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 報じられているのは、F-4EJファントムII(*1)の退役に伴う後継機種選び=F-X選定について、その調査費が来年度予算要求に計上されるというもの。調査ったって、何しろ金払わないとあれこれ教えてもらえない「第5世代」のステルス戦闘機の事。調査費だけで7億円が予算要求されるというから、調査にだって覚悟が要る。
 
> 大幅に遅れているFX計画は、
> 最新鋭の第5世代機のなかで唯一調達可能なF35への一本化に向け、
> 大きく踏み出した格好だ。
と報じられ、報道記事のタイトルにF35に(*2)一本化へ」と書かれて仕舞うのも、故ない事ではない。
 つまり、F-4EJファントムIIの後釜は、F-35ライトニングIIになりそうな勢いと言う事であり、それは同時に、当面F-XたるF-35が日本に届かないという事である。
 
 何しろ、元々F-X=F-4EJ後継機選定が始まった時、F-22は最有力候補であったがF-35は候補にすらなれなかったのは、F-35が未だ国際共同開発中の機体であり、F-Xの調達時期=F-4EJの更新時期に間に合わないから、だった筈だ。
 
 それが、F-22戦闘機の機密保持のために輸出が許可されず、あまつさえ米空軍向けでさえ生産中止となって唯でさえ高価な機体が(仮に上記の許可が下りたとしても)天文学的な価格となることになって、F-X最有力候補から脱落してしまった現在、「唯一調達可能な第5世代戦闘機(≒ステルス機)」とは言えF-35をF-X候補に復活、否、最有力候補通り越していきなり一本化=F-X選定と言うのだから、少々穏やかではない。
 
 問題の第一は、無論、調達可能な時期だ。未だ国際共同開発中の期待であるF-35。国際共同開発と言う奴は、こう言っては何だが、開発コスト上昇と開発期間延長の代名詞と言える。
 「船頭多くして船山に登る」の例えもあるように、要求元がばらばらの事を言い出せば、開発は難航するのが道理。国際共同開発と言う事は、その船頭が多い事を意味する。なにしろF-35は「米英はじめ9カ国が共同開発中」なのだから、さらに話はややこしい。それに「米国」と言っても、米海軍、米空軍、米海兵隊、それぞれの要求が異なっている事も想起すべきだ。
 尤も、この米国3軍の要求が異なるからこそ、「米国内ですら要求がバラバラならば、いっそのこと国際共同開発!」とフン切れたのだろうけれど。
 F-35が現行計画通り開発できたとしても、F-4EJはその開発完了までもたないから、F-Xとしては繋ぎの機体が必要になる。
 
> 国内に生産ラインの残るF2戦闘機の追加調達に関し、
> 概算要求には盛り込まないが検討を継続する。
と報じられる所以だ。つまりその繋ぎにF-2支援戦闘機を追加調達する・・・かも知れないということだ。F-35の方が調査だけで7億円も概算要求されるというのに、F-2追加調達の方は予算要求なしの「検討継続」のみだから、国内の生産ラインとしては、甚だ心許ないところであろうが。
 
 問題の第二はF-35が国際共同開発機であるという事だ。これは第一の問題とも絡む2面性の問題となっている。
 日本は現状「武器輸出3原則」と言う奴があり、武器の輸出は原則しない事になっている。これが国際共同開発への参加に対して制約となっている。日米間の共同開発はその武器輸出3原則の例外として、F-2共同開発を皮切りに実績を積んでいるが、米国以外との共同開発は「前例がない。」これは、日本がF-35の共同開発に参加できない可能性を示唆している。
 国際共同開発であるF-35の調達は、当然ながら開発当事国が優先だ。日本がF-35の国際共同開発に参加しなければ、日本向けF-35は開発当事国9カ国の後回しと言う事になる。唯でさえ他のF-X候補機よりも調達可能時期が遅く、さらに遅くなる可能性さえ秘めているF-35が、だ。
 無論、国際共同開発に日本も参加すれば、後回しによる遅れは回避できる。が、この場合問題になるのが武器輸出三原則、「日本は原則として武器を輸出しない。国際共同開発は、武器輸出に当たる可能性がある。」だ。何らかの「解釈改憲」ないし新たな武器輸出原則を確立しない限り、日本はF-35の国際共同開発に参加できない。
 
