応援いただけるならば、クリックを⇒ https://www.blogmura.com/
 
 

「菅直人の3割のリーダーシップが最悪を食い止めた」は本当か?

 報じられているのは民主党衆院議員・寺田学元首相補佐官による、菅直人擁護論。そりゃ元とは言え首相補佐官であるから、流石に菅直人を褒めちぎる訳ではないが、それでも相当に擁護しているのは、朝日新聞並みだ。
 
 例えば、次のような一節がある。
1>  東電本社に乗り込んでいった3月15日朝の緊迫感は忘れることができない。
2> 首相の到着から約40分後、突然2号機の圧力抑制室が爆発、
3> 現地の吉田昌郎所長が「撤退させてくれ」と怒鳴っている。
4> 首相は「注水の作業員だけは残してくれ」と言ったんですよ。
5> 放射能の危険を考えると重い判断です。
6> しかし、あのまま撤退していたらどうなっていたか。
7> 震災に関する首相の行動の7割は批判されるかもしれないが、
8> 3割のリーダーシップで最悪の事態を食い止めた。
 さて、章題にもした通り、私が今回この部分を特に取り上げるのは、上記8> 「(菅直人の)3割のリーダーシップ」故である。
 
 真っ先に浮かぶ疑問は、当然、「菅直人のリーダーシップなどと言うものが、果たして3割、1/3近くもあるか?」である。「リーダーシップが3割」と言う事は、単純計算で、「首相として決断・決裁が求められる案件の内3割には、少なくとも「明白な決定」を行い、恐らくは「明白な正しい決定」を行なっている実績がある。」と言う事だろう。実際のリーダーシップとしては、「正しく下した決断の数」よりも「重大な決断を正しく行なう」ないし「重大な決断を誤らない」ことが重要であり、このポイントを外さなければ、全体の「正答率」は低くても高く評価すべきである。
 
 で、東日本大震災発生と、それに伴う津波、それに続く福島原発事故と言う我が国戦後最大の大災厄に当たって、菅直人がこの大災厄に対処して決断・決意した事項を数え上げてみると・・・

 (1) 震災直後に原発に対する懸念を表明、冷却水不足の事態も懸念して、海水による冷却を指示。

 (2) 震災翌日に、福島第1原発の現地視察を敢行。但し、まだ水素爆発には到っておらず、ベントすら未実施状態の視察。この視察の際、菅直人は視察出発前からベントを命じており、故に「視察によってベントが遅れたと言う事はない。」と主張している。

 (3) 上記1>~4>にある、3/15震災後4日目の東電本社にて、2号機圧力抑制室爆発に遭遇し、「撤退を主張する東電に対し、注水作業員の残留を指示した」

 (4) 福島原発事故を受けて、中部電力浜岡原発に対し停止を「要請」。さらに「他の原発は安全」として、他の原発への同様の停止「要請」は否定。

 (5) 震災・津波・原発事故で20を超える委員会やら対策会議を設立し、その後その全てを3つの会議の下に分科会の形で集約

 (6) 「国民へのメッセージ」を3回ばかり出す。
 
 凡そ「重大な決断順」であり、おおむね時系列に並んだのは興味深いところであるが・・・幾ら思い出そうとしても是ぐらいしかない。戦後最大の大災厄に対して,僅か六つの決断でしかない。
 さらに、この内「正しい決断」と言えるのは、どう贔屓目に見ても上記(1)とせいぜい(3)である。(6)は「決断・決意と呼ぶさえおこがましい」モノであるし、以前にも書いた通り、そのメッセージを少なくとも一読した筈の私が一言半句も覚えていないから、どうせ大した物ではない。(5)は論外。端から上位の3つの組織を指定していたならまだしも、20以上も立ち上げる努力も、その後それらを大系付けるのも、全くの無駄であるし、恐らくは全く機能しない。(4)は評価されている「決断」であるが、明きメクラも良いところだ。(2)はいまだに私は「菅直人の震災翌日現地視察がベント遅れをもたらしたのではないか。それが少なくとも1号機水素爆発につながったのではないか。」と疑っている(*1)。
 六つの決断の内二つを「正解」指定ならば、なるほど正答率は1/3であるし、その2つはトップ3に入っているのだから、「重大な方から3割正解した」と一応見える。
 
