社説比較表―新聞各紙の知的退廃

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 前記の「復習」を基にして、新ためて社説比較表を見てみると・・・・先ず、先述の通り「右の横綱」産経が欠場しているのもさることながら、「右の大関(?)」読売も欠場しているのが目立つ。つまりは「左右のバランスが悪い」比較表になっている。脱原発・反原発は社民党や共産党も標榜しているところ。左翼とは相性が良いのだろう。となればイタリアがチェルノブイリ事故で脱原発を決めたのもうべなるべし。最近ドイツやベルギーが「脱原発」を打ち出し、為にドイツの一大企業ジーメンス社が原子力技術撤退を決めた(*1)のは、左翼とはあまり相関はなさそうだが、欧州全体に張り巡らされた共通電力網は大いに関係ありそうだ。
 
 閑話休題(それは兎も角)
 
 それがあらぬか、「左の横綱」朝日は本比較表でも健在だ(*2)。健在だが、全体に「案外穏健」である。タイトルこそ「核分裂の疑い」と、可也否定的なニュアンスの「核分裂」を利かせているが、あくまで「疑い」に止めている。
 
朝1>  核分裂の疑いがある。もしかしたら、一時的に小さな臨界が起こった可能性もある。 
 
と「一時的に小さな臨界」の「可能性」にまで踏み込むが、断言はしないし、
 
朝2>  事故炉の温度や圧力に大きな変動はないようだが、
朝3> 核分裂の可能性がある以上、臨界を食いとめる手を急いで打たなくてはならない。
朝4> 臨界を抑える働きがあるホウ酸水を、東電が直ちに注入したのも、そんな危機感の表れだろう
 
と、しっかり上記朝2>のように予防線を張った上で、危機感も上記朝4>の通り「東電のホウ酸投入」にかこつけて、保身策は万全だ。
 
朝5>  事故炉やその格納容器のなかのことを思い浮かべれば、そこには、溶け落ちて燃料の原形をとどめない核物質がある。
朝6>  政府は事故処理を進め、周辺住民の生活を元に戻してゆく責任があるが、
朝7> 工程表の期限を優先するあまり、こうした現実を見過ごしてはならない。
朝8>  核分裂の痕跡を重い警鐘と受けとめたい。
 
と、朝日社説は〆るが、上記朝5>のように「原子炉内の詳細はわからない」不可知論と、上記朝7>~朝8>の「核分裂の痕跡」と言う「浪花節」で、いわば誤魔化している。その「核分裂の痕跡」放射性キセノンが、核燃料のある処には量の多寡はあれ必ず「自発核分裂」のために存在すると言う知識在る者には、噴飯モノの社説であろう。
 尤も、私自身「自発核分裂」と言う現象も言葉もこれら社説の掲載以降に知ったのであるし、今回比較した全ての社説は、「自発核分裂を知る者には噴飯モノ」なのであるが。
 
 時に産経以上の鋭い社説を書いてくれる(*3)日経の社説も、今回は一寸酷い。タイトルこそ「これで冷温停止に進めるのか」と比較的抑え目で過激な言葉もないものの、
 
経1>  溶けて散らばった燃料の一部で、核分裂が継続して起きる臨界状態が生じていたとみられ、
経2> 今も継続している可能性が否定できない。
 
と、何の根拠か不明だが「臨界状態が生じていたと見られ」と断じている。
 
経3> 東電や政府は年内中の冷温停止を口にするが、核分裂反応が起きていては「停止」とは言えない。状況認識が甘くはなかったか。 
経4> 全体としては原子炉は何とか制御されていると東電は判断しているようだが、どこかに落とし穴があるかもしれない。
 
と、東電や政府に対する批判的な表現が続き、
 
経5> 今回判明した事態を受けて周辺住民の帰還や除染の計画など工程表の見直しが要るかどうかも慎重に判断してもらいたい。
 
と、「慎重な判断」を求める。「原発は危険な状態ではない」と言う根拠にも触れてはいる物の、「核分裂」が「核爆発」は極端にしても、「臨界」=連鎖的核分裂反応と殆ど同一視されているのは、やはり噴飯モノだろう。
 
