(承前)
1-3 実行

 ターゲットは北朝鮮の「人工衛星打ち上げロケット」と称するところの弾道弾実証機。目的は「ランチャ上の発射直前の爆破」。北朝鮮は来月4日から8日を「人工衛星発射」の実施日としているから、準備は少なくとも4月4日までに済まさなければならない。
 その準備とは、以下の諸点が上げられる。
 
(1)目標を適当な時機に破壊できる爆発物或いは爆発すべき仕掛け。
 何しろ相手は「人工衛星打ち上げロケット」だ。液体燃料ともなれば、爆発させるべき材料には事欠かないだろうから、必ずしも爆発物を仕掛けなければならないわけではない。但し、タイミングと確実な作動は必要なので、本当に事故に見える「意図的な不具合」から、何らかの発射準備をトリガーとする爆発物、最終的には発射場近傍に潜んだ中継機ないしは工作員の指令による外部操作爆発物まで、何重かの仕掛けが必要であろうし、「事故に見せかける」ためにはこれらが北朝鮮にばれない必要があるから、何らかの隠蔽工作が必要だろう。
 
(2)その仕掛けを仕掛けるための潜伏
 仕掛けは発射準備が整う前に完了しなければならないし、場合によっては何重かの「不具合」を仕掛けて最後に物的証拠となりかねない爆発物を仕掛けるという何段階もの作戦が必要であろうから、一定期間の潜伏を覚悟しなければならない。
 無論、北朝鮮軍がいくら飢えていても馬鹿であることを期待すべきではないし、「人工衛星打ち上げロケット」を警備する部隊は、金正日の親衛隊かそれ以上に厚遇(※1)を受けた忠誠心の高い部隊である公算大なので、見つかって捕まるようなへまをやっては作戦が台無しになる。十分な警戒と準備が必要であるし、そのためには現地の北朝鮮国民を当てにすることは出来ないだろう。潜伏する身としては辛いところだ。
 
(3)潜伏に入る前の北朝鮮領土侵入
 一定期間発射場近辺で作戦するための侵入。これが一番厄介な工程かも知れない。夜間に超低空飛行でレーダー網かいくぐっての空挺降下か、夜間に潜水艦からゴムボートなどで上陸侵攻するか、侵入ルートと警戒態勢についての十分な情報を元に目的地まで移動しなければならない。
 
 以上を考えると、侵入する部隊の規模は大規模なものには出来ない。理想的には一人なのだろうが、それは侵入する陸自特殊部隊員にゴルゴ13になれと要求するに等しい。第一、一定期間の潜伏になるのだから、少なくとも交替で休息をとれる人数で4人。おそらくは一個分隊・約10人単位の行動となるだろう。

<注釈>
(※1)北朝鮮に於ける「厚遇」、であるが。


1-4 評価

 さて、如何であろうか、北朝鮮の長距離弾道ミサイル発射実験を、事故に見せかけて失敗させ、金正日の野望を破る秘密作戦は。
 
 本作戦が失敗した場合、特に露見した場合のリスクは考えておかなければならない。そのためには、脱北朝鮮人を以ってこの部隊を編成するなんて裏技も考えられるが、脱北とは言え朝鮮人を以って編成した部隊に信用が置けないし、第一、我が国にはそんなに多くの適当な脱北朝鮮人が居ないだろう。
 
 その代わり、成功した場合に得るものは相当大きい。北朝鮮は長距離弾道ミサイルの実証に失敗し、しかもその原因が「良くわからない。破壊工作もしくはサボタージュの疑いさえある。」状態になる。さらに上手く行けば、金成日が現役のロケット技術者たちを勝手に粛清してくれるかも知れない。そうなれば正に一石二鳥だ。
 
 気づいている人は気づいているだろうが、ここまで私が縷々述べてきた冒険小説張りの思考シミュレーションでは、憲法9条やら専守防衛やらの日本独自の制約条件を意図的に無視している。
 
 なぜならば、それらの条件が、日本の選択肢を狭める制約になっていることを言いたいためである。
 
 勿論、この作戦を実施するには相当高度に政治的且つ冷酷とも言える決断が必要だ。実行する部隊にはさらに多くの決断が必要になるに違いない。
 それは「我が国の取るべき道ではない」と言う議論は勿論あるだろう。例えば平たい話、この作戦に天皇陛下の勅許が必要であったと仮定(※1)して、作戦目的と内容を陛下に説明してお許しを得ろと命じられても、やりおおせる自信は、私にはない。
 
 だが、憲法9条や、専守防衛に縛られて、そのような選択肢を取ることが出来ない国と、出来る国とでは、安全保障上の自由度、早く言えば北朝鮮に対する睨みの効きが違うだろう。
 
 であるならば、憲法9条にせよ、専守防衛にせよ、見直す価値が、少なくとも見直しを議論する価値が、あろうというものだ。

<注釈>
(※1)日本国憲上、そんな権限は天ちゃんにはないから、心配することはないのだが。せいぜい日本国首相に説明するぐらいだろう。それならやれそうに思う。