雄吾との再会から1週間後、龍人は屋上で手芸の作業をしているとそこに加奈がやって来た。
「龍人、いたんだ」
「加奈……」
「もうすぐ卒業だね」加奈は寂しそうだった。
「まぁまだ2ヶ月あるけどでももうすぐと言ったらもうすぐか」
龍人は2人きりで緊張していた。
「加奈…」
「何?」
突然、龍人は加奈の唇にキスをする。
加奈は頭が真っ白になる。
すると海斗がやって来て加奈と龍人のキスを見てしまう。
「海斗…」加奈と龍人は驚く。
3人は気まずくなる。
「やぁ」
振り返ると天都がいた。
「兄貴!」海斗は警戒し、加奈と龍人の前に立つ。
「海斗、お前はどうやらもうすぐこの世界からいなくなるようだな」
「そうだけどだが兄貴、俺は戻の世界に戻る前に兄貴と決着をつける。必ず兄貴を止める」海斗の言葉に天都は笑い出す。
「海斗、俺はお前に止められたりはしない。それに俺はこの刀を持っている。その気になればお前を斬る事も容易い」
そこに胡桃と湖南、楽人、時がやって来た。
「お前!」時は警戒する。
楽人は胡桃と湖南を後ろに隠す。
天都は笑うのをやめ刀を手に持つ。
「海斗、お前も俺と共に正義を貫こう」
「断る」海斗は即答だった。
「兄貴、悲劇で平和を実現しても結局兄貴は憎まれるだけじゃないのか?」
「そんな事は分かっている上でやっている。俺はもう家族の元に戻る事は出来ないし後戻りも出来ない」
「海斗、前にお前に父親は好きか?と聞いた事があっただろ」
「それがどうしたの?」
「何で父さんは一度だけの医療ミスであんなにも叩かれたか知っているか?」
海斗は注目する。
「父さんは医療ミスなんか犯していなかった。あるドクターを庇っただけだ」
天都の告白に海斗は大きく動揺し加奈達にも衝撃が走る。
「どういう事だ?父さんが医療ミスを犯していないって」
「父さんが庇ったドクターは医療ミスを犯したがそのドクターには家族がいて娘は当時受験が迫っていた。それを知った父さんはそのドクターを庇っていた。俺はそれを知り同時に憎しみが沸いてきた」
「さらに言えばそのドクターの娘が訪花、俺の彼女だった」天都は憎しみがこみ上げた。
「訪花さんの父さんが…」海斗は驚いた。
「そして俺は自分の正義に気付きあの惨劇を生んだ。訪花にも罪悪感や痛みを味わらせるために」天都は笑っていたものの悲しそうだった。
「……確かに兄貴は父さんを責めたりしたけどでもそれでも俺達を支えてくれたじゃないか。兄貴が俺や柚子を支えてくれたから俺達は最後まで絶望せずに生きる事が出来たんだ」
天都は戸惑う。
「それに罪悪感を与えようとしたくせになんで訪花さんに伝えなかったの?」
「家族や身内に関してはもうどうでもよくなったからな」
「違うな。本当は訪花さんを大事に考えていたからこそ真実を話さなかった」
「黙れよ……お前に何が分かる」天都は刀を向けるが震えていた。
「本当は兄貴、後悔しているんじゃないのか?今やっている事を正義なのか疑問に感じているんじゃないのか?」
「これは正義だ。悲劇を起こして悲劇を止める。俺はその信念のために悪魔に魂を売った」
「俺は思う。未来が分からないから人は傷ついたり傷つけたりする。でも過ちを反省し二度とその悲劇を起こさないようにしようとする人はたくさんいる。兄貴の言っている事は間違っていないところもあるけどわざと悲劇を起こす必要なんてない。悲劇を起こさなくてもそれを止める手段なら他にある」海斗は必死に訴える。
天都は黙って聞いていた。
加奈達も真剣に聞いていた。
「俺はもう後戻りが…」
そのとき、天都は遠くである光景を目撃する。
「復讐屋のマンションに訪花がいる」
「訪花さんが」海斗は驚く。
「勘違いしているかもしれないが訪花と言ってもこの世界の人間だ」
天都は瞬間移動し海斗達の前から消えた。
「訪花さんが」海斗は走り出す。
「私達も行こう」
加奈達は海斗を追いかける。
その頃、椿は訪花をソファーに寝かせていた。
訪花は悪魔病が悪化しており危険な状態だった。
「私の命はどうでも良い。それより私の依頼を…」訪花は苦しんでいた。
そこに突然、天都が現れた。
「訪花!」天都は声を上げる。
「誰ですか?」訪花は怯える。
「お前何しに来た?」椿は警戒する。
自分の知っている訪花ではないとは分かっていたものの何故が再会した気分になって嬉しく感じた。
そこに海斗達がやって来た。
海斗達は天都の姿を黙って見ていた。
天都の頭の中でなぜ今の自分がこうなってしまったかという出来事が蘇る。
