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 今回社説比較したのは、日本・菅直人首相と中国・温家宝首相がアジア欧州会議(ASEM)の際に廊下のソファで実施したと言う日中首脳「会談」(*1)を受けての各紙社説。「各紙」と言うのは、例によっての朝日・読売・毎日・日経の四大紙に産経を加えた「レギュラーメンバー5紙」に、今回は琉球新報と、東京新聞に登場頂いた。
 「しんぶん赤旗」が比較対象外になったのは、タイミングとテーマの揃った社説がなかったから。因みに琉球新報以外の六紙は10/6付けの社説( 琉球新報は10/8付け)なのであるが、10/6付けしんぶん赤旗の社説は、「近づく赤旗まつり 誘い合って、参加しませんか」 http://www.jcp.or.jp/akahata/aik10/2010-10-06/2010100601_05_1.html ・・・
 赤旗が日本共産党の機関紙である事は自明だし、数年ぶりのイベントなのだそうで、「しんぶん赤旗」としては力も入るのだろうが、「日中首脳「会談」による日中関係変化の可能性」よりも党のイベントを優先してしまうようでは、所詮「党の口舌=宣伝機関」である事を、超えられないだろう。超える心算も(*2)、なさそうではあるが。
 
 それはさておき・・・
 
 先ずタイトルを比較して見ると、キーワードは「(日中戦略的)互恵関係」と「報復措置/強硬措置」でありそうだ。
 前者をキーワードとする筆頭が朝日「「戦略的互恵」の再起動を」であり、毎日「「互恵関係」にはまだ遠い」がこれに続く。いずれもタイトルからして日中の「戦略的互恵関係」即ちいわゆる「日中友好」を重視する姿勢であり、そのためにはあれやこれや眼を瞑るどころか吹き飛ばしてしまえと言う主張。琉球新報「「知恵ある世代」に程遠い」や東京「日本と中国 闘えば共に傷がつく」と言うのも「互恵関係」と言うキーワードこそないが、同様の社説である。この4紙が一つのグループをなすので仮にAグループとしよう。

 一方「互恵」のキーワードはあるが、もう片方のキーワードも擁する読売「中国は互恵の前に報復撤回を」は、タイトルからして明確に「互恵関係」よりも優先すべき措置を訴えており、日経「中国は強硬措置早く撤回を」はより直接的だ。この2紙はもう一つのグループ、Bグループを為すとして良かろう。
 朝日と対極をなすと私が目しているところの産経は「一時しのぎは禍根を残す」とキーワードこそ入っていない物の、その場しのぎの「日中友好」に逃げる事の愚を説いており、上記Aグループや、今回の事件で私が4つの大罪を犯していると断じている那覇地検とは反対の主張だ。Bグループの端っこと言う事になろうか。
 
 このグループ分けは、評価項目1番目「尖閣諸島の領有権」に端的に現れる。Bグループの読売、日経、産経が尖閣諸島は日本の領土であることを明記し、得に産経、読売はその領有を毅然と主張するように求めているのに対し、Aグループは朝日「埋まらない溝は溝として」琉球新報「両国が領有権を主張」など中国側の主張を併記して、我が国の実効支配にすら触れずに済ましている。我が国が中国なぞとは違って言論の自由を保障された自由主義陣営であることの証左、ではあるが。
 
