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奇怪な「正しい歴史認識」


 さて、如何だろうか。
 山口大学と言うのが、どの程度の大学か、私は知らない。まあ「国立大学らしいが、帝大ではない」と知るぐらいだ。なんにせよ、こんな「正しい歴史認識」をお持ちの方が副学長では、多寡が知れる、と言う他ないが。

 上掲人民網日本語版記事から、纐纈厚・山口大学副学長(※1)言うところの正しい歴史認識を抽出すると、以下のようになる。

(1)日本は、中国人民の抗日戦争によって敗北した。

(2)日本が中国戦線に投じた兵力は、米国を相手とする太平洋戦線を遙かに上回
る。

(3)軍事費の額から見ても、中国戦線への投入の方が大きい。

(4)日本の軍事力と国力は中国での抗日戦争でほぼ消耗され尽くしたのだ。

(5)先の戦争に、日本は、「中国に敗北し、米国に降伏した」。

(6)日本は米国に負けたというのは、誤解である。

 この他に「正しい歴史認識の効用・効果・御利益」について縷々述べているが、まずそれは置こう。

 先述の通り、私(ZERO)は「歴史観・歴史認識は人の数だけある」と信じ、主張している。だから、上記(1)~(6)に示された纐纈厚・山口大学副学長殿の歴史観が・歴史認識が「私(ZERO)と異なる」のは当たり前で、異とするには足らない。

 だが、史実・事実と齟齬がある点は、指摘しない訳にはいくまい。なにしろ纐纈厚・山口大学副学長殿は、歴史学者なのであるから(※2)、その歴史観・歴史認識が「史実・事実に基づいていない」なんて事があれば、それこそ沽券に係わるだろう(※3)。

 で、一歴史マニア=素人歴史学者として上記(1)~(6)の「纐纈厚学説」を見ると・・・なんじゃこりゃ?

 一言でいえば、「大東亜戦争(通称・太平洋戦争)に於いて、日本は中国に負けた」と言うのであり、しかもここでいう「中国」は国民党政府ではなく中国共産党である(らしい)。その根拠は上記(2)~(3)「投入した兵力と戦費の多さ」である(らしい)。
 上記(2)~(3)を「発見したと副学長殿は仰るし、それを以って上記(4)~(5)の通り最終結論にいたったそうなのであるが、どうにもこうにも「釈然としない」どころではない。まず第一に反問したくなるのは、損害は、太平洋地域と大陸でいずれが多いのか?である。
 賭けても良いが、こいつは愚問だ。大陸に居るのは国民党軍と八路軍(=中国共産党軍)。基本はゲリラで、消耗戦は強いても、大会戦だの決戦だのは、数える程もない。アッツ島はじめとして、多くの島々で玉砕=全滅するまで戦い続けた太平洋地域の方が、明らかに損害は大きいのに、上記(4)「国力は中国での抗日戦争でほぼ消耗され尽くしたなんて結論を、どうやって出したのやら。消耗したのは、せいぜいが、戦費であろう。
 その「戦費」も、兵員ばかりでなく兵器の損害も計算すると、かなり怪しくなる。象徴的なところでは、大東亜戦争(通称・太平洋戦争)に投入した戦艦を挙げられよう(※4)。戦争中に就役した大和級二隻「大和」「武蔵」をはじめ、我が方は12隻の戦艦を大東亜戦争に投入し、「長門」唯一隻を除いて尽く失ったのであるが、事故及び米軍攻撃による喪失艦であって、国民党軍も共産党軍も、全く関係ない。
 無論、時代は既に戦艦の時代ではなく、空母の時代なのであるが、数多の喪失空母もまた、国民党軍にも共産党軍にも無関係。その他水上艦艇も、数多の商船も失った(※5)が、「はて、国民党や共産党による損失なんてあったかな?」と言う程度。航空機の損害は幾らかありそうだが(※6)、物の数にはなりそうもない。「兵器の損失」と言う点では、太平洋地域は大陸に対し、圧倒的であると、断言出来る。
 かてて加えて、米軍が実施した戦略爆撃と機雷封鎖、はては原爆2発の投下も、指摘しない訳にはいかない。我が国が降伏に至ったのは、これらの効果であって、「大陸での消耗」は、「太平洋での戦いを苦しくする」だけの効果しか認め難い。兵力誘引と戦費消耗の効果はあろうが、通商破壊と機雷封鎖、それによるシーレーン切断に加えて戦略爆撃と原爆投下以上に「我が国の降伏を決定づけた」なんて、何をどう考えたら「最終結論」づけられるのか、想像することさえ困難だ。

 但し、上記(1)~(6)の「纐纈厚」学説が、中国共産党にとって非常に都合が良い歴史観・歴史認識であることは、良く判る。「大日本帝国を敗北させたのは、中国共産党だ!」と言う「抗日戦勝利の実績」は、今の中国共産党にとってはほとんど唯一の「存在理由」となりつつあるから、生き残りをかけて必死に喧伝したい処。そんな中国共産党に好都合な「学説」を日本人学者が公言してくれるんだ。「正しい歴史認識」と持ち上げ、絶賛したくもなろうさ。

 だが、そもそも上記(1)~(6)の「纐纈厚」学説が、史実事実を捻じ曲げ、曲解しての歴史観・歴史認識である。纐纈厚氏が、山口大学副学長と言う結構な地位にありながら、未だ「正しい歴史認識を持つ日本の若者は少ない/居ない」と悲憤慷慨せざるを得ないのは、「戦費と投入兵力」を以って「大日本帝国敗北を決定づけた」とする「学説」の説得力不足、と言うより暴論ぶり故、ではないのか。

