特殊部隊というのは、本来陽の当たらない存在であるべきだろう。小説や映画ではしばしばヒーローであり、スーパーマンであったりするものでもあるが、その作戦は本来軍事秘密。それも「戦争が終われば秘話として大公開」なんて派手なものではなく、秘密裏に実行され、秘密裏に歴史の闇に葬られるべきもの。それ故、特殊部隊の中にはイスラエルの「ハヘブレ」の様に所属する隊員の身元を隠匿し、誰が特殊部隊員か判らないようにしている軍隊もある。
 
 その特殊部隊と言えば北朝鮮の「十八番」である。なにしろ朝鮮戦争の際には市民の間に紛れ込ませた「第五列(※1)=ゲリラ(※2)」で国連軍(※3)を悩ましたし、「全軍の特殊部隊化」なんてスローガンまで掲げてしまう国だ。全軍が特殊部隊化したら、そりゃ「特殊」じゃないだろう、などという突っ込みは歯牙にもかけられず、少数精鋭(※4)と練度の高さを以って「特殊部隊」と言いたいらしい。
 
 因みに、我が陸上自衛隊は砲兵を「特科」と呼んでいるが、別に陸自の砲兵が特殊部隊化(※5)しているわけではなく、歩兵を「普通科」と呼ぶのに対応した呼称だ。
 知られている内で、我が陸上自衛隊で特殊部隊に一番近いのは「レンジャー部隊」だろう。陸自のレンジャーは正式にはまとまった部隊ではなく、レンジャー課程と言う訓練のプロセスであり、レンジャー徽章はこの課程にパスしたことを証す名誉の徽章である。仄聞するところに寄るとそのプロセスは相当厳しい(※6)ものであり、陸自のレンジャー徽章は外国に行っても尊敬の的であると言う。
 従って、私の知る限り、陸上自衛隊に特殊作戦を行うためのまとまったと特殊部隊というものはない。よって、「陸上自衛隊による特殊作戦」と言うのはあくまでも絵空事ではある。
 
 絵空事でも、思考シミュレーションとしては意味がある。
 シミュレーションゲームなるものは、紙と駒或いは画面上に全世界やら全宇宙やらを描き出し、その来し方行く末に思いめぐらす道具となるのだ。

 今から私が「思考シミュレーション」するのは我らが自衛隊による特殊作戦という「絵空事」である。

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<注釈>
(※1)この呼び方も古いね。
(※2)共産党流に言えば、「パルチザン」か。
(※3)朝鮮戦争の時は、正真正銘掛け値無しの国連軍だった。
(※4)北朝鮮全軍というと五〇万を越す。何処が少数なんだ。
(※5)特殊部隊化した砲兵ってのは、想像を絶するな。
(※6)とは言え英国SASの様な、捕虜になった際の虐待に耐える訓練は、多分ないが。


1-1 立案

 作戦と言うものには(いや、作戦に限らないが)目的がある。上位の目的を戦略目標と言い、下位の目標を戦術目標という。作戦を成功させる上で肝心なの、は上位の戦略目標の明確化とそれへ向けて下位の戦術目標を立案することと、何れも、特に上位の戦略目標を簡素化し、絞ること。「虻蜂取らず」なんて言葉もあれば「一所懸命」なんて言葉もある。人間、ターゲットを一つに絞れば、通常は出来そうにないことも出来ることがあるが、一度にたくさんのことを為そうとするといつもなら出来ることもできなくなる。だから、目標は明確で少なく、簡素な方が良い。
 
 で、今回立案する特殊作戦の戦略目標は何かというと、「北朝鮮による大陸間弾道弾技術修得の阻止」である。核兵器を秘密裏に開発し、今度はその核兵器を強請のネタに食料や石油や政権の存続保証やらをせしめようと言う国なぞに、大陸間弾道弾技術を持たせたらろくな事はないので、これを阻止することが我が国の安全保障上重要である。よって、これを阻止しようと言うのが戦略目標である。
 
