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歴史上の人物たちが、大抵はその死の間際に(*1)タイムスリップしてご来店し、毎回無理無体な料理を所望するフランス料理レストラン「ヘブンズ ドア(*2)」。オーナーシェフの園場凌(そのばしのぐ)が、同僚シェフの御奴心(みやつひかり)や「歩く翻訳こんにゃく」前田あたり、バイトの女子高生(*3)有賀ちか等と共に、その無理難題を鮮やかに・・・とは限らないが、何とかかんとか解決する、「最後のレストラン」。その最新刊・4巻が発売された。

今回のお客様は、合衆国大統領リンカーン、戦前のプロ野球選手・澤村投手、インド建国の父・ガンジー、騎士中の騎士・リチャード獅子心王。

だが、キャラとしてはレギュラーになってしまった安徳天皇・言仁様がなんと言ってもピカイチだ。南北戦争は終結したものの、国として、指導者として「威厳はあるが権威はない」状態に悩むリンカーンには無言・無形の権威を身を以て示し、断食(ハンスト、とマンガでは言っているが、どうもカタカナで書くと、軽くなる)敢行中のガンジーには、その食事を取る口実を与える。紆余曲折はあったが有賀家のお世話になることになり、小学校へも通い始めたようだ。と言うことは、安徳天皇陛下、21世紀の食材・味付けにも大分お慣れになられた、筈だ。本巻ではアップルケーキも召し上がられているし(*4)。
ああ、平安朝時代のやたらにゆっくりした喋り方はどうしたのだろう。喋る方も、聞く方も、21世紀のスピードに馴れられたのだろうか。子供は基本的に語学の天才だから、それぐらいの事はありそうであるが。
一方で、前巻では「伝説」通りの聖女ぶりを発揮したジャンヌ・ダルクが、本巻ではイギリス料理や英国国王リチャード1世( と、イケメン騎士団 )を前に、「英国嫌い」を発動。刃傷松の廊下なんざ目じゃない大剣を振り回し始め、安徳天皇直卒(勅卒?)着ぐるみ隊に取り押さえられる始末。まあ、最後はリチャード1世とも和解・相互理解出来たようだから、ハッピーエンドではあるのだが。
それにしても、澤村投手の話で草野球に駆り出され、上半身野球のユニフォームで下半身甲冑と言うのは、無理のある格好だ。まあ、老人ばかりのチームでルールもいい加減(*5)のようだから、「甲冑のために早く走れない」なんて事は、問題にならなかったのだろうが。因みにリチャード1世の話で休日に遊園地に連れて行かれた際は、さすがに甲冑ではないから、「甲冑を身につけていないと落ち着かない」訳ではないらしい。でも大剣は、どこかに(隠し?(*6))持って来ていたな。
今回ご来店のお客様四人はいずれも印象的だが、あえて順列をつけるならば、ガンジーとリンカーンが双璧では無かろうか。
「非暴力不服従」で有名なマハトマ・ガンジーは、その主張と実績がそのまま「私(ZERO)の主義主張に対する生きた反証(*7)である」と認めざるを得ない。言うなれば「我(ZERO)が主義主張上の宿敵」である。何しろヒンズー教徒と回教徒の間が険悪になった所へ出掛けて行き、そこで抗議の断食/ハンストを始めると、ヒンズー教と回教の両代表が「仲良くしますから、どうか断食はお止め下さい」と謝りに来ると言うのだから、かなわない。「無私の勝利」と言うか、聖人の聖人たる所以というか。
「そんな事は誰でも出来る訳でもなければ、いつでも出来ると期待も出来ません。」とか、「ダライ・ラマ師を以てしても、中国共産党の侵略及び蛮行は阻止できません。師(ガンジー)がご存命であったとしても、大差があるとは思われません。」とか、色々言いたいことはあるが、ガンジーの実績は実績として認めなければならない。性善説が一定範囲で実現しているからこその実績ではあるが。
そのガンジーが、凶弾命中直前にご来店したのが「ヘブンズドア」悪化するヒンズー対ムスリムの関係に抗議してハンスト/断食敢行中。そこで出されるいつものご注文は、「欲望に基づかない料理」。むろん「食欲もだめ」で、オーナーシェフの園場凌は頭を抱える・・・て、良くあることだが。
ネタばらしになるので詳細は書かないが、ここで先述の通り「言君(ことくん)」こと安徳天皇が絡んでくる。と言うか、この巻で登場するお客様の内半数(ガンジーとリンカーン)は、安徳天皇陛下がおわさなければ、「ご注文を果たせなかった」筈。陛下の御威光を誉む可きかな。
双璧のもう片方、合衆国大統領リンカーンは、男塾塾長江田島平八(*8)ばりの存在感で、暗殺現場となった歌劇場へ馬車から降り立った所からのご来店。南北戦争は終結させたものの、威厳や権限はあっても権威がない自らと合衆国大統領職を嘆き、「図体ばかり大きい三流役者」に合衆国を例える・・・ま、二十世紀も後半の「超大国」になる以前の合衆国であり、その大統領でもあるから、だろうが。
しかしながら、安徳天皇陛下の人品卑しからぬことを一目で見抜き(*9)、合衆国の名誉にかけて対応する。この辺りは「リンカーンの尊皇ぶり」と言うよりは、作者・藤栄道彦の尊皇ぶりだろう。
そのリンカーン合衆国大統領のご注文は、本当は食べたいんだが手が出せないために、「大統領が食べても恥ずかしくないアップルケーキ」。ま、園場シェフにとっては得意分野だったか、今回はさして悩むことなく安徳天皇陛下の「権威」を利用して、見事な解決を見せる。おかげでリンカーンは「権威のなんたるか」を理解し、納得したのだから、大したものだろう。
「合衆国人民一人一人が謙虚さを身につけた時、大統領は権力ではなく権威ある存在となるに違いない。」と予言するリンカーンを、その場に居合わせた全員(*10)が「それはないと思います」と全力否定するシーンは、思わず吹き出したが。
大口の常連客もついてきたようだし、経営安定を果たしたらしい(*11)「ヘブンズドア」。次回はどんな「ユニークな」お客様・ご注文か。楽しみなところだ。
<注釈>
(*1) 一部例外あり(*2) って、英語じゃん(*3) うーん、ほかにあまり説明のしようがない。ゴルゴ13級の語学力がある訳でなし。美人ではあるが「お色気担当」は御奴シェフに持ってかれたようだし。「お笑い担当」も「常に」ではないし・・・(*4) 「干し柿の方が好きじゃ」と、小さくおっしゃられているが。(*5) ストライク7つの努力賞で進塁、とか。(*6) どうやって?全長で1mはありそうな、大剣。背中に背負うことはできても、隠し持つことは難しそうだ。(*7) とうの昔に故人であり、本書にもあるとおりヒンズー過激派の凶弾に倒れたのだが。(*8) だったと思う(*9) 前田あたりさんが無表情なままかける「失礼の無いように」プレッシャーも、ありそうだが。(*10) ああ、安徳様は例外か(*11) アベノミクスのおかげかどうかは、定かではない。