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 「SF」と言えば普通はScience Fictionの略号で「空想科学」などとも呼ばれる。Space Fantasyの略と言う説もあるが、それでは一寸限定が過ぎるようである(*1)し、確か藤子不二夫は「少し不思議」で「SF」と称していた気もするが、普通は「空想科学」だろう。

 現実の話ではない。むしろ現実離れした話だから、ともすると荒唐無稽の大ボラ大嘘の代名詞であるのも事実だ。また、そんなSF小説なりアニメなり映画なりにも事欠かない。
 だが一方で「ハードSF」と呼ばれ、「この世ならざるが、如何に理に適った異世界を構築するか」に腐心するSFもある(*2)。「重力の使命」のハル・クレメントなんぞは「SF小説は、推理小説と同様に作者と読者の知恵比べ」と豪語する。作者は如何にして現実離れした異世界を論理的に構築するかに知恵を絞り、読者はその異世界の論理的欠陥を探すのだと言うから、気合が入っていると言うか、手が込んでいると言うか。
 
 だが。私はそのハードSFを含むSFが結構好きなのである。私の好きなSFは主として小説であり、若干は映画にもあるが、アニメには殆どなく、ゲームの方がまだ多いぐらいだ。それは兎も角SF小説の作者の視点からする利点はと言うと、「舞台設定の自由さ」を上げるべきだろう。
 
 SF=Space Fantasyなどと制限してしまうと、その自由度も怪しくなってくるし、「売れるSF」と言うのも結構きつい縛りと思われるから、必ずしも天衣無縫の自由とは言えなかろうが、仕事ではなく趣味で書く小説の題材としてのSFならば、相当な自由がありそうだ。むしろ、どこをこの世ならざる物に設定するかが、鍵となろう。
 
 さて、前置きが長くなったが、タイトルにもした通り、今回記事はそんなSF世界を構築しようと言う試み。題材にするのは福島第一原発事故に端を発するIBさんとの長ーいコメント応酬である
 

<注釈>

(*1) 「Star Wars」や「フラッシュ・ゴードン」ばかりがSFではなかろう。「2001年宇宙の旅」だって「ソイレント・グリーン」や「アンドロメダ病原体」だってSFだ。
 
(*2) 無論小説なり映画なりアニメなりである以上、「異世界を構築する」のは背景の準備であって、その背景で如何なるストーリーを展開するかが、勝負なのであるが。
 

(1.)設定 熱くない核燃料

 先述の通り、自由度が一般的には高いSFにおいて鍵となるのは、「現実世界と異なる点を何処に置くか、何処に絞るか」である。言い換えるとその現実世界と異なる点以外は、現実そのままと言う事である。
 
 で、今回設定するその「現実とは異なる点」は、「原子力発電所の運転原理」より正確には「核分裂反応から如何にして電力を取り出すか」である。
 急いで付け加えるならば、今回記事のタイトルに「IB世界」と銘打ったとおり、以下に記す「核分裂反応から如何にして電力を取り出すか」と言う原理は、IBさんとのコメント応酬から漸く浮かび上がった、IBさんの「知っている」原理である。
 
 その原理とは、以下の如くである。(と、IBさんの考えを推定した。)
 
(1) 核分裂反応は熱を出さない。放射線と電磁波と中性子を出す。

(2) 上記(1)の内中性子は新たな核分裂・連鎖反応を引き起こす。

(3) 上記(1)の放射線と電磁波は核燃料の温度を上げることなく燃料棒の外に出る。

(4) 上記(3)で燃料棒から外に出た放射線と電磁波は、そこに水があればこれを加熱する。

(5) 上記(4)で加熱された水はある温度(大気圧下では100℃)で沸騰する。
 
(6) 上記(5)で沸騰して出来た水蒸気は蒸気タービンに導かれ、蒸気タービンを廻す。

(7) 上記(6)で水蒸気に廻された蒸気タービンが発電機を廻し、発電する。
 
 原理を単純化するため、福島第1原発と同様の沸騰水型原子炉を考えている。また、上記(5)~(7)のプロセスは通常の石炭火力発電所、石油火力発電所、天然ガス火力発電所とも共通する部分であるし、IBさん自身「原発は原子火力発電所」とも言われているのでこの原理で恐らくは間違いない。

