(2.)「再生可能な自然エネルギー」の問題点

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表1(1/2)再生可能な自然エネルギー比較
 
 前章までで抽出した「再生可能な自然エネルギー」を縦軸にとり横軸に評価項目をとって比較表にしたのが、表1(1/2)である。各評価項目には凡そだが「○」「△」「×」の判定もつけた。ベンチマークとしたのは火力発電所で、火力発電所並みならば「○」。比肩しうるが負けるならば「△」、勝負にならないぐらい負けていれば「×」とした
 
 評価項目(1)「発電安定性」と評価項目(2)「発電制御性」については、軒並み討ち死にである。「故意に発電しない事しかできない」様では、こうなるのも仕方がない。辛うじて免れているのは、この評価項目については火力発電と同等であるバイオマス燃料と、昔ながらの水力だけ。水力では、「発電しない事で水を貯めておける」のが利点であるし、揚水式水力発電は「大電力を貯蔵できる現状唯一の方法」でさえある。それでも水力の発電安定性及び発電制御性は、水位が充分な時に限り、事に夏の電力消費ピーク時は、渇水期に当たるのが我が国では痛いところである。
 バイオマス燃料は、バイオマス燃料の形で「電力を貯蔵」出来るためにこれら評価項目では一応の好成績を収めているが、植物の栽培や燃料化のプロセス、特に前者に相当な時間がかかるから、「外国から石油・石炭・天然ガスを買って船で運んで来るだけ」の火力発電よりはどうしたって不利になる。
 
 評価項目(3)「発電コスト」では、案の定とは言え壊滅している。辛うじて水力発電に「△」をつけられる程度。評価項目(1)、(2)で健闘したバイオマス燃料も、栽培から燃料化のプロセス考えたらとてもじゃないがコストは成り立たない。北欧では木屑を使って居ると言う説もあるが「今はタダのゴミ」である木屑を使うならば兎も角、「木屑とするために植林から始める」では収穫までで10年は軽くかかる。これまた再三繰り返すとおりだが、「再生可能な自然エネルギー」の弱点は、世上言われる通り高コストも確かにあるが、発電安定性及び発電制御性、即ち「発電の安定供給性」も見落としてはならないのであり、この3つに大甘に見て辛うじて及第点をつけうるのは水力のみなのである。
 
 評価項目(4)「発電密度(発電量)」となると、水力と発電量としては火力発電であるバイオマス発電、それに地熱発電が浮上してくる。菅直人御執心だったり、孫正義御推奨だったりする太陽光発電は広大な日照面積を必要とするから「発電密度」にしてしまうとメガソーラーでも大したものではない。風力発電もまた然りである。
 評価項目(5)「建設自由度」となると、比較的自由なのはダムを建設できれば良い水力(*1)と、発電所の条件は火力と同じで栽培は農地と同じ、燃料化は工場と同じ、どれも厳しい条件ではないものの、その全てが必要であるバイオマス燃料、それに波力発電が比較的自由である。太陽光は結構な面積の日当たりの良い平地(*2)を必要とするし、風力は風吹きすさぶ平地か山頂が理想でどちらも相当な制限となる。地熱の立地条件は、ボーリングしてみないとわからないだろうから、調査からして大事だ。
 
 以上、再生可能な自然エネルギーの問題点を抽出するための評価項目だから当然とは言え、現時点の技術では殆どの「再生可能な自然エネルギー」は発電の主役たる資格は無く、辛うじて実用的といえるのは、当然ながら水力のみ、なのである。
 

<注釈>

(*1) これとても「コンクリートから人へ」とか言って自民党政権時代の政策だからとダム建設を中止したり、「ダムを建設しない」事を公約に掲げて知事になってしまう奴が居たりすると、「ダムを建設できれば良い」とも言っておられないのだが。
 
