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何度か書いているが、私(ZERO)は理系の人間であって、文系ではない。従って人文科学は歴史も含めて専門ではなく、主として趣味だ。だから、古代ローマの雄弁家・キケロの名言を何度か引用してはいるが、殆どその名言に依ってしかキケロを知らない、「俄かキケロ・ファン」にしか過ぎない。
だが、そんな「俄かキケロ・ファン」であっても、キケロの雄弁術(の神髄)が、東京五輪誘致の決め手となったらしいと聞けば、何やら嬉しくなると共に、「悠久の歴史」なんてモノにも思い馳せてしまう。
【Wedge】雄弁家キケロのような招致演説 雄弁家キケロのような招致演説
~東京の勝因は修辞学 「雄弁」の5原則とは~
2013年09月18日(Wed) http://wedge.ismedia.jp/articles/-/3168
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2020年東京五輪決定について、ジュネーブの大学生さんから面白い投稿を頂いたので掲載します。
まず、2020年に東京でオリンピック及びパラリンピックが開催されることを心から誇らしく思う。おめでとう、そしてありがとう。結果が発表された時の会場の歓声には思わず涙が出てしまった。スイスの大学進学国家試験を無事終えたばかりの自分にとっては嬉しさ倍増のめでたいニュースだった。
さて、東京の勝因は一体何だったのだろう? 東京は世界で最も清潔度そして安全性に優れている都会の一つであり、その文化的側面もとても魅力的だと海外でもよく知られている。しかし勝因はそれだけではないと思う。
まるで古代ローマの政治家たちの演説
私は、IOC総会での東京招致委員会代表のスピーチに圧倒された。特に、代表全員のスピーチが日本語ではなく、通訳者を介さない英語やフランス語で直接語られたのは素晴らしかった。世界を舞台にして英語やフランス語でスピーチをすることほど説得力があることはない。
また、それだけではなく私は彼らのeloquence(雄弁さ)に魅了された。まるで古代ローマの政治家たちの演説に立ち会っているようだった。
私はスイスの学校で中学校高学年から高校卒業までラテン語を専攻科目(他の学科よりも重点的に学ぶ選択科目)として選んだが、その中で古代ローマの文化はもちろん彼らの哲学、歴史、そして神話も勉強した。中でも最初に学んだのは、レトリックに最も長けていたと言われている雄弁家キケロの人生であり、彼を通してローマ人にとってのレトリックの大切さを学んだ。キケロもそうだが、ローマの多くの知的青年達はレトリックを学び雄弁家となるためわざわざギリシャまで修行に行くのがならわしで、その修行を経て初めて政治の道を歩む器として認められた。
雄弁であるための「5つの原則」
そもそもレトリックとは何なのだろう?
レトリック(修辞学)は紀元前5世紀にギリシャで生み出された言葉で説得する技巧・芸術で、その目的は雄弁、すなわち、耽美的な喜び(delectare)や感情(movere)をもって議論(docere)で説得する(suadere) ということにある。キケロにとって、レトリックは聴衆を説得するためだけでなく、個人が生きる上での倫理的、知的生活にかかわるものだった。キケロは、演説者は正直かつ話すことに長けているべきであり、歴史、哲学や詩など多面的教養が必要であると確信していた。従って、キケロが政治的側面だけでなく哲学や著作において優れていたのも当然。
明瞭な語り、身振り手振り、暗記…
日本の「決意」のあらわれ
さて、IOC総会で東京招致にむけてのスピーチをされたみなさんは、私がラテン語の授業で習った雄弁であるための5つの原則、すなわち(1)inventio(聴衆をよく説得できる立論を見つけること)、(2)disposito(より説得力を持つよう演説を構成すること)、(3)elocutio(よい表現とスタイルを用いるこ
と)、(4)memoria(暗記して話すこと)、(5)actio(聴衆に訴えかける身振り手振り、イントネーション、リズムを用いること)に則って話されていた。全ての登壇者が簡潔で分かりやすく教養あふれる立論やスタイルを用いはっきりと話され、豊かな表情と身振り手振りで聴衆の心をつかんだと思った。
例えば、安倍首相がスポーツ精神の世界的向上のためにボランティア組織を作り3000人もの若者が80カ国以上にスポーツインストラクターとして派遣されたと演説の後半に述べられたのは、日本が東京招致だけではなく世界でのスポーツ振興を長期的に支援する決意を示した点でinventioやdispositoの良い例だった。また、Tokyo is one of the safest cities in the world, now, and, in 2020.とゆっくりと明瞭に語られたところや, “choose Tokyo today”の前後の部分で豊かな身振り手振りを用いられた部分などはそれぞれelocutioやactioの良い例だと思う。
