「確かな野党が必要です。」と言うのは、あろう事か日本共産党のキャッチフレーズである。言わんとする所は「政権欲しさに与党に阿ることのない、純粋な野党が必要でしょう。(だから共産党に投票しなさい。)」なのだろうけれども、共産党が唱えると、「何でも反対」の言い訳をしているように聞こえて仕方がない。
さはさりながら、「確かな野党」が「必要」と言うのは、私も肯ける所のある主張。ただ、私には、共産党が「万年永久野党」であっても「確かな野党」とはちっとも思わないだけである。
それでは、我が国の政治に必要な「確かな野党」とは、一体いかなるモノであるべきか。
1.1 野党 = 明日の与党
英国や米国のような2大政党制では特に顕著なのだが、野党というのは「今政権を持っていない」だけで「いつになるかはあるにせよ、明日は政権を取って与党になる党」と言う考え方がある。純粋な二大政党制ならそうならざるを得ないし、そうなるように仕組んだのが2大政党制だとも言える。
仄聞する所によると、英国には「影の内閣」と呼ばれる野党の入閣予定者名簿が存在し、次の選挙で与野党逆転すれば、直ちに(少なくとも相応の準備を以って)組閣出来るようにしていると言う。
同様の発想はかつて日本にもあって、自由党の頃は「明日の内閣」と言い、今の民主党では「次の内閣」と称して、相応の「組閣」をなし、「閣議」も開いているらしい。
これら「未来の内閣」に見られる、或いは見るべきなのは、今野党であっても明日は与党になるのだから、国勢の運営に相応の責任を持って当たろうという姿勢だろう。
それは、かつてキケロが「君主は何をやっても悪く言われる。」と揶揄したように、君主=現政権に反対・非難を唱えるばかりで対案一つ示さないような、万年野党(宿命野党)の態度とは対極にあるものだろう。
まあ、政党というのは、原理的には共有する政治理念を実現するための利益集団であるから、その目的の一つは政権奪取による政治理念実現にあるだろう。従って党結成以来一度として政権党になった事のない万年野党といえども、明日の与党=政権を夢見て未来の内閣を組閣してあっても不思議はない。かの朝敵にして謀反人たるカルト集団・オウム真理教でさえ、「防衛庁長官」だの「科学技術庁長官」等を任命していたぐらいであるのだから。
とは言え、「政権を取れる明日」の現実味としては、当時の日本におけるオウム真理教と、英国や米国の野党とでは、天地ほども差があることは論を待たないのであるが。
その現実味と、国に対する責任とは、比例関係にあって然るべきだろう。
1.2 国家に忠良なる野党
誰の言葉だか忘れてしまったのだが、「国家に忠良なる野党」という表現がある。言わんとするところは、「野党である以上、与党の言うことに原則的に反対するのは無理からぬことであるが、たとえば国家危急存亡の危機のような国難にあたっては、意見の相違を乗り越えて与党と一致協力できる野党」と言うことだろう。
何も大政翼賛会が偉いと言っているのではない。野党も与党も同じ日本の政党で、日本の国利国益を憂えているという共通のベースがあるならば(※1)、ありとあらゆることで意見が対立する訳はなく、たとえば安全保障の基本原則のような国家にとって根幹的な問題について、ある程度の合意ないし妥協がしっかりと与野党間にあって然るべきだろうという考え方である。
私が思うに、我が国にとって必要な「確かな野党」とは、この「国家に忠良なる野党」ではなかろうか。
であればこそ、日本共産党は「確かな野党」たりえないのである。
<注釈>
(※1)無い党もあるようだが。
1.3 副長の義務 英国海軍の場合
副長と言うのは海軍で艦長や艇長に次ぐ役職である。
民間船における船長も、船内の冠婚葬祭法律一切を取り仕切る絶対権力者であることはつとに知られているが、軍艦の艦長・艇長となると船長以上の権威者であり、当然これに次ぐ副長の地位も、相当に高い。それ故か、英国海軍ではこの副長の事をNumber One「1番」と呼ぶ。
で、これまた英国海軍の話らしいが、この副長の重要な責務の一つが「必ず船長に反対する事。」というのがあるらしい。(※1)
これだけ書くとまるで「何でもかんでもひたすら反対」を唱えるどこかの国のどこかの党の様であるが、英国海軍が期待したのは副長が艦長・艇長に対してねじれ国会を作り出すことではなかろう。
即ち最終的な判断・決断は当然艦長・艇長が行い、副長とてこれには絶対服従なのだが(※2)、その断を下す前に、艦長・艇長とは異なる視点からの意見を具申し、艦長・艇長の判断を、補足・補助・修正することが、副長の責務なのであろう。
米国が重要なミッションの遂行には必ず「Plan B」とか「Back Up Plan」とか言う、日本語でいう「腹案」を用意するのと、発想としては相通じるものがある。