 問題の第三は我が国の防衛産業基盤だ。
 今度F-Xの導入で以って漸く退役叶うF-4EJファントムIIだが、F-4ファントムシリーズは5000機以上と西側ジェット戦闘機最大の生産数を誇る傑作ジェット戦闘機である。余り知られていない事だが、そのファントムを生産したのは、勿論原産国であるアメリカと、日本だけなのだ。
 生産できるという事は、修理も広範に迅速に出来るという事であり、さらには改修・性能向上もしやすいという事である。言い換えれば、抑止力と言うのは戦闘機など兵器の数ばかりでなく、それを修理・生産・開発する能力である防衛産業基盤をも含むのである。即ち、F-4EJファントムIIは、その配備数もさることながら、防衛産業基盤強化と言う点でも、抑止力強化に寄与しているのである。
 その意味で、ライセンス生産よりもさらに抑止力が高いのは自主開発である。スゥエーデンが人口たった一千万人しか居らず、エンジンやミサイルは外国開発の物を導入しつつも、ジェット戦闘機は自主開発して輸出までしてしまうのは、防衛産業基盤による抑止力を狙ったものであろう。
 F-XとしてF-35が採用されたとして、果たしてF-35が日本の防衛産業基盤強化に貢献するか、言い換えればF-35の修理・製造・改修に日本の防衛産業が何処まで参加できるかが大いに問題であり、第二の問題で触れたように国際共同開発の壁、即ち「武器輸出三原則」の壁は、日本の防衛産業の参加を阻み、防衛産業基盤の弱体化、即ち「見えない」抑止力低下を招きかねないのである。
 況や、報じられているような、
 
> 高額なFMS契約の手続きに入れば、
> F35導入に向け本格始動することになる。
FMSでは海外からの丸買いでしかなく、日本の防衛産業基盤には殆ど寄与しないのである。
 
 「調達しうる唯一の第5世代戦闘機」と言うのは、まあ魅力だろう。F-2追加調達でF-4EJ退役を穴埋めすれば、ある程度のF-X調達開始時期後送りも出来るかも知れない。調査だけで7億円も使った後で「やはりF-XにはF-35よりも・・・」とは言い出しづらくなる事もありそうだ。
 
 が、上記の問題点も考慮すると、私にはF-Xの最適機種は、現状では「ユーロファイター・タイフーンの国産化及び国産改修」と思えてならない(*3)。
 
 普天間基地移設問題を巡って日米安保体制をガタガタにしてしまい、その普天間問題をろくに解決できないつけを他のところでポイント稼ぎして何とかしようと言う現・民主党政権では、全く期待できない選択ではあるが。
 

<注釈>
(*1)
 むかーし昔、「栄光」って和名があると読んだ覚えがあるが、いつの間にか「栄光」はファントムIIの先輩、「最後の有人戦闘機」ロッキードF-104Jの名前になっていたな。因みに同じ情報源はF-104Jを「極光」としていた。これはこれで中々良い名なんだが、さらに先輩のノースアメリカンF-86F「旭光」と音では区別できないという大欠点がある。
 
(*2) ウーン、「F-35」だよなあ。「-(ハイフン)」が要るよなぁ。昔米海軍の戦闘機はF4FだのF4UだのF6Fだのと、「-(ハイフン)」無しだったが、命名法統一で米軍戦闘機は海軍空軍(空軍の前身が陸軍航空隊)を問わず「F-#」になったはずだ。
 
(*3) 決して蛇の目=英軍機が好き!とか、形が好き!!とか言うわけではない。私は英軍機は嫌いな機体の方が多いし、ユーロファイターの形も今二つぐらいで気に入らない。