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メルケルの主張と実績


  さて、如何だろうか。

 【毎日連載記事】「メルケルの闘い」は、この後も続くのだが、「メルケルの闘い・脱原発編」は上掲2回のみである。「福島原発事故を経てなお原発推進論者」と自認する私(Zero)としては、上掲2回のみを取り上げるのが、至当であろう。

 上掲記事に現れる「メルケル、脱原発への闘い」を抜粋するならば、以下のようなろう。

(1) 2011年3月15日(東日本大震災発生後4日目)、「国内17基のうち老朽原発7基を停止」を決定。

(2) 2011年5月、「あり得ないことがあり得る。それをフクシマから学び、私は従来の意見を変えた。(事故の)映像が脳裏から離れない」と会見で発言。

(3) 福島第1原発の事故を受け、2022年までの「ドイツ脱原発」を決定。

(4) 約2万基の風車建設を計画。陸上は既に満杯・北海・バルト海の6カ所で「洋上」風力発電所を運転し、さらに29カ所の建設を急ぐ。

(5) 海がある北部から産業拠点が集中する南部まで、ドイツ国内全土で全長約3800キロの送電線の増設が必要。だが反対があり、工事が年数十キロしか進まない。

 上記(1)~(5)「メルケルの闘い」を、上掲毎日連載記事は、少なくともドイツの脱原発決断とその後の「闘い」を肯定的に報じている。それは、上掲連載2回目最後のパラグラフに、端的に表れている。

1〉  脱原発への道のりは容易ではない。電気料金高騰や、高レベル放射性廃棄物の最終処分場が決まらない問題もある。
2〉「まるでヘラクレスの課題だ」。ギリシャ神話の英雄が数多くの難題に直面した故事にたとえ、メルケル首相はそう嘆いた。
3〉 2期目の政権が決断した目玉政策の行方を、世界が注視している。

 しかしながら…脱原発原理主義の毎日新聞と、福島原発事故を経てなお原発推進論者たる私(Zero)との間に、見解の乖離・認識の断絶があるのは当然のことながら、上記(1)~(5)果たして実績・功績であろうか

 何度も繰り返しているが、ドイツは西欧の発達した電力網のお蔭で、電力の輸出入が可能な国だ。電力が不足すれば、外国から輸入できる。輸入先の筆頭は、隣国フランスの原発で、「ドイツはフランス原発の電気を買ってやっているんだ」などと言う傲岸不遜なグリーンピースだかSSだかの主張も記事に取り上げた処だ。「トータルではドイツの電力輸出の方が多い」なんて議論も在る様だが、電力が不足すれば普通は停電。それを電力輸入で停電に至らないのが「電力貿易」最大のメリット。余剰電力を外国に輸出できるなんてのは、ドイツが風力・太陽光と言う「発電量が出来高=原則制御不可能」な発電の「先進国」であるとは言え、些事だ。
 而して、「電力不足は輸入で賄える」からこそ「お気楽に」脱原発も出来る。私(Zero)が「ナンチャッテ脱原発」と揶揄する所以だ。

 因みに、ドイツの原発は17基中9基が未だ稼働中。稼働停止した8基とて「廃炉にする事が決まった」だけ。「50機以上ある原発の内、稼働しているのは大飯原発のみ」である我が国の方が、「廃炉と決まった原発は無い」とは言え、ドイツより遥かに「原発ゼロ」に近い状態だ。笑えるではないか。