<注釈>
(※1)出典:ブライアン・キャリスン作「無頼船長トラップ」 キャリスンは元船乗りだから、このくだりは信頼しても良いんじゃなかろうか。
(※2)何しろ軍隊だ。上意下達が原則だ。
1.4 小沢民主党は「確かな野党」と言えるか。
さて翻って今の日本の国会を概観し、福田政権の敵前逃亡と麻生政権の発足を目の前にして「今度こそは政権与党」と鼻息荒い小沢・民主党を考えるとき、この党ははたして「確かな野党」と言えるだろうか。
明日の与党の可能性が相当に高いことは事実だろうが、果たして「国家に忠良なる野党」と言えるだろうか。
民主党のマニュフェスト2007年版では、外交・防衛として以下の4項目を挙げている。
(1)イラクからの自衛隊の即時撤退
(2)米軍再編は日本国民不在として「徹底的に問題点を追及します。」「米軍のあり方や在日米軍基地の位置付けについて検討します。」
(3)対北朝鮮外交の自主的展開として、経済制裁の当面継続と拉致問題解決
(4)「アジアの一員として、中国、韓国をはじめ、アジア諸国との信頼関係の構築に全力を挙げ、国際社会においてアジア諸国との連携を強化します。」
このうち私が素直に肯けるのは(3)だけである。
(4)は一見まともな事を言っているようだが、(2)と併せて読むと、米国離れ、中韓接近の傾向が見えてくる。それは、かのチンパン福田内閣と相通じるものがあるのだが、それ故にこそ麻生政権にも、それ以降の政権にも、決して踏襲して欲しくない傾向である。
日本は加工貿易で食っている。人口が減少傾向にあるとはいえ、この狭い国土で一億人の人間が相応に豊かに暮らすためには、加工貿易による方法が、最も持続的かつ確実である。
貿易は海路によっている。空路の発達は人間の動きや軽量な物品を空路に集め、今後も増えていくだろうが、少なくとも当面の間、海路を凌駕することはない。
海路は海軍によって守られている。
日本は全世界相手に貿易をやっているのだから、守るべき海路は7つの海に跨っている。
故に、日本は、世界一の海軍を保有するか、世界一の海軍国と同盟を組むべきである。
現状及び当面の間、世界一の海軍国は米国である。
従って、日本が最も重視すべき外交関係は、日米関係であり、日米安保条約である。
以上のように考える私の目からすると、以上の前提に反しかねないマニュフェストを掲げる小沢・民主党は、「国家に忠良なる野党」とは言いかねる。
もちろん与党としての資格もない。
確かな野党は欲しいが、民主党は確かな野党ではない。
さはさりながら、「確かな野党」が「必要」と言うのは、私も肯ける所のある主張。ただ、私には、共産党が「万年永久野党」であっても「確かな野党」とはちっとも思わないだけである。
それでは、我が国の政治に必要な「確かな野党」とは、一体いかなるモノであるべきか。
1.1 野党 = 明日の与党
英国や米国のような2大政党制では特に顕著なのだが、野党というのは「今政権を持っていない」だけで「いつになるかはあるにせよ、明日は政権を取って与党になる党」と言う考え方がある。純粋な二大政党制ならそうならざるを得ないし、そうなるように仕組んだのが2大政党制だとも言える。
仄聞する所によると、英国には「影の内閣」と呼ばれる野党の入閣予定者名簿が存在し、次の選挙で与野党逆転すれば、直ちに(少なくとも相応の準備を以って)組閣出来るようにしていると言う。
同様の発想はかつて日本にもあって、自由党の頃は「明日の内閣」と言い、今の民主党では「次の内閣」と称して、相応の「組閣」をなし、「閣議」も開いているらしい。
これら「未来の内閣」に見られる、或いは見るべきなのは、今野党であっても明日は与党になるのだから、国勢の運営に相応の責任を持って当たろうという姿勢だろう。
それは、かつてキケロが「君主は何をやっても悪く言われる。」と揶揄したように、君主=現政権に反対・非難を唱えるばかりで対案一つ示さないような、万年野党(宿命野党)の態度とは対極にあるものだろう。
まあ、政党というのは、原理的には共有する政治理念を実現するための利益集団であるから、その目的の一つは政権奪取による政治理念実現にあるだろう。従って党結成以来一度として政権党になった事のない万年野党といえども、明日の与党=政権を夢見て未来の内閣を組閣してあっても不思議はない。かの朝敵にして謀反人たるカルト集団・オウム真理教でさえ、「防衛庁長官」だの「科学技術庁長官」等を任命していたぐらいであるのだから。
とは言え、「政権を取れる明日」の現実味としては、当時の日本におけるオウム真理教と、英国や米国の野党とでは、天地ほども差があることは論を待たないのであるが。
その現実味と、国に対する責任とは、比例関係にあって然るべきだろう。
