湖南が椿のマンションの前に行くと女の怒鳴り声が聞こえた。
湖南は驚きドアを開けると訪花が椿と揉めている姿を目撃する。
「何で私の依頼を引き受けてくれないの」
「俺はもう復讐屋をやめた。だから依頼を引き受けるつもりはない。勿論、お前だけじゃない。他の奴が来ても依頼は断るつもりだ」
「患者が苦しんでいるのにそれを助けてくれないの?」
「自分で何とかしてくれ」椿は冷たかった。
「もういい!」
訪花は湖南を突き飛ばし出ていった。
「椿…」
「機嫌悪くしたようだ」
「あの人、前に海斗のお兄さんが命を捨てて助けてくれた人でしょ」
「そうだ。ただ元々は俺に依頼をするために訪れた。そこでも揉めているときに彼女は突然苦しみだした」
椿は片付けを始める。
「掃除しているの?」
「仕事をやめるからな」
椿は書類に目を通しながら振り返る。
「そういえば海斗はどうしている」椿は事情を知らなかった。
「……帰ったよ…元の世界に」
「そうか…湖南、俺ももうすぐ元の世界に帰る」
椿の言葉に湖南は悲しく感じる。
すると訪花が戻って来た。
「どうした?」
「忘れ物をしたのよ」
忘れ物を持った訪花は行こうとしたときそこに加奈と龍人もやってきた。
「あんたこの間の」龍人は声をかける。
訪花は無視して行こうとした。
「待って」湖南が呼び止める。
「何?」
「あなたは椿にどんな依頼をしてもらおうとしているの?」
「ある医者への復讐よ」
「どういう事?」
「私のお父さんは体調が悪くて病院に行き風邪と診察された。でもお父さんの体調は悪化し別の病院に行ったら癌と診断された」
「それももしあのとき風邪と診察した医者がすぐに見つけていれば早期発見で治す事が出来たはずだった」訪花は辛そうに話す。
「だから私はそのドクターに復讐したい。命を奪わないまでもせめて医師免許剥奪ぐらいはさせたい」訪花は復讐に燃えていた。
「そんな事してもお父さんは喜ばないんじゃないの?」湖南は止める。
「何言っているの? これはお父さんのための敵討ちだしそれを果たせばお父さんは喜んでくれる」訪花は怒鳴るように反論する。
「そんな事してもお父さん喜ばないと思うよ」加奈も意見する
「お父さんはあなたの人生を犠牲にして自分の復讐してほしいとは思っていないと思う。お父さんに会った事はないから分からないけど」加奈は言う。
しかし訪花は無言で部屋から出ていった。
「やれやれ、思っていたより性格がきついな」
翌日、湖南が訪花の事を考えていると楽人がやって来た。
「どうしたの?」楽人は話しかける。
「椿…もうすぐこの世界からいなくなると思うと寂しくて」
「でも別れてもいつかまだ会えるんじゃないか…なんか分からないけどいつか海斗ともまだ会える気がする」
楽人もあんなに憎んでいた椿がいなくなる事に切なく感じていた。
「椿を見て思った…俺も医者になろうかな」
湖南は注目する。
「正直この学校に入った理由は入試試験が面接だけだった。だから医者になりたいとか考えていなかったんだけどでも椿を見て医者になるのも悪くないと思った」
湖南は楽人の話を聞いて思わず笑った。
「私もだよ。医者になる気なんてなかったしそれこそ面接だけなら楽だと思って入っただけだからね」
2人は笑顔になった。
放課後、胡桃はウサギ小屋でウサギを見ていた。
「まだウサギを見ていたのか」そこに時がやって来た。
「うん。もうすぐこの子達とも会えなくなっちゃうな。そしてみんなとも」胡桃は寂しそうだった。
「……そういえばどこの大学の学科に行くんだっけ?」時は聞く。
「勿論医学部だよ」
「そうか…俺は医者の道には進まない」
「どうして?」
「俺に医療は合わない気がする。それに人生これからだし」
時は空を見上げる。
「……馬鹿だと思うかもしれないが俺は信じている。また海斗といつか再会出来ると」
「馬鹿じゃないよ。私だって信じているしそれにみんなだって」胡桃も同じだった。
椿が部屋の片づけをしているとインターホンが鳴った。
ドアを開けると加奈と龍人、湖南がいた。
「どうした?」
「ちょっとここに行きたくなって」加奈は笑顔で言う。
「そうか」その時、外から悲鳴が聞こえた。
椿が窓から覗くと多くの人が椿のマンションの上を見上げていた。
椿は気付き部屋を飛び出し屋上に向かった。。
龍人と加奈、湖南も椿の後をついて行く。
そして4人が屋上に行くと訪花が屋上のギリギリのところで立っていた。
訪花は飛び降り自殺をしようとしていた。
「やめろ!」椿は叫ぶ。
「私はもう生きる事が嫌になったの。だから私は死ぬ事に決めたの?」訪花は精神的に疲れていたようだった。
「そんな事してもお父さんは喜ばないしあなたを思ってくれている人はいるんじゃないの」湖南は必死に説得する。
「お父さんもいないしお母さんももう亡くなっている。私は1人だしもう生きる意味もない」
訪花は椿を見る。
「でもあなたが復讐をしてくれるなら」
「無理だな」椿は即答だった。
「お前は現実から逃げている。過去にばかり囚われていたら希望も未来もない」
多くの人が屋上を見上げている中、胡桃と楽人、時もやって来た。
3人は下から見上げる。
「あれって」楽人が驚く。
「まずいじゃない」胡桃はどうするか考える。
訪花は飛び降りようとしたものの覚悟が出来ないでいた。
「ふさげないでよ」加奈は叫ぶ。
「今のあなたがいるのは自分を犠牲にしてあなたを救ってくれた人がいるからじゃないの」加奈は思い出す。
あのとき天都が自分の命を犠牲にして訪花を救った事を。
「もしあなたが自殺して死んだと知ったら海斗は絶対に怒るよ。自分の兄がくれた命を無駄にしたんだから」加奈は大声で叫ぶ。
訪花は戸惑う。
「俺の父さんは最近亡くなった。最後は笑顔だったけどでも父さんは色々と未練を残して死んでいった」
「なんでまだ生きているあんたは何でその命を無駄にする? 1人ぼっちを言い訳にするな! 未来を信じ自分を信じればあんたは1人ぼっちじゃなくなる」龍人も説得する。
訪花は考えた。
「……もう一度生きてみる。頑張って」訪花は思い留まった
加奈たちは安心する。
――海斗、お兄さんの命、無駄にせずに済んだよ。
