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 言うまでもないだろうが、言語と言うものは思考の道具であり、媒体でもある
  それは、数学や物理学が数式を使って記述されるのとあい通じるものがあるが、より抽象的な描写も、少なくとも表意文字を使えば可能であろう。そもそも、思考と言うものを「捕らえる」為には言語が不可欠であり、だからこそ、SF小説「バベル=17」では合理的言語バベル=17に主人公の自由意志は「乗っ取られて」しまったし、SF映画Fire Foxでは「ロシア語で考えないと」最新鋭戦闘機Fire Foxはコントロールされない。SF小説「戦闘妖精・雪風」ではさらに根源的に遡って、言語能力を支配されたが故に認識能力を支配されてしまう「異世界」が描き出される。
 SFばかり並べ立ててしまったが、言語が思考を司る事を端的に示した事例であろうと、私には思われる。無論、何れもSFであるから空想仮想の世界であって、実際の事象ではないのだが、それこそ「抽象的思考の所産である」とは言えよう。
 
 それがあらぬか、「外国語で思考することでより論理的に思考できる」と言う研究結果も報じられている(*1)。これ即ち「思考の道具にして媒体」たる言語を変える事で、異なる視点を獲得しうる、と言う事かと思われる。
 尤も、この「研究結果」自体は理系の人間としてはそうそう受け入れられない(*2)から、少なくとも手放しで信じるわけにはいかない。
 
 とは言え、それは場合に拠ってはありうることだろう、とは思われる。例えば・・・WSJ紙の記事だ。
 

<注釈>

(*1) 外国語で考えるほうが合理的:研究結果  http://news.livedoor.com/article/detail/6510291/ 
 
(*2) それをいうならば、人文科学に於ける「実験結果」特に「社会実験結果」と言うのは、大概眉に唾つけずには聞けないのであるが。「それは一般論化出来るか?」「それは再現性があるか?」などの疑問が、常につきまとう。 
転載開始========================================= 

【WSJ紙】 放射能汚染のマグロが米太平洋岸沖に 

 http://jp.wsj.com/Japan/node_450544?mod=WSJFeatures
2012年 5月 29日  9:01 JST

 28日刊行の米国科学アカデミー紀要(PNAS)に発表された研究結果によると、昨年日本海沿岸海域から南カリフォルニア沖合に回遊してきたクロマグロが、福島第1原子力発電所の事故に伴うセシウムに汚染されていることが分かった。
 
  セシウムの濃度は米国と日本が危険としているレベルの10分の1で、これを食べても健康被害はないとみられる。この調査は、スタンフォード大学の海洋生態学者ダニエル・マディガン氏らのチームが行ったもので、福島原発から遠く隔たったところまで回遊魚が短期間に放射性物質を運んできたことを初めて示した。
 マディガン氏は「マグロは放射性物質に汚染され、これを世界最大の海洋を横断して運んできた」とし、「われわれはこのことに驚いたが、もっと驚いたのは調査対象の全てのマグロから放射性物質が検出されたことだ」とした。
 この調査結果を受けて、ウミガメやサメ、海鳥など、日本の周辺にいるもっと広範囲な海洋生物が低いレベルのセシウムを運んでいる可能性も指摘されている。同チームは今夏、クロマグロの他、ビンナガマグロ、ウミガメ、数種類のサメを調査することにしている。
 日本をはじめ世界中ですしの材料として人気の高い太平洋のクロマグロは、日本海で産卵する。成長すると日本の南海域を回遊し、黒潮に乗って北上して、福島沖を通る。その後、6000カイリ(1万1000キロメートル)以上を泳いで太平洋の東部に至る。最終的にはここから生まれた海域に戻って産卵する。
 マディガン氏らは、趣味の釣り人が原発事故約5カ月後の昨年8月にサンディエゴ沖合で釣った15匹の若いクロマグロを調べた。マグロが太平洋を横断する前に通過する東日本沿岸海域の放射能濃度は事故の数週間後に最大で通常の1万倍に達した。
 調査では、カリフォルニア沿岸海域に到着したマグロのセシウム137とセシウム134の濃度はわずかに高まっていた。これらはいずれも筋肉組織に集まる傾向がある。セシウム137の量は数十年前の核実験の影響で自然界に残っているセシウムのレベルの5倍だった。半減期約2年のセシウム134は原発事故の前は海洋生物や海水からは検出されていなかった。
 科学者らは、全般的なレベルはマグロの自然発生的な放射能を3%ほど押し上げるものだったと述べている。調査に参加したストーニーブルック大学(ニューヨーク州立)の海洋生物学者ニコラス・フィッシャー氏は「全てのマグロから同程度のセシウム134とセシウム137が検出された」とし、「これは非常に明瞭なデータだ」と話した。
 同チームは比較のために同時期に捕ったキハダマグロと、08年に捕ったクロマグロの組織も調べた。キハダマグロは通常、一生を通じてカリフォルニア沖合で過ごす。調査の結果、いずれの組織からもセシウム134は検出されず、セシウム137は事故以前のレベルだった。
記者: Robert Lee Hotz  
=================================転載完了

