3. 理念優先やキャッチフレーズ、宣伝ではなく―実利優先、怜悧な思考―
 しかるに現与党=民主党を中心とした連立政権の政策たるや、その「マニュフェスト」に従い、先述の通り「二酸化炭素削減25%」を公言しつつも「高速道路無料化」も進めるという。
 
 その高速道路無料化は、景気対策となるという一面も確かにあるだろうが、その景気浮揚は結局自動車をより多く活用する事であり、なかんずく今の「休日高速道路1000円」でさえ大渋滞を現出する休日の自動車利用をより促進する事を意味する。
 これで今の自動車が全部電気自動車だというのならまだしも、未だハイブリット車が売れているというだけで未だ少数派であり、大部分がガソリン車、残りの大部分はディーゼル車である今の自動車を活用する事は、二酸化炭素排出量を増大させこそすれど、減少させることはあり得ない。
 
 それに加えて先に報じられるJR四国をはじめとする、鉄道そのほかの輸送機関、公共交通機関への悪影響が加わる。政府が公的資金を投じれば、これら公共交通機関の倒産は免れるかも知れないが、「高速道路無料化」による自動車利用に流れる物流を、公共交通機関に呼び戻す材料とはならない。
 
 公共交通機関の利用は減少し、その分が公共交通機関、なかんずく鉄道よりも二酸化炭素排出量が多い自動車の利用が増える事は、民主党のマニュフェストが「高速道路無料化」謳った時点で充分予測できた事の筈だし、少なくとも自動車利用が増えることによる二酸化炭素増加の点は、第3回目の党首討論で麻生首相(当時)が指摘していたところだ。
 これに対し鳩山民主党代表(当時)は、「そんなには増えないだろう。」とあやふやにして極めて楽観的な予想を口にしていたが・・・果たして、鉄道会社が倒産或いは路線縮小する事による二酸化炭素排出量増加まで、きっちり計算した上での答弁だったか。(イヤソンナ事ハ絶対ニナイ。=反語)


4. 政府は、「高速道路無料化」か「二酸化炭素25%削減」のいずれかかを選択せよ。

 鳩山首相自らが認めている通り、彼が国際会議で条件付ながら掲げた「二酸化炭素の25%削減」は日本にとって(*1)極めて高く、困難な目標である。鳩山首相はこの難題の解決に関し、技術革新に期待しているようであるが、技術革新は連続的には起こらないし、期待通りに怒るとも限らないし、怒ってから普及するまでに相応の時間を要する。
 その普及は、回転の速い家電製品への普及なら凄まじい速度であるが、発電や交通機関や自動車のようなインフラが巨大なものであるほど、普及には時間を要する。そして二酸化炭素排出量はまさにその巨大なインフラにかかっている。つまりどんな革新的な技術革新が今この瞬間に起こったとしても、それがこれら巨大なインフラに普及するには、ざっと10年の期間が必要なのではなかろうか。

 これに対し高速道路無料化の方は、マニュフェストに掲げられた目に見える施策だけに、今すぐではないにしても、段階的にであれ来年にも始められそうな勢いであり、始めた瞬間に自動車の利用が増えだすのはまず間違いない。ディレイがあったところで1週間2週間の話だろう。
 
 結果は非を見るよう理も明らかなように私には思われる。高速道路無料化が始まった時点で、日本の二酸化炭素排出量は間違いなく増え始める。その増え方は、電気自動車や水素自動車が相当普及するまで止まらない。そこから「二酸化炭素25%削減」なんて目標を達成するまでに、どれだけの新技術とどれだけの負担が強いられるか、想像を絶する。
 
 それよりは、章題にもしたとおり「高速道路無料化」と「二酸化炭素25%削減」と言うあい矛盾するマニュフェストの片方を落すべきである。
 
 かてて加えて、「高速道路無料化」を落とし、前述の通り鉄道の利用拡大を進めると共に発電の原子力化を推進することは、二酸化炭素削減の上でプラスになってもマイナスになることはない。同目標達成のための一般家庭への負担増加も軽減できる筈だ。
 
 「二兎を追うものは一兎をも得ず。」とことわざに言う。政権交代をかけたマニュフェストに、二兎どころか何兎入れたのかも判らないような状態なのはある程度仕方が無いが、厳しい目標を達成するには楽観的な「技術革新頼み」場借りでなく、冷徹な判断と施策もまた必須であろう。
 
 さらに言うならば、国際会議の場で条件付ながら「二酸化炭素の25%削減」を宣言し、オリンピック招致のプレゼンテーションにまで目玉のように取り上げた以上、条件付ながら「二酸化炭素の25%削減」という綸言は既に語られているのである。綸言は汗の如しと言う。一度出た綸言は、引っ込められない。
 
 従って民主党及び現政権としては、「高速道路の無料化」を取り下げるか・・・無責任に政権放り出して頬被りして後の政権に実行を押し付けるかしか方法が無い。前者は掲げていたマニュフェストには反するが、国際会議場での日本国首相の公言を反故にするよりはマシな選択であろう。

 それとも、後者の策を既に予定しているのか、民主党。
 (ソリャ、アリソウナ話ダガ・・・)

<注釈>
(*1)アメリカや、中国にとってなら兎も角