 大体、「正しい歴史認識」なるモノは「正しい」のであるから、説得力もへったくれも、誰でも聞けば納得し、心服するものではないのか。ここでいう「誰でも」には、当然ながら私(ZERO)自身をも含める、筈だ。

 「正しい歴史認識の効用」はさらに奇怪


 さて、上記(1)~(6)の「正しい歴史認識」を持つ日本の若者は、「どう行動するべきか」をも纐纈厚・山口大学副学長殿はあれこれ言われているのだが、それを抽出すると、以下の通り。

【1】国会議員の靖国神社参拝に反対し、参拝に抗議行動する

【2】日本が米国と対等に付き合う方法を見出せる

【3】中国に代表されるアジア隣国との友好関係を構築できる。これが、日本の信頼を回復する唯一の道

 どうも、大前提らしいので、上記(1)~(6)に追加すべきなのだろう。

(7)大東亜戦争は、日本の侵略戦争だ。

 さて、上記(7)を加えた上記(1)~(7)の「正しい歴史認識」を持った者が、上記【1】~【3】の行動を、取るものか、否かを考察してみると…なんと、上記(7)「日本の侵略戦争」が上記【1】「靖国神社参拝反対運動」に一応結びつく程度。

  上記(6)「日本は中国に負けた」及びその背景を為す上記(4)、(5)を上記【2】に結び付けたいのだろうが、どこまで真面目正気なのか疑いたくなる。と言うのも、「大東亜戦争(通称・太平洋戦争)にて、日本は米国に負けた」と言うコンプレックスが、戦後しばらくは世界を二分するほどの兵力及び核兵器を擁し、今なお世界一の経済力を有する「米国の実力」よりも「日本が米国と対等に付き合えない原因」になると言う論理は、想像を絶するから。
 実際の米国は、上記の通りの実力を有する。その米国に対し「日本が対等に付き合えない」と言う事象(※7)の主因を「米国の実力と言う現実」よりも「日本のコンプレックスと言う、見えないもの」にあると、断言できてしまうのは不思議…と言うより、恣意的基準、思い込みでしか、そんな断言は出来そうにない。

 即ち、上記(1)~(7)「正しい歴史認識」と上記【2】「対米対等関係」の相関は、少なくとも客観的、明白ではない。

 上記【3】に至っては…少なくとも、「日本は米国に負けた」を「日本は中国(共産党)に負けた」に変更することによって生じる差異は、「中国共産党の、日本に対する”信頼”」だけと、断言できそうだ。上掲記事では「中国に代表されるアジア隣国」などと巧みに曖昧表現されているが、上記の差異は半島には関係ないし、中華民国に至っては逆に関係悪化しかねない。「大東亜戦争(通称・太平洋戦争)当時、大陸を支配はしていなかった中国共産党に、何故大日本帝国が敗北するのか。大日本帝国が敗北したのは、中国国民党政府ではないのか。」と。

 即ち、上記(1)~(7)「正しい歴史認識」と上記【3】「アジア隣国との友好関係」の相関は、贔屓目に行って限定的でしかない。

 大体、上記(1)~(7)「正しい歴史認識」を以って得られる「中国共産党の、日本に対する”信頼”」に、一体どれぐらい価値があるだろうか。それは露骨な阿諛追従であるが、確かに最近存在理由が怪しくなっている中国共産党にとっては「ありがたい事」ではありそうだ。
 だが、それをありがたがるのは「存在理由が怪しくなっている」間だけ。一度「中国共産党の権威」が回復し(※8)、「中国共産党支配の存在理由」が確固たるものとなれば、「正し歴史認識」なんて阿諛追従は、「強請りネタの提供」にしかなるまい。



<注釈>

(※1) 冒頭に、「文・纐纈厚・日本国立山口大学副学長」とあるから、インタビューに口頭で答えたか、書面で回答したか不明だが、文責はこの副学長殿にある、のだろう。 

(※2) 学位は政治学で取ったそうだから、ちょっと怪しいが。 

(※3) あるいは、学者生命にさえ関わる、かも知れない。まあ、山口大学なり、歴史学会なりに、一定の自浄作用があるならば、だが。
 井沢元彦氏によると、日本の歴史学会と言うところは、大御所・大学者に対しては学術的反論さえ許さない処だそうだ。これが事実ならば、山口大学副学長なんて肩書きを持つ纐纈厚氏の学者生命は、凄ぶる安泰、という事になろうな。 

(※4) とは言え、当時の戦艦は、単価では最高額の兵器ではある。

(※5) 当然ながら、その乗組員も。 

(※6) それでもその相応部分は「義勇飛行隊フライングタイガース」に依るもの。これが「中国軍の戦果」と言うのも甚だ疑問であるが、せいぜいが「国民党軍の戦果」であって、逆立ちしても「中国共産党の勝利」ではない。大体、国籍識別マークからして、今の中華民国と類似の青天白日旗だ。 

(※7) これがある程度あることは、認めない訳にはいかない。例えば、我が国には核戦争を実行する核兵器は無く、「核戦争発生の可能性」による抑止力は、米国および日米安保に頼っている。 

(※8) どうしたらそんな事が出来るかは、ちょっと想像しがたいが。