
”父上が、お好きでしたでしょう。”って・・・」
独り言だってのに、我知らず涙声になる。
いや、それどころか、あのときのことを思い出すだけで、総毛立つような感動が蘇ってくる。だから、普段は、極力思い出さないようにしているシーンだ。任務の支障になり兼ねない。
いや、それどころか、あのときのことを思い出すだけで、総毛立つような感動が蘇ってくる。だから、普段は、極力思い出さないようにしているシーンだ。任務の支障になり兼ねない。
陛下のお言葉を、「どうせ事前に調べてあった、演出だ。」と断じることは出来る。「所詮はやらせ、パフォーマンスだ。」となじることも。
だが、そう断じ、そうなじるそばから、もう一人の俺が、もっと奥の方にいて、普段は滅多に出て来ない方の俺が、断言する。
「それがどうした。
陛下は、陛下。勅語は、勅語。恩賜は、恩賜。
それ以上でもなければ、それ以下でもない。
否。”それ以上”なんてモノが、どれくらいあろうか。」
そう、断言する。強く、確かに。微塵の迷いも疑いもなく。.
陛下は、陛下。勅語は、勅語。恩賜は、恩賜。
それ以上でもなければ、それ以下でもない。
否。”それ以上”なんてモノが、どれくらいあろうか。」
そう、断言する。強く、確かに。微塵の迷いも疑いもなく。.
箱の残りの煙草を一本ずつ点火しては、墓前に並べた。何十年振りかの禁煙破りには少々きつそうだが、なあに、もう肺もないんだし、肺ガンの心配もない。煙草本来の楽しみ方(であろうと推定する)「煙を楽しむ」事が出来るだろうさ。
しばらくその様子を眺めてから、俺は立ち上がった。空の一升瓶と、煙草の空箱。ライターにマッチ。忘れ物はないな。
「それじゃぁ、また来るよ。」
「恩賜の煙草の使い方」としては、少々邪道、否、詭道だったかも知れないが、親父の供養にはなったろうさ。
いや、それ以上に、陛下の大御心にそったろうって処が、大きいか。
大陸崩壊
前にもどこかで書いたと思うが、エンターテイメントの基本はハッピーエンドだ。サスペンスモノとかスリラーなどの一部に「余韻を残したエンディング」として「ハッピーならざるエンディング」が歓迎される場合もあるが、(*1)、それも「広い意味でのハッピーエンド」だろうと、私(ZERO)は思っている。であるならば、この小説「次の次の一戦」のエンディングが「祖国奪還=日本復活」以外には、あり得ない。あるはずがない。あるべきではない(*2)。
なればこそ、前記の第5幕は日本奪還上陸作戦前夜を描き、続く第6幕はチョット端折るが日本奪還後の「故郷への墓参り」を描いた。登場人物=第6幕主人公の右腕には犠牲になっていただいたが、ハッピーエンドであることには、まず異論はないだろう。
ああ、油断は禁物か。「日本なんて、さっさと中国共産党様の支配下に入ってしまい”日本”なんて国号も、天皇制も、忘却の彼方に去ってしまえば良いんだ!」と考える日本人だって、居るだろうからな。その多寡はともかく。だが、私は血の赤い日本人だ。我が国、我が国の歴史に対する愛国心も、陛下に対する思慕心とも言うべき「天長恋い(*3)」も、人一倍持ち合わせている。だから、私(ZERO)の描く「次なる日中戦争」の最終的エンディングは「我が国が、我が国であり続けること」以外あり得ない。たとえ前記第5幕で描いた日本本土奪還作戦の端緒「新史上最大の作戦」が失敗に終わったとしても、また、その結果ついにアメリカ合衆国が中国共産党の前に膝を屈することになったとしても、さらには、中国共産党が陛下並びに皇族全員の弑殺・暗殺に成功したとしても、このことは変わらない。って事は、小説「次の次の次の一戦」を書くとしたら・・・(to be cotinued?)<注記>(*1) たとえば、パニックモノのエンディングに、次なるパニックへの予兆・予感を含めておく、とか。怪奇モノのエンディングで、その怪奇もののなかで倒された怪異の復活を示唆するとか。初代ゴジラのエンディングは、「あのゴジラが、最後の一匹とは思えない・・・」と言う有名な台詞ではなかったっけ。これも、ハッピーならざるが歓迎されるエンディング、だろう。(*2) 急いで懺悔しよう。前作「新・次の一戦」のエンディングの一部は、ハッピーならずして余韻予兆を抱かせるエンディングだった、と。(*3) 古風な表現で、滅多に聞く言葉でないことは認めるが、これ以上に適した表記法を、私は知らない。私が知らないだけ、かも知れないが。