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 我が国における「マンガ」の歴史というと、鳥獣戯画にまでは(少なくとも)遡れそうである。もっとも、ご承知の通り鳥獣戯画は「一枚絵」で「コマ割」なんてものが(明白には )無いから、ある種「一こまマンガ」。現代的な上下方向4段の「コマ割」フォーマットを定めたのは、大漫画家・手塚治虫氏だったというが、田の字型4コマフォーマットの方はさらに遡る、そうだ(*1)。「起承転結」各1コマで描くのを基本とするのが四コママンガではあり、それ故に「マンガの基礎」として、手塚治虫氏も推奨していた処である。尤も、サザエさんやスヌーピーなどでもそうだが、「4コママンガ」として各4コマは独立しているものの、登場人物や背景を一貫させることで長編ストーリーマンガに準じたストーリーを展開することは可能であり、さあればこそ「4コママンガ専門誌」なんて雑誌も商業的に成立するのだろう(多分(*2))。
 
 今回取り上げる「孔明のヨメ」は、そんな「4コママンガを重ねて長編ストーリーを描き出す」マンガの一つ。長編も長編、背景にあるのは大作「三國志」だ。
 
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  漢帝国崩壊後の混乱する支邦大陸(*3)で、劉備玄徳を頭に、関羽・張飛が両脇を固め、軍師・諸葛孔明の神算鬼謀が炸裂する・・のは大分後の話。諸葛孔明未だ無位無冠。研究も兼ねて田畑を耕し(*4)、弟・諸葛均(*5)と自給自足の二人暮らし。「隠遁」というより「仙人」に近いような孔明が、ひょんな事から名家・黄家の一人娘・月英と婚約が決まってしまう処から、話は始まる。むろん、タイトル「孔明のヨメ」が示すとおり、この「ひょんな事で婚約が決まってしまう」黄月英こそが、主人公・ヒロインである。
 
 大名家(だいめいけ)の一人娘と生まれながら、学問工作大得意で、その代わり料理裁縫まるでダメなヒロインは、黄家の財産と名跡目当てでやって来る婚約候補者たちを、文字通り「鬼面人を驚かす」などして(*6)断り続けていた。赤い巻き毛につぶらな瞳。「西域美人(*7)」だそうだが、当時の支邦大陸では「美人の要素が一つもない」と自認する月英さんは、早くに母を亡くし、父を助けようと始めた学問に夢中・熱中。孫呉の兵法に通じて、屋敷の防衛設備を自ら設計制作してしまう兵法家。おまけに武器さえ持っていれば、まず誰にも遅れを取ることはないと言う武闘家(*8)でもある。武闘家として武の道を実践するという点では「孔明以上の兵法家」とも言い得よう。
 
 その「孔明以上の兵法家」月英お嬢さんが、「大軍師としての片鱗を見せつつ未だ無位無冠」の孔明に嫁して、「学問の同志」として新婚生活を始め、様々な人と出会い、事件に巻き込まれるる・・・ある種「ハートフルコメディ」であるから、「ラブコメ三国志」なんて評価もできそうな作品で、「さりげなく」というか「無理矢理に」というか、関羽・張飛との出会いも、1巻には用意されている(*9)。尤も、「ラブ」と「コメ」はほぼ分離されていて、三角関係だの浮気だのは殆ど出て来ない。
 
 唯一の例外が、孔明の学問所での先輩に当たる徐兄の母・徐母だろう。「孔明の先輩の母」だから、40はとうに越えた大年増のはずだが、若作りでとともそうは見えない。それどころか「挨拶もなしに嫁をもらった」と孔明をなじる様を見た新妻・月英さんが「孔明の愛人」と勘違いしてしまうほど(*10)。つまりはそれだけ色っぽいと言うことだろう。ギャグマンガなので、口元のほくろぐらいにしかその「色っぽさ」は表れないが。
 
 「俺の好みは、巨乳だ。」 龐士元
 
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裏表紙遠景。料理皿両手に微笑んで居られるのが徐母さん
 
 だが、この「フェロモンムンムン(多分)大年増」徐母さんは、女将として居酒屋を一人で切り回し、女手一つで徐兄を育て上げた上、一時は任侠に堕していた徐兄をあれこれ画策して(多分(*11))学問所に送り込み(*12)、正式な役人ではないが一角の人物に育て上げた肝っ玉母さん。非があれば元任侠の徐兄をいきなりひっぱたくのは「母親特権」としても、「息子の友達は皆息子」とばかりに、結構な高級官僚である龐士元をも「店の食材買い出し」に有無を言わさず走らせる「カリスマ」ぶり。まあ、同時に孔明も、「実の息子」徐兄も走らされているのだが、「スゴい人」であることに変わりはない。ただ単に「スゴい」のではなく、愛情と母性の塊なのだろう。
 