 毎日もまた、朝日以上の過激な表現で煽る。
 
毎1>  核分裂が連続する臨界が一時的に起きた可能性も否定できない。東電や政府は、よく調べてもらいたい。
 
と、東電及び政府への批判で始まり、
 
毎2>  原子炉が危険な状態になくても、臨界の可能性を不安に思う人は多いだろう。
毎3> 東電や原子力安全・保安院が、キセノン検出の意味や原子炉の状態をよく説明することも大事だ。
 
と「不安に思う人」にかこつけて説明責任を迫り、
 
毎4>  圧力容器底部の温度が100度未満になっても、核分裂が起きている恐れがあった場合に、原子炉が安定しているといえるのか。
毎5> 今回のことで改めて疑問が浮かぶ。
 
と、煽って、
 
毎6>  1~3号機のいずれでも、溶けた燃料がどういう状態でどこにあるのか、
毎7> 原子炉のどこがどのように損傷しているのか、よくわからない。
毎8> 今回の検出結果を踏まえ、監視の強化は欠かせない。
 
と〆る。特に上記毎6>~毎8>の〆方は、先述の朝日の上記朝5>~朝6>に、「偶然の一致」とは俄かには信じ難いほどにそっくりだ。好意的に解釈するならば、「発想が似ている」=「気の合う似た者同士」と言う事なのであろうが。
 
 今回社説比較の白眉は、なんと言っても反原発原理主義者・東京新聞だ。先述の通りタイトルからして「2号機「臨界」」と、カギ括弧付きながら「臨界」と断言している。先述の東電報告「今回検出した放射性キセノンは、自発核分裂による物」と言うのを受けて「何が臨界だぁ!」と抗議が来たら、「いや、カギ括弧が付いている、間接的表現です。表現の自由の範囲です。」と、言い逃れが利くのだろう。社説本文の方では、
 
東1> 核分裂反応が連鎖的に続く「臨界」が局所的に起きた可能性が高いとして、東電は核分裂を抑えるホウ酸水を注入したのだ。
 
と、「臨界」判断を東電責任に押し付けているから、上記の様な「邪推」も働くと言うものだ。
 大体、東電はそれこそ原子力や原子力技術のプロなのであるから、放射性キセノンが自発核崩壊でも発生しうるなんて、とうの昔にご存知だろう。であれば、今回放射性キセノン検出を受けてのホウ酸水投入は、それこそ「念には念を入れた」処置。その入念な対処を捉えて、「危機感の表れ」と言われるのはまだしも、上記東1>のように「「臨界」が局所的に起きた可能性が高い」と言われた日には、東電が万一に備えた施策を取る度に「危険が高まった」と報じられてしまう。それでは東電はウッカリ万一に備える事すらできなくなろうが。
 挙句の果てに、
 
東2>  経済産業省原子力安全・保安院は「大規模な臨界が起きる可能性はほとんどない」「全体として安定した状態だ」とコメントしているが、
東3> 本当に信用できるのか。
東4> 実はキセノン131は八月中旬にも検出されていたが、「原発事故当時のものだ」と軽視していたのだ。
東5> 今回の結果は、原子炉がいまだ極めて不安定な状態にあることを示すものだといってよい。
 
と詰られては適わない。
 その後の報道で、放射性キセノンは自発崩壊による物で、全く問題ないと判定されているのだが、東京社説は上記東2>~東3>の様ないわれなき誹謗中傷を、東5>の恐怖を煽動する断定を、謝罪する用意はあるのだろうか。(イヤ、屹度、絶対、ナイニ違イナイ。反語・修辞的疑問文
 
 評価項目4「今後の方針」も、周辺住民への説明(*4)はまだしも、再避難の検討も、循環水冷却システムの再点検も求め、次のように社説を〆る。
 
東6>  原子炉を年内に「冷温停止状態」にするという工程表は、もはや信頼性を失ったも同然である。
東7> 「状態」というあいまいな用語で冷温停止を宣言しても、全国の原発再稼働ありきを前提にした“見切り発車”だと誰もが見破る。
 
 一体、誰が何を見破るってんだぁ?
 
