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 「戦場での女性の運用を試す」という、もっともらしくも誠に好都合な(*1)設定で編成された「ドイツ軍 親衛隊 第502猟兵大隊特務救助猟兵小隊シェイファー・ハウンド(*2)」を舞台とし、第2次大戦後半の欧州戦線を背景として描かれるマンガ「シェイファー・ハウンド」。今回取り上げるのは新刊の4から5巻で、時代背景的には1944年半ば。連合軍による史上最大の作戦・ノルマンディー上陸作戦(*3)前夜だ。上陸作戦に先立ち、特殊部隊を送り込んで混乱を狙うのは王道・常道だが、今回連合軍側=敵側でフランスに侵入する(つまりは悪役、敵役)は、英国の空挺特殊部隊SASである。「イギリスらしい」と言えば「イギリスらしい」のだろうが、指揮官は貴族主義丸だしの貴族で、部下配下の犠牲なんざ屁とも思っていないイヤな奴。そのためかそのキャラも、金髪(多分)ストレートのロングヘア(って、この髪型でどう空挺降下するんだ?)ながら、チンチクリン。ナイスバディの美女美少女ぞろいの本作の中では、かなり「異彩を放って」いる。(*4)その分、副官だか腰巾着だかをつとめる二人等が、「やっぱり美女・美少女ばかり」で固められているが。アニメ「ガールズパンツァー」もそうだけれど、第2次大戦の戦車兵ったら整備から装填まで筋力勝負だらけで、とても「女の子」には向かないんだがね(*5)。

 ただし、雑魚キャラ=SASの歩兵部隊は、ガスマスクをつけた男性兵士ばかり(*6)。ガスマスク着けっ放しなものだから、没個性だし、殆ど「スターウォーズ」のストームトルーパー(*7)扱いだ。何という女尊男卑であろうか(*8)。
 物語は前2から3巻でシェイファーハウンド隊に全滅させられた米軍特殊部隊グレイフォックスの遺体が英国に到着するところから始まる。遺体到着に居合わせた英国SAS「アシッド・オウル」の「イヤな」隊長(と、腰巾着ら)は、回収された遺体を文字通り足蹴にして、「遺体回収する暇があったら、敵を倒せ」とのたまい、シェイファーハウンド隊を「今度の狩りの獲物にする」と宣言する(*9)。
 欧州第2戦線展張・ノルマンディー上陸作戦に先立つ破壊工作の一環として、配下の犠牲を省みない「悪天候・夜間のみを利用して、護衛なしの小規模上陸作戦」(*10)重装備・戦車(*11)などと共に欧州本土・フランスに上陸したSASは、SASの常道として夜間に飛行基地を奇襲。タイガー戦車修理のために居合わせていたマリー等3人は、短砲身型Ⅳ号戦車F1型による奮戦かなわず「血祭りに上げられて」しまう。具体的な描写は少ないが、全裸に剥かれて首吊り状態なおかつ相当な出血もあるから、「惨殺された」のは間違いようがない。

 部下の惨死体に動揺し、復讐心を募らせる主人公(一応)ユート小隊長。これに対し、「憎悪という感情で動くユートも、戦争を”狩り”=趣味と断じるSASも、素人だ。」と断じる「ヒロイン」カヤ副小隊長。「奴らに、戦争を教えてやろう。」と、どこかで聞いたような台詞(*12)を決めるカヤ副小隊長等は、SASアシッド・オウル討伐作戦を開始する。

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 ネタばらしになるといけないので詳しくは書けないが、「戦争」を「狩り」とし、「圧倒的な優位の下に獲物を屠る楽しみ」と規定した時点で、「素人」かどうかはともかく、「シェイファーハウンド隊の勝利」=「SASアシッド・オウル隊の敗北」は「決していた」と言えよう。それだけSASアシッド・オウル隊隊長の「読みが浅い」とも言えるし、「それだけ相手を舐めていた」=傲岸不遜だった、とも言える。或いは、「ファントム」に於いて大戦術家アインが見せた「巧妙な誘い」にも比肩しうる、戦術の妙、と言うべきか。
 
 「合戦そのものは、それまで積んだ事の帰結よ。
 合戦に到るまで何をするかが、俺は”戦(いくさ)”だと思っている。」
ー織田信長@ドリフターズー

 挙げ句の果てにSASアシッド・オウル隊隊長殿、被弾した戦車(それも部隊の中核をなすチャレンジャー巡航戦車 )も指揮権も放棄して逃げ出し、自分一人(*13)降伏しようとするものだから、カヤ副小隊長の逆鱗に触れる事になる。まあ、「卑怯者にはふさわしい最期」と言えるだろう。
 「死者には、ふさわしき贈り物を」ー刑事コロンボー

<注釈>

(*1) 蛇足だろうが、「もっともらしい」のは「人口の半分が女性だから」。古今東西「兵役につくのは男性」が通り相場で、女性にまで兵役があるのは(私の知る限り)北朝鮮とイスラエルぐらい。故に、「戦場での女性の運用を試す」と言うのは、実に「もっともらしい」。

 「好都合」なのは、そりゃ「登場人物が女性だらけで、絵柄的に華やかになる」から。「若くて容姿端麗ナイスバディの美女・美少女ぞろい」にするのには、ちょっと説得力不足だが。「戦場での女性の運用を試す」のに、「若い女性ばかり」と言うのは不合理だし、「容姿端麗ナイスバディの美女・美少女」ばかりである理由には、全くならない。 

(*2) 多分、正確には複数形だろうが、より正確にはドイツ語であるべきだな。 

(*3) 開始は6月6日だ。 

(*4) と、言うよりは、「半ば妖怪」に近い。
 
(*5) であるのに、「女性の嗜み、戦車道」ってのは・・・長刀が女性の武道とされるのには、相応に合理性があるんだぞ。 

(*6) イヤまあ、軍隊はこれが普通なんだが。 

(*7) この呼称自体は、第1次大戦末期のドイツ軍が先進的な浸透戦術で戦況打破を狙ったStoss Troppen突撃兵 の「捩り」だと思うが。 

(*8) 主人公であるはずのユート小隊長はじめとして、本策における男性の地位は、誠に低い。
 
(*9) 3巻末尾で予告編に使われた、妖怪じみたほどの邪悪な笑みを浮かべつつ。 

(*10) 一番気に入らないのは、「犠牲を出す作戦を敢行している」ことではなく、「出る犠牲を意に介さない」ところなんだがね。 

(*11) たぶん作者の趣味であり、読者の要望でもあろうが、特殊部隊が戦車を装備するってのも、変な話なんだが。それも、前回・グレイオックス隊のの戦車は「空挺戦車」と言う理屈が成り立っていたが、今回SASアシッドオウル隊の装備は、クロムウエルにチャレンジャーにファイアフライと来ているから、堂々たる「主力戦車」だ。 

(*12) 「教育してやれ」は、小林源文作「黒騎士物語」の黒騎士中隊長 バウアー大尉の決め台詞だ。
 
(*13) それまでに、配下のSASアシッド・オウル隊は、粗方全滅しているのだが。