英文学者として有名なジョージ・オーウェルが1948年に発表した小説。1984年と言う当時からすると近未来(※1)を舞台にしたディストピア(※2)を描いており、そのためSF小説に分類される事もある。
 何しろ読んだのも大分前だし、手元に本も残っていない。記憶で書くから思い違いもあるかもしれないが、本質的な部分ははずさないだろう。(多分)
 途轍もなく、インパクトのある小説だったから。
 
 時に1984年。世界はアジアを中心とするイースタシアとユーラシア及びオセアニアの3大ブロックに分かれて戦争と同盟を繰り返している。主人公属するオセアニアは、偉大なる指導者Big Brotherの社会主義的独裁(※3)の元にある。他の2ブロックも一党独裁という点では同じであり、3大ブロック間の戦争も、各ブロックの体制維持のための馴れ合い、永久戦争であるらしい。戦時体制化であらゆる物資は統制・配給下にある。
 街角にはBig Brotherの「斜めから見ても見られているように見える」仕掛けを施したポスターが「Big Brothe is Watching You! (偉大なる指導者様は常に見ていらっしゃる!)」と訴え、全国民はスイッチを切ることを許されない双方向テレビ(※4)で常に監視されている。
 Big Brotherの思想統制は、プラウダとピョンヤン放送とKGBとゲシュタポを掛けて3乗したような(※5)真理省の元で徹底しており、政府見解に反する言論どころか思考でさえ「思考犯罪 Think Crime」として摘発の対象である。さらには言論統制どころか思考犯罪を不可能にするべく、言語そのものを統制する新語法New Speakも開発と普及に努めている。
 主人公は政府の下っ端役人。ある日、全国民を監視する「双方向テレビ」の死角を発見し、そこで禁じられている日記を書き始めることから物語は始まる。
 そう、「華氏451度」では本を禁じられた世界が描かれているし、古代中国の「焚書坑儒」はれっきとした史実(※6)だが、この世界では日記など個人的記録が禁じられ、公的記録は恣意的に政府に都合良く改竄される。Big Brother率いる「党」は凡そありとあらゆる文明の利器を発明した、文明開化の大恩人と言う事になっている。
 改竄されるのは記録ばかりではない。思想犯罪を「犯した」者は人知れず拉致され、その存在は痕跡さえも残さないよう消される、「Unperson (非実体化、だろうか)」と言う処置を取られる。Unpersonされた者を覚えている事を表明すると、その人間もUnpersonされかねないので、人々は居なくなた者の事を、元々居なかったものとする習慣が身についている。真理省による恐怖政治である。
 真理省の上級役人は、「人間の記憶であっても改竄できる。」と豪語する。
 主人公はこの世界でほんのちょっとした自由を見いだし、同志とも言うべき恋人も得、人民の敵とされるゴールドスタインなる人物がかつてBig Brotherに匹敵する党の大幹部であることを示す古い新聞記事を発見したことから、ますます現体制に対する懐疑を深めるのだが、密告によって思考犯罪を摘発され、愛情省で拷問と洗脳にかけられる。
 真理省では、既存の文学を新語法に翻訳する仕事に携わっていた同僚が、押韻のために「神」と言う単語を残したために思考犯罪者として逮捕されていたり、寝言で反政府的言辞があったとして幼い息子に密告されて逮捕されていたりするのだが、最も恐ろしいのはこの先だ。
 主人公は、政府の洗脳と拷問のよろしきを以って「自らの意志で」反政府的言動を悔い、思考犯罪を悔い、Big Brotherへの満腔の愛を胸に、嬉々として銃殺刑に処せられるのである。
 
 「彼は、Big Brotherを愛していた。」が、この小説最後のの一語だったと思う。


<注釈>
(※1)今からすると20年以上前だから、相当昔だ。
(※2)ユートピア=理想郷の反対。
(※3)モデルになったのはソ連のスターリンだろうが、後の北朝鮮の金王朝も、相当良い線にある。
 尤も、Big Brotherは(実在するならば)世界3強の一端に居る訳で、金王朝なんかよりよっぽど有能である。
(※4)と言う名ではなかったと思うが、機能的にはそうだ。
(※5)従って、朝日新聞やNHKでさえ裸足で逃げ出すような。
(※6)坑された=生き埋めにされたのは、儒家ばかりではないそうだが。

1.1984の恐怖と「村山談話」による思想統制

 さて、長々と古い小説について書いたわけだが、小説は古くとも、その言うところの恐怖は架空のものというわけではない。
先述の通り、国家指導者の神格化と一党独裁という意味では、今の北朝鮮・朝鮮民主主義人民共和国(※1)も良い線行っているし、お隣の中華人民共和国も似たようなものだ。
 が、北朝鮮や中国なら、まだ対岸の火事だ。
 
 私のブログを丹念に読んで下さっている方なら大方お察しだろう。(そんな奇特な人が何人居る、と言う突っ込みはさておいて。)
 
 田母神空幕長更迭劇とこれに対する大半のマスコミの反応及び政府見解として村山談話を全自衛官に文民統制の美名の下強制しようという動きは、正しく、この1984に描かれた世界を自衛隊内に現実化させるものである。
 
 「過去を支配する者は未来まで支配する。現在を支配する者は過去まで支配する。」とは、1984に登場した真理省の高官の言葉である。正しく、歴史観の強制を以て未来を奪うことを示唆している。

 しかも、大日本帝国悪玉論、即ち我らの先人を悪しざまに言い、貶める事を以て良しとする村山談話を国防軍たる自衛隊に強制することは、国防力低下を招くこと間違いない。
 
 我々は、少なくとも我が国に、1984世界を現実化させてはならない。
 
 Freiheit in der Hand! 自由を、わが手に!


<注釈>

(※1)あれで民主主義と堂々と呼称して仕舞うところも、真理省や愛情省に通じるものがある。