 その「愛情と母性の塊」徐母さんが、「愛人疑惑」が孔明の説明で解け、「孔明の母とも言える人」と聞いたヒロイン・月英さんの「母に対する拝手の礼」を受けた上、「私の母も既に他界して居りませんから、こうして御挨拶(拝手の礼)出来るのが嬉しくてと聞かされた日にゃぁ、堪らない。
 
 アンタもう私の娘に決定!!」 徐母
 
 そりゃ「息子の友達は皆息子」ならば、「息子の友達の嫁は娘」というのは、理屈ではあるが。
 
 本作品で最も残念に思うのは、「こんなノホホンラブコメ状態は、時代背景的に長く続かないのではないか」と言うこと。3巻では「曹操の陰謀」と、それに対し奮起する孔明・徐兄・龐士元の姿が描かれる。奮起させたのは、ヒロインだから当然かも知れないが、月英さんだ。
 
 すげぇ破壊力」 龐士元

 
 だが、やがて孔明は劉備玄徳の元へ馳せ参じ、大軍師として腕を振るい、さらには玄徳亡き後の蜀を背負って玄徳の息子だが無能な君主に仕えなければならない。そんな状況を背景に月英さんとイチャイチャラブラブという訳に行くとは、私(ZERO)には想像しがたい。
 
 無論、「私(ZERO)には想像しがたい」だけで、作者・杜康 潤氏が「私(ZERO)の想像を越える」可能性はある。否、むしろ、「孔明のヨメ」が長期連載されて、「私(ZERO)の想像を越えて欲しい」と、願うものである。
 
 見てみたいものだ。月英さんの「孔明の墓参り」シーンを。映画「黄色いリボン」のジョン・ウエイン墓参りシーン以上の名シーンとして。
 
 今日、初めて背広というものを買ったよ。」 ジョン・ウエイン@「黄色いリボン

 

<注釈>

(*1) こう言うとき、ウィキペディアは便利だ。事前に何の知識もなくとも、それらしく蘊蓄垂れられる。
 逆に行えば「それらしい蘊蓄」なんざぁ、いかに当てにならないか、でもある。 
 
(*2) 「読者からの投稿を元に、4コマ漫画化する」なんて手法もあるから、そう話は単純ではないが。 
 
(*3) なにも支邦大陸の混乱は、珍しいものではないが。 
 
(*4) 水田は、無いようだが・・・ 
 
(*5) マンガでは偉く家庭的な「主夫」として描かれるが、この人って、一角の武将じゃなかったっけ? 
 
(*6) そりゃ適齢期の女性が鬼面をつけていると言うのは、意外・予想外ではあろうけれど、それだけで逃げ出す婚約者候補ってのも、どうよ。 
 
(*7) の割には、ツルペタだそうだが。ギャグマンガなのであまり気にならない。ああ、背丈も低いそうだが。こちらは長身の孔明との対比が、多少目立つかな。 
 
(*8) チンチクリンでツルペタではあるけれど。そういえば、アマゾネスは弓を引くために片側の乳房を切り落としていたと言うから、弓を引く上ではツルペタの方が有利だな。でも、月英さんが使うのは、投げナイフとボウガンの様だぞ。 
 
(*9) ついでに言えば、ドラマCDも発売されて、この1巻に相当する部分が音声ドラマ化されているらしい。
 ってことは、徐兄&徐母はまだ登場しないのか。残念。
 
(*10) まあ、ストレートの黒髪と巨乳に対するコンプレックスのなせる業、とも解釈しうるが。
 つまりは徐母・姉御は巨乳で黒直毛だ。 
 
(*11) 「学問する」のが、金持ちの男にほぼ限定される特権だった時代だ。 
 
(*12) 任侠やっていた徐兄も、徐母さんにだけは頭が上がらなかったと見える。ま、徐母さんのことだから任侠組織への「落とし前」も、自分でつけてしまいそうだが。