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 朝日新聞社説を題材に、「数字で嘘をつく法」なんて記事をアップしたのも記憶に新しいが、数値すら使わず言葉尻を捕らえてやれば、かくも印象が異なる「事実報道」も可能と言う材料が手に入ったのでお披露目しよう。題材になっているのは玄海原発再稼動。記事にしているのはチョイとマイナーだが当ブログ(多分)初登場の佐賀新聞と、時事通信だ。
 
 先ずは両者の記事、篤と御照覧あれ。
転載開始========================================= 

佐賀新聞 玄海4号機再稼働 地元の同意得ぬまま 広がる波紋

 http://www.saga-s.co.jp/news/saga.0.2073898.article.html#1  http://www.47news.jp/news/2011/11/post_20111101175853.html
 誤った手順書に沿って作業をしたことが原因で自動停止した九州電力玄海原発4号機(東松浦郡玄海町)について、九電は31日、再稼働する方針を佐賀県や玄海町に伝えた。地元の同意なく再稼働に踏み切ることに反原発団体の関係者は「正気の沙汰とは思えない」と強く反発。古川康佐賀県知事は「国の考えを聞いてみたい」と自らの考えは示さず、岸本英雄玄海町長は「国が認めるなら仕方がない」とし、知事と同様に国に説明を求める考えを示した。
 「事故を防ぐ対策について十分な説明もないままの再稼働は許されない」。プルサーマルと佐賀県の100年を考える会の共同世話人の野中宏樹さんは怒り、「九電はもっと謙虚にならなければ自らの手で未来を閉じることになる」と、強く批判した。
 4号機は12月に定期点検入りを控えている。運転停止のまま定検に入ることや、定検の前倒し実施を想定する見方も多かった。玄海原発プルサーマル裁判の会の石丸初美代表は「3・11以降、状況は何も変わっていないのに再稼働に猛進するとは。正気の沙汰とは思えない。再稼働阻止を訴えていく」と言明した。
 古川知事は宮崎県の九州知事会に出席していた。九電が再稼働方針を発表した午後7時半すぎに県が「自動停止の原因と対策については、国が責任を持って判断されたと認識している」とする知事コメントを発表。懇親会に参加していた古川知事は、出口で待つ報道陣を避け、姿を消した。
 佐賀県は午後4時過ぎ、九電佐賀支社からの電話で再稼働方針を知った。原子力安全対策課は「判断理由など詳細な説明はなかった」と、一方的な“通告”に戸惑った様子。県の同意のない再稼働方針について今村盛史課長は「納得できるか、できないかというより、国自身がどういう考えで判断したのか聞きたい」と話した。
 岸本町長は夕方、「事業者判断で運転する」と九電から電話を受けた。以前は定検前の運転再開は困難という認識を示していたが「地元の同意が必要な事案ではない。気分はよくないが、国が回しても問題ないと認めるなら異論を挟む余地はない」とした。  ただ「国はやらせ問題はあれだけしつこく言っているのに、すぐOKというのはいかがなものか」とも述べ、「理由を聞きたい」と語った。
 九電幹部は「地元との相談なしに本当に再稼働できるのか」と疑問視。一方で「(4号機が動かせないことで)1日3億円の費用増になっている。本当に動かせるのならサプライズ」と語った。
 

 玄海原発4号機、地元町長が再稼働容認=週内にも営業運転へ 

 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20111101-00000072-jij-pol
時事通信 11月1日(火)12時25分配信
 作業手順の誤りで自動停止している九州電力玄海原発(佐賀県玄海町)4号機の再稼働をめぐり、玄海町の岸本英雄町長は1日、九電の山元春義副社長から説明を受けた後、記者団に対し「一定の納得をした」と述べ、運転再開を容認する見解を示した。国にも再発防止策の妥当性などを事前に確認したとしている。
 山元副社長は会談後、一両日中に4号機を再稼働させ、早ければ週内にも営業運転を開始できるとの見通しを記者団に表明。九電は再稼働に理解を得るため玄海町の全戸を回ったとしており、同席した玄海原発の村島正康所長は「町民にも納得していただいたと思っている」と強調した。 
=================================転載完了

事実を並べて嘘をつく

 さて、如何であろうか。
 
 真っ先に注意を促さなければならないのは、佐賀新聞の記事が10/31の動きを追っているのに対し、時事通信の記事は翌11/1の動きを報じている事。少なくとも両方の記事に登場する玄海町の岸本町長の発言には、此の時間経過を無視知る訳には行かないだろう。
 それにしても佐賀新聞の記事は、タイトルからして「玄海4号機再稼働 地元の同意得ぬまま 広がる波紋 」であり、「反原発団体の関係者」の再稼動批判を長々と記述して、大いに反原発の雰囲気を盛り上げる。勢い、各首長のコメントも、以下のような報道になる。
 