 上記(1)の中性子の放出及びそれによる上記(2)連鎖反応は核分裂が持続する原理であり、それ故に特にIBさんのコメントには表現されていないが、この世と同様の「核分裂反応の連鎖」が起こっているであろう、と言う推定である。
 
 言い換えれば、上記の原理でこの世ならざる部分、SF的設定と私が断じるのは上記(1)の前半と(3)~(4)である。特にこの世ならざるのは勿論上記(1)「熱を出さず、放射線と電磁波と中性子を出すだけの核分裂反応」であろう。これに比べれば上記(4)「熱に拠らず、放射線と電磁波で加熱される水」と言うのは電子レンジ即ちマイクロ波照射による加熱の類推であり、「大してSF的ではない。」と言える。
 

(2.)IB世界の原発構造

 さて、そんな「熱くならない核燃料」を有するIB世界の原発は、現存する原発と何処が違うだろうか。或いは、何も違わないだろうか。
 
 IB世界の原発の核燃料は、その核分裂反応で発生するくどい様だが熱ではなく放射線と電磁波でもって水を加熱し、水蒸気を作っている。従って核分裂反応をする核燃料から出る放射線、電磁波をなるたけ透過し、中性子を吸収しない事がIBさん世界の核燃料被覆管材料の条件である。
 
 ところが、中性子や放射線はまだしも、電磁波を透過しようと言った瞬間に全ての金属と導電性のある物質は核燃料被覆管材料として失格退場となる。理由は理系の人間には明らかだろう。静電遮蔽だ。喩えその核燃料被覆がアルミ箔のように薄かろうが、編み篭や鉄格子で隙間があろうが、導電性のある限り、静電遮蔽でこの容器の内外は電磁波に対して隔離されてしまう。従って、燃料被覆管の材料として一般的とされるジルコニウムで覆われた日には、中の核燃料が如何に激しく核分裂しようとも、放射線と中性子が出てくるばかりで電磁波は虚しく核燃料被覆管の中で反射するばかりである。となると、IBさん世界の原子炉核燃料は金属で覆われては折角の「水を加熱する能力」ががた落ちになってしまうと言う事だ。
 
 結論。IBさん世界の核燃料被覆管は、金属ではありえない。それはプラスチックか、木や石かも知れないが、不導体である筈だ。工業製品としての手軽さ、入手性加工性のよさからは、プラスチックとなる可能性が大だろう。
 

(3.)IB世界のメルトダウン

 さて、IBさん世界の原子炉、なかんづくIBさん世界福島第一原発が、IBさん世界東日本大震災とそれに伴う津波に襲われ、全電源喪失を喰らった挙句にメルトダウンを起こしたと報道されたとしよう。IBさんによるとこのメルトダウンは、核燃料周囲にあった水の性であり、土砂山の中に核燃料を埋めておけば水と分離できて水素爆発は愚かメルトダウンも起きなかった筈、と主張されているらしい。
 
 既に水中にある核燃料の上から土砂をかけても「濡れた土砂の下」になるだけで水との分離は出来ない、と言うこちらの世界の常識はIBさん世界では通用しない。これまた「熱くない核燃料」と同様、この世ならざる世界の法則なのだから。
 
 だが、まあ、IBさん世界東電はこちらの東電と同様海水や真水の注水による「冷却」に努めたためにこちらと同様「メルトダウンは発生した。」とIBさんは認めているようだ。
 
 「ようだ」と言うのは前述のIBさん世界の原発原理では、原子炉の核燃料が溶融すると言うメルトダウンは起きそうにないからだ。
 先述(1)の通りこの世界の核分裂は熱を出さず、先述(3)の通り核分裂でも核燃料は高熱とならないのであるならば、メルトダウンに到る熱は先述(4)で加熱された水から供給されるしかない。
 ならば、核燃料棒が完全に水面下にあっては溶融は不可能だ。核燃料から放出される放射線と電磁波は周囲の水を加熱するだろうが、そこで沸騰すれば忽ち水蒸気の気泡となって水面上に浮かんでいくばかりだから、核燃料も被覆管も、水の沸点=大気圧下では100℃にしか至らない。容器の中の圧力が上がれば圧力鍋と同様に水の沸点は上がるが、やはり圧力鍋と同様に100℃が百数十度になるだけ。1000℃を軽く超えてくれる金属の融点になぞとても至らない。煮物は揚げ物にはならないし焦げ目もつかないのと同じ理屈だ。
 
