先般記事にもした首記討論会の動画は、上記URLでも公開されているので、ご覧になった方も多いことだろう。 にほんブログ村
 
 まだご覧になっていない日本の有権者ならば、是非一度ご覧頂きたい。公開されているのは、さる8月12日に民間団体主催で開催された党首討論であり、先月中頃に企画されながら、民主党の都合で(「影響が予測できないから」とか何とか、言っていたような気がする。と言うことは、今は予測できるから実現したのかな。)流れた「第3回党首討論」の仕切直しという形だ。
 
 形というならディベートに準じた形式を取っていて、以下の流れで進行している。
① 両者それぞれの主張 まあ、冒頭陳述と言うところか
② ①を受けて、相手の主張に対する質疑を双方から 
③ 両者に対する質問を主催者から
④ 最後のメッセージを両者から

 さて、ご覧になって如何だろう。
 少なくとも迫力と説得力の点で、麻生首相の圧勝ではないだろうか。
 
 声の大小というのは、体格性格による部分もあるから一概には言えないが、麻生首相のだみ声とて決して政治家演説家として優位な点ではない。が、鳩山民主代表のか細いぼそぼそ声ではいくら「チェンジ」と唱ところで、オバマ大統領のような呪文だかマジックワードだかには聞こえない。
 用意した原稿に目を落とす回数は、麻生首相の方が多いようだが、原稿に目が行かない代わりに鳩山民主代表の視線は泳いでいるように見える。先述の声と相まって、そこから感じられるのは「自信のなさ」と見受けられる。

 考えてみれば民主党代表に自信がないのは当たり前かも知れない。主催者からの質問にもあったとおり、喩え今回の衆議院で大勝しても、参議院の第1党ながら過半数を制していない現状は変わらず、連立政権となるは不可欠(それって、「2大政党制」じゃないよなぁ。)。その連立相手が「元は同じ穴の狢」社民党と国民新党であり、これらとの共通公約も(自・公と違って、この党首討論時点では)まだ出来ていない。だから民主党のマニュフェストも、総論百花繚乱各論頬被りになっていて、財源的裏打ちを含めて具体性に乏しい。
 これでは余程のハッタリ屋でない限り、「自信のなさ」となって現れるのはやむを得まい、と想像はする。

 同情はしない。

 そんな状態の政党と連立相手を抱えて政権与党に収まろうと言うことからして土台図々しいのであるから。

【1】 麻生首相に対する鳩山氏の質問

 例えば上記②に当たる、両者相手に対する質疑を見てみよう。
 鳩山氏が先攻となって麻生首相に質問し、麻生首相が応える。次に今度は麻生首相から鳩山氏に質問する形。ディベート形式だから、持ち時間は両者同じになっているのと、互いの攻守が入れ替わるのが、国会答弁と違うところだ。

 この質疑を通じて、鳩山氏は実質わずか3点しか質問していない。曰く、
 (1)自民党は消費税の来年度値上げを政権公約としているのか。
 (2)自民党は役人の天下りを認めるのか。
 (3)10年後の所得目標+100万円を掲げているが、マニュフェストは4年間有効の政権公約である。
 
 これに対する麻生首相の回答は、
 (1) 景気回復させ、経済成長率2%を目指しており、景気が回復した後で消費税を上げる。
 どうも鳩山氏は、「自民党は景気回復しなくても消費税を上げるつもりだ。」と言いたかった様なのだが、それにしては仕掛ける議論がお粗末に過ぎる。
 (2) 天下天下りは1年間の期限で廃止になってる。
 これに対していくらか押し問答はあるが、麻生首相の主張は「ブレない」。最後は鳩山氏の捨てぜりふで終わる。
 (3) 最終目標は10年後だが、2年後3年後の中間目標も示している。
 「今までの10年間に既に100万円所得が減っている。」と言う鳩山氏に対しては「デフレが警戒されたほどの物価安も考慮すべき」と麻生首相は切り返している。


【2】 鳩山氏に対する麻生首相の質問

 対する麻生首相の鳩山氏に対する質問は多岐にわたるので、順を追っていこう。

 ①子供手当の財源:まず民主党マニュフェストの目玉とも言うべき子供手当について麻生首相は尋ねている。また、子供のいない家庭については増税になるのではないかとも。
 これに対する鳩山氏の答えは「65歳以下で子供の居ない専業主婦の世帯には毎月1400円の増税となる。(この程度で済む)」と言うことになっている。が、麻生首相指摘の通り「不足分の5.4兆円」を賄うためには、電卓叩けば(人によっては暗算で)明らかだが「「65歳以下で子供の居ない専業主婦の世帯」が3000万世帯以上必要であり、「子供無しで専業主婦」と言うことはこの世帯、夫婦2人の世帯としても6000万人以上。日本の人口の半分が「65歳以下で子供の居ない専業主婦の世帯」でないと勘定が合わない。
 勿論現実の日本はそんな状態にはないのは明らかだから、鳩山氏、子供手当の財源が全く当てにならない事を自白したことになる。(※1)

 ②公務員の人件費2割カットの根拠:「公務員の首を切るのか、給与を減らすのか。」これに対して鳩山氏の答えは「70兆円の事業費を精査して無駄を省けば9.1兆円は浮く見込み。それでも足らない分は、「埋蔵金」と政府資産で賄う。」と応えている。
 「事業費をカットして公務員の人件費カットに当てる」と言うことは、無駄な事業の分の公務員の首を切る事だと理解した(※2)としても、「埋蔵金と政府資産」と言うのが判らない。これは、「公務員の人件費カット」とは無関係である上、ただ1回売ったり使ったりしたらそれっきり。翌年度の予算には当てに出来ない「使い切り」予算。それを当てにすると言うことは、「所詮民主党政権は保って1年のお試し政権」と自ら主張しているのか。

