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 言葉遊びでシュールなギャグを織り込んだ歌が多い嘉門達夫の歌の一つに「ジミ―&ハデー」と言うのがある。「地味」と「派手」で、「同じ○○でも、地味なモノと、派手なものがある」として、その対比・ギャップを楽しむ歌。実際に歌って盛り上げるには、歌唱力と言うより結構な演技力が要りそうだが、それでステージを盛り上げてしまうのは、嘉門達夫の芸人としての才能だろう(※1)。その歌詞は種々バリエーションがある…と言うより、殆どアドリブらしいが、そんな中に、こんなのがある。

 地味、地味。地味な実験・・・濾過。・・・濾過。

 派手な実験!核実験!!!!

 原水禁あたりから文句が来そうな歌詞だが、核実験が派手な実験である事には、原水禁とて同意するだろう(※2)。まあ、地表での核実験が禁止されて久しく、地下核実験ばかりになってしまったから、かつて盛大に火球ときのこ雲を大空の下に曝していた派手さ、は大分減じてしまったが。

 それは兎も角、「地味な実験」としては「濾過」よりもはるかに地味で根気忍耐が必要な実験がある事は、以前も記事に取り上げたところ( http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/37122631.html )。今回記事はその続報で…訃報だ。


<注釈>

(※1) って事は、カラオケや宴会で素人が歌っても、盛り上げる事は難しそうだ。 

(※2) 少なくとも、「核実験は地味だ」と主張するには、狂気に近い論理が要りそうだ。まあ、原水禁ならば、そんな論理は十八番だろうが。 



【AFP】「世界一長いラボ実験」の教授が死去、1927年に実験開始
2013年08月26日 21:12 発信地:シドニー/オーストラリア
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/science-technology/2964276/11248954

実験室で学生らとともに「ピッチドロップ実験(Pitch Drop Experiment)」の装置を囲むジョン・メインストーン(John Mainstone)教授(撮影日不明、2013年8月26日提供)。(c)AFP/University of Queensland / Christian Aas

【8月26日 AFP】 「世界で最も長いラボ実験」を行っていたオーストラリアの科学者、ジョン・メインストーン(John Mainstone)教授が前週死亡したと、所属していた豪クイーンズランド大学(University of Queensland)が26日、発表した。78歳。脳卒中だという。

メインストーン教授はクイーンズランド大の物理学部の前学部長で、1927年にトーマス・パーネル(Thomas Parnell)教授が始めた「ピッチドロップ実験(PitchDrop Experiment)」の監督責任者を52年間にわたって務めていた。この実験は、ピッチという粘弾性のある樹脂の流動性と粘度を実証するのが目的で、常温では固く、強い衝撃を与えると砕けるピッチが、長い時間をかけてガラス漏斗の中でゆっくり流れる様子を観察するというものだ。

「ピッチドロップ実験」では、ピッチが安定するまでに3年かかり、それから漏斗の下部を切ってピッチが流れ落ちることができるようにした。以降83年が過ぎたが、大学側によるとこれまでに落下したピッチは8滴だけで、落ちる瞬間を目撃した者は誰もいないという。

今年初めにメインストーン教授はオーストラリア放送協会(AustralianBroadcasting Corporation、ABC)に対し、年内に次の1滴が落ちるだろうと話していた。

現在「ピッチドロップ実験」は、9滴目のピッチが落ちる瞬間をとらえるため、3台のウェブカメラを使って常時監視が続けられている。
(c)AFP


ご冥福をお祈りすると共に、人類の英知に捧げた生涯に、敬意を表します。


 さて、如何だろうか。

 「常温では固く、強い衝撃を与えると砕けるピッチ」と言うのは、普通に考えれば固体だろう。その固体としか思えないピッチを、漏斗の中に3年かけて安定させ、その後漏斗の下端を切って、「ピッチが長い時間かかって滴下する」様子を観察する「ピッチドロップ実験」。大凡10年間に1滴落ちると言うこの実験を、52年間監督したジョン・メインストーン(John Mainstone)教授の訃報が上掲記事だ。

 先行当ブログで取り上げた記事では、「世界で一番悲しい実験」と評されていたと思うが、今回は「世界で最も長いラボ実験」とされており、表現としては随分正確になった。「ラボ実験」と限定されているのも、「フィールド実験」ならば天文学や地学で「もっと長い実験」があるから、だろう。

1>  以降83年が過ぎたが、大学側によるとこれまでに落下したピッチは8滴だけで、
2> 落ちる瞬間を目撃した者は誰もいないという。

と上掲記事にあるから、メインストーン教授は大凡5滴のピッチドロップを確認したが、遂に滴下の瞬間を目にする事無く亡くなられた訳だ。教授としては大いに心残りだろうし、私(ZERO)なら「魂魄此処に留まりて」次の一滴を見ない事には成仏できそうにないが、先人の仕事を受け継いで一つの実験に捧げた(※1)メインストーン教授の生涯には、敬意を表するべきだろう。今までの8滴分のデータでは、「ピッチの流動性」を定量的に評価するのは難しそうだが、なかなか得難い貴重なデータの蓄積である事は間違いなく、その分人類の英知に貢献しているのだから。

 しかしながら、上掲記事の白眉は、メインストーン教授の生涯もさることながら、最後の一文だろう。

3>  現在「ピッチドロップ実験」は、9滴目のピッチが落ちる瞬間をとらえるため、
4> 3台のウェブカメラを使って常時監視が続けられている。

 即ち、メインストーン教授亡き後も、ピッチドロップ実験は続行されている。トーマス・パーネル教授が始め、メインストーン教授が生涯をかけたピッチドロップ実験は、しっかり後継者に受け継がれているのである。

 少年老い易く、学成り難し。
 人の一生でも足らないような学は、世代を継いで極めていくのである。


<注釈>


(※1) 合間に他の実験を実施されて居たかも知れないが。