再び弾道ミサイル発射の準備らしき行動を見せている北朝鮮だが、定例の米艦共同軍自演習にかこつけて、韓国の旅客機に「安全を保障できない」などと脅しをかけてみたり、それを畏れて韓国の旅客機が北朝鮮に近づかないように航路を変更したことに味をしめたのか、今度は弾道ミサイルテポドン2号の発射実験と見られる行動を「宇宙開発」だの「人工衛星打上げ」だのと正当化するばかりか、「日米間がこれを迎撃すれば、報復する。」とJohnkimさんばりの主張を始めている。
1-1 北朝鮮の「宇宙開発」は「気違いに刃物」である。
テポドン2号の発射実験と見られる北朝鮮の発射に対し、日米両国はミサイル防衛システムによる迎撃の可能性を示唆したり、日本からは発射の場合朝鮮総連の資産を凍結すると言う制裁措置を示し、北朝鮮に発射の中止を迫っている。
これに対し北朝鮮は「宇宙開発は当然の権利だ」と言う一方で「迎撃したら正義の報復を実行する。(=武力攻撃で戦争だ。)」と公言している。何れにせよ今度発射される物が純粋にミサイルであれ人工衛星であれ、「宇宙の平和利用」何てお題目とはほど遠い事を如実に示しているが、それも道理だ。
何しろ弾道ミサイル発射と人工衛星打ち上げとの間にある技術的差違は、弾道ミサイルは「大気圏突入した後何が起こるか(弾頭が壊れたり作動しなかったりしないか)」を気にする点が異なるまでで、本質的な差違はない。
従って、北朝鮮が今度発射する物が仮に人工衛星打ち上げロケットであるとしても、その発射実験成功は、北朝鮮の弾道ミサイル技術を実証する物であることに変わりはない。
「核兵器を開発しない。」と嘘をついて、食料やら石油やらをせしめていながら核兵器を開発し、核実験まで強行してなおかつ「核開発の放棄」と言う口約束を口約束だけに終わらせようとしている国に、人工衛星打ち上げ技術≒大陸間弾道ミサイル発射技術を、持たせるべきだろうか。
とんでもない。「気違いに刃物」の方が未だ増しだ。刃物なら、手の届かないところまでは危害は及ばない。大陸間弾道ミサイルならば、地球の反対側まででも届き、核弾頭という危害を及ぼせてしまう。
従って、北がいくら「宇宙開発は国の当然の権利だ」と力もうが、「宇宙の平和利用だ。」等という主張があろうが、北朝鮮がその核開発を完全に放棄でもしない限り、人工衛星打ち上げ技術など持たせるべきではないし、持とうと実証試験を行おうとするならばそれは阻止するべきである。
よって、日本としても米国としても、このたび北朝鮮が発射する物が何であろうとこれを迎撃し、この発射に依る技術実証を必ず阻止すべきである。
1-2 北朝鮮の「人工衛星」発射に関するケーススタディー
北朝鮮は発射「実験」を、行うか行わないかを選択できる。
発射する物はミサイルかも知れないし、ひょっとすると人工衛星かも知れない。何れにせよ発射された物は成功するか失敗するかのいずれかである。
すると北朝鮮に起こりうる事象はミサイルを発射して成功する/失敗する 人工衛星を発射して成功する/失敗する 発射しない の5つのケースがあるわけだ。
一方日本は北朝鮮の発射した物を、迎撃するかしないかを選択できる。迎撃を実施した場合は迎撃成功するか、迎撃失敗するかのいずれかである。
従って日本に起こりうる事象は、迎撃成功/迎撃失敗/迎撃せず の3ケースである。
そうすると、今回の発射及び迎撃を実施の可否まで場合分けすると、ケース数は、単純計算で5×3の15ケースとなる。この各ケースをどう評価するのか場合分けしたケーススタディー表が、添付した画像である。
北朝鮮のミサイル発射成功/失敗 人工衛星発射成功/失敗 発射せず、の5つの場合にA~Eのアルファベットを割り振り、日本の迎撃成功/迎撃失敗/迎撃せずの3つの場合にI~IIIのローマ数字を割り振ると、上記の15ケースにはAI~EIIIの記号が割り当てられる。
尤もこの15ケース、全部が考察の対象にはならない。北朝鮮が発射しない場合に日本からの迎撃は意味がないのでEI,EIIの2ケースは意味を持たない。
さらに、日本の迎撃が成功した場合、北朝鮮の発射した物がミサイルであれ人工衛星であれ、基本的に発射成功にはならない(※1)から、記号で言うとAI,CIはそれぞれBI,DIになる。添付ファイルの下半分「現実的解釈」の方はそれを反映している。
<注釈>
(※1)部分的に技術が実証されることはあり得る。例えば発射までの地上オペレーションとか。