佐1>  古川知事は宮崎県の九州知事会に出席していた。
佐2> 九電が再稼働方針を発表した午後7時半すぎに県が
佐3>「自動停止の原因と対策については、国が責任を持って判断されたと認識している」とする知事コメントを発表。
佐4>   岸本町長は夕方、
佐5> 「事業者判断で運転する」と九電から電話を受けた。以前は定検前の運転再開は困難という認識を示していたが
佐6> 「地元の同意が必要な事案ではない。気分はよくないが、国が回しても問題ないと認めるなら異論を挟む余地はない」とした。
佐7>  ただ「国はやらせ問題はあれだけしつこく言っているのに、すぐOKというのはいかがなものか」とも述べ、
佐8> 「理由を聞きたい」と語った。
 
 特に注目すべきは上記佐5>~佐8>の岸本町長コメントだろう。「気分は良くない」「理由を聞きたい」などの否定的表現がちりばめられているが、上記佐6>「地元の同意が必要な事案ではない。」「国が回しても問題ないと認めるなら異論を挟む余地はない」と、ハッキリと原発再稼動を容認している。容認と言う点では上記佐3>の古川知事も同様であるから、少なくとも「地元の同意を得ない事による波紋」は知事や町長には及んでいない。否、それどころか、事前の了解こそ取っていないのかも知れないが、知事も町長も原発再稼動を容認しているのだから、後追いでも「地元の同意は得られた」と、九電は主張できるはずだ。
 その「波紋」が及んでいるのは、せいぜい上述の反原発団体と、以下のように報じる原子力安全対策課及び何故か九電幹部ぐらい。
 
佐11>  原子力安全対策課は「判断理由など詳細な説明はなかった」と、
佐12> 一方的な“通告”に戸惑った様子。県の同意のない再稼働方針について今村盛史課長は
佐13> 「納得できるか、できないかというより、国自身がどういう考えで判断したのか聞きたい」と話した。
佐14>  九電幹部は「地元との相談なしに本当に再稼働できるのか」と疑問視。
佐15> 一方で「(4号機が動かせないことで)1日3億円の費用増になっている。本当に動かせるのならサプライズ」と語った。
 
 さて、「原発再稼動」と言う波紋ならば、地元の同意があろうがなかろうが反原発団体には広がるに違いない。町長や市町の同意を先に取り付けてあっても、住民投票にかけろと言いそうだし、住民投票に敗れた後でも「全員一致ではない」ぐらいは平気で言うのが反原発団体と言うものであろう。
 上記佐11>~佐13>の原子力安全対策課及び課長も説明は求めているかも知れないが、原発再稼動そのものに反対している訳ではない。せいぜいが「疑義を呈している」程度。これを「波紋」と言うのかね。
 
 上記佐14>~佐15>の九電幹部は、文字通り「地元同意無しの原発再稼動に疑義を呈している」訳だが、上掲の通り「地元の同意」は此の報道の中で確認されている訳で、此の九電幹部に及んだのは「不要な波紋」であろう。
 それがあらぬか、翌日の時事通信報道により、以下の通り「地元の同意」は確認されている。
 
時1> 玄海町の岸本英雄町長は1日、九電の山元春義副社長から説明を受けた後、記者団に対し
時2> 「一定の納得をした」と述べ、運転再開を容認する見解を示した。
時3> 国にも再発防止策の妥当性などを事前に確認したとしている。
 
 それどころか、
 
時4>  九電は再稼働に理解を得るため玄海町の全戸を回ったとしており、
時5> 同席した玄海原発の村島正康所長は「町民にも納得していただいたと思っている」と強調した。 
 
とも報じられているから、少なくとも九電は町長以外の地元の同意も得ようと努力していた事になる。
 無論、上記時4>が九電の嘘でなければ、ではあるが、企業としての自己防衛の範疇とも思われる「サクラ」を「やらせ」として糾弾されている九電が、そんなすぐにばれるような嘘をつくとも思われないから、佐賀新聞は「全戸を回った」九電の努力を知らなかったか、無視したのであろう。
 新ためて強調したいのは、章題にもした通り。佐賀新聞は決して虚偽を報じた訳ではない(*1)。九電の全戸を回る努力は無視したか知らなかったかも知れないが、県知事や町長の発言は焦点をズラしただけだし、原子力安全対策課・課長及び謎の九電幹部の発言も同様だ。反原発団体の発言は、多分そのままストレートに報じただけで、事実の隠匿はあっても、事実の歪曲=虚偽はない。虚偽があるとすればそのタイトル「地元の同意得ぬまま 広がる波紋」ぐらいなものだ。
 
 たったそれだけの小さな虚偽で、これぐらい「事実・現実」と異なる「印象」を与える事が出来る。 
 
 本記事のタイトルを、「丸い卵を四角く切る法」と銘打った所以だ。
 
 如何に、国民。
 
<注釈>
(*1) 多分。