「ザ・サムライ」と言う春日光広の漫画がある。一寸時代錯誤で武士道精神を奉じる男子学生・血祭武士(ちまつりたけし)を主人公とするドタバタ・ギャグ漫画だが、その中に、確かソ連空軍による大韓航空機撃墜事件を契機として、民間のジェット旅客機に機関銃座を装備するというギャグがあった。妙齢のスチュワーデスたちがその機関銃座の銃手としての訓練をシミュレータで受け、第2次大戦の戦略爆撃機(B-17やB-29だな)張りの戦闘シーン繰り広げるというギャグシーン(スチュワーデスの制服で妙齢の女性が機関銃座に座り、発砲すると言うシーンは、かなりシュールだ。)があったが、どうも現実にそれに近いことを考えるアメリカ議員が居るというのが報じられているところ。
 
>共和党のロン・ポール(Ron Paul)下院議員(テキサス州選出)が、商業船
>に乗り込む民間人に「お墨付き」を与えて海賊を追い払わせるべきだとの
>過激な意見を提唱している。

>、18世紀に欧米列強が海戦費用を安く抑えるために導入した「他国商船拿捕
>(だほ)免許状」を発行し、商業船舶に武装を許可して自衛させるよう主張

と言うから、これは後述されているとおり、民間船の武装を公認すると共に、私掠船の公認であり、「親方星条旗の海賊に民間船を仕立て上げる」事に他ならない。

> 歴史上、自国の政府から武装の「お墨付き」を得た人物としては、
>ヘンリー・モルガン(Henry Morgan)やフランシス・ドレーク(Francis
> Drake)、ウィリアム・キッド(William Kidd)などが有名。
と言うが、何れも歴史的に有名な海賊の名だ。

 「目には目を、力には力を、海賊には海賊を」と言うわけだ。
 
 一定の効果が期待できるのは事実だろう。少なくともアメリカ人乗組員が居る(かも知れない)商船への襲撃に、海賊たちは慎重を期さねばならなくなる。一種の武装商船、仮想巡洋艦であるから、その効果が他の「丸腰」の商船に波及することも、無いではないだろう。
 
 問題は、そんな方策を取れる国が少ないと言うことだ。
 無論(特に、か)、我が国も例外ではない。第一、我が国の商船乗組員には、銃器並びに重火器を扱った経験・訓練が決定的に欠けている。
 
 そう言う方法が憲法上許されて居て、現実に採用可能であると言うことは、ひとつの強みだ。
 だがどうも私には、羨ましい事とは思われない。
 
 喩え費用やコストがかさもうとも、護送船団組んで、プロである自衛艦・軍艦が護衛する方が、私には「正しく」思えるのだが、如何なモノであろうか。

 さらに補足すると、通商破壊の普及と特に潜水艦による通商破壊(なかんずく無制限潜水艦戦)の登場以来、民間船の乗組員といえども戦時には軍人と大差ない危険にさらされる事から、民間輸送船乗組員は軍人に準じた待遇を受ける事がある。米国の場合はそうなっている可能性は大だから、ソマリア海賊による通商破壊を戦時と見なせば、「民間船を武装して海賊に対抗する」と言う方法論は、少なくとも上述のギャグ漫画=スチュワーデス銃手ほどには奇異なことではない。

 また、表題にもしたとおり、特に米国に置いては市民=一般の民間人が武装していると言うのは、常態であり、文化でさえある。
 結構な頻度で銃乱射事件などが起きながらも、銃規制が遅々として進まない(せいぜい、自動拳銃の装弾数制限程度)のも、「市民には武装し、時には政府を武力で正す権利がある。」と言う革命権の考え方が根底にあるからと推測される。

 つまり、上述の上院議員の提案は、日本人が考えるほどには非現実的でも非常識でも無いのである。