1-3 日本が迎撃実施した場合のリスクとメリット
添付マトリクスに場合分けした各ケースについて、その評価を分と色とで表した。青い方が日本にとって良い結果。赤い方が悪い結果だ。
その上で、北朝鮮が発射を強行し、日本が迎撃を実施した場合、各ケースがどれぐらいの確率で起きるか、を試算した。無論いくつもの仮定の上での数字だ。
一つ目の仮定は北朝鮮が本当に人工衛星を打ち上げようとしている確率。「万が一とは言わないが、千に三つもありはしまい。」と私には思えるが、ここではかりに10%の確率とした。1/10の確率で、北朝鮮の発射する物はミサイルではない、とした訳だ。
二つ目の仮定は、北朝鮮の成功する確率。これはひょっとすると相当低いのかも知れないが、判らないので、ミサイルでも人工衛星でも、成功と失敗はどちらも同じ確率で起こる、とした。
三つ目の仮定は日本の迎撃が成功する確率。単純に考えるイージス艦発射のSM-3の現状までの試験での成功確率は相応に高いようだが、実戦は不要になった大型衛星撃墜の一例だけ。これは成功している。
とは言え、これも成功/失敗は半々と仮定した。無論これよりももっと高い方が望ましいし、高くあって欲しいとは思うが。
無論尤も望ましいのはEIII、即ち北朝鮮は発射を中止し、日本も迎撃を行わずに済むケースだろう。この場合、この世は全て事もなし・・・とは核開発を実施しており拉致被害者は誘拐しっぱなしの現状は変わらないので到底言えないが、兎も角現状よりも悪化することはない。表では濃い水色でBest Endと表記した。
次善が日本の迎撃成功により北朝鮮の発射が失敗し、日本のミサイル防衛技術は実証され、北朝鮮は弾道ミサイル技術を実証できなかった場合。記号で言うとBI、DI。これも濃い水色で塗った。
北朝鮮の方が勝手に転けた場合がこれに次ぐ。北朝鮮は弾道ミサイル技術を実証できない。これは薄い水色で塗り、Good Endと表記した。
悪いのは、日本が迎撃しないか失敗し、北朝鮮が成功してしまった場合。日本のミサイル防衛技術は実証に失敗し、北朝鮮は弾道ミサイル技術を実証してしまう。
最悪なのは、それが北朝鮮の人工衛星によって実証されてしまった場合。Worst Caseと表記した。記号で言うと、CIIである。この場合北朝鮮と恐らく日本のマスコミは、政府に対し非難囂々だろう。尤も先述の仮定に従うと、この事象の発生確率は、表の通り2.5%に過ぎない。
1-4 日本は北朝鮮の「人工衛星」を迎撃すべきである。
さて、添付の表の下半分「現実的解釈」に吹き出しで示したとおり、、北朝鮮が発射を敢行し、日本が迎撃を実施した場合、日本にとって良い結果が起こる確率は「迎撃成功確率」+「発射するのがミサイルで失敗する確率」であり、7割以上である。無論迎撃成功確率が半分以上であれば、もっと上がる
翻って、日本が迎撃を実施しなかった場合、日本に良い結果となる確率は「北朝鮮が失敗する確率」に他ならない。上記の仮定に従えば5割即ち半々だが、日本にとって良い結果となるように努力する余地は殆どない。正に他人任せの運任せだ。
お気づきだろうがこの表では、北朝鮮が公言する「迎撃を実施した場合は正義の報復をする。」と言う事象は盛り込まれていない。それは、北朝鮮が弾道ミサイル技術を実証するか否か、言い換えればアメリカ本土攻撃能力を実証するか否かとは直接関係ないからである。
他方で日本の対応と結果について記述するのみで、米国については記述していない。ケースの場合分けと結果の評価と言う点では、日米の違いは殆どないので、添付のケーススタディー表はそのまま米国に適用できる。
むしろ、現時点に於いては北朝鮮による「正義の報復」を受けにくい(※1)米国の方が、この表の評価を額面通りに受け取れるだろう。
だが、日本ばかりか米国までもが今回の北朝鮮発射に対し迎撃を実施しないとしたら?
表記の通り、北朝鮮は5割の確率で、大陸間弾道ミサイル技術を実証することになる。
そうなれば、次回の発射の際、また北朝鮮が同様の「正義の報復」恫喝をかけてきたら、今度は米国すらもその恫喝に屈しかねないことになる。
北朝鮮の「人工衛星」は迎撃すべきである。
北朝鮮に、大陸間弾道ミサイル技術を、実証させてはならない。
<注釈>
(※1)北朝鮮が、現時点では未だ大陸間弾道ミサイル技術を実証していないから。