 では、戦術目標は何にすべきか。
 いくつか選択肢があろう。

 )鳴鮮へのミサイル技術導入を阻止する
 ∨鳴鮮のミサイル技術者及びミサイル技術研究所を「無力化」する。
 K鳴鮮のミサイル技術実証を阻止する
 
 勿論「朝日ネット」なる謎の団体が主張するように、「外交努力」で北朝鮮が長距離弾道弾技術=人工衛星発射技術を放棄してくれればこれに越したことはないが、今回立案する特殊作戦は外交努力が実を結ばなかった場合のバックアッププランであり、且つ発射予告が間近に迫った今となっては「外交努力」も徒労に終わろうとしつつあるので、構わず立案することにする。(※1)
 
 さて、発射実験を間近に控えた今となっては、既にミサイル技術は北朝鮮に入っており、上記の,牢獷忙?,魄錣靴討い襦
 
 すると△呂匹Δ世蹐Αこれは設備で言えば北朝鮮のミサイル工場や研究所、発射場などのインフラ破壊であり、人で言えば北朝鮮ロケット技術者・ミサイル技術者の暗殺・誘拐を意味する。
 前者は、アメリカのように巡航ミサイルにステルス爆撃機を大量に持っていれば可能であるが・・・残念ながら今の日本にはそんな装備はない。的を絞れば訓練次第で一,二カ所を空爆することは不可能ではないだろうが、効果を確実なものにするのは困難だし、日本がやると日朝戦争開戦の口火になりかねないと言うのが大きなリスクだ。
 後者については全員根絶やしに皆殺し或いは全員拉致する必要は必ずしも無い。技術者たちが恐れおののいて金正日への協力を「良心的に」忌避してくれればそれで良い。が、相手は北朝鮮の独裁者。その独裁者以上に畏れられないといけないから、仲々難しいだろう。それに勿論、かような作戦は「非人道的」と非難される可能性を考慮しないわけには行かない。
 
 と考えると、日本の選択肢はに絞られる。
 即ち、今回のミサイル発射「人工衛星打ち上げ」実験を、何らかの形で失敗させるのが、日本の取りうる手段である。

<注釈>
(※1)コンティンジェンシープランてのは、持てるものなら持っておくべきだよ。


1-2 計画

 ミサイル発射実験を阻止するに当たり、確実なのは発射前であり、残念ながら日本の独力では対処しきれないのが発射後である。ひょっとするとSM-3ならあわよくば、とは思うが。

 しかし、理想的なのは、発射直前であろう。理由は「作戦自身の隠匿」である。
 
 理想としては、発射直前に全世界(※1)注視の中で北朝鮮の「人工衛星打ち上げロケット」がランチャー上で爆発すれば、この特殊作戦を「事故」と強弁することが出来、作戦自体を歴史の闇に葬れる。
 
 先述したとおり、秘密裏に行われ、秘密裏に終わる、作戦自体を敵に悟られずに所定の効果を上げるのが、特殊部隊の真骨頂であり、特殊作戦の神髄なのである。
 
 であるならば、戦術目標は『北朝鮮の「人工衛星打上げロケット」のランチャー上での発射直前破壊である。』
 「ランチャー上」だの「発射直前」だの、制約条件が厳しいが、これが理想であり、冗長性を持たせるために「直前より前、ランチャー上以外でも可」としよう。但し、事故に見せかけたいからその点は留意したいところだ。
 
 では戦術目標が決まったところで具体的な計画だ。「世界注視の中、事故に見せかけての破壊」である以上、巡航ミサイルやステルス機等による派手な攻撃は出来ない。あくまでも事故に見せるためには、内部から、或いは外部からの破壊工作と言うことになるだろう。
 しかしながら、我が国の対外諜報実績からすると、北朝鮮の「ロケット発射場」に相応の破壊分子を潜入させている、或いは内部の不満分子を抱き込んでいる可能性は、残念ながら低い。
 となると、外部からの破壊工作というのが順当な手段だ。
 
 即ち、特殊部隊による秘密作戦である。


<注釈>
(※1)と言ってもじっくり見ていられる国は少ないが。