報じられているのは相変わらず所在生死不明の北朝鮮国家元首・首領様のご視察。今度はがピョンヤン最新のガム工場と製紙工場だそうだ。
 写真はガム工場らしいのだが、いかに北朝鮮が食糧事情が厳しいとは言え、こんなガム工場で作ったガムを食わされてはたまらんだろう。
 世に工場のラインやプラントはいろいろあり、分けても日本及び日本製のそれは数が多いのだが、食品を扱うラインは、機械も設備も相応の配慮が為される。カビや菌が繁殖しないよう、機械油が接触しないようなどなどだ。
 回転寿司は一種の寿司工場と言えるが、そのラインで働く職人も店によっては白衣に帽子とゴミなどを発生させない、落とさない配慮をする。

 清潔を保ち、異物混入を防ぐためだ。 

 であると言うのにこの北朝鮮で最新というこの工場では、視察する首領様も随伴するお供も、白衣は羽織っただけ。工場の職員と思しき女性も白衣は着てはいるがボタンはバズしている。帽子はかぶっていても屋外でかぶるような毛皮の帽子で、半数のものは無帽でさえある。髪の毛落ち放題だ。

 「これぞ首領様のご威光」と言いたいのかも知れないが、生産現場で現場を大事にしないようでは、できあがる製品は低レベルにとどまるほか無い。

 まあ北朝鮮製の糸やガムを輸入しようなんて酔狂は、そうざらには居ないだろうけれど。

 日本ならば、たとえ首相や天皇陛下の視察であっても、必要な現場ならば白衣なりクリーンスーツなりにお召し替えいただくだろう。またそれによって首相や天皇陛下の「御威光に関わる」何て事はない。

 かつて、日露戦争の頃、ロシアのバルチック艦隊を迎え撃つべく、日本海軍艦艇が大車輪で整備修理していたときのこと。足場を組むなりして高所で作業していたら、その下の通路を間もなく東郷連合艦隊司令長官他が通ると言うことが知らされたそうだ。
 高所で作業していた作業員からすると、靴の下に司令長官閣下を見下ろす格好になる。
 そりゃ不敬だろうと慌てて降りようとするが、「そのまま作業を続けろ。」とのお達し。
 そうは言ってもまずかろうと思うが、あいにく梯子もなくて降りられない。まごまごしている内に当の東郷閣下以下が現れ、何事もないように職人たちの足の下を通過していったと言う。
 で、職人たちは「連合艦隊司令長官と言っても大したこと無いな。」と軽んじたかと言うとむしろ逆。
 「ああ、これならバルチック艦隊の決戦に、日本は勝つに違いない。」と確信したそうだ。

 何が言いたいのかって?
 つまり本当に権威のある人間は、権威をひけらかす事なぞせず、むしろ逆に謙譲の美徳によって権威を高めると言うこと。
 もう一つは、現場を大事にしないものづくりってのは、結局根無し草にしかならないだろうから、完成した製品で勝てないだろうと言うこと。

 まあ、真の権威も、真の物作りも、北朝鮮とはほど遠いものだから、仕方ないか。