夕方、千は美羽に手当を受けていた。
「あの野郎、次見つけたらただじゃおかない」修は怒りを抑えられなかった。
「やめとけ」千は言う。
「やり返したらそれこそ退学処分になるかもしれないぞ」
「でもなんであんなに勇気を出して立ち向かえたの?」奈美は聞く。
「俺は美羽と付き合っているから恋人を奪われる気持ちになれるからだ」
月美は剛を見る。
「大丈夫、剛」
「俺は助けてあげられなかった」剛は悲しい表情だった。
「自分が恐怖したために沙紀は奴に連れて行かれ修は怪我を負った。あの時、俺が沙紀の手を掴む事が出来たらもしかしたら沙紀は連れていかれなかったかもしれない。それなのに俺は……」
「しょうがないだろ。状況が状況だからな」
蓮はそう言ってやる事しか出来なかった。
それ以降、数日間、剛はずっと元気がないままだった。
ある日の昼休み、剛以外の7人が集まっていた。
「剛のことだけどどうしたらいいと思う?」美羽は聞く。
「どうすると言っても俺たちに何が出来るんだ」千は下を向いたままだった。
「でもなんとか励ましてあげないと」
「下手に励ます必要もないだろう」蓮は冷たく言う。
「蓮…」奈美は顔を上げる。
「でも」
「声援だけ送っても何の意味もない。形にしないと」
「蓮は剛が嫌いなの?」奈美は問う。
「別にそういうわけじゃない」
放課後、剛が校庭にいると美羽と千、月美がやって来た。
「彼女の事、考えていたのか?」千は聞く。
「俺は沙紀を守れなった。それがとても情けなくて恥ずかしくてここ数日、どうしたら沙紀を助けられるのか考えていた」
「誰だって怖くて逃げてしまう事もあるよ、恥ずかしがることはない」月美は励ます。
「でも俺は……」
「剛、今の私があるのはあなたのおかけ、あなたが1年生の時、声をかけてくれなかったら私はずっと1人だった」月美は珍しく声を上げる。
「この前は救えなかっただけ。だから次守れば良いよ」
「月美」剛は元気が出た。
その頃、蓮は奈美と鎧と屋上にいた。
「なんだよ、みんな暗い雰囲気になって」鎧はため息をつく。
「だって剛が傷付いているのよ」
奈美は蓮を見る。
「なんであんな事言ったの?」
「よく人間声援で励まされ立ち直れたというドラマがあるけど現実その声援が逆に心を傷つける事もある」
蓮は社会に出て学んだ大人の世界を思い出す。
「俺は知っている。中身のない応援や声援、良い事して満足しただけのありがた迷惑の人間も」
奈美は話についてこれなかった。
「剛はこの学校で始めて出来た仲間だ。だからこそ信じている。たとえ俺達の声援がなくてもあいつは立ち上がれると」
奈美は自分の考えの甘さを思い知ったようだった。
「そうだな」鎧は言う。
「剛は俺達より強いと思う。何故ならあいつが俺達を1つに集めるきっかけの1つでもあると思う…」
蓮と奈美は思い出す。
「……そうだな。よく考えたら剛がいなかったら千も修も月美も鎧も仲間じゃなかったかもしれない」
「そうだろ」
「お前、ただの馬鹿かと思っていたら珍しく良い事言うな」
「おい! 俺は馬鹿じゃない」
「でも可愛い子目当てで高校転校しようとしたじゃないか」
「それは人生的に見れば賢い選択であり」
「とにかく良かったという事で」奈美は強引に話を閉めた。
しかし蓮と奈美は今まで気付かなかった事に気付いたようだった。
下校時、蓮達は校庭にいた。
剛はあれから立ち直り蓮達は安心していた。
しかし沙紀がどうなったか聞く事が出来ず全員が心配していた。
「じゃ帰ろうか」
蓮達が行こうとするとそこに大我がやってきた。
「大我……」
「相変わらず仲良くやっているようだな」大我は挑発的だった。