 それでは一紙ずつ見て行くとしよう。
 
 朝日にとっては「戦略的互恵関係」と言うのは、魔法の呪文のようだ。尖閣諸島自信の領有権自体すら「違いは違いとして」戦略的互恵関係を拠り所に「関係修復」したと喜び、今回の事件でも「戦略的互恵の精神に基づいて冷静に対応」すべきだったと言い、各種交流から技術協力、果ては再発防止のための海上保安当局間の協議連携までやれると言うのだからたいしたものだ。
 否、噴飯物、と言うべきだろう。
 第一、海上保安当局間の協議連携なんかで今回のような事態が再発防止できるわけがない。中国は、衝突事故を引き起こした=体当たり攻撃をかけてきた当該漁船を含めて「尖閣は中国領土」と主張しており、中国の海上保安当局とは「漁業監視船」と称する漁船護衛艦を尖閣沖に派遣してきた張本人だ。中国「漁船」の領海侵犯を幇助こそすれ防止なぞする訳がない。否、逃亡する中国漁船を援護するばかりだろう。なるほど中国漁船が体当たり攻撃をかけるほどに追い詰められる事態は防げるかも知れないが、それは我が国領海侵犯に対する我が海上保安庁の公務執行を、中国海上保安当局が妨害するからに他ならない。一体どこが戦略的「互」恵の精神なのだ。
 「対中関係のような難しい外交では与野党の認識共通化が大事だから、野党は政府に協力しろ。」と主張する取って付けた(*3)ような最後のパラグラフも噴飯物と言ってよい。「与野党の認識共通化」とはつまり先頃明々白々となった仙石官房長官の恐るべき歴史認識を野党も共有しろと言う事に他ならない。
 
仙石氏の極めて奇妙な中国擁護―そして、極めて危険な  http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/33794139.html#33794804
 
 さらに言うならば、民主党の野党時代を思い出すが宜しかろう。民主党が大局の認識を政府と共通化したことなぞ、あっただろうか。それが今与党の座にあることで、野党に反対するなと言うのは、一体民主党とは何様の心算だ。(*4)
 
 
 東京新聞の社説も中々の物だ。タイトルからして産経の反対であり、「日本と中国 闘えば共に傷がつく」として、兎に角日中は依存しあっているのだから闘うなと仰る。だから評価項目2番目「日本側行動の評価」も3番目「中国側行動の評価」にも長々と記述があり、いかに両国が損をしたかに費やされている。
 で、平和共存がお互いの利益になるから、両国は真剣に「戦略的互恵関係」を目指すべきであり、対抗措置の長期化や無用の挑発は避けろと言うのが東京の主張だ。無用の挑発の例としては「悪しき隣人」と中国を評した枝野長官を挙げている。
 一見もっともらしい社説である。が、尖閣諸島が歴史的にも国際的にも中国以外は非の打ち所がないような日本の領土であり、其処への領有権を強引に主張し始めた中国に対して「お互いに傷つくから」と「戦略的相互関係」を目指す事の愚、後述するが産経が指摘している「一時しのぎ」の恐ろしさには全く触れようともしていない。今日の中国「漁船」の領海侵犯、違法操業、さらには傍若無人な体当たり攻撃は、かつて「尖閣の領有権は、今の世代では知恵がないから、次の世代の知恵に任せよう。」などと言う中国側の甘言に乗った結果であるという史実を。
 
 琉球新報の社説は、そのかつての中国の甘言「次の世代の知恵に任せよう」を敷衍したタイトルで「 「知恵ある世代」に程遠い」である。こういうタイトルではその結論も見えているようなものだが、評価項目の3番目で中国側行動を「メンツを重んじての感情的対応」だの「一部の(日本)国内反応に中国政権上層部が過剰反応」だのと解説を加えているのが新味な程度で、評価項目5番目「今後の対中方針」で日本政府の南西諸島への自衛隊配備検討や米軍抑止力の強調を「武力対立を煽る暴挙」とまでなじる。
 であるからして、その結論、評価項目6番目「今後の国内方針」は凄まじい事になっていて・・・
R1>  尖閣問題は武力ではなく、外交力で解決すべきだ。
R2> その外交の知恵を持ち合わせていないなら、
R3> 知恵ある世代に委ねる方が得策だ。