 今回比較した新聞社説四紙を通じて、共通する物がある。即ち、「自発核分裂と言う現象に対する理解の欠如」。「核分裂」と言う言葉が即座に「臨界」と直結してしまうのも、この「自発核分裂と言う現象に対する理解の欠如」のためだ。
 急いで付け加えるが、私自身、11/3の東電報告として「自発核分裂」と言う言葉が報じられて調べるまで、こんな現象は知らなかった。それだけマイナーでもあり、問題となる事も少ない現象だが、今回放射性キセノンが微量検出されたために、クローズアップされた。
 「私でさえ知らなかった」と言うとおこがましいが、恐らくは文系であろう各紙社説記者( と、言うのか、社説担当者)が「自発核分裂」を知らない可能性は相当にありそうだし、知らなければ、「核分裂を臨界と直結させた」結果今回比較したような社説を書くのも無理はない。少なくとも大いに情状酌量の余地はある、と思う。
 
 だが、それは、「自発核分裂」と言う言葉を知らなければ、聞いたことがなければ、だ。
 11/2に放射性キセノンの検出と核分裂が起きた可能性を東電が報告した際は、
> 「冷温停止に影響はない」「深刻な事態ではない」と事態の沈静化に躍起となった。
> 「核分裂反応が起こることは燃料の状況からみて十分あり得ると思っていた」
と報じられている。(*5)此の報道記事には直接出てこないが、此の東電報告に「自発核分裂」と言う言葉が出て来なかったとは考え難いし、その説明さえあったかも知れない。説明がなくて意味がわからなければ、それを尋ねるのは新聞記者の特権でもあり、義務でもあろう。此の報告会記事で、「自発核分裂」と言う言葉を用語解説するか否かは各紙の自由だろう。だが、その「自発核分裂」と言う現象を知りつつ今回比較したような社説を書くのは、悪意ある隠蔽であるし、放射性キセノン検出を社説に扱う以上は「自発核分裂によっても発生する」事は知っているべきだった。それが専門外で知らなかったとしても、上記東電報告でその言葉が使われていたならば、その意味を尋ねて知る可きなのは、報道機関としての新聞社の責務だろう。
 その責務を、今回社説に取り上げた四紙は怠ったのではないか。
 本章のタイトルを「新聞各紙の知的退廃」と銘打つ所以である。
 
 如何に、日経、朝日、毎日、東京新聞。
 
 さて、例に拠れば最後に社説比較のまとめを数式化して、不等式で現すところだが・・・・今回比較した社説群は、数式化するに価しないな。
 
 全紙論外!
 
 日経とて例外ではないよ。
 

<注釈>

(*1) ドイツ降伏-独シーメンス社 原子力事業から撤退   http://www.afpbb.com/article/economy/2828751/7793213
 
(*2) 手下の沖縄二紙は、ローカルな話題で忙しいようで、参加していない。
 
(*3) 「右の小結」ぐらいだろうか。
 
(*4) と言うのであれば、放射性キセノンが自発核分裂由来と断定された事も、自発核分裂の意味も、それがある種の放射性物質では必然的で止めようもなければ止める必要もない事も、であればこそ今回検出された放射性キセノンは何の問題も無い事も、懇切丁寧に東京新聞記事になっている・・・筈である。(絶対ニ、ソンナ事ハナイニ違イナイ。反語)本来ならば社説で取り上げても良いぐらいの話だ。
 
(*5) 核分裂反応の疑いで冷温停止に「黄信号」 福島第1原発2号機  http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111102-00000542-san-soci
産経新聞 11月2日(水)11時29分配信