 ③消費税を今後4年間上げずに済む根拠;これに対する鳩山氏の回答は、まず「傑作」と言って良さそうだ。
 まず「役人の無駄をなくすから消費税を上げずに済む。」と言い、「役人の無駄に金をつぎ込み続ける麻生首相」を非難する。が、一体いくらの無駄があるから消費税を上げずに済むのかが、数字はおろか項目すらも出てこない。先述②の「70兆円の内の無駄」をここでも使うのか(※3)さえも出てこない。がまあ、ここまでは予想の範囲内だ。
 私が「傑作」と呼ぶのは、「今後年金の財源は全部消費税に移行するが、そのためには20年かかる。だから(その最初の)4年ぐらいは消費税を上げないで済む。」理論だ。
 「10年先の所得目標を非難したその口で。」とか、麻生首相指摘のように「年金の税負担を1/3から1/2に引き上げるのに反対した民主党が。」とか言うのはまず置くとしても、「高々財源の移行に20年(本当は40年)かかるというのは一体どんな日程を組んでいるのか。」と私なら鳩山氏にお聞きしたいところだ。20年後とあっては、鳩山氏といえどご存命とは限らない未来の話を、今やれて仕舞うのは何故か、とも。
 さらには、その超長期計画従って「今後四年間は消費税を上げずに済む。」と断言してしまえる無神経さというか傲慢さというか、無責任さは「傑作」と評さずにはいられない。
 
 ④経済成長戦略の不明確:「民主党の経済成長戦略は何か。二酸化炭素削減を目標とする環境至上主義になっては居ないか。」と問う麻生首相に対し、鳩山氏は「まず家計を潤して内需拡大。ついで陸海空として、農業振興、海洋資源開発、航空宇宙産業振興」を上げている。
 この回答は数字が必ずしも必要でないから鳩山氏の回答の中では上出来だ。特に航空宇宙産業というのは私のような飛行機好きには魅力的に思える。
 が、海洋資源開発というのは一筋縄ではいくまい。必ず、中国との利害争いになる。その時民主党政権がまともな対応をするとは、到底期待できない、と私は思う。社民党と連んでいた日には、想像するだに恐ろしい。
 が、麻生首相の追求は別の点を突く、即ち「高速道路無料かとガソリン減税はガソリンの消費量も二酸化炭素排出量も増やす。それに対し二酸化炭素削減に高い目標を掲げているが、これは矛盾するし、家計への負担ともなる。」と麻生首相は追求する。
 これに対し鳩山氏の回答は・・・どうも要領を得ない(ので纏めづらい)。
 一つは「電気と水素(自動車)の可及的速やかな普及」と言っている。が、プリウスのようなハイブリット車を「電気」に含めるとしても、市販の水素自動車なんてまだ影はあっても形はないし、電気自動車の充電はまだしも水素燃料車の水素燃料スタンドと言うのは全く新しいインフラ設備が必要であり「可及的速やかな普及」にどれぐらいの期間かけるつもりか全く語られない。その間は少なくとも二酸化炭素排出量は減る気遣いはないだろう。
 高速道路無料化の悪影響については「悪影響はさほど大きくない。」と表現を変えて繰り返すのみだ。
 
 ⑤安全保障政策の不明確:麻生首相は北朝鮮貨物検査法を審議せずに廃案にした民主党の責を問い、インド洋上給油やソマリア沖派遣について憲法違反とまで言われながら、最近主張を変えている様に見える事を指摘し、民主党の安全保障作を問うている。
 これに対し鳩山氏は「北朝鮮貨物検査法はこちらから提案したが、法案が出てから不信任決議・・解散までの期間が短かったから廃案にした。」と言われる。「政権を取ったら、進めていく。」とも。
 裏を返せば「政権くれなきゃ、北朝鮮貨物検査法の審議は進めない。」とも聞こえる。
 否、きっとそう言っていたのに違いないとまで、私には確信できてしまう。試しにもう一度、自・公両党に衆院の2/3議席を持たしてご覧なさいな。民主党がまたぞろ「参院で審議拒否」する事には、賭けても良い。
 インド洋上給油については鳩山氏は「アフガニスタンの空爆に使われているかも知れない。」と言い、効果のほどについて疑問を呈する。ソマリア沖については「海上保安庁を中心とすべきとは考えるが、自衛隊を使うことに反対はしていない。」と仰る。
 前者は予想通りにして、テロリスト大喜びの主張であるし、後者は事実と異なる。民主党がインド洋給油延長法案の審議入りを拒否したから、海上自衛隊は昨年末から今年頭にかけて、洋上給油任務の中断及び一時撤退を余儀なくされている。

 最後に麻生首相は安全保障という極めて重要な課題には与野党相互理解が大事だとまとめる。
 
 これに対し鳩山氏は、「外交安全保障は国の基本的マター」と応じ、「政権を取ったら全てを変えるという発想はない。」と言い、「継続性も重要」と言われる。
 つまり、「憲法違反」とまで詰っていたインド洋給油法やソマリア沖派遣に一定の「理解」を示した訳だ。(※4)
<注釈>
(※1)理の当然かも知れないが、この点を突っ込んだマスコミは、今のところ見当たらない。
(※2)麻生首相指摘の通り、公務員の労組を支持母体とする民主党にそんな芸当が出来るかは置くとして、だ。
(※3)だとしたら、公務員の人件費カットの方はどうなるんだ?
(※4)あまり当てにはならない。民主党の中ですらまともにまとまらない安全保障問題が、社民・国民新党との連立政権で、まとまろう筈がない。
 案の定、後に出た民主・社民・国民新による共通公約は、安全保障について全く触れていない。こりゃ、政権与党を目指すのには、欠陥公約と言うべきだろう。