(1.)小説家 曽野綾子女史の受けた「教え」

 曽野綾子さんと言う方が居られる。本業は小説家なのだそうだが、失礼ながら私はまだ彼女の作品をただの1本も読んでいない。従って、小説家としての彼女を、私としては評価できない。
 ではあるものの、エッセーとか論評とかは産経新聞などに掲載されており、こちらの方は読んでいるので、エッセイストとか評論家としての彼女ならば、一応評価する事ができる。それらの文書に登場する彼女の小説に対する姿勢は、「これぞブロの物書き」と唸らせられる厳しいものがあり、私のような「趣味でしか小説なんか書いたことがなく、小説を売った事もない。当然、小説で飯を食おう何て試みたことすらない。」素人モノ書きは頭を下げるしかない。
 その他のエッセイなども、なかなか骨太の、私としても共感できる部分の多い議論をされる人で、旦那さんの三浦朱門さん共々、「敵に廻したら厄介そうな夫婦ナンバーワン」ではないかと密かに思っている。( 無論、誉め言葉の心算だ。)
 
 その曽野綾子女史が産経新聞に書いていた論評に曰く、鳩山首相が第2回日米首脳会談に於いて大見得を切り、先に陸上自衛隊の隊内訓示で「取り上げた」だけで「首相を揶揄した」だの「クーデターに繋がる」だのこじつけられて言論思想弾圧された「Trust Me」を取り上げて曰く。
 
> 「『私を信じて下さい(Trust me./Believe me.)』などと言う人は
>  無条件に嘘吐きだと思うべきだ。私はそう教育されてきた。(*1)」
 
 話が前後するが補足説明すると、曽野綾子女史は(*2)キリスト教徒で、キリスト教関連の海外での貧民救済活動にも大いに関わっている。上記の引用はその海外での貧民救済活動経験で受けた教育について語っている。
 貧民救済活動と言っても綺麗ごとばかりではない。「貧しい人に施しを与えて、双方Happy、めでたしめでたし。」に終わるとは限らず、いやむしろそういう貧しい国や地域であるからこそ、善意で持ち込んだ救援物資や施設を略奪・強奪・詐取しようと言う輩は大抵居る。そうした輩に混じって情報交換・物資交易をしないことにはいくら善意の貧民救済活動であっても成り立たない、どころか生命の危険さえある。
 
 そういう「厳しい」状況下で、信用の基礎となるのは、行動であり、実績であって、(*3)言葉ではありえない。

 それを言葉だけで信じてもらおう何て虫の良い奴は、これから嘘をつこうとしているか、既に嘘をついていてそれを糊塗していると、断じて先ず間違いない。と言うのが、曽野綾子女史の受けた教育の主旨である。
 
<注釈>
(*1) 記憶で書いているので、正確な引用ではないかもしれないが、主旨は外していない、筈だ。
(*2) 私何ぞとは違って。私はどうも、一神教の尻の穴の狭さが気に入らない。
(*3) 「友愛」だろうが「いのち」だろうが


(2.)”Trust Me”で事足れる者は、政治家ではない

 曽野綾子氏が受けた教育は、なかなか厳しい教えであるが、全地球的にはこちらの方がグローバルスタンダードであろう。
 ごくごく当たり前のことなのだが、この世は、平和を愛する諸国民にも、その善意にも満ち溢れてなど居らず、自らの貧困は他者から強奪してでも回避・回復しようとする人間には事欠かない。それ故に、ソマリア沖では「自衛隊反対」が金看板である(筈の)ピースボートが海上自衛隊に護衛を依頼したりするのである。
 
 日本国内と言う「安全地帯」で知らぬ間に12億円も小遣いをくれる「母の愛」に護られて居ればこそ、ただ「友愛」と唱え「Trust me」と詠唱するだけで、世界平和も日米安全保障体制も安泰安心であるなどと、世間知らずならぬ「世界知らず」にも思い込めるのである。
 
 況や、その思い込みを「揶揄された」廉で自衛官の隊内訓示を処罰するなど、職権乱用にして思想信条の自由に対する抑圧であり、自衛官に対する人権蹂躙である。
北沢防衛相、言論と思想の自由を抑圧す http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/31704221.html

 そんな思い込みは、揶揄どころか嘲笑され、痛罵されて当たり前である。少なくとも、思想家や宗教家、或いは精々学者ぐらいならばまだしも、政治家や況や軍人としては。
 
 勿論( 急いで付け加えるが)鳩山首相にしろ、北沢防衛相にしろ軍人ではない。が、文民統制の立場から、少なくとも首相は自衛隊三軍の最高指揮官だ。軍人と同様、現実を冷徹に見ることが出来なければ、最高指揮官なぞ務まるまい。
 
 言い換えるならば、「Trust Meだけでは日米安保の信頼関係は築けない。」とした陸上自衛隊の隊内訓示は、現実を冷徹に見据えねばならない軍人の鑑と言うべきであり、賞賛されこそすれど、処罰される言われは毛頭無い。
 
 逆にこの隊内訓示を「首相を揶揄している」等と言いがかりをつけるのは、「首相が切った大見得”Trust Me”さえあれば日米の信頼関係は築けると言うのが政府の公式見解だ。」と主張しているに等しい。そう信じているとしたら思い込み通り越して狂信ですらある。今の日米関係が、鳩山首相や現政権の度重なる不誠実もしくは虚偽にも拘らず、「不穏にならず」に居られるのは、先代の自民党政権や自衛官をはじめとする日米安全保障の現場が長い事積み重ねてきた信頼関係に依るものであり、首相の大見得なんぞ屁の突っ張りにもなっては居ないのである。
 