「お前、いい加減喧嘩腰はやめろよ」修は言う。
「お前に関係ない」
大我は蓮を見る。
「まさかお前もパラレルトラベラーだったとはな」蓮は動揺した。
「なんの話だ?」剛は戸惑う。
「こいつは別世界から来た人間、つまりパラレルトラベラーだ」大我は言う。
「馬鹿か? そんな漫画みたいな話あるわけないだろ」千は呆れた。
すると目の前にオーロラが現れた。
そして天使が現れた。
「え? 何このイリュージョン」鎧は興奮する。
「天使? まさか」奈美は動揺した。
「でもなんで」
「天使か」大我は無表情だった。
「大我…いい加減過去にとらわれないで未来に」
「過去に連れてきたのはお前だろ。まぁあくまで別世界だが」
大我は去っていった。
そして場所を海神公園に移し蓮達は天使に聞いた。
「あんた喋ったな」
「いいえ話していませんよ」
「でも現れたじゃん」蓮は突っ込む。
「だがまさかお前が別世界の人間だったとはな」鎧は驚いていた。
「でもなんでこの世界に」月美は聞く。
「……俺は高校生活を味わう事なく社会に出た人間だ。だから高校生活を知りたいと思ってきたんだ」
奈美は時々あった蓮の意味不明な言動の理由を理解した。
おして天使は落ち着き説明した。
「実は大我は泉蓮さんよりも先に別世界から来た人間、つまりパラレルトラベラーでした」
「元々は穏やかで優しい好青年だでしたがしかし大切な彼女を病気で失った事で心が乱れてしまいました」
天使は奈美を見る。
「そして大我の彼女だった人は別の世界の海野奈美さんです」
その事実に全員が衝撃を受けた。
「奈美が…大我の彼女?」
「あくまで別世界の話ですが」
奈美は動揺していた。
「もしかして」
「大我は別世界とはいえもう一度失った彼女を取り戻したくてこの世界にやってきました」
「待てよ、でも失った奈美と今いる奈美は顔が違うだけの別人じゃん」鎧は指摘する。
「それでも良かったんです」
さらに天使は説明する。
「村上さんと佐野さんが大我に殴られた事を忘れていたのは私が記憶を消したからです。大我がちゃんと立ち直れるよう」
ふと蓮は気付いた。
「もしかして村上や佐野、羽野洋二などあいつが関わった人間達は元いた世界でも関わりがあった」
「そして何かしらの事情で彼らに対して何かしら恨みがあった。だからあんな好戦的だったのかもしれない」蓮はそう推測した。奈美は気付いた。
「青井さんの件も大我君は病気に関して辛い経験をしたから」奈美は理解した。
剛は天使を見る。
「別世界とはいえ死んだ人間に会わせるのは残酷じゃないんですか?」
「……それで彼が立ち直れたらと思ったのですが逆効果でした」
天使は罪悪感を抱いた。
夕方、蓮が学校に戻ると大我がいた。
「天使から全て話を聞いたぞ」
「あの天使、勝手に話したか」
「大我、これ以上変に付き惑わないでくれ」
「別に付き惑っていないさ」
「仲良くやりたいならそういえば良いじゃないか。こんな中途半端に関わらないで」
「ふさげるな。お前達と仲良くなんかしたいとも思わない」
大我は思い出す。
「……奈美しか興味はない」
「あぁ聞いたぜ。別世界で辛い経験をしたようだな。そしてきっと俺にも絡んでいるんだろ?」
「分かっているくせによく友達になろうと言えるな」大我は感情的になる。
そして雨が降る。
「だが俺は未来に歩んでいるがお前は過去に戻ろうとしているだけじゃないか。それに過去に歩んだってもう彼女は戻ってこない」
大我は認めたくなかった。
「余計なお世話なんだよ。それに落ちこぼれだったからパラレルトラベラーとなったくせに人を励ましてるんじゃねぇ」
大我は歩いて帰っていった。
蓮は悲しくただ立っているだけだった。