報じられているのは、中国政府の鉄道開発計画発表と、これを受けた「町の声」や識者の声。
 何でも、金融危機に対する景気刺激策(と称して)「今後2年間で鉄道網整備に2兆元(約27兆円)規模の投資を行う」と言う。
 一方併せて報じられている中国鉄道省の発表「今後は全長7万9000キロの鉄道網を、2020年までに12万キロに拡張する長期計画をたてているという。」は、今後十二年間で中国全土の鉄道を1.5倍にしようという壮大な計画であるから、上述の「2年間に二兆元」の延長上の話だろう。
 
 昨シーズンの大雪で「鉄道で石炭が運べなくなって、火力発電所が停止する。」などという、他国ではちょっと考えられない失態(あるとしたら、ロシアぐらいか)は、鉄道が中国経済の弱点(の一つ)であることを如実に示している。だから強化しよう、増強しようという気持ちはよく分かる。
 
 が、この鉄道・鉄路という奴、陸路の大量輸送には向いているのだが、こと旅客輸送に関する限り、滅多に儲からないものらしい。一説によると、全世界で旅客輸送を補助金なしの独立採算を行えているのは、日本だけなのだそうだ。人口密度の関数かとも思えたが、同資料にあった「コストあたりの旅客運賃収入」は、中国の諸都市でも相当低かった。

 つまり、二兆元を投資する中国鉄道網は、投資を回収できずに赤字ばかりが膨らむ可能性が示唆されている。
 
 「政府が儲からなくても、景気刺激としての効果がある」と言う可能性はある。
 だが、私としては、もう一つの可能性を指摘しておこう。
 
 鉄道は、その発明以来、陸上部隊輸送の有力な手段である。

 陸軍をはじめとする陸上部隊は、艦艇をはじめとする海上部隊や、飛行機をはじめとする航空部隊に比べると尻が重く、動かすのにも展開するにも準備を含めて相当時間がかかる。戦車や兵員輸送車に乗った機械化歩兵は比較的早く動けるが、それらに補給を実施する部隊や支援を実施する砲兵はそうはいかない。 
 であるから、鉄道網の整備は陸上部隊の移動展開を容易にする。それは、その鉄道が儲かるか儲からないかに関わらず、だ。
 
 中国政府が内戦対策・暴動鎮圧のために、陸上部隊を迅速に派遣できるよう、鉄道網を整備しようとしている。
 少なくとも鉄道整備の利点の一つと考えている。

 この可能性は高いと考えるが、いかがであろうか。