 況や、「クーデターに繋がる」などと言うのは、文民統制を思想統制にまで広げて、自衛官の思想・信条を政府見解に統一しようと言う暴挙である。
 
 なるほど、自衛官は自衛隊法により、政治活動は禁じられている。だが、自衛官とて日本国民であり、憲法上保証されている言論、思想、信条の自由は保証されているはずだ。また保証されているからこそ、自衛隊は精強たりうるのである。
真の民主主義国家は最強である(楽観的観測) http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/23943306.html
 
 第一、上記の隊内訓示が、仮に首相を揶揄していたものだとしても、政治活動などと呼ぶべきだろうか。これは矮小化してみたとしても、政府による、自衛隊に対するパワハラであろう。


(3.)信用・信頼の源泉は、行動と実績である。

 先述の通り、日米関係が未だ一定の信頼を保っていられるのは、「バラク―由紀夫」とファーストネームで日米首脳同士が語り合う関係よりも、況や鳩山首相の大見得”Trust Me”などの言葉よりも、まず行動であり、今までの行動の積み重ねである実績があるおかげである。
 その実績は、旧自民党政権の政府や、数多の官僚、自衛官、国民が積み重ねてきたものである。
 
 一例を挙げれば、現政権がとうとう中止してしまった海上自衛隊によるインド洋上給油活動がある。この給油活動が「アフガニスタンの復興支援に役立っていない。」と言うのが現政権の見解であるが、それが日米の信頼関係を強固なものにする上で役立っていた事までは、今の政権でも否定は出来まい。(*1))
 
 現政権たる民主党、社民党、国民新党は、これからその信頼をさらに高めるべく行動していれば、まだ上記の大見得を誇るのも良かろうが、事態はその逆であろう。それは普天間基地移設問題一つとっても明らかだ。アメリカが参加したりしなかったりする( が、中国は確実に「参加」するであろう)「東アジア共同体」も、「日米中三角関係」も、上記のインド洋上給油活動の中止も、日米の信頼関係を損ね、損じるものばかりなのが、現政権発足以来の外交策である。
 
 2度も日米首脳会談を開いておいて、この体たらくである。
 
 今度は話の通じない鳩山首相ではなく、その黒幕・小沢一郎が訪米するそうだが、人民解放軍野戦司令官殿が訪米したとて、日米安保体制に資するものとは、私には到底思われない。精々握手して、写真を撮って、小沢一郎が大喜びしてお終いだろう。
 
 つまり、日米安全保障体制の維持と向上は、現民主党政府でも、政府首脳でも、その黒幕でもなく、現場に懸かっているのである。
 
<注釈>
(*1) それでも社民党あたりはああだこうだ言いそうではあるが。何しろ北朝鮮の弾道弾を迎撃しても、破片が危ないから迎撃するな、と言う御仁だからな。そのまま見過ごして落下させた方が安全だと思っているらしい。よほど北朝鮮製の弾頭(ひょっとすると核弾頭)の「安全性」に自信があるのだろう。


(4.)鳩山首相は嘘吐きか?

 再び、先述の曽野綾子女史が受けた厳しい教えに戻ろう。
 即ち世知辛いことこの上ないこの世界(の大半)では、「『私を信じて下さい(Trust me./Believe me.)』などと言う人は無条件に嘘吐きだと思うべきだ。」と言う教えに。
 
 諸兄御承知の通り、日本国の元首にして陸海空三自衛隊の最高指揮官たる鳩山首相は、第2回の日米首脳会談の席上でオバマ大統領に対し、普天間基地移設問題に関連して”Trust Me."と大見得を切り、これにオバマ大統領が「勿論、貴方を信じますよ。(Ofcource, I trust you.かな?)」と応じた事を嬉々として記者団にも語り、メルマガでも報告した。
 
 これを上述の教えに当てはめるならば、鳩山首相は「無条件に嘘吐き」と断定されるべきと言う事になる。
 
 そいつは一寸困った事態なのは言うまでもないだろう。何しろ、陸海空三軍の最高指揮官様なのだ。一朝事があったら、防衛出動を出したり出さなかったりする立場の人が、嘘吐きであるならば・・・良くても士気の低下。先ず確実に負け戦で、我が国はもう一度敗戦と占領の屈辱を味あわねばならないことになる。
 
当ブログを丹念に読んで下さる方( そんな奇特な方が何人居るか、そもそも居るのか、と言うのは置いて)には私の用意した答えは自明だろう。
 鳩山首相が「普天間基地移設問題は、現行日米合意(キャンプシュワブ沖への移設)を前提としない。」とオバマ大統領が前提としていたと承知の現行日米合意を貶めてみせたのは、第2回日米首脳会談の翌日。未だオバマ大統領が日本を離れるか離れないか( なおかつ鳩山首相はさっさと日本を離れていた)の内だ。
 
 レッテル貼り、況やレッテルによる判断と言うのは間違いの元ではあるが、鳩山首相を無知無能無定見無方針無見識優柔不断のコンニャク野郎と仮定すれば、東へ行けば東の人に受けるように、西に行けば西の人に受けるように、沖縄に行けば沖縄の人に受けるように、アメリカに行けば、アメリカ人に受けるように話をするものだから、「八方美人(*1)」の嘘吐きにしかなりようがない。
 上記の言動も、「友愛ボート」が紛争地域にに行ったり行かなかったりするのも、下がる筈のガソリン税が下がらなかったり、超目玉商品である「子供手当て」の支給額が変動したり、鳴り物入りで実施した事業仕分けが大した効果を上げないのも、上記の仮定で全て説明が付く。
 
 即ち、曽野綾子女史が受けた教育は、どうやら鳩山首相にも当てはまってしまうのである。
 
 如何に、国民。

<注釈>
(*1) とは言え、「嘘吐き」とばれた時点で最早八方「美人」たり得ないのだが。