 それでも根気良く加熱を続けてどんどん水を蒸発させれば、水位が下がって核燃料が水面上に露頂する。露頂した部分が周囲の水蒸気を加熱すれば、水の沸点以上の高温水蒸気ガスは得られるが・・・PV = nRT ボイル・シャルルの法則のしからしむる所により、高温となった水蒸気は軽くなって(或いは密度が下がって)上に上がる。圧力容器の内部は高温の水蒸気とまだ残っていれば水とが入っており、水蒸気は圧力容器の上端に近いほうが高温になる。それ即ち、核燃料や核燃料被覆管よりも上にある圧力容器の方が高温になるということだ
 
 原子炉圧力容器は特殊な鉄である事が知られている。鉄の融点は1535℃。これに対し核燃料被覆管として広く使われていると言うジルコニウムの融点は1852℃。圧力容器が先に溶け始めても、核燃料被覆管はびくともしそうにない融点の差だ。
 
 因みにウランの融点は1132℃で、圧力容器の鉄より300℃ほど低い。したがって、このウランの融点よりも低い融点の被覆管であるならば、上記の状況でもメルトダウンを起こしえる、とはいえる。だがそれは、その「被覆管はメルトダウンを起こすように、態々低い融点で設計されていた。」と言う事である。
 それは、「核燃料被覆管はジルコニウムと言う情報は虚偽だった」と言う事共々、不可解にして不合理な事である。
 

(4.)IB世界の核兵器

 さて、上記見てきたとおりにIBさん世界の「熱くならない核燃料」でも「核燃料被覆管はジルコニウムが一般的」と言うのが嘘であり、態々融点の低い、電波を通す被覆管材料を使えば、IBさん世界福島第一原発事故でメルトダウンを起こせるかもしれない事は一応示された。無論、『「核燃料被覆管はジルコニウムが一般的」と言うのが嘘』とか『態々融点の低い被覆管材料』とか言う不合理不条理を敢えて無視すれば、だ。「東電も政府も皆嘘吐きだぁぁぁ」と呪文を唱えれば、そんな合理的疑問も退散させられるのだろう。 
 
 所で・・・もしも「核燃料が自身高熱を発することなく水を加熱するのが核分裂反応」であるならば、「核分裂反応が起きていても、周囲に水がなければ大して害はない。」ことになる。出てくるのは放射線と電磁波ばかりならば、電磁波なんかアルミ箔一枚で封じられるから、あとは放射線を封じるばかり。楽なもんだ。IBさんが「土砂で水と分離しろ」「ウラン鉱石は元は乾いた土中にあって安全だった」と主張することとも符合する。
 
 安全なのはある意味結構な事ではあるが、困った事もある。
 
 核分裂爆弾、いわゆる原爆が爆発しない。
 
 通常原爆は、核分裂によって生じる莫大なエネルギーが一気に解放された結果、熱戦、爆風、それに放射線として周囲を破壊し、人員器材を殺傷破壊する兵器とされる。IBさん世界の「熱くならない核燃料」においては、先述の通り核分裂は連鎖はするものの、それは熱エネルギーとはならず、放射線と電磁波になるばかりだから、俗に言う中性子爆弾、1次放射線強化爆弾としての効果は一応期待出来るが、現実世界の広島・長崎にもたらされたような惨禍は、IBさん世界の核分裂爆弾には引き起こせない。
 
 原爆がダメなら水爆があるさ、とは言えない。今ある水爆は原爆を「火種」にして核融合を起こしている。原爆が爆発してくれないならば、核融合も起こらない。
 
 結論。IBさん世界には、原爆なんか存在しない筈だ。それは、広島・長崎の惨劇を免れたと言う事であり、米ソ冷戦でさえ通常兵器によるものである世界だ。ある意味核廃絶主義者の理想郷ではあろうが、そちらのほうがこちらより住み良いかと言うと、随分疑問だな。