(*2) そこは農地としても適地の筈であるし、住宅地としても悪くないから、取り合いになる。
 

(3.)「再生可能な自然エネルギー」の解決策・「発電の主力」足りうる条件

 さて、表1(1/2)で焙り出した再生可能なエネルギーの問題点に対し、如何なる対策を講じれば、「電力の安定的供給」に資するような、電力供給の主役足りうるのだろうか。
 
 表2(2/2)は再生可能なエネルギーの問題点に対する解決策を示し、その評価を、その解決策の必要度と解決度で二元評価した。解決策としては、以下の6項目を挙げたが、主として太陽光や風力の問題点を解決する策として選定している。
 
(1)電力貯蓄技術
(2)新技術で効率向上(及びコスト低減)
(3)普及によるコスト低減
(4)洋上進出
(5)宇宙進出
(6)高高度進出
 
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表1(2/2)再生可能な自然エネルギー比較

 解決策(1)「電力貯蓄技術」は、本質的に電力供給が不安定であるものが多い自然エネルギーの大半にとって不可欠な技術である。特に、発電量が出来高で制御できず、「故意に発電しない」事で日照やら風やらを無駄にする他ない太陽光や風力にとっては致命的なぐらいに不可欠だ。例外は、先述の通り水位で電力を貯めて置ける水力と、燃料の形で貯蔵が効くバイオマス燃料だけだ。
 しかしながら、この解決策(1)は容易な事ではない。各家庭の消費電力を賄うぐらいなら、発達著しいリチウムイオン電池はじめとする蓄電池技術である程度目処が立つ。「災害の際に電気自動車のバッテリーで家電を動かす」なんて実験も一部では行なわれていると聞くから、電気自動車やプリウスのようなハイブリット車の大容量蓄電池には、相応の電力が貯められるだろう。家庭用物置の中に蓄電池を装備して、停電に備えるなんて商品もあるようだ。
 だが、電力の仕事は家電製品を動かしクーラーを回すばかりではない。大口の電力消費者は、鉄道や製造業なのであり、電車を動かし、新幹線を走らせ、溶鉱炉を加熱し、工作機械を作動させる大容量電力も必要なのである。これだけの大容量電力を貯蓄する事は、現状の電池では出来ない。少なくとも車や物置の大きさでは無理だ。
 超伝導状態にしたコイルに電流を流しておくとか、巨大な弾み車の回転運動として保存しておくとか、アイディアとして聞いたことはあるが、実用化にはまだまだ時間がかかる。電力貯蔵技術事態は、「再生可能な自然エネルギー」が水力を除くと1%しかない現状でも有用であり、電力消費ピークに供給が追いつかないリスクを軽減できるのだが、噂や影があるばかりで姿が見えない。
 蓄電し、放電する際の損失も勿論ある。それはどんな蓄電技術であろうとも、不可避ではあるが。
 何にせよ、この大容量電力の貯蓄技術が確立しない事には、少なくとも水力やバイオマス燃料以外の自然エネルギーに発電の主役を担わす訳には行かない。逆に言うとそれぐらい電力貯蓄技術は、「再生可能な自然エネルギー」にとって必要なのである。
 
 解決策(2)「新技術で効率向上(及びコスト低減)」は、どの自然エネルギーにとっても嬉しい話ではあろうが、水力だけ「△」が並ぶのは、この老舗の自然エネルギーでは今更新技術を望める部分が小さいであろう事と、既に実用的な発電コストに達しているから。他の自然エネルギーの特に必要度で「◎」が目白押しなのは、何れも高コストが(*1)ネックとなっているから。新技術による技術革新で、効率上げて稼働率も上げ、コストを下げない事には経営的に成り立たないから。それでも解決度に「△」が並ぶのは、本質的に発電力が不安定では、電力供給の安定化には技術革新も寄与しないから、だ。
 