勝手にヘラクレス

 上記の通り、根源的な処で功績とも業績とも言い難い「ドイツ脱原発」であるが、さらに上掲記事を分析していけば・・・

 上記(4)「2万基の風車と言うのがまず凄まじい。しかもドイツ本土には最早風力発電所増設の余地が無く、洋上に建設する上に、バルト海・北海と言うドイツ北部の洋上から電力消費地たるドイツ南部へ送電の為に上記(5)ドイツ国内全土で全長約3800キロの送電線の増設が必要。だが反対があり、工事が年数十キロしか進まない。と言う。仮に年100キロのペースで増設したとしても、38年かかる計算だが、それが完成したとしても「洋上発電所からドイツ南部への送電線が整備された」だけ。
 一方で上記(4)「2万基の風車」( その大半が洋上と推定 )による発電量を推定すると、仮に1基5MW定格発電(※1)として、「総計発電量10万MW = 100GW」と推定できる。新型の原子炉は大凡1GW/基であるから、「原子炉100基分の総計発電量!」と言えば「発電量が出来高とは言え、ドイツに現存する17基の原発代替ぐらい屁の河童」と、思うかも知れないが・・・「私の自然エネルギー推進論(※2)」や「冷たい計算式/推算式シリーズ(※3)」に書いた通り、風力や太陽光などの問題は「発電量が出来高=原則制御不可能」なことに加えて「稼働率の低さ」だ。日本国内地上風力発電だと、約2割。洋上ならば向上するだろうが、倍になるかどうか。ウイキペディアには「風力発電は稼働率が高く、95%と言う例も」なんて書いてあるが、多分「稼働率」の定義が違う。当ブログで言う「発電所の稼働率」は「1年間の発電総量」と「1年間365日24時間定格発電した場合の発電量」の比率。ウイキペディアの「稼働率95%」は、「発電できる時間の割合」なのではなかろうか。さもなければ、1年中昼夜の別なく定格出力可能な風が吹く、理想的風況の場合だろう。

 バルト海や北海の風況がどの程度か、私は知らない。だが、上記(4)「2万基の風車」が大凡「原子炉100基分の総計定格発電量」と推定でき、ドイツ脱原発で廃炉にされる原発が17基であるならば、上記(4)「2万基の風車」の大凡の年間発電量が、廃炉にされる原発17基分に相当するのだろう、と推定する。それ即ち「ドイツ洋上発電所の稼働率は、大凡17%なのであろう」と言う事だ。洋上発電としては稼働率が低すぎる様だし、推定と仮定を重ねた推論ではあるが。

 それでも、そんな風力発電の稼働率の低さを甘受し、洋上風力発電から大電力消費地ドイツ南部への送電線を大規模に増設し、その為に環境破壊だか、地下埋設送電による送電コスト高高を受け入れる、「ドイツ脱原発への苦難の道」=「メルケルの闘い」をドイツが選択するのは、ドイツの勝手だ。それを「まるでヘラクレスの課題だ」と自称しようが他称されようが、私の知った事ではない。

 ドイツ自らが選んだ「脱原発への道」だ。勝手に苦労するが宜しかろう。自業自得であり、情状酌量の余地はない。

 而して、その「ドイツ脱原発への道」ですら、「必要なときは=電力不足に至ったならば外国から電力を輸入できる」=「フランスの原発に依存したナンチャッテ脱原発」なのであるから、嗤うほかあるまい。

 「ドイツ発の原発事故を起こさない」なんて息巻く輩も居る様だが、「フランスに原発技術もその運転管理の責任も全て押し付けた」だけなのであるから、少なくともフランスに足を向けては寝られまい、と思うのだが…図々しい奴は図々しいからね。

 で、翻って我が国は、と言うと、ドイツの様な「電力貿易」なんざできる訳が無い。四面海もて囲まれている島国である事に加え、日本海を挟んで対岸の大陸・半島こそ電力不足で原発大増設を計画しているぐらい。「冷たい方程式/推算式」シリーズで検証している通り、太陽光発電の稼働率は1割、風力は2割が相場で、大規模水力発電は殆ど開発されつくしている。逆立ちしたって、ドイツの様な「ナンチャッテ脱原発」すら、出来はしない。

 繰り返しになるが、我が国で脱原発なぞ、愚挙にして、暴挙である。


<注釈>


(※1) ウイキペディアによると、風車の普及タイプは2.5MW/基だったが、近年5MW/基級が出て来た、との由。 


(※3) 冷たい計算式―千葉のメガソーラー第1号始動。http://www.blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/37592041.html など