さらに、安倍首相が福島のことを冒頭に語られたときは、古代ローマ人がスピーチの冒頭でexordium(聴衆の注意をひきつける導入部)を用いていたことが頭に浮かんだ。例えばキケロが、元老院での演説の冒頭部で「みなさんに大変重要なお知らせをしなければならない。ローマでクーデターを起こそうとしている人間がいる。そしてその人物はいまこの部屋にいる」と、事前に入手したCatilinaのクーデター情報に基づいて話し、彼のたくらみを見事に阻止した例などが思い起こされる。
また、東京招致委員会代表の演説で印象的だったのは、演説者全員がスピーチを暗記されていたことだった。外国語でのスピーチを暗記するための時間と努力に思いをはせると、彼らの招致作業への深いコミットメントと固い決意とが感じられた。また、全ての演説者がゆっくりと時間をかけて聴衆を見て微笑みながら説明していたことも忘れてはいけない。安倍首相が福島はunder control でありneverdone and never will do any damage to Tokyoだとおっしゃった場面などは特に印象的だった。
聴衆を「楽しませた」スピーチ
これらは全て、演説者の自信及び歓迎の意を聴衆に伝えるのに貢献した要素だったと思う。
古代ローマの政治家は元老院や大衆の前で演説をすることが多かったが、演説者は聴衆者を楽しませることが期待されており、聴衆が時間をかけて聴くだけの値打ちがあることを証明する必要があった。現代に生きる私はこのIOC総会での東京招致委員会代表の全てのスピーチを楽しく聴き、魅了された。すべての登壇者が最高のレトリックとスタイルで聴衆をうならせたのだと思う。彼らが演説準備に割かれた努力とコミットメントを称え感謝を申し上げたい。
後世の人々がこの日のことを思い起こすとき、これらの演説が、東京が2020年のオリンピック・パラリンピック開催資格を勝ち取ることに貢献したのみならず、何千年も昔の賢人たちによって用いられた技巧・芸術の伝統を引き継ぐものであったこと思い出してほしいと願う。
歴史って素敵!
さて、如何だろうか。
ま、冒頭及び上掲記事に端的に表現されている通りだ。あちこちから称賛される2020東京五輪誘致の決め手となったIOC総会での日本勢プレゼンテーションに古代ローマの雄弁家キケロの雄弁術が活かされていると言う指摘である。
IOC総会の日本人プレゼンテーター達、即ち高円宮妃久子様、安倍首相、滝川クリステルらが「古代ローマ式雄弁術」を学び、実践したのだとしたら、それはそれで大した事であり、「キケロの御名を誉む可きかな。」とでも呟いてしまおう。正に「温故知新」を実践した訳でもあるし、タイトルにもした通り、「古代ローマの雄弁家キケロが、21世紀に蘇った」という事である。
だが、実際に安倍首相はじめとするIOC総会プレゼンテーター達が「古代ローマ式雄弁術」を学び活用したかと言うと、かなり疑問ではある。なにしろ、古代ローマはまだしも(※1)、雄弁術と言うのは日本では相当にマイナーな学問/スキルだ。
但し、プレゼンテーター達が、日本へ、東京へ、2020五輪を誘致しようと種々の研鑽努力工夫を重ねた事は間違いなかろう。
その日本人プレゼンテーターが重ねた研鑽努力の結果であるIOC総会プレゼンテーションが、「古代ローマ式雄弁術」と(偶々)符号・合致した。これならば、「大いにありそうな事」であり、納得・得心が行く。さらには、この場合もまた、「古代ローマの雄弁家キケロが、21世紀に蘇った」と言い得るのではないか。
ま、そうだとすると、「歴史は繰り返す」なんて言葉に端的に表われる通り、人類と言う奴は、人文科学的には仲々進歩しないモンだなと、新ためて再確認してしまう訳、だが(※2)。
<注釈>
(※1) いやまあ、「古代ローマはまだしも」と言い得るのは、比較的最近「テルマエ・ロマエ」の映画・漫画がヒットしたから、だが。
(※2) 逆に言うと、自然科学的・理系的には結構短期間で「進歩」してしまえる。その極端な一例が、「核戦争による人類滅亡ないし人類文明崩壊」であろう。「だからややこしい」とも言えるし、「だから面白い」とも言える。私(ZERO)は理系で、しかも基本的に楽観主義者であり、楽観主義たらんと心がけているのでね。
キケロの雄弁五原則
(1)inventio(聴衆をよく説得できる立論を見つけること)
(2)disposito(より説得力を持つよう演説を構成すること)
(3)elocutio(よい表現とスタイルを用いること)
(4)memoria(暗記して話すこと)
(5)actio(聴衆に訴えかける身振り手振り、イントネーション、リズムを用いること