ある日の夜、自宅で天都が階段を降りると亮が電話で話をしていた。
「安心しろ。そのうち収まる。それにお前には訪花さんがいるし来年受験なのにお前が手術失敗したって言ったら訪花さんはずっと志望していた大学に入る事が出来ないだろ」
それを聞いた天都は全てを悟った。
――医療ミスをしたのは父さんじゃなかった。訪花の父親だった。
天都の中で一気に怒りがこみ上げた。
――俺達は父さんのために今までこんな思いをしていたのか。無責任な優しさのために俺達家族は巻き込まれていたのか。
天都は絶望した。
ふと一方で天都は多くの人から必要以上の批判をされ苦しむ中である考えが生まれていた。
――人はなぜ悪人と血が繋がっているだけで悪い事をしていない人間までここまで傷付けるのか。必要なまでの批判をしている人間達は自分たちのやっている事も悪であると思わないのか、どうしたら平和な世界を作れるのか。
それを考えに考えそして答えが出た。
――痛みを味わらせれば痛みはなくなる。
悲劇が起きれば悲劇は繰り返されない、それが世界の平和を作る第一歩だと天都は結論付けた。
そこに悪魔が現れた。
「お前、随分面白い闇を持っているな」悪魔は興味を持つ。
「俺も疲れてしまったようだな」
しかし天都はそれが現実だという認識はあった。
「悪魔、俺は悲劇で平和を作る。だから俺に力を貸せ」
「面白い、気に入った」悪魔は天都に刀を渡した。
「早速始めよう。平和な世界の開拓を」
天都自身が悪魔と化していた。。
しかし天都は自分のやってしまった事に気付き疑問を感じ始めた。
そしてなぜ自分はあんなに好きだった訪花を手にかけてしまったのだろうかと考えた。
「……海斗…俺は自分の正義を貫くだけだ」天都の考えは変わらなかった。
天都はポケットから注射器を取り出し自分に打ち込む。
「兄貴、それは」海斗は驚く。
「この注射器は悪魔が独自に開発したものだ。遺体にこの注射の針を刺してその死体から残像エネルギーを採取し病人に打ち込めば病人の病気が治る」
「兄貴……」海斗は気付いた。
「俺の全てのエネルギーを訪花、君に注入する」
「安心しろ。すぐに良くする」
天都が訪花に注射すると訪花は体が楽になり回復した。
「嘘みたい」訪花はあまりの出来事に驚く。
安心した天都は倒れこむ。
「兄貴!」海斗は駆け寄り天都の上半身を持ち上げる。
「勘違いするな。俺は助けたんじゃない。ここで終わるつもりだった」
そう伝えると天都はゆっくり目を閉じる。
「さよなら……兄貴…」海斗は呟いた。
加奈達も黙って見守っていた。
その後、天都は天使によって元の世界に運ばれた。
そして海斗の世界では天都の遺体が見つかり大ニュースとなる。
数日後の夕方、海斗は龍人と屋上にいた。
「兄貴はは分かり合えなかった」海斗は悲しく感じた。
「人間、どんなに頑張ったって届かない思いもあるさ」龍人は励ました。
「俺は帰る。受験勉強もあるし」
「分かった。まだ明日」
そして龍人は帰っていった。
海斗は空を見上げる。
天都が亡くなって2週間後、世間はクリスマスムードだった。
湖南は海神公園で編み物をしていた。
それを遠くから楽人と時が見ていた。
「湖南…」楽人は悲しそうだった。
「お前、余程湖南が好きなんだな」
「いい加減諦めろと言うんだろ」
楽人は湖南を見る。
「あの編み物、椿にだろうな」
楽人は見たくないあまりその場を去ろうとした。。
「……でも湖南はお前が自分の事を思っていた事は分かっている。湖南はお前に感謝していた」
「どういう事だ?」楽人が振り返る。
それは時が湖南と屋上にいた時だった。
「卓三の問題解決したな」
「うん、時ありがとね、私の事を守ってくれて」
「別に大したことはしていない。それに楽人はお前の事をとても思っていた」
「うん。楽人は私の事をいつも思ってくれていて嬉しかった。私にとって楽人は大事な人よ。今度、何がお礼をしないと」
楽人は嬉しく感じた
「そうか、湖南が」
「湖南の幸せを思うなら湖南を見守ってあげよう」時の言葉に楽人は決意した。
――湖南を見守っていく。そして湖南を諦める。
湖南はマフラーを完成させマンションに行く。
インターホンを鳴らすと椿が出てきた。
「湖南」
「椿、これクリスマスプレゼント」
湖南は椿に手編みのマフラーを渡す。
「…ありがとう」椿は受け取る。
2人は笑顔になる。
「お前のおかけで俺は変われた。ありがとう湖南」
椿は出会う前とは大きく人間的に成長したようだった。