 解決策(3)「普及によるコスト低減」は、主として設備投資コストの低減に効く。世の中に普及して数が出るようになれば、自然エネルギー発電所・発電設備の建設コストは下がると期待出来る。が、これまた解決度が「△」ばかりなのは、上述の本質的発電力不安定に加え、普及によるコストダウンはランニングコストには二義的にしか効かないから、発電コストを下げる効果は限定的であるため。つまり、菅直人が「退陣三条件」の一つに掲げる「再生エネルギー特別措置法」による「自然エネルギー電力高価買い上げ」価格は、何時までたっても普及だけでは、下がらないだろうという事だ。
 
 解決策(4)「洋上進出」、(5)「宇宙進出」、(6)「高高度進出」は、先述の通り太陽光と風力の解決策だから、水力以下には「×/- 原理的に不可能」が並んでしまっている。
 
 解決策(4)「洋上進出」は、主として風力の解決策である。洋上は陸上より一般的に風が強いし、遮蔽物もないから風が良く通る。台船上に風車並べて発電し、ケーブルで陸上へ送電するなら、陸上の土地を占有しない。日本列島の沿岸は航路だらけであるから場所の取り合いになるし、台風の際には陸上より酷い事になるなどは、本質的発電不安定に加わる新たな問題となるが。
 陸上を占有しない点では太陽光にとっても洋上進出は一定の効果を望めよう。
 
 解決策(5)「宇宙進出」は太陽光のみの解決策。「人工衛星の太陽電池で発電し、地上へマイクロ波で転送する」方法だ。衛星軌道だから天候は関係なくなり、1年365日晴天に恵まれる。が、静止衛星軌道は赤道上空に限る(*2)事や、地上への電力転送技術の実用化など、通常の太陽光発電にはない新たな技術課題が発生する。それに、「夜間は発電できない」と言うのは、太陽光発電の殆ど解決不可能な本質的弱点だ。
 
 解決策(6)「高高度進出」私の思いつきだ(*3)。発想の根幹は「365日晴天が欲しいだけなら、静止衛星軌道まで行かなくても良かろう。雲よりも高ければ良いのだ。」と言う事。人工衛星ならぬ気球か飛行船に太陽光発電パネルをつけて、雲より高いところを遊弋させれば、日本の領空で発電できる。但し地上への送電に長大なケーブルを使うのならば、阻塞気球(*4)を上げているようなものだから、航空機などにして見れば邪魔で仕方がないだろう。地上への送電線を共通化して、一群の気球をつなげて上げるか、人工衛星同様の電波による送電技術を実用化する必要がある。また、前者であるならば、地上への送電線は台風などの気象による擾乱に耐える強度が必要であり、気球の浮力との兼ね合いになる。
 高高度進出は、原理的には風力にも適用可能な解決策だ。ジェット気流で発電するなら安定した発電力が期待出来るかも知れない。問題は、高高度では大気が薄いので同じ風速でも地上より格段に発電力が低いだろう事と、やはり気球の浮力と発電器材送電器材の重量の兼ね合いだろう。
 
 以上を概観すると・・・・
 
① どの解決策を取ろうとも、解決度「○:大半解決」以上となるような決定的な解決策はない。
② 水力には新技術以外の解決策は全く効果がない。が、これは水力が抱える問題点が小さく少ないからでもある。
 

<注釈>

(*1) 正確には「高コストも」だが
 
(*2) 1周24時間周期の地球中心を中心とする地軸を法線方向に持つ大円上にないと「静止衛星」にならないから、必然的に赤道上空になる。しかも、太陽光パネルを相応の範囲に広げる筈であるから、この発電方法に実用化の目処が立てば、衛星軌道上の占有権が、新たな「領土領海問題」として浮上してくるだろう。
 
(*3) もう既に検討されたり、或いは特許を取られたり、しているのかも知れないが。
 
(*4) 第一次大戦から第二次大戦までは、爆撃機の進入を妨害するために、ワイヤをつけた気球を都市上空等に上げた。これが阻塞気球。これに対し、進入する爆撃機の方はワイヤカッターを爆撃機に取り付けたりした。ある意味、牧歌的な戦争である。