 そう、「見える」だけだ。少なくとも当ブログ主は、そう主張する。
 
 何しろ3.11の東日本大震災発生以来、既に2ヶ月を超過しており、復興復旧だとて相応にグランドヴィジョンが示されても良い頃だ。それを決定する事も日本国首相の重大な責務であろうに、震災とは無関係な本年度本予算を通し、とりあえずの1次補正予算を組むのみで、2次補正予算さえ「次の国会に先送り」と抜かすようでは、必要な決心・決断の数に対し実施された数が絶望的に少ないのであり、その内二つが「当たり」だとて、とてもじゃないが「最悪を食い止めた」等とはいい難い。
 
 否、かくも決定・決心・決断を避けるばかりの「歩く政治空白」菅直人が首相の座に居座ることこそ「最悪の事態」と呼びたくなる。
 
 さらに言えば、寺田・元首相補佐官が「菅直人の3割のリーダーシップ」の例として上記(3)を挙げたのも非常に疑問だ。上記3>「放射能の危険を考えると重い判断です。」等ともっともらしく言っているが、「注水に当たる東電職員の生命を無視するならば何ほどの事もない「決断」」なのである。菅直人がそうしたと言う証拠はないが、そうする可能性ならば大いにありそうだ。
 是に対し上記(1)は、菅直人自身の身体生命にかかわる重大な決断の筈だ。であると言うのに、菅直人が発揮した3割のリーダーシップの事例として、(1)ではなく(3)が挙がるのは、かねてよりの私の疑問「震災翌日福島原発視察の際、菅直人には「視察中にベントは実施されない」と言う自信があった。」を裏書するものと思われる。即ち、(1)と言う菅直人の「正しい」決断は虚構である事が示唆されている。
 
 ついでに言えば、元首相補佐官による菅直人擁護論・弁護論だ。突っ込み所は私なんぞからすれば満載である。例えば以下の発言。
 
9>  今、軽々と「国債を出せばいい」という声も聞くが、
10> 借金を返すのは私たち30代、40代の世代です。
11> 首相も「自分たちの世代の積み残しは処理した上で渡す」と言っています。
12> もう、「超ベテラン」という方々が物事を動かしていく時代は終わらなければならないのです。
 
 上記12>は「政権交代」と「世代交代」にかこつけた強気の発言であり、是を言いたいが故の復興国債発行否定論がその前の9>~11>なのだろう。
 断っておくが私も復興国際を是とするものではない。それは緊急手段ではあるが、既にそんな緊急手段を取れる余地は乏しいと考えているからだ。
 それは他でもない自民党政権時代に悪化していた財政に加えて、「仕分けさえすれば数兆円が浮く」「公務員の給与2割カット」などと言う極楽トンボな財政見通し(*2)で「子供手当て(但し半額実施)」「高速無料化(但し試行)」などの「ばら蒔きマニュフェスト(不完全)実行」するものだから、ガソリン税廃止をやめたぐらいじゃ全く追いつかず、一度使えばそれっきりの埋蔵金を使いまくってなお44兆円に上る国債を発行する事にした上で「東日本大震災に拠る政治休戦」が無ければ成立しないような今年度予算(*3)を出すような菅直人や民主党が、上記11> 「自分たちの世代の積み残しは処理した上で渡す」 などとほざき「復興国債は出さずに済ます」と抜かしたところで、鳩山のTrust Me!並みに信じられもしなければ、説得力もない。
 
 如何に、寺田学。
 
如何に菅直人。

 

<注釈>

(*1) 現時点の情報では、視察当時に既に1号機炉心はメルトダウンしていたわけだから、一寸やそっとベントが早くても、水素発生は免れそうにないが、拡散して爆発に到らなかった可能性は、まだ残る。
 
(*2) 当然ながら、前者の効果はすずめの涙。後者にいたっては一体何処へ消えたのやら。
 
(*3) 2次補正予算ではなく1次補正予算ですらなく、震災の影響は直接予算案には受けていない本予算。