放射能は物理現象である

 さて、如何であろうか。
 
 本記事のタイトルと章題で「ネタバラシ」しているようなものだが、このWSJ紙記事の翻訳タイトル放射能汚染のマグロが米太平洋岸沖にの原題は「Tuna Carried Fukushima Radioactivity to U.S. Coast」である。英語の原題をそのまま訳せば、「マグロが福島の放射性物質を米国海岸まで運んだ」である。「放射性物質を運ぶようなマグロは、放射能汚染されている!」とすれば、翻訳タイトルも悪くは無かろうが、
 
1> セシウムの濃度は米国と日本が危険としているレベルの10分の1で、これを食べても健康被害はないとみられる。
 
とも報じられているばかりか、
 
2> 科学者らは、全般的なレベルはマグロの自然発生的な放射能を3%ほど押し上げるものだったと述べている。
 
と、はっきりと明記されている。
 
3> セシウム137の量は数十年前の核実験の影響で自然界に残っているセシウムのレベルの5倍だった。
 
とも報じられているが、放射線を出すのはセシウム137ばかりではないから、上記2>の通り、つまりは「マグロの放射線量に消費税がついただけ」と言う事だ。嫌なら喰わなければ良かろうが、私なら美味しく頂くね
 
 どうも巷間では知らない人も多いようなのだが、放射性物質と言うものはマーカーとして印をつけるのに使用されることがある。そのものの色や形や味を変えることなく、間違えの少ない目印をつけることが、放射性物質なら可能だからだ。無論周囲やら、印をつける例えば野生動物やらの健康を損ねるようでは「角を矯めて牛を殺す」事になるから、微量の放射線を出す程度の量に制限されるが、一つの学術的調査の方法だ。
 
 今回WSJ紙が報じる「米太平洋岸沖で発見された、放射性物質を福島から運んできたマグロ」は、「放射性物質でマーキングされていた」に過ぎない。
 
4> 「われわれはこのことに驚いたが、もっと驚いたのは調査対象の全てのマグロから放射性物質が検出されたことだ」とした。
 
と言うのは、人に拠っては大騒ぎしそうな発言ではあるが、
 
5> 福島原発から遠く隔たったところまで回遊魚が短期間に放射性物質を運んできたことを初めて示した。
 
だけである。
 マグロの回遊スピードや回遊距離・回遊範囲が実証され、それに「驚く」のは合理的であるが、その放射線マーキングされたマグロを「放射能汚染のマグロ」と表記するのは誤りであるし、それに驚き騒ぐのは、無知蒙昧の為せる業、としか言いようがない。
 また左様な無知蒙昧なる業を惹起しかねない「Tuna Carried Fukushima Radioactivity」を「放射能汚染マグロ」と訳すのは、記事をセンセーショナルにし売らんが為のものであり、少なくともマグロとマグロ関係者に対する「悪意ある意訳」と言えよう。
 
 章題にした通りである。放射線とはエネルギーの一形態で、物理現象だ。それは禁忌でもケガレでもエンガチョでもない。