 まずはR1>だろう。「武力ではない外交力」なんてのは、殆ど言葉の上のお遊びだ。外交力の主体は国家であり、武力=軍隊のない国家なんてのは、一体どこの国のことを言っているのだ?第一、尖閣をめぐる「外交力」の主体は、我が日本と軍拡著しい中国ではないか。「武力ではない外交力」なんて、想定しようがない。
 況や、そんな殆ど存在もしないような物で尖閣諸島を巡る問題が解決できよう筈もない。つまり上記R2> の「外交の知恵」なんてのは、豹がその斑を全て洗い流し、ジャージー種の牛と同じ仕事を貰うその日まで、浮かんで来る事さえ期待できない。
 そうなると琉球新報の結論は上記R3>つまりは先送りだ。
 幾ら先送ったって、尖閣沖で違法操業したり体当たり攻撃かけたりしている中国「漁船」は、今、そこにある、現実なのである。自衛隊の配置も米軍の抑止力も否定するならば、上記3>「先送り」は中国の領海侵犯違法操業を肯定する事に他ならない。琉球新報と言うのは、沖縄漁民には読まれない新聞なのだろう。
 
 毎日は朝日の同工異曲だ。今回の事件が「戦略的互恵関係の脆弱性を露呈した」と断じ、それ故にタイトルも「互恵関係にはまだ遠い」なのだが、詰まる所は「今は遠くても、戦略的互恵関係を目指せ」なのである。琉球新報の「武力でない外交力による解決」と同様、或いは朝日の魔法の呪文と同様に「日中戦略的互恵関係」なる「青い鳥」を追っているとしか、私には思われない。
 青い鳥を追うのは勝手だが、我が国の主権や国益、我が国民の生命財産を、そんな青い鳥に賭けるわけには行かない。それを推奨すると言う毎日の社説は、世論のミスリードと、断ぜざるを得ない。喩えて言うならば、ハンメルンの笛吹きの笛だ。
 
 読売の社説はタイトルからも明らかだ。「互恵の前に報復撤回」であり、中国の講じた多彩な報復措置の即時撤回を求めている。その主張は、先のグループ分けで言うBグループの筆頭と言ってよかろう。今後の方針も、海上保安庁による監視体制の強化、衝突時ビデオの公開、国益にたった積極的外交と明確であり、その方針の過不足は議論の対象足りうるが、方向性は広い範囲の支持を得られる物と期待してしまう。無論、私の支持しうる方向性だから、だが。
 
 日経は、尖閣諸島の領有を主張する中国が活動を強める事を懸念し、その強硬措置が未だ終わらない事を非難する。中国「漁船」船長釈放を日本側の「日中関係改善への足がかり」と評価するのは、私は肯けないが(*5)、今後の方針として米欧や他のアジア諸国との連携、言い換えれば対中包囲網の形成を訴える主張は、説得力がある。無論、包囲網を作るだけではなく、実質を伴わないことには、「中国の自制」など促しようが無い事を銘記すべきだろう。
 
 産経は先述のBグループの端っこ、「最右翼」と言ってよかろう。主権問題棚上げは一時しのぎにしかならず禍根を残すし、尖閣の領海・領土を守る法整備や施設建設検討は急務で、首相はその具体策を説明する義務があると主張する。

<注釈>
(*1) 
会談に「」(カギ括弧)をつけたのは、建前上偶発的な会談とされ、中国側は「会談」の語を用いていない、つまり「いつでも都合が悪ければなかった事にしてしまえる。」あやふやな物であるから。日本側の通訳が同席しなかったと言う事もわかっており、菅直人が中国語に堪能とも、温家宝の日本語が流暢とも聞かないから、本当にどんな内容の日中首脳「会談」であったかは、同席した中国側通訳しか知らない事になる。
 
(*2) 「売る心算」ならありそうだが。でも金出して党の宣伝買おうなんて人間は、そう多くないぞ。
 
(*3) どうしてこうも朝日社説と言う奴は、最後のパラグラフが取って付けたようなのだろう。本当に取って付けたからじゃないかと、疑われてならない。
 
(*4) 中国共産党、或いは北朝鮮労働党のつもりであると考えると、朝日の主張は相当納得できる。でもねぇ、日本共産党ですら尖閣は日本領土であり、政府はその事を毅然と主張しろと言っているのだぞ。
 
(*5) そういう期待があったのは事実としても、実効は、全くなく、ただ我が方が外交カードすら失って損をしたばかりである。