私はこの右手に繋がれている錠が嫌いだ。
私の手は、机の脚に手錠で繋がれている。動きたくても動けない。天は私がどこにも行かないように、と自分が留守の間はこうやって縛り付けている。今日はしばらく帰って来ないみたいだ。
机の脚に寄りかかってひたすら天の帰りを待つ。手錠は鍵がないと解くことは出来ない。唯一自由な左手もこれでは使い物にならなかった。力ずくで壊れないか、試しにガっと手錠に手首を当てた。しかし、チェーンの音が鳴るだけでびくともしない。それから何度か続けたが、手首に赤い線が残るだけだった。
その時、ガチャっと玄関の扉が開く音がした。
「ただいまー」
天が帰ってきた。
「おかえり」
「夏鈴、今日もいい子にしてた?」
「うん」
私の目の前に来て、手錠の鍵を挿し込んだ。天が手首を掴んで言う。
「あ、また私から逃げようとしたでしょ」
天は悲しそうな表情で俯いた。
「違う」
「何が違うの?それ以外にないでしょ」
「私は手錠が嫌なだけで」
解かれた右手で泣きそうな天の頬を撫でた。
「でも、縛っとかないとどっか行く」
「行かないよ。ずっと天と一緒にいるから」
「でも…」
「言ったよね?私が手錠嫌いな理由」
「うん」
私は昔、いじめられていた。一通りのいじめのパターンは経験してきたつもりだ。中でも辛かったのが、女子トイレに閉じ込められること。ドアは外側からデッキブラシで開かないようにされ、高い壁は登ることも出来ない。ずっとここにいなくてはいけないと思って、怖くなった。手錠が嫌いなのは、閉じ込められた時のように自由がないからだ。自分の意思ではどうする事も出来ない。誰かに操られて、感覚的に縛られているのが嫌いだ。
もう一生家に帰れないかもしれない、と思っていた時に助けてくれたのが天だった。それから私は天しか信じられなくなっていた。
天には友達がたくさんいた。休み時間はいつも誰かと話しているし、授業中も手を上げる活発な子だった。反対に私は、落書きされた教科書を眺めながら日々を過ごしていた。
異変を感じたのは冬休みの時。終業式が終わって帰ろうと教室を出た。すると天が追いかけてきたのだ。
「明日、家来ない?」
「え?」
「お泊まり会しよ!」
「え、あ、…うん」
勢いに流されるまま了解の返事をしてしまった。
次の日、聞いていた住所に手土産を持って向かった。ご両親は海外で働いていて家にいないらしい。
「夏鈴いらっしゃい!」
「お、お邪魔します」
入って早々、天の自室へと案内される。
ベッドのそばに座ったことが間違いだった。「ちょっとごめんね」と言いながら天は、クローゼットからロープを取り出した。
「なにするの?」
聞いても答えてはくれなかった。私の手首はロープでベットの足と繋がれた。ドラマで人質になっている人の気持ちが初めてわかった。
「ねぇ…なにするの…やめて」
「夏鈴がどこにも行かないように」
夜ご飯を食べるときに、やっとロープが解かれた。
怖くなった私は天が席を外している間を見計らって逃げた。
しかし、そんな甘くはなかった。天は私がいなくなったことにすぐ気がついて、走って私の元までやってきた。
「どうして逃げるの?」
「怖い。いつもの天じゃないよ」
「そんなのどうでもいい。私には夏鈴が必要なの!」
今まで誰かに求められたり、期待されたりすることがなかったから、必要とされることが嬉しかった。それに、私が人と関わらなさすぎてこれが普通なのかなと思った。みんな言わないだけでやってるかもしれないって。
この時、天について行こうと決めた。なにより助けてくれた恩人だし。恩を仇で返すことは出来ない。
「帰ろう?」
「うん」
天に手を引かれて家に戻った。
こうした少し歪な関係は冬休みが終わっても続いた。
天が「縛っとかないとどっか行く」って言ったのは私が一度逃げたからだと思う。最初は柔らかいロープだったのに、今では鍵付きの手錠だ。
2人でいるときは絶対手を繋いでいる。恋人繋ぎでがっちりと。
なぜ天がこんなにも私に執着するのか疑問だった。
「天は私のことが好きなの?」
「好きだよ」
「なんで?…だって私なんて…」
「憧れなの。夏鈴は。私の」
「そう、なんだ…知らなかった」
天はいつも正直な気持ちを話してくれる。
天とずっと一緒にいたい。
天と離れたくない。
天にこの先も必要とされていたい。
天は私がいないとだめになる。
天がいないと私は生きている意味がない。
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お久しぶりです。ゼロのこと覚えてくれていますか?忘れちゃってても、思い出させます。
学業の都合(言ってみたかっただけ)で、全然書けていませんでした。ごめんなさい。嘘です。やる気がなかっただけです。
この次も1本上がる予定なのですが、裏なのでここで年末の挨拶をさせていただきます。
今年も1年間ありがとうございました。今年は特に書かなかったので、このてんかりんで課題が多く見つかりました。この作品に関しては、完全にこっちが悪いですが、雰囲気で言いたいことを察してくれると助かります。
3rdアニラの最終日に行ってきました。ステージ近くて最高でした。一瞬の馬、大好きだから聴けて嬉しかったです。プラリグが報われた瞬間、声出ました。あと承認欲求のコール楽しすぎる。スタオバからの承認欲求ずるい。
来年も好きな時に好きなように書くので、よかったら見てください。
みなさん健康に気をつけて。
良いお年をお迎えください。
ゼロ