1.2 国家に忠良なる野党
誰の言葉だか忘れてしまったのだが、「国家に忠良なる野党」という表現がある。言わんとするところは、「野党である以上、与党の言うことに原則的に反対するのは無理からぬことであるが、たとえば国家危急存亡の危機のような国難にあたっては、意見の相違を乗り越えて与党と一致協力できる野党」と言うことだろう。
何も大政翼賛会が偉いと言っているのではない。野党も与党も同じ日本の政党で、日本の国利国益を憂えているという共通のベースがあるならば(※1)、ありとあらゆることで意見が対立する訳はなく、たとえば安全保障の基本原則のような国家にとって根幹的な問題について、ある程度の合意ないし妥協がしっかりと与野党間にあって然るべきだろうという考え方である。
私が思うに、我が国にとって必要な「確かな野党」とは、この「国家に忠良なる野党」ではなかろうか。
であればこそ、日本共産党は「確かな野党」たりえないのである。
<注釈>
(※1)無い党もあるようだが。
1.3 副長の義務 英国海軍の場合
副長と言うのは海軍で艦長や艇長に次ぐ役職である。
民間船における船長も、船内の冠婚葬祭法律一切を取り仕切る絶対権力者であることはつとに知られているが、軍艦の艦長・艇長となると船長以上の権威者であり、当然これに次ぐ副長の地位も、相当に高い。それ故か、英国海軍ではこの副長の事をNumber One「1番」と呼ぶ。
で、これまた英国海軍の話らしいが、この副長の重要な責務の一つが「必ず船長に反対する事。」というのがあるらしい。(※1)
これだけ書くとまるで「何でもかんでもひたすら反対」を唱えるどこかの国のどこかの党の様であるが、英国海軍が期待したのは副長が艦長・艇長に対してねじれ国会を作り出すことではなかろう。
即ち最終的な判断・決断は当然艦長・艇長が行い、副長とてこれには絶対服従なのだが(※2)、その断を下す前に、艦長・艇長とは異なる視点からの意見を具申し、艦長・艇長の判断を、補足・補助・修正することが、副長の責務なのであろう。
米国が重要なミッションの遂行には必ず「Plan B」とか「Back Up Plan」とか言う、日本語でいう「腹案」を用意するのと、発想としては相通じるものがある。
<注釈>
(※1)出典:ブライアン・キャリスン作「無頼船長トラップ」 キャリスンは元船乗りだから、このくだりは信頼しても良いんじゃなかろうか。
(※2)何しろ軍隊だ。上意下達が原則だ。
1.4 小沢民主党は「確かな野党」と言えるか。
さて翻って今の日本の国会を概観し、福田政権の敵前逃亡と麻生政権の発足を目の前にして「今度こそは政権与党」と鼻息荒い小沢・民主党を考えるとき、この党ははたして「確かな野党」と言えるだろうか。
明日の与党の可能性が相当に高いことは事実だろうが、果たして「国家に忠良なる野党」と言えるだろうか。
民主党のマニュフェスト2007年版では、外交・防衛として以下の4項目を挙げている。
(1)イラクからの自衛隊の即時撤退
(2)米軍再編は日本国民不在として「徹底的に問題点を追及します。」「米軍のあり方や在日米軍基地の位置付けについて検討します。」
(3)対北朝鮮外交の自主的展開として、経済制裁の当面継続と拉致問題解決
(4)「アジアの一員として、中国、韓国をはじめ、アジア諸国との信頼関係の構築に全力を挙げ、国際社会においてアジア諸国との連携を強化します。」
このうち私が素直に肯けるのは(3)だけである。
(4)は一見まともな事を言っているようだが、(2)と併せて読むと、米国離れ、中韓接近の傾向が見えてくる。それは、かのチンパン福田内閣と相通じるものがあるのだが、それ故にこそ麻生政権にも、それ以降の政権にも、決して踏襲して欲しくない傾向である。
日本は加工貿易で食っている。人口が減少傾向にあるとはいえ、この狭い国土で一億人の人間が相応に豊かに暮らすためには、加工貿易による方法が、最も持続的かつ確実である。
貿易は海路によっている。空路の発達は人間の動きや軽量な物品を空路に集め、今後も増えていくだろうが、少なくとも当面の間、海路を凌駕することはない。
海路は海軍によって守られている。
日本は全世界相手に貿易をやっているのだから、守るべき海路は7つの海に跨っている。
故に、日本は、世界一の海軍を保有するか、世界一の海軍国と同盟を組むべきである。
現状及び当面の間、世界一の海軍国は米国である。
従って、日本が最も重視すべき外交関係は、日米関係であり、日米安保条約である。
以上のように考える私の目からすると、以上の前提に反しかねないマニュフェストを掲げる小沢・民主党は、「国家に忠良なる野党」とは言いかねる。
もちろん与党としての資格もない。
確かな野党は欲しいが